Betrayal Squadron   作:胡金音

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1話だけでよくまあ10000文字も書いたもんだと思う今日この頃。


十八話 砲火

 その魚雷は尾を引いて背後の揚陸艇に突き刺さった。轟音に思わず振り返った那智は即座に揚陸艇の被雷面と僅かに残った軌跡から雷撃が発射された方向を割り出し索敵に集中する。そして敵を発見する前に次の雷撃が迫っているのを見つけた。

「足柄!」

那智は砲塔を構えながら呼びかけた。

「分かってるっ」

同じく近付いてくる魚雷の存在に気付いた足柄は片手で砲塔を構えつつ空いた手で無線のボタンを押し富山が式を執る砲艦へと連絡を取った。

 

 

 「で、これからどうするつもり?」

鳳翔との連絡を終えた大端は自分を見降ろす妙高へと問いかけた。遠くからは時折、薄いガラス越しに砲撃音が聞こえる。

「泊地長からは聞きたかった答えは得られなかったんでしょう?」

妙高は直ぐには答えなかった。そして聞かれた事とは別の話を始める。

「ここに来る途中、55号大隊の艦載機を見ました。そしてさっき話されたように貴女は、信憑性はともかく艦娘を救うという明確な目的を持っています。ですがそれは容易に実現できる事ではありません。ならば孤立した勢力である貴女方が夜間に回収出来ない艦載機を使い捨てするとは思えません。大端元中佐、貴女は同調した陸戦隊員を使って54号基地の飛行場を占拠しようと考えましたね?あの基地ならば夜間照明を使って艦載機も回収出来るでしょう」

「・・・気付いてたのね」

「今頃、羽黒が提督に知らせているでしょう。飛行場に本部の陸戦隊が展開したら貴女方に勝機はありません。・・・もう降参して下さい。貴女だって無用に血を流す事を望んでいる訳ではないのでしょう?」

「そうね、じゃあ私がここで降伏したらどうなるのかしら?上層部のお偉いさん達の艦娘を見る目は変わる?誰があの子達の仇を取ってくれるの?」

「あの子達、ですか?」

 通信機のランプが点灯し、少し遅れて着信を伝えるブザーが鳴った。

「失礼」

大端は少しの間、通話機の向こうとやり取りし通信を終えた。

「・・・ごめんなさい、さっきの事は忘れて。それに気付くのが少し遅かったみたいね」

「どういう・・・」

妙高は言い終わる前に表情を変えた。大端が頷く。

 「ええ。たった今、飛行場制圧が済んでこっちの艦載機が泊地長のもとに飛び立ったわ。本部艦隊との決着をつけに」

それを聞いた妙高は大端を押し退けると通話機に手を伸ばした。連絡先を手早く切り替えて富山へと繋がるのを待つ。大端は止めなかった。

 

 

 羽黒が富山の元に辿り着いた時、艦隊は既に戦闘状態に入っていた。本部艦隊が被雷下のを受け実力行使による55号艦隊の制圧を決めた富山は那智、足柄を中核とした本部艦隊による強行揚陸に向け進軍を開始した。55号大隊側が砲撃と雷撃で抵抗しているものの物量で勝る本部艦隊の進軍は止まる事無く本部陸戦隊の上陸も時間の問題だった。

 「提督、これは・・・一体・・・?」

砲艦の艦橋に入った羽黒はそこで指揮を執る富山に尋ねる。

「ああ、戻ったか。見ての通りだ。向こうからの雷撃で被害が発生し、実力行使に及ばざるを得なくなった。お前達の交渉の結果を待てなくなったのは・・・すまない」

「そう、ですか・・・」

落胆した羽黒だったが直ぐに帰投した目的を思い出し気を取り直した。

「提督、54号基地の飛行場へ陸戦隊を向かわせてください!時間がありません」

羽黒は交渉に向かうまでの事を手短に説明した。

 「話は分かった。揚陸艇を1つ回そう。羽黒はここに残って那智、足柄と揚陸艇の護衛に当るよう・・・」

「司令!電探に航空機反応!こちらに向かってきています!」

富山が言い終わる前に近くに居た指揮官が割り込んできた。

「照明弾、放てっ!対空戦闘用意!・・・飛行場が堕ちたか」

搭乗艦に支持を出すと富山は通信機に飛びついて艦隊の各艦に声を飛ばした。

「全艦、対空戦闘用意っ!」

程なくしてプロペラ音が船内に届き始める。ガリガリ鳴る機銃音と共に鋭光弾が列を成して夜闇に消えて行く。鋭光弾の発砲の度に艦橋の窓が薄く反射した。弾幕を潜り抜けてきた数機が富山の砲艦に向かってくる。放たれた照明弾で甲板に影を作りながら機体から円筒形の金属が切り離される。そのうちの1つが艦橋の窓を突き破った。

 

 

 爆音に紛れる事も無くエンジン音が遠退いていき、最後の一機が射程外に出るまで掃射を続けていた揚陸艇もやがて静かになった。空襲に気を取られている間に55号大隊からの砲撃も止んでいる事に気付き砲手も手を止めた。

 富山が目を開けるとガラスの破片が飛び散っているものの爆弾が炸裂した様子は無い。爆炎が艦橋を焼く代わりに、壁と床、ついでに天井までが緑色に染まっている。金属の筒からこぼれた緑色の塗料が床に粘性のある水溜りを作っていた。

「失礼しま・・・!?」

たった今艦橋へ入って来た通信兵が艦橋に広がった塗料の臭いと部屋を覆う緑色に一瞬だけ唖然として固まる。それでも重傷者がいない事に気付くとすぐさま報告に移った。

「・・・55号艦隊からの通信です」

「ああ、ご苦労。・・・今行く」

そうして富山は艦橋の部下に警戒を続けるよう、そして手の空いている者は掃除を開始するよう指示を出して通信室に向かった。

 

 

 「提督、ご無事ですか!?」

『ああ、妙高か。どうやらお前の作戦は失敗したようだな』

「・・・申し訳ありません」

待つ事数分、ようやく繋がった通話に安堵する反面、妙高は失敗を詫びた。

『いや、過ぎた事だ。・・・そっちの責任者は近くにいるか?』

「はい、聞いてますよ」

妙高の横に居る大端の声をマイクが拾った。

『その声は・・・金沢司令ではないな?誰だ?』

「55号基地所属の大端です」

『どういうことだ。今回の件は金沢司令が画策したものではないのか?』

「こちらも立て込んでいまして。それよりも、せっかっくこうやって通話に応じているんです。他に話すことがあるのでは?」

『あの爆撃、いや模擬弾はどういうつもりだ?』

その言葉を聞いた妙高が驚いて大端の顔を凝視する。

「以前、こちらの訓練で使わなかった余りです。さっきは模擬弾でしたが次は本物をお持ちしましょう。地上からしか迎撃できない以上、そちらが不利ですよ」

『・・・何が目的だ?』

「武装解除して下さい。こらから先、何時制圧されるかも分からないような状況はこちらとしては避けたいので」

『・・・分かった。とにかくここは一度引こう』

 

 

>>>To be continue【19話 愚将の懼れ】

 




次話、50%くらいの進捗。更新日未定。

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