Betrayal Squadron   作:胡金音

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書いても出ねぇ。


七話 泊地襲撃事件“下”

 プロペラ機とは異なったエンジン音にまじった風切音が頭の上から迫ってくる。艦娘達は砲口を向けて近づいて来るリ級を警戒しながら上空の棲艦艦載機に機銃を連射した。やがて。

 棲艦機の爆撃によって水柱が立ち艦娘達の視界を遮った。

 

 

 「・・・了解」

奇襲の用意を済ませて待機していた千歳は、相手に聞こえる訳ではないがモールス信号に返事をした。電文を聞き終えて千歳は千代田を呼んだ。

「そろそろ発艦?」

「ええ、それも至急ですって。モールスが間違ってたぐらいだから何かよっぽどの事があったのかしら」

「古鷹さん達無事かなぁ・・・」

「この子達ならすぐに着くわ。早く送ってあげましょ」

2人が持つハンドルから伸びる糸はそれぞれの隣に浮かぶ木箱の中に消えている。千歳がハンドルを引くと箱から艦載爆撃機、彗星が転がり出てきた。千代田もそれに習う。

「さあ艦爆隊、出番よ!」

2人がハンドルを引くと彗星のプロペラは回り出した。今度は逆に大きく前に振る。彗星は角度を付けて勢い良く空に飛び上がった。

 

 

 「うゎ、マジで無いって!!」

「古鷹さん早く逃げましょう!!」

自分達に分があると見たのか、リ級と駆逐艦数隻が突撃を仕掛けるのが見えた。空からは艦爆、正面からは重巡とエリート軽空母。第2艦隊の統率が乱れ始める。

「みんなっ!増援も到着しました。まだ避けれるよっ、三ツ屋提督の訓練を思い出して!」

青葉の声で少し落ち着きを取り戻す。

「いい?横に広がって攻撃を分散させて、爆撃を耐えたらリ級に雷撃ね」

すばやく司令部の栗崎へ報告を打電した古鷹は落ち着いて指示を出す。

「駆逐艦の本領発揮だよ!」

駆逐艦の文月も加わって第2艦隊はなんとか落ち着きを取り戻した。

艦娘達が艦載機に向けて銃弾を撃ちながらお互いの間隔を空ける。爆弾が空気を切る音はどんどん大きくなり、やがて周囲で水柱が上がった。

 

 

 

 通常、艦娘や深海棲艦の艦載機は確実に攻撃を当てる為に空中で拡散して広範囲で爆発する親子爆弾など拡散系の爆弾を使用するが今回は対地爆弾だったのが幸いした。

 「よっしゃーっ!加古スペシャルを食らいやがれ!!」

全員が小破以下の被害で爆撃を乗り越えた後、かすり傷を作った加古は水柱が収まると同時に狙いを定めて魚雷を放った。同じく雷撃に参加する文月、三日月、望月、青葉は古鷹を軸に弧を描くような陣形に並んでいる。放たれた魚雷は放射状にリ級に収束して行った。

 

 

 「おおっ、やった?」

沖合いで戦闘の応援に急行していた衣笠は、先程の爆撃とは比べ物にならない轟音と水柱がリ級の居た場所で上がったのを見て歓声を上げる。安堵から自然と航行速度も緩んだ。

「油断大敵ですよ」

気を緩めること無く白雪が言う。

「ちょっと・・・あれ見て下さい」

吹雪に促されて衣笠が顔を向けた。

「えっ、なんで・・・?」

その先には水柱が収まって力無く蹲るリ級の横顔があった。まだ表情が分かる距離では無いがその目は・・・。

 

 

 水柱が収まり、虫の息になったリ級の姿が顕になった。素人目で見ても助かりそうにない重傷を負ってなお、砲身を杖に立ち上がろうとする姿を見て駆逐艦娘3人は立ち竦んでいた。

「・・・楽にしてあげよう」

淡々と言った古鷹はリ級に対する警戒を解いて一度砲口を下げる。彼女の艤装はさき程の爆撃で軽く窪んでいた。ケーブルも数本切れている。ダメージは小破と言ったところだろうか。

「青葉がやります。古鷹は本部に連絡を、きっと提督達が心配してます」

そう言って青葉はゆっくりとリ級に近づき始めた。

 

 

 他の深海凄艦達は何を思っているのか。遠巻きに見守るだけで攻撃を仕掛けてくる様子は無く、果敢に攻撃を仕掛けた戦友の末路に呆然としている様にも見える。青葉が近づいて来るのに気付き、リ級の周りに居た僚艦達は後衛のヌ級達の元に下がってしまった。

先程爆弾を降らせていた新型艦載機はいつの間にか姿を眩ませていて、残ったヌ級の艦載機と赤城、加賀が送った紫電の空戦の音が良く聞こえた。その向こうからは千歳と千代田が応援に送った彗星の近づいて来ている。

「勝負あり、だね。帰ったらいっぱい寝よ~っと」

「・・・・・・」

「古鷹、どうしたの?」

加古は青葉を見送ってから一言も話さない古鷹に声を掛けた。

「んー、無線の調子がね。さっきから雑音ばっかりで」

古鷹は耳の通信機に手を当てたまま答える。

「これ無線の配線じゃないの?」

加古が古鷹の艤装に途切れたケーブルを見つけて摘んで見せた。ケーブルは艤装の影で千切れていた。

「あー・・・ホントだ。どうしよう・・・備品、壊しちゃった」

「どんまい」

加古が古鷹の肩を軽く叩いた。

 

 

 リ級に近づいていく途中で青葉は自分に似た、しかし自分とは別の航行音に気付いて顔を向けた。

「衣笠!遅いよっ」

青葉の左手から衣笠が全力疾走で近づいていた。息も絶え絶えに衣笠は声を出すが海風の音に掻き消された。

「衣笠?どうし」

「・・・まだ、生きてるっ!」

「えっ?・・・でも、あの傷じゃもう・・・」

衣笠が青葉の前に立って押し止める。そのまま青葉にもたれて肩で息をする。

「さっき・・・リ級め・・・だい色に・・・早く・・・」

「・・・リ級?」

余程焦って来たのか、青葉は荒い呼吸の合間の単語を拾って衣笠の肩越しにリ級を見た。すると先程までぼろぼろだったリ級の傷は殆ど塞がっており、いつの間にか砲口は下を向いていても分かるほど強力な黄色い光を放っていた。

「フラグシップ・・・?」

リ級が屈んだまま顔を上げた。その瞳は文字通り橙に燃えている。青葉と目があってリ級は勢い良く上体を起こした。

 

 

 背後で水が跳ねる音がした。魚雷が着水する音だ。衣笠は青葉をリ級から突き離し、砲塔を構えて振り返った。まるでさっき打ち込まれた雷撃を跳ね返したかの様にリ級を中心に魚雷の軌跡が残っている。その内1本はもう彼女の足元まで伸びていた。

 

 

 青葉はたたらを踏んで持ち堪え、目前で高さ数メートルの水柱が上がるのをを見た。直後フラグシップと化したリ級が水柱の中程から現れて、至近距離でリ級が砲口を向けるのを見上げる。彼女の意識はそれを最後に途切れた。

 

 

 

 

 「第一艦隊赤城、帰還いたしま・・・」

報告の途中で赤城は動きを止めた。

「ああ、お疲れ様です」

金沢が席で出迎えて言った。

「・・・提督!!その怪我はどうされたんですか!?」

支援に送っていた艦載機を回収し、作戦終了の報を受け一足早く指揮室に報告に来て部屋の入り口で大声を出した。

「その反応、北間さんそっくりです」

赤城は雛壇状に設計された部屋の段を上って質問に答えない金沢の元に向かう。金沢は可笑しそうに口元を無事な左手で覆っていた。

「・・・笑い事じゃありません!これでも提督が何処かで戦闘に巻き込まれていないか心配してたのに、直通電話でもろくに話してくれないし!なんでそんな怪我してるんですかっ・・・・・・」

赤城は勢いのままに金沢に詰め寄った。

「あーあ。泣かした」

前列で話を聞いていた大端が振り返らずに呟いた。

「あー。いや・・・でも、あれは作戦の途中でしたし・・・」

うろたえる金沢に赤城が更に追い討ちを掛けようとした時、横で傍観に徹していた北間が割り込んで赤城に訊ねた。

「赤城、取り込み中すまんが古鷹達から何か聞いてないか?さっきから連絡が着かない。一応千歳達を向わせては居るのだが・・・」

「・・・いえ。聞いてないです」

赤城は短く答える。

「そうか・・・」

「・・・すみません。少し休ませて下さい」

「あ、ああ・・・」

北間の許可を取って赤城は疲れた様子で指揮室を後にした。

「少将、いくら艦娘との恋愛が禁止されているとはいえ少しぐらい赤城さんの気持ち考えたらどうですか?」

大端が振り返って金沢を嗜めた。

 

 

 「千歳から電文です!第二艦隊の奮戦により棲艦群の撃退を確認。第二艦隊は古鷹の無線が故障して通信が取れなかったようです」

数分後、千歳からの連絡が指揮室に届き、それを聞いた指揮官達から安堵や歓喜の声が上がる。

「やれやれ」

「一段落ですな」

大端はモールス信号を読み上げ続ける。

「被害は古鷹中破、加古小破、青葉中破、駆逐隊に被害は無し、衣笠・・・・・・」

 

 

 

 

 青葉が目を覚ますとそこは見覚えのあるドックの天井だった。隣で規則的に呼吸する音が聞こえるので目をやると皐月が寝息を発てていた。青葉が次に取る行動を決めかねていると皐月も目を覚ました。

「ふぁ・・・、あ?」

「おはようございます」

青葉は微笑んで彼女に声を掛けた。

「おはよ・・・あっ報告行かなきゃ!」

そう言って皐月は部屋を出ようとする。

「皐月ちゃん、待って下さい!衣笠は、衣笠はどうなったんですか?」

皐月は立ち止まって出口に向いたまま答えた。

「うん・・・司令官を呼んでくるね」

 

 

 戦闘から2日後、金沢は皐月の報告を受けドックに来ていた。彼女にはそのまま会議に遅れる旨を北間に連絡するように、と伝えている。肩の負傷は手当てを済ませて三角巾で吊った腕を制服の上着を羽織ることで隠していた。これはこれで目立つような気もするが。

「内灘(うちなだ)さん、お疲れ様です。青葉はどこの部屋を使っていますか?」

金沢は艤装の修理の指揮を執っている白衣の男に声を掛けた。帽子から覗く髪の毛は殆どが白くなっている。清潔そうな白衣の下には不釣合いな青色の作業服を着いた。

「ああ・・・彼女なら古鷹の隣のドックです。入渠ついでに古鷹、加古、青葉の消耗部品も交換しておきました」

「そうですか、ありがとうございます。・・・そういえば、ここで赤城と何かありましたか?」

「・・・いえ?」

「なら良いです。なんとなく赤城がドックを避けているようだったので・・・」

「はて?そうですか」

「いや、気にしないで下さい。あ、それと今月分の資材消費の明細、後で良いのでお願いします」

「分かりました。・・・部下に執務室まで持って行かせます」

 

 

 「青葉さん、具合はどうですか?」

「基地司令、あの後何があったんですか・・・?」

「順を追ってお話します」

 日は傾き始めたがまだまだ暑い時間帯、金沢はグラス2つに水を注いで片方を青葉に渡した。

「ありがとうございます・・・衣笠は無事、なんですか?」

青葉の表情には不安の色が伺える。

 「・・・報告によると、あの後第三艦隊と第一艦隊の応援が到着し深海棲艦の殲滅に成功しました。しかしフラグシップの出現により勢いを取り戻した敵艦隊の進攻は加速し青葉さんが被雷した地点から離れてしまいました。その後艦隊から脱落したあなた達の捜索が行われ脚部艤装が機能して浮いていたあなたは直ぐに発見出来ました。それから、夜を徹して衣笠さんの捜索は続けられましたが見つかったのは潰れた艤装と身体の一部のみ、昨日52号大隊の整備部が衣笠さんの物であると断定し捜索は打ち切られました」

「一部って・・・。まだ異動して日も浅いし見間違えただけじゃないんですか!?」

「衣笠さんの異動の時に艤装の設計図も一緒に52号に送っています。艤装で見間違うことは無いでしょう」

「だからって!潰れていたなら衣笠の艤装かどうかも・・・」

「青葉さん」

「まだ何処かで助けを待ってるかも・・・探さないと・・・」

そう言って青葉はベッドから降りて部屋から出て行こうとした。

「青葉!」

手首を金沢に掴まれて青葉の肩が小さく跳ねる。

 「魚雷をまともに食らった艦娘は多くの場合、遺体の回収もままならない事ぐらい知っていますね?今回は泊地内の戦闘で波の流れが少なかったから“足は”回収出来ましました。外洋だったら欠片も残らず・・・」

「やめてください!」

「・・・すみません。言い過ぎました」

青葉は俯いたまま唇を噛んで震えていた。

「こんな事を伝えてから言うのも何ですが・・・。あまり溜め込まない方がいいですよ」

金沢は軽く青葉の肩を叩いた。青葉の堪えた嗚咽がぽつりと部屋に零す。またぽつりと青葉が嗚咽を零して嗚咽はやがて子供のような泣き声に変わっていった。

 

 

 「衣笠とお揃いで買ったんです」

しばらく経って少し声を枯らした青葉が枕元に置かれていたお守りを手にとって言った。

「これ・・・全然効きませんでしたね」

青葉が頬に残った雫を拭いながら言った。

 

 

 

 

 青葉のドックを出た金沢は隣のドック室に向った。戸を叩きながら呼びかける。

「古鷹さん?金沢で・・・」

「わっ・・・ちょっと待って下さい!」

中で何やら物音がして古鷹の声が聞こえた。

「大丈夫ですか?」

はい、という返事から暫くたって金沢は入室を許された。

「お待たせしました・・・って、あれ?基地司令は会議に出なくて良いんですか?さっき栗崎提督が会議に行くって出て行きましたけど・・・」

「今回は艦載機の指揮を少し執っただけなのでとりあえずは大丈夫です」

「駄目ですよ。ちゃんと出ないと」

「分かってます。それより一つお知らせがあります」

「青葉が気付いたんですか?」

「聞こえてましたか」

「・・・はい」

「目覚めてくれたのは喜ばしい事ですが、青葉には良い知らせが出来なくて残念です」

「そうですね・・・」

 

 

 「ところで怪我の調子はどうですか?」

少し後に金沢が不意に沈黙を破った。

「こう見えて良好です。治療のついでに内部艤装のオイル交換と消耗部品の交換もして貰えました」

古鷹は先のリ級フラグシップとの戦闘でいつかのように加古を庇って中破している。古鷹の右腕には艤装を取り付けるための螺子や管が、換えたばかりの包帯越しに浮き出ていた。古鷹が病衣の袖を引っ張って包帯を隠しながら答えた。

「なら良かったです。早く良くなって下さい」

「提督こそ大丈夫ですか?」

「しばらくは三角巾生活になりそうですが、筆はなんとか持てそうなので大丈夫です」

「もう無茶はしないで下さいよ」

「気をつけます」

「それにしてもどこで水上機の飛ばし方なんて学ばれたんですか?」

衣笠の件はあったものの金沢が自ら零偵を操縦して帰還したという話はいつの間にか伝わっていたらしい。なおその時の飛行士は一命を取り留めて所属する大隊で療養している。

「学んだ、というほどではありませんが海大に入る前は航空隊の飛行士候補だったんです。本の読みすぎで視力が落ちて免職になりましたが」

「そうだったんですか」

「今こうやって指揮官をやっているのも免職になったお陰ですね」

「・・・あはは。そういえば、話は変わるんですけど艦娘艤装の消耗部品ってすごく高価だったんですね、それに艤装の燃料も。ちょっと驚きました」

古鷹は笑うところかどうか少し迷って、愛想程度に笑った。ついでに話題も変える。

「それだけ艦娘が期待されているという事ですよ。・・・ところでどこでそれを?」

無理のある振りにも関わらず金沢の食いつきは良かった。

「昨日怪我の手当てをしてもらっている間に新米の整備兵さんから聞きました」

「そうですか・・・。まあ、高価だからって変に気負う事はありませんよ」

「はい」

古鷹が頷いた。

「さて、古鷹の元気な顔も見れたので少しは出席してきますか。まったく反省会議に顔を出さないなんて基地司令の面目が丸潰れですし」

「会議、休むつもりだったんですか!?・・・でも、わざわざお見舞いに来て頂いてありがとう御座いました」

「いえ。それでは、お大事に」

 金沢は部屋を後にして廊下を会議室に向った。

「新米の整備兵というと北沢君ですかね・・・。ちゃんと彼にも伝えておかなければ・・・」

 

 

 「・・・・・・それらはすべて我々の隊で引き取らせて頂くと言っているだろう。異動手続きもすべて済ませているのだから・・・。おや、総大将が遅刻とはずいぶんなご挨拶だな」

会議室に入るなり金沢はガイゼル髭を生やした正装の将校に声を掛けられた。制服に付けられた勲章の数は55号大隊の指揮官の比ではなかった。

「これは52号基地司令、ようこそ55号基地へお越し下さいました。・・・申し訳ありません、なにぶんご来訪の連絡の一つも頂けなかったので。娘達の様子を見に行っていました」

「君は物事の優先順位を覚え間違えている様だな?先の戦闘での反省を・・・・・・」

 髭の将校が金沢を説教をし始めた。その間、会議室の席に着いた大端が小声で隣の栗崎に声を掛けていた。

「大佐、それであの方はどなたなんですか?」

「会議が終ってからと言ったでしょう」

「中佐、私語は慎んでください。・・・今の少将のお話を聞いていなかったのですか?」

三ツ屋が横目で大端を睨んで言った。

「だからなんであんなに仲が悪そうなのか聞いてるんじゃない」

「そんなこと後で良いですよね」

「もういいさ。・・・2人共知らなんだ様だしな。うちの大隊が本部の支援部隊から分離する時に、新設部隊にする以外にも52号大隊に組み入れる案もあったんだよ」

栗崎が説明を始めて大端は興味深そうに、三ツ屋は複雑そうに聞き始めた。

「今でこそ水雷戦隊は見直されているが、当時水雷屋は完全に飛行機に押されていてな。水雷戦隊が大半を占める52号大隊は成長が見込まれる航空戦力が欲しかったらしい」

「それで自分の基地に支援部隊の空母が欲しかった、と」

「そうだ。結果は新設案が採用された。・・・後にトラックに来る事になった赤城加賀の旧一航戦組みもうちに来る事になったしな。さらに金沢少将は舞鶴海大卒、あの基地司令は呉海大卒だ」

「ああ、あの仲が悪い海軍大学同士ですね」

「そうだ」

「そんなとこに衣ちゃんの事があったからますます険悪になっている、と」

「・・・衣ちゃんとは・・・衣笠の事か?」

 その時、扉が閉まる音がして3人が顔を向けると金沢が振り返った。話している間に52号大隊の基地司令は退室したらしい。

「やっと帰って頂けました」

金沢が待たせていた4人に報告した。

「やれやれ、いずれ会わなくてはいけない相手とは言え急に押しかけるのはやめて欲しいものです。それでどうしますか」

北間が席に着いた金沢に訊ねる。

「どうも何もこちらからは説得し続ける以外にないですよ」

「しかし困りましたな。青葉にはなんと言えば良いか・・・」

指揮官の面々は52号大隊指令の来訪によって反省会議どころでは無くなっていた

「さすがに遺品の引渡しを拒否されては士気に関わりますね・・・」

三ツ屋が腕を組んで不機嫌そうに言う。

 その日の会議は結論の出ないまま後日再開することになった。

 

 

 会議終了後、金沢は偶然廊下で会った赤城に呼び止めていた。

「えっと・・・なんでしょうか?」

金沢は一昨日、指揮室に報告に来て以来なんとなく態度が変わった秘書官に少し気まずそうに答えた。

「先日の戦闘で少し気になっている事があるのでご報告を・・・」

赤城はあくまで事務的に伝えた。

 

 

 日が沈み基地の建物の電灯が灯り始めていた。司令棟2階の基地司令室、金沢の執務室にも明かりは灯り室内には人影が見える。

「・・・たしかにおかしいですね」

金沢は執務机の椅子に座って呟いた。

「ですよね。索敵に出掛けて未帰還だった編隊が何も交信せずに3機纏めて未帰還だなんて」

赤城はソファーに座って言った。

 艦娘の艦載機は大量に発掘された前文明の電子回路を再現して作られた人工知能で飛行している。この人工知能は基本的に敵味方の区別、艦娘が発艦させた方向に居る敵への攻撃、空母艤装から発せられる微弱な電波を辿った帰還、以外にも墜落時もしくは見方機の墜落時には母艦の艦娘に信号を送ることが出来る。

 「墜落の信号は一度切り、味方機墜落の信号も受けていないのに3機喪失していた。つまり3機がまったく同時に落とされたんですね」

「はい。やはりあの駆逐艦以外にも深海棲艦が居たんでしょうか・・・」

 この時代の海対空攻撃は撃墜よりも攻撃に専念させない目的の方が大きく、海上地上からの攻撃で落とされる航空機はそう多くない。つまり敵空母が居て戦闘機による迎撃が行われでもしない限りまったく同時に3機の航空機が落とされるとは考えにくくなる。しかし大規模な索敵にも関わらず深海凄艦の空母は古鷹達と対峙したヌ級しか発見できなかった。

「そうですね・・・。分かりました、この話は本部に報告して調べてみましょう」

「お願いします。では私はこれで」

「・・・赤城さん、まだ何か怒ってます?」

「いえ、別に怒っていません。・・・失礼します」

妙に棘のある話し方でそう伝えると赤城は執務室を去って行った。

 

 

 

 

 高級感のある建物の廊下を2人の人間が歩いていた。淡灰色の壁や柱には単純だが重厚な装飾だけが施されており、娯楽目的ではなく権威を象徴する目的で建てられた建物である事を訪れる者に知らしめていた。大理石の床に軍靴が触れる度に気の引き締まる音が響く中、先立って歩く将校に従って斜め後ろを歩く秘書が抑揚の無い声で話す。

 「閣下、次は15:00から御前会議になります」

「宣戦布告後の初期対応について、だったな。・・・開戦なむなしか」

「はい」

「まったく・・・陸の連中もせめて艤装の更新が終るまで待ってくれれば良いものを」

「仰るとおりです。それと・・・いえ何でもありません」

「何だ?報告があるのならすべて話せ」

「はい・・・先程55号大隊から意見書が届きました。何でも大隊の指令がしつこく詰め寄って来て泊地本部で断れなかったとか・・・。私どもで処理しておく事も出来ますが如何いたしましょう?」

「55号と言うとトラックの支援艦隊か。・・・一応目を通して置く。移動の車に用意しておけ」

「承知いたしました」

 秘書は恭しく一礼すると将校と別れ廊下の角を曲がり早足で階段を上った。彼女は閣下と呼んだ将校の執務室に入ると机の上に置かれた封筒を手に取り中の書類を確認する。そこには“意見書”とそのままの題が付けられた書類が入っていた。秘書はその執筆者の氏名を見て一瞬動きを止めたが直ぐに書類を封筒に収めて利き腕とは逆の小脇に抱えた。執務室を後にして早足で将校の後を追う。

「金沢先輩か・・・海大以来だな」

自分にしか聞こえない声量で発せられた独り言は勿論誰にも聞かれる事はなかった。

 

 

>>>To be contemew【八話 波のまにまに】

 




 さて、作者は物語的に美味しい設定を思いついてから、それっぽい裏事情を付け足していくスタイルで作品を書いてます。そしたら艦娘の艤装は実物が造れるぐらいにめっちゃ高価という裏事情が出来上がりました。たぶん艦娘の艤装にはカリホルニウム252(めっちゃ高価な素材。・・・らしい)とか使ってるんだと思います。もはや原作無視の暴走設定。強いて言うなら解体の時に出る資材の他に“艤装の核”みたいなのがあって大本営に没収されてる。建造でその核を使って偽装を作る、改修は一回溶かして純度を高める・・・とかなら説明がつくでしょうか。まあ“その艦の艦娘はその娘しかいない(※)”設定な時点でドロップのダブりとかスルーしてますが。
(※)一般的な史実艦これの作品とかと同じ扱い。沈んだら同じ船名の艦娘は居ない系(但し赤城姉の天城と雲龍妹の天城は別)

 衣笠の台詞増やしたかったけどゲームの方で手に入れてない為にオリジナルがどんな娘か分からなくて出番が減った話。作者は衣笠が嫌いな訳ではありません。むしろ書いてて好きになったくらい(えっ扱い・・・)です。出来れば登場までにドロップして欲しかった・・・。実況動画とか漁ったら台詞ぐらい聞けるかも知れないけど始めて聞く台詞は自分の鎮守府で聞きたいじゃないですか!(結局ニ・コ動のボイス集で確認しました)結論。ドロップまだか。

 それと不老化処理について。不老機構の埋め込みとかのがかっこよかった気がする(厨二感)。不老化処理って口で言うと不毛化処理に聞こえなくないですか?不毛化処理・・・脱毛か!?無駄毛脱毛か!?
(治癒力上昇、筋肉密度上昇、不老化機構の処理を一回で纏めて行うのでそれらをひっくるめて不老化処理って事で。オリジナル設定について説明する誰得な設定書をそのうち書くかも。艦載機とかの設定もちゃんとしたいし・・・・。自分でもややこしくなってきたとか、先に書いた物に矛盾してないかビクビクしながら書いてるとかじゃないですよ?ホントに。ほ、ほら設定の整理ついでにですよ!うん)

 それと今回も本編の戦闘に関しての補足を少し。
・ヌ級の爆撃、雷撃を切り抜けてもリ級に狙い撃ち
・かといって予想外の抵抗の所為で3人でも同時に突撃出来るほどの隙は無い
・制空権を赤城、加賀の艦載機で取ってしまう予定だったのでちとちよの艦載機は殆どが艦爆。突撃してもボーキがマッハなので結局は練度が一回り高い衣笠待ち。
・赤城、加賀の支援があってなんとか進行を妨げている状況。
・長期戦になれば消耗の激しい戦い方をしている棲艦より艦娘側が有利だが進攻を完全に止められた訳ではないのであまり長期戦に持ち込んでも泊地本部と周辺の市街地が危険。
・・・という状況です。戦闘設定なんて作者の実力では本文中に織り込めんのだよ´・ω・`

 まあ、今作についてはこんなものですかね。さて、次回の更新は29日の予定です。が!皆さんご存知の通り本家艦これでは絶賛イベント中です。おまけに(他の作品書いてて)書き溜め(笑)も尽きてしまいましたのでどうなる事やら。とりあえず何かしら更新するのでそちらの方よろしく出来ると幸いです。では早速イベント攻略に行くとしますか。ノシ

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