Betrayal Squadron   作:胡金音

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衣笠さんがなかなか出て来てくれません。

それとうちのノートPCがリ級って打つ度に利休って変換してくれました。茶道か。

【追記】
平均文字数9000ぴったしワロタ(2014/7/30)


六話 泊地襲撃事件“上”

 暑さと喉の渇きで青葉は朝食後の仮眠から目を覚ました。窓の簾とカーテンは閉め切っていて部屋は薄暗い。今日は丸一日非番の日、青葉が時計を見ると針は昼食前を指していた。向かいの二段ベッドは空。ベッドの主、古鷹と加古は午前の訓練でかいた汗をシャワーで流している頃だろう。

「・・・早めに行って場所取りでもしますか」

昼食の時間にはまだ早いが“昼食始め”の放送の前に着いてしまえば、出来立ての食事を列に並ばずに食べられる。それに眠っている間に飛んだ水分の補給もしなくてはいけない。青葉はベッドから出て食堂に向った。

 

 

 その頃。基地司令の金沢は春島の北西20kmの上空で深海棲艦の奇襲を受けていた。金沢自ら通信機を手に取り本部からの連絡を飛行士に伝える。

「本部より電文。至急応援を向わせる、だそうです」

「了解です。二等兵!頼むから昼食吐くなよ!」

「はっ、はいっ・・・!」

飛行士は零式水偵を真っ直ぐに棲艦機の群れに向けた。

「この数の差で戦うつもりですか!?」

「棲艦機の方が足が速い以上、今背を向けては逃げ切れずに蜂の巣です!」

金沢の言葉に飛行士は緊張した面持ちで答えた。

 零偵は加速して深海凄艦のマルチロール機の銃撃をかわし集団に突っ込んだ。風防の直ぐ向こうを棲艦機が日光を鈍く反射させながら飛び去って行く。すれ違って直ぐ零偵は急旋回をして安全な敵機の後ろに付こうとする。しかし多勢に無勢、数組に分かれた棲艦機はさまざまな方向から零偵に銃撃を与える。飛行士は器用にそれらを避けていくが、どうしても避け切れなかった数発の銃弾が零偵の機体で甲高い音を立てた。零偵が落とされるのも時間の問題だった。操縦に集中する飛行士の代わりに金沢が後部の北沢に伝える。

「二等兵っ、機銃を!無抵抗よりはましです!」

「は、はいっ」

金属が擦れる音とバネの音が聞こえ後方から旋回機銃の音と振動が伝わり出した。それを確認して金沢は零偵の風防を最低限だけ開いて用意していた信号弾を発射する。トラック諸島上空に緊急事態を示す色が輝いた。その間にも棲艦機が迫って来る。棲艦機が銃撃を放ち零偵は急旋回で避けるがその先にも棲艦機は待ち構えていた。遠心力による加重で3人が座席に押し付けられる中、光線が降って風防が割れた。

 

 

 基地副指令の北間大佐は昼食を執務室に持ち込んで、資料に目を通しながら行儀悪く食事に勤しんでいた。副指令としての職務、兼任する陸戦隊隊長の職務、そして金沢が居ない日は基地司令代行も務める北間にゆっくり昼食を食べる時間など無い。

「副司令、お食事中失礼致します」

風が通るように開け放っている戸を義務的に叩いて陸戦隊の小隊長が駆け込んで来た。

「ん・・・どうした」

緑茶を口にしてから北間は応じた。

「見張りの隊員が北西11海里程の地点に緊急信号弾を確認しました」

「どこの部隊のだ?」

北間は漬物を齧りながら訊ねる。忙中、北間が部下の報告を聞きながら食事を取る事は隊内に知れ渡っているので小隊長は気にせず答えた。

「現在確認中ですが、状況から哨戒中の・・・」

「司令代理っ!」

小隊長が報告を終わる前に通信兵が割り込んで来た。

「・・・!貴様っ、まだ話の途中だ!」

小隊長が激昂する。通信兵は息を切らしたままモールス信号の用紙を北間に差し出した。北間が箸を置いてそれを受け取る。そして眉間に皺を寄せた。

「・・・何があった!?」

北間の反応を見た小隊長が通信兵に訊ねた。息を落ち着かせた通信兵は報告する。

「本部よりの電文ですっ!泊地北部に深海凄艦を確認、至急出撃せよとの命です!」

通信兵が話し終えると同時に北間が立ち上がり残っていた緑茶で漬物を流し込んだ。

「陸戦隊は救難艇を用意の上で待機。通信兵は各指揮官に連絡、当直の艦娘に出撃用意の集合をかけよ」

北間は部下達に指示を出すと食べかけの食事を残し指揮室に向った。

 

 

 数分後。3段の雛壇状になった指揮室の一番下、並べられた机の前に外出中の金沢を除いた指揮官が集められた。詳しい状況が纏められた紙を片手に北間は話始める。

「先刻、哨戒中の偵察機が当基地より約11海里の地点に深海凄艦の艦隊を確認した。数は12隻。ヌ級エリート3、リ級重巡1、軽巡3、駆逐5、旗艦はヌ級エリート。敵艦隊は現在も泊地中枢に向い南下中。夏島の泊地本部を撃破することが目的と思われる。金沢少将が不在の為、作戦指揮は俺が取る。また、迎撃は当艦隊を中心に52号艦隊、54号航空隊が応援に来る。ここまでで何か質問は」

 北間は自分を囲った指揮官の顔を順に見て質問が無い事を確認してから続ける。

「当方の布陣は、第一艦隊に赤城、加賀。第二艦隊、古鷹、加古。第三艦隊、千歳、千代田。それぞれの護衛に駆逐隊を付ける。第二艦隊、第一艦隊の航空支援で迎え撃ち、島を迂回した第三艦隊で背後から爆撃を仕掛ける。念のため第一艦隊の艦載機の半数は待機させておく。栗崎大佐は第二艦隊、大端は第三艦隊、三ツ屋は砲台の指揮を執れ、以上」

 大端が手を上げた。

「何だ?」

「第一艦隊の指揮は誰が?」

「俺が兼任する。別働隊が発見されでもしない限り艦載機の運用のみだから問題ない」

続いて栗崎が訊ねた。

 「応援部隊はどういった形で参戦する予定ですかな?」

「52号艦隊は会敵後になる見込みですが第二艦隊に組み込みます。54号の航空隊は爆撃、雷撃で敵艦隊の戦力削りに従事して貰います」

年上の栗崎に対して言葉使いに気をつけて北間は答えた。

「分かりました」

 「他に質問は?」

もう一度、北間は一同を見渡す。最後に三ツ屋が挙手した。

「配下の青葉は本日非番ですが参戦させるべきとかと存じます。エリート軽空母3隻に重巡に対してこちらが重巡2隻と言うのは如何なものかと・・・」

「そう言って貰えると助かる。・・・では青葉は第二艦隊に参加せよ」

「御意」

 「もういいな?では各自執務室で待つ娘達に指示を。駆逐艦隊指揮官も執務室に向わせてある」

 そして北間は艦娘隊伝統の言葉で集会を締めくくる。

「総員、暁の水平線に勝利を刻め!!」

「「「応!!」」」

 指揮官達が指揮室を出てそれぞれの指示を待つ艦娘達のもとに向った。

 

 

 金沢の前席、操縦席の窓枠に残った硝子片に血飛沫が飛ぶ。水偵は旋回を止めてゆっくりと弧を描き出した。たった今直上から機銃を斉射した棲艦機が横を掠めて降下していく。

「ぐぁ・・・」

「っ・・・大丈夫ですかっ!?」

空気が直接機内に入ってきて風が叩きつける音で飛行士の身を案じた金沢の声は掻き消された。

「少しょ・・・う、脱しゅ、パラ・・・ト」

「操縦桿を離しなさい!僕が飛ばします!」

止めを刺そうと別の凄艦機が迫っていた。自らも右肩から血を流しながら金沢が手元の操縦桿を握る。連動して動く前席の操縦桿から飛行士の手が離れた。銃弾が掠めた右肩のシートベルトは金具ごと飛んでいたが気にする間も無く、回避に備える。

「・・・少尉、持ちこたえろよ・・・」

金沢が呟いた。

「後ろ、上方に敵機!」

1人だけ無傷だった整備兵が叫んだ。

「このっ、動けっ・・・」

被弾の影響でいつもより重みの増した操縦桿に金沢は体重を掛けていく。

 

 

 昼食時の食堂の喧騒は緊急時のブザーによって静められた。

『緊急放送、緊急放送。当基地北方において敵艦を確認。当直艦隊は各司令室に集合、指示を仰げ』

古鷹、加古、青葉の3人は席に着いて手を合わせたところだった。

「加古、行くよ」

放送を聞いて直ぐに箸を置いた古鷹が立ち上がりながら言った。

「りょーかい。青葉!肉、見張っててっ!あむっ・・・」

隣の席の加古が急いでステーキ1切を口に押し込んでからそれにならう。

「大変ですねぇ。行ってらっしゃ~い」

非番の青葉が2人を見送った。2人の背中を見送って青葉は改めて手を合わせる。

「鮭入りの味噌汁にステーキですか。今日のご飯は贅沢ですねぇ・・・冷めない内に頂いちゃいましょう」

さっそく青葉が箸に手をつけようとした時、勢い良く食堂の扉が開いて丸刈りの将校が姿を現した。

「青葉っ何をしている!出撃だ、栗崎大佐の指揮下に入れ!」

「えー、今日非番ですよ!?」

「襲撃を受けているのにのんびり飯を食う奴がいるかっ!急げ!」

三ツ屋は半ば強引に青葉を食堂から連れ出して行く。青葉は休日に別れを告げ、長机には3人分の食事が残された。

 

 

 金属同士がぶつかる音と共に操縦桿が嵌まり込む様に倒れた。零偵は時計回りにロールしながら右下方向に落ちて行く。機体の左脇を曳光弾が掠めて空気を切る音を立てた。動きの悪くなった機体と金沢の操縦では次の銃撃はかわせない事は明白だった。銃弾を追う様に棲艦機が間近を通過していく。そしてもう一機、その棲艦機を追う機体があった。見慣れた緑色の日の丸が塗られたプロペラ機が棲艦機を追って行くのが後部座席の北沢には見えた。

 

 

 艦娘達がそれぞれの指揮官の基で作戦の説明を受けている頃、一足早く説明を終えた北間に連絡が届いた。

「大佐、52号大隊より入電です。衣笠、吹雪、白雪以下3名が応援に向ったそうです」

「“元”うちの艦隊唯一の改二重巡が援軍か。有り難い話だ」

通信兵が伝えた連絡に北間は皮肉気味に応えた。

「52号の応援が第二艦隊に合流し次第、第三艦隊艦載機は全機発艦。南北から挟み撃って、一気にけりを付ける!第二艦隊はそれまで棲艦を食い止めよ」

北間は艦隊を鼓舞する。

 

 

 だいぶ高度を落としてやっと水平を取り戻した水偵の中で金沢は上空を見上げた。相変わらず割れた風防からは空気が入り込んでくるが速度は会話できる程度には落ちている。上空では緑色のプロペラ機が飛び回って居て、こちらを追って来ようとする棲艦機に容赦無い攻撃を浴びせている。

「・・・隊には烈風が配備されているんですか?」

「・・・よくさっきのロールに持ちこたえましたね。あれはたぶんお隣、54号航空隊の機体ですね、それより早く基地に降りて少尉の手当てをしなくては。ここも流れ弾が飛んでこないとも限りません」

金沢は座席の隙間から飛行士に最低限の応急処置を施して零偵を春島水上機基地へ向けた。弾痕の残る零偵は戦域を離脱して南に向う。

 

 

 「第二艦隊、会敵!戦闘に入ります」

「第三艦隊、彗星の発艦用意完了!」

金沢が基地に戻り指揮室に入るとすでに艦隊は出動していた。

「司令、お戻りでし・・・どうしたんですか!?その右肩は!」

指揮を執っていた北間が金沢に気付いて大声を出した。金沢は右肩の部分が破けて赤黒い染みの付いた軍服を羽織って居た。肩章は破れて無くなっている。軍服の下の三角巾で腕を吊っている様子が伺えた。

「落ち着いて下さい、応急処置は済みました。今は迎撃優先です」

いつも通りの口調で金沢は返す。北間は目を閉じて気持ちを落ち着かせてから報告する。

「・・・現在、本部の命により北東約11海里の地点に出没したヌ級エリート3隻、リ級1隻を基幹とした12隻の凄艦の駆除に当たっています。凄艦は南下中、現在は春島東部を航行しています。栗崎さんの第二艦隊が南方からT字有利で迎撃中。大端の第三艦隊は島を迂回し北方からの航空攻撃を。第一艦隊は私が半数の艦載機を南方からの航空支援に、残りは備えに港で待機させています。他に52号隊の応援が砲戦に参加予定、54号航空隊が支援準備中です」

「了解。では第一艦隊の采配は僕が執ります、大佐はそのまま作戦指揮を」

「はっ」

 

 

MAP_____________________________________

   ・

   ・       ○第三艦隊・・・・・〈・・・・・・・〈・・・・・・

   ・          __________                ・

   ・         /    /______            ^

   ∨         |□54号大隊第一飛行場/___________  ・

   ・         |          55号大隊基地□      \ ・

   ・         / □春島砲台   春島東港□_________/ ・

   ●深海棲艦    |   [春島]      /・○・・・・〉・・・・・・

   ×        |           / ・ 第一艦隊

    ○第二艦隊   |54号大隊 /  ・

      ・     |□第二飛行場  /  ∨

←地図外    ・    \    __/  ・

  52号隊   ^      \_/    ・

   航行中   ・・・〈・・・・・〈・・・

 

                       |__________|← 3kmぐらい?

________________________________________

※1.上が北

※2.春島から東南東約15kmに52号大隊基地

※3.春島から南約6kmに泊地本部のある夏島

 

55号大隊総指揮:北間

第一艦隊(指揮:金沢):(旗)加賀・赤城・菊月・長月

第二艦隊(指揮:栗崎):(旗)古鷹・加古・青葉・文月・三日月・望月

第三艦隊(指揮:大端):(旗)千歳(軽空)・千代田(軽空)・睦月・如月

 

 

 「戦力的には厳しいが資材の事を考えると赤城さん達の出撃は厳しいか・・・、陽動の可能性もあるし。それにしても領海内にまだこれだけの部隊が居たとは・・・」

雛壇の最上段、全体の指揮を執っている北間の隣で金沢が呟いた。

「海は広いですからねぇ。哨戒網を潜られたか、はたまた未確認の出現地点が発生したか・・・」

「後者でない事を願います」

 そこへ最前列で航空隊との交信を担当していた通信兵が伝令を受けて伝達に来た。

「54号基地より入電!敵機の迎撃に苦戦、雷撃隊、爆撃隊の離陸に支障、支援隊遅れの見込み、大!」

「ただが軽空母3隻にか?」

北間が訝しげに訊ねる。

「それが、哨戒機を奇襲した敵機の追撃に戦闘機を飛ばしていたので敵の爆撃を防ぎ切れなかったそうです」

「・・・少し不味いですな」

「味方の戦闘機が少なかったとはいえ敵機が母艦に対して多すぎます・・・近くに他の空母が来ているのかも知れません」

雛壇の上から2段目でそれぞれの艦隊の指揮を執っていた栗崎と大端が口を挟んだ。

「少し探ってみますか・・・第一艦隊、未確認空母の探索に艦載機を使います」

金沢はそう北間に伝えると受話器を取って待機中の第一艦隊に連絡を取った。

 

 

 小さめのプレハブ小屋に大きなひさしが付いた、砂浜に建っていれば海の家の様なこの建物は砂浜ではなくコンクリートで護岸された港の一角に建っていた。この小屋は提督が演習の視察する際や艦娘が演習中の小休止に使う建物で今は第一艦隊の面々が待機している。

 支援の艦載機を飛ばし終え何をする訳でもなく赤城達が本部からの指示を待っていると壁に掛けられた受話器の呼鈴が鳴った。ここの受話器は基地の指揮室と繋がっているだけなので受話器の向こうは必然的に軍の関係者になる。

「はい。第一艦隊、赤城です」

一番近くにいた赤城が受話器を取って応じる。

『至急、島の北西を中心に索敵を。深海棲艦の妨害が予想されます。待機中の艦載機の半数で偵察隊を編成出来ますか?』

「提督・・・?よかった・・・ご無事でしたか」

『赤城。作戦中です』

「はい・・・。天山と彩雲、護衛に紫電を飛ばします」

 連絡を終えて赤城はその内容を他の3人に伝える。

「じゃあ私達はまだ待機か」

長月がつまらなそうに言った。

「分かりました」

加賀が艦載機の格納筒を持って立ち上がった。赤城も同じく格納筒を背負って小屋を出る。

「赤城、私達は前線に居なくても良いのか?」

海上に出ようとした赤城を菊月が呼び止めた。

「今はいいみたい、でも命令が出た時はお願いね」

「・・・了解」

そして赤城と加賀は偵察隊を発艦させた。

 

 

 「ああー!もうっ・・・固いなぁ」

「加古さん、ちょっと前に出すぎです!」

砲撃の狙いを定めるうちに少しずつ前に突出していた加古の背中に三日月が声をかけた。

「うん、でももうちょっとで当たりそうなんだけどなー」

それでも加古は狙いを定める内に少しずつ深海凄艦に近づいて行く。

「ほらっ、三日月ちゃんを困らせないで下さい」

見かねた青葉が加古の襟首を掴んで引っ張り戻した。

 夏島にあるトラック泊地本部に向う深海凄艦の進攻を妨げ続けている栗崎大佐率いる第2艦隊はリ級とヌ級の連携の前に長期戦を余儀なくされていた。

 

 

 「あっ、本部から連絡!文月ちゃん、望月ちゃん」

古鷹が周りに居た2人に声を掛ける。

「はいよー」

「まかせて~」

駆逐艦の2人は名前を呼ばれただけで訓練通りに古鷹の両脇で対空機銃を構えてヌ級の艦載機を警戒し始めた。古鷹が電文を受信する間に出来る隙を最小限に止める。それを確認して古鷹は三式弾による砲撃を止めて耳に掛けた通信機に手を添えた。砲撃を続けながらではとても信号は聞き取れない。通信機から延びるコードは艤装に繋がっていて体に絡まらない、かつ動きを阻害しない微妙な長さに調節されていた。この無線通信機は艦隊と指令部を繋ぐ唯一の手段なので基本的に旗艦が持つ事になっている。波の音と戦闘音が響く中、古鷹は通信機から発せられる信号音を拾った。

 「・・・衣笠が応援に来るって」

信号音で送られた暗号を解読して古鷹は艦隊の艦娘達に伝えた。青葉の表情が明るくなる。残りの連絡を聞いて古鷹が指示を出す。

「衣笠が到着したら一気に決着を付けるからそれまで踏み留まって!」

海上に戦乙女達のかけ声が響いた。

 

 

 衣笠率いる増援部隊の到着を待つ中、金沢の席で電話機が鳴った。いくつか並んだ半透明のプレートのうち“港・待機所”と書かれたプレートが光る。金沢が受話器を耳に当てた。

「どうぞ」

『赤城です。未確認の棲艦艦隊を発見しました』

「規模は?」

『それが・・・駆逐艦2隻の艦隊が2隊、環礁の内壁に沿って並んでいました。』

「・・・駆逐艦4隻だけ、ですか?」

『はい、2隻の隊が2隊。計4隻だけです』

「念のため聞きますが近くに潜水艦は?」

『泊地内の浅瀬で潜水艦を見落とすなんて有り得ません』

「・・・了解。こちらの被害は?」

『3機が音信不通に』

「では偵察隊から数機を2隊の監視に。残りは引き続き未確認艦隊の索敵を続行せよ」

『了解。数機で2隊の監視を、残りで未確認艦隊の索敵を続けます』

赤城の復唱を聞いて金沢は通信を終えた。

 

 

 通信を終えた古鷹が再び迎撃に加わってて十数分後。

「あっ!衣笠が来ましたよ!」

青葉が遠くの海上に3人分の人影がを見つけた。それらはまだ表情も分からないがこちらに駆け寄ってきている事は何とか分かる距離だった。

「提督に報告する間の援護を・・・あれ?」

「古鷹さ~ん。どうしたの?」

古鷹が言い終わる前に隣に陣取って対空機銃を構えていた文月が訊ねた。

「ちょっと待って、衣笠から電文が・・・。っ・・・!!」

受信の途中で弾かれた様に古鷹が視線を上空に向けた。

「空襲、敵機直上!!」

 

 

 「・・・第二艦隊、奇襲を受けております!幸い衣笠隊とは合流出来た様ですが・・・古鷹の報告では新型機と思しき棲艦機多数との事!」

栗崎が指揮室の隅まで通る声で叫んだ。続いて衣笠が持つ通信機と周波数を合わせて待機していた通信兵が報告する。

「衣笠が発したと思われる伝聞を受信!“我、囮とならん 戦線建て直されたし”!」

「そうか・・・。」

北間が立ち上がって采配を執る。

「全艦載機発艦!第一艦隊偵察隊は至急第二艦隊の支援、残りは衣笠隊の援護へ。第三艦隊は作戦通り敵の背後を叩け!第二艦隊は輪形陣に変形、対空砲火に集中せよ!」

 

 

 「陽動では無かったみたいですね」

赤城に指令を出した後、金沢が席に着いた北間に話しかけた。

「深読みしすぎました。本部撃破が目的で棲艦が来るなら東からだと・・・まさかごり押しして来るとは・・・」

「今からでも本部に応援を要請しましょう」

金沢が提案した。

「いや、狭い海域にこれ以上戦力を投入しては乱戦になるだけです」

「・・・なるほど。では彼女達が欠ける事無く帰ってくるのを祈るぐらいしかできませんか」

 配下の艦娘達に指令を伝えた指揮官達はただ静かに報告を待つ。

 

 

 「ちょっとちょっと・・・いくらなんでもアレはヤバいって」

3人の向う先、遠くに立つ小さな水柱越しに対峙した集団に高高度から近づいてくる沢山の歩行物体があった。それらがやってきた方向は北。衣笠達から見て古鷹達の背景になっているのは泊地北端の基地がある春島で、島より北から来る飛行物体は外海方面からやって来た事になる。

「急いで合流しましょう!」

衣笠の言葉の意味を解して吹雪が言った。直ぐに白雪が声をあげる。

「それでは間に合いません!」

「・・・っ!」

 衣笠は背負った艤装に外付けされた通信機に手を伸ばして電文を送り始めた。手を休める事無く吹雪達に伝える。

「急ぎ55号艦隊の援護に向う!青葉達が体勢を立て直すまで敵艦隊及び艦載機を私達に引きつけて!」

打電し終えた衣笠は海面を蹴った。

「砲雷撃戦、開始よ!」

 

 

 『-・- --- -・-・・ ・・・・ ・-・・ ・・ -・-・-』

『・-・-- ・--・ -・-・・』

『・・-・ -- ・・・- --・-・ ・・ -- ・・-』

『-- -・-- ・-・-』

 

 

 ワレ キヌガサ テッキ チョクジョウ ヨケロ

 

 

>>>To be contemew【七話 泊地襲撃未遂事件“下”】

 




 前作をうpして3日が経った日、誰か読んでくれてるかな~と小説情報を見に行きました。おお!お気に入り3人も増えてる。どんな人だろ?→被お気に入り登録者を確認。なんという事でしょう・・・!自分のハンドルネームがあるではありませんか!なんだ俺だったのか~。そうだ俺だ。誰だよ~、俺のアカウント使って俺の作品お気に入り登録したの。俺だろ。そっか~。といった茶番を1人PCの前で繰り広げていました。

 こんにちは、こんばんは、おはようございます。おはようからおやすみまで、作者の胡金音です。前回の“アレ”とは地図の作成でした。ぶっちゃけ面倒でした。自業自得です。また作ります。

 いきなりですが本編の補足を少し。55号大隊の提督陣は年齢と階級が比例してないので纏めておこうかと・・・。
年齢:[ベテラン] 栗崎(52) 北間(45)  大端(35)  金沢(33) 三ツ屋(29) [若造]
階級:[偉い!] 金沢(少将) 北間(※大佐) 栗崎(※大佐) 大端(中佐) 三ツ屋(少佐) [下端]
   ※北間は士官教育を受けた大佐、栗崎は下士官から上り詰めた大佐。
って感じです。こうしてみると突っ込みどころと違和感満載ですね。一応こんなことになってる理由はあるので後々本編で触れていきます。以上補足でした。

 さて1話の後書きでお伝えした10話完結、についてですが・・・まったく収まりそうにありません。6話まで進みましたが実は話の半分も終っていないのです。このペースだと15話ぐらいには収まると思います。・・・って書いちゃえば20話以内に収まると思います。艦これのサービス中に完結しますように(祈)

 それと次回のサブタイトルの欄について少し。今回は悩まなくて良かったので楽でした。“前半”と来たら“後半”。“上”と来たら“下”です。強いて言うなら“前半戦”“後半戦”と“上”“下”で悩みましたがワールドカップも終ったので“上”“下”にしました。

 そして隔週更新に備えて書き進めていった結果・・・!一話辺りの文章量が少なくなりましたー。書き溜めってなんだったんだろう・・・。増える分の更新日は不定月13日です。更新日決めるに当たって“毎月○日”じゃなくて“毎月第○曜日”更新にしとけばよかったと思いました。毎月13日と29日じゃ隔週更新って言いませんね。なんて言うんですかね?ともかくこれからは書き溜めが有れば13日も更新していきたいと思います。その場合は29日の更新の後書きでお知らせします。

 と言う訳で次回の更新は13日になります13日の水曜日です。そして今回は大したもではありませんが特別巻末付録付き!大したものじゃないなら特別って付けるなよって話なんですけど、「へ~こういう設定なのね」みたいに思っていただけたら幸いです。
 それでは次回、泊地襲撃事件“下”でお会いしましょう!ノシ

【特別巻末付録】
~トラック諸島はるじまっぷ~(一部省略)

     __________
   /    /______
   |□54号大隊第一飛行場/___________
   |  □役場      55号大隊基地□     \
   /□春島民間港   春島東港□_________/
  |   [春島]      /
  |54号大隊     □/
  | 第二飛行場   /基地外の食堂
  |□       /
   \   □__/
    \_/水上機基地

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