Betrayal Squadron   作:胡金音

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コロコロ代わるサブタイトル。過去の自分に言ってやりたい。「次回予告しなきゃいいのに・・・」
(次回9月29日更新予定)

・*重要*
前話にて話の展開に不可解な点がありましたので訂正しました。

・先に呼んでおくと分かりやすくなるかも知れない補足。
51号基地(もしくは大隊)・・・トラック泊地本部に拠点を構え、陸戦隊と妙高型艦娘を擁する。つまりは本部の直轄部隊。「本部の~」だと、たいていここを指す。
52号基地(もしくは大隊)・・・トラック諸島西部に拠点を構える。艦娘の水雷戦隊を擁する。
54号基地(略)・・・トラック諸島春島西部に拠点を構える航空特化部隊。構成員が殆ど航空関係者。
55号基地(ry)・・・トラック諸島春島東部に拠点を構える支援艦隊及び増援部隊。陸戦隊とこの世界では後続の出現により旧式になった艦娘部隊と政治的なアレで51号基地から分離した陸戦隊を持っていた。諸事情につき現在の陸戦隊員は18人。本作の主な舞台で離反中。



十六話 邂逅“上”

 海上で腕を組んで仁王立ちする那智が見つめる先には泊地を構成する島の一つ、54号大隊が持つ2つの航空基地と55号大隊の拠点を擁する春島。前線から遠く離れたこの諸島では灯火規制は布かれておらず、ぽつぽつと灯りが灯っている。55号基地離反による海上封鎖の影響で漁船の姿も見られない。月齢の幼い月が時折反射する海に春島はぼんやりとしたその影を横たえていた。

 那智の背後には51号大隊が所有する小型揚陸艇が4隻、さらにその後ろには海上指揮所兼艦娘の待機所代わりに持ち出された砲艦が1隻浮いている。その砲艦から軌跡を引きながら1人の艦娘が向かって来ていた。

 「姉さん、提督が一度砲艦に戻って来いって言ってるわよ」

「ああ、分かった」

足柄は動く気配の無い那智の横に並んで視線を前方に向けた。

「・・・妙高姉さんと羽黒の事が心配?」

「そうだな。作戦をきいた時に姉さんは自分で交渉に向かう気だとは思ったが、もう1人が羽黒になるとは思わなかったからな」

「あの子も変わったわね」

那智は少し表情を和らげて軽く頷いた。

 「・・・なあ足柄。どうして55号基地は離反なんて真似に走ったんだと思う?」

不意に顔を足柄の方へ向けた那智はそんな質問をした。

「それを今2人が調べに行ってるんじゃない」

そう答えつつも足柄は考える素振りを見せる。

「まあ普通に考えたら何か要求あるにしても、離反なんて上の姿勢を硬直させるだけよね・・・」

「お偉い方が言うように若い将官や佐官を増やす方針は失策だったのかもしれんな」

「単に若気の至りで離反に踏み切ったか、あるいは・・・」

「あるいは、なんだ?」

「余程、自信のある秘策でもあるのかしら?」

「秘策、か・・・」

「姉さん、そろそろ行かないと」

さらに考え込もうとする那智に足柄は言う。

「提督に怒られても知らないわよ?」

「・・・ああ、そうだな」

そういって那智はようやく足柄と共に富山が待つ砲艦に向かった。

 

 

 「・・・提督、本気ですか?」

「ええ、数で劣る私達が勝機を掴むには先手を仕掛けるしかないわ。」

そして大端は広げた地図の一点を指差した。

「54号大隊第一飛行場。陸戦隊にはここを襲撃及び奪取してもらいます」

「しかし・・・我々はたった18人です。一大隊を相手に攻め込むなど無茶が過ぎます」

「そうですよ、提督。それに私達の目的はあの子達の身の保障を得る事です。飛行場の襲撃なんてしなくても・・・」

陸戦隊員の意見を鳳翔が後押しする。

「順に答えるわね。まず18人で奪取可能かどうかと言う点だけど、54号基地が持つ陸戦兵力は門の警備兵程度よ。前線なら守備隊がガッチリ固めているだろうけどね。有事の際に54号基地の守備に当たる泊地本部の陸戦隊、今は沖合いの揚陸艇に居るわ。門の警備兵数人と寝起きの飛行機乗り相手なら装備が揃った18人の陸戦隊員で十分、突入したら真っ先に54号の基地司令を抑えなさい」

次に大端は鳳翔に顔を向ける。

 「飛行場の奪取は必要よ。確かに関係の無い人達を巻き込んでしまう面はあるけれど・・・これから夜が明ける前に本部の妙高型が4人揃って強行上陸を展開したら青葉達だけで防げる?本部に居ない駆逐艦娘の報告があるという事は恐らく52号からも出撃してるわ。一隻でも揚陸艇を取りこぼしたらここは保てないし、離反は失敗して睦月達の身の保障も出来なくなる。睦月達に理由を話して出撃してもらっても戦力は向こうが上、それに実戦を殆ど経験していないあの子達がいきなり艦娘相手に実弾を撃てると思う?向こうの陸戦隊の上陸を阻止するにはうちの主力である空母艦娘、貴女達の参戦は必須よ。夜間の航空火力が加わる事で本部が攻勢にでる抑止にもなる。その為に飛行場を奪取し、夜間着陸用の照明を使って艦載機を回収する。明るければ出来るわね?」

「やったことはありませんが」

「他に打てる手はある?」

鳳翔は少しの間押し黙って口を開いた。

 「・・・提督のお考えは分かりました。でも、あと一つだけ教えて下さい。あの子達の身の保障と引き換える為に泊地の中継基地としての機能に影響が出るまで基地に立て篭もらなければいけない、その為にここで本部に制圧される訳には行かないというのは分かります。しかし幾らフ島攻略作戦の時に支給された資源が残っているとは言えこのまま包囲され続ければ直ぐに底を付くでしょう。私が離反に反対したのはその点が解決出来ていなかったからです。もし提督がそこまでお考えでないなら私はこの離反を降りて本部の艦隊が基地に気を取られている間にあの子達を連れて逃げ延びます」

 「どうして鳳翔さんがそんなに無茶な出奔に拘るのかは分からないけれど・・・」

頑なな姿勢をとる鳳翔に大端はそう前置きして話し続けた。

「いいわ。もう本当に時間が無いから手短になるけど、この際みんなにも教えておくわ。私がこの離反に踏み切った理由はこの基地に最新の通信機器が配備されているからよ。具体的にどうするかと言うと本来は通信用の機器を少し組み替えて民間船の交信波長やラジオの波長に音声を流せる様にする。ここの機器なら泊地外の周辺諸島まで電波を飛ばせるわ。そして艦娘の処分が行われている事を電波に乗せる。軍にとって都合の悪い極秘事項がラジオに流れだしたらさぞ上層部は慌てる事でしょうね。上手くいけばメディアに拾われてスキャンダルになるわ。そしたら軍も何か手を打たない訳にはいかなくなる。以上がこの離反に踏み切った理由よ。54号基地の飛行場を押さえるのは空襲による通信機器の破壊を防ぐ目的もあるわね。・・・これで良いかしら?他には何かある?」

 大端は周囲に目を配ったが発言する者は居ない。

「よし。では――各自尽力を尽くせ。出撃するっ!」

 

 

 春島から東に10数キロ。そこには珊瑚が隆起して出来た環礁が不揃いな大きさの点線となってトラック泊地の外郭を形成している。艦娘の誕生以前は一部の限られた途切れ目しか船舶の航行は出来なかった為、数箇所の主だった水路を塞ぐ事でトラック泊地は外敵の進入を許さない海上に浮かぶ広大な堅城となった。しかし深海棲艦や艦娘が登場し僅か数メートルの切れ目でさえ外的の進入経路となり泊地は不可侵の領域ではなくなってしまった。もちろん軍部も手を拱いていた訳ではない。水路の埋め立てや監視塔の整備を進めたが何せ200kmもの環礁のあちこちに点在する水路である。埋め立て作業は難航し、現在は応急処置として侵入防止の電気網が張られ時折泊地本部の陸戦隊員が巡視に訪れる程度に止められていた。春島沖合で那智と足柄が話していた頃、潮の満ち引きの影響で環礁が一部細くなったところに水中から這い上がる人影があった。その人影は殻で覆われたような半身を引き摺ってゆっくりと陸上を移動すると環礁の内側に、すべり落ちるようにして海中に潜り込んで行った。時間にして僅か10分足らずの出来事。泊地への侵入者の存在を知るものは空に小さな弧を描く月以外には居なかった。

 

 

 真っ暗闇の中、波が時折作る泡の音が響いている。目で得られる情報が限られる中では音に寄る情報の重要度が高くなるが、自然の作り出す波の音は定期的な様で不規則だ。波の音に別の音が混じっていないかと聴覚を研ぎ澄ませていた羽黒は何かが弾ける音を聞いた気がして後方を振り返った。見えたのは細い月が僅かに照らす海面に残った自身の軌跡と少し遠くなった春島西海岸の町並みだけ。海岸沿いには54号基地の飛行場があるが、飛行場に近い市街地の一般人を巻き込まない為に作戦には参加しないと彼女は富山から聞いている。羽黒は先を急いだ。

 数時間前、トラック泊地本部の会議室で妙高が中心となって立てた作戦は彼女に信頼を置く富山中将の手で実行に移された。富山が大本営の指示や各部隊の要望をすり合わせて用意した戦力は泊地内の浮き砲台として使われている装甲砲艦1隻、小型揚陸艇4席とそれに分乗する51号基地の守備隊員500名、さらに52号基地から応援に駆けつけた駆逐艦娘6人と発案者の妙高達。10数名の陸上部隊と支援艦隊の艦娘、運用上の問題で夜間の活動が制限される空母艦娘に対抗するには十分な戦力だった。

 航空戦力に関しては飛行場が離反基地に近く無防備になりやすい離着陸時に攻撃を受ける可能性が在る事と、夜間はどうしても精密攻撃が難しい空襲で55号基地にある最新鋭通信機器の損壊避けるよう大本営の指示があった事、最後にこれも本国の指示でなるべく秘密裏に離反を鎮圧する為に目立つ攻撃は避ける必要があった事から、航空隊を擁する54号基地の司令官に作戦概要が通達されるに留まった。実行の目処が立ち、富山が民間船の航行を訓練名目で禁止する旨を泊地内と外洋からトラック諸島に向かう船舶に通達した時には既に日は沈みきっていた。

 そうして離反制圧部隊が海上に展開したのを見届けると妙高と羽黒は予定通りに、万が一離反部隊に遭遇した事を考え2手に別れて春島に向かった。羽黒が通った経路は春島の西方を大きく迂回して北から春島の基地に侵入するルートで、制圧部隊と対峙する離反部隊の背後を突く形となる。対して妙高は春島を東に迂回して北東から春島に侵入する経路を取る事になった。

 羽黒は春島の北海岸まで回りこむと予め地図で確認した上陸出来そうな場所を探し始めた。海岸から近すぎず遠すぎずの距離を保って羽黒は航路を東に取る。那智と足柄の本隊が55号大隊を引きつけているとはいえ、万が一見張りに見つかってしまえば計画は破綻してしまう。

 予定していた海岸を見つけると羽黒は慎重に近づいた。木々のざわめきで集めにくくなった分の情報を目を凝らす事で補う。とりあえず人影が見当たらない事を確認すると羽黒は背負った艤装に手を伸ばして装備した電探を取り出した。本来は水上電探だが念の為起動させる。そして反応は直ぐにあった。

「えっ・・・!?」

 思わず声を零して電探に反応があった西南、つまり羽黒が今来た方向を見上げると一瞬だけ低空に光る物が見えた。さほど高くない位置を飛んで来るそれに慌てて羽黒は海岸から上陸して木の陰に隠れる。飛来したそれは直ぐにプロペラ音を発しながら目視できる距離まで近付いて飛行機の形を作ると羽黒の頭上を通り過ぎて行った。作戦では春島上空を飛ぶ筈のない飛行機の存在に動揺しつつも羽黒はその飛行機の所属を確認出来なかった事を悔やんだ。飛行機が飛び去った東方向には島の反対側から迂回した妙高が居る筈だ。しかし探知される事を考えると無線を使って知らせる訳にはいかない。羽黒は姉の無事を祈りつつ先を進んだ。

 

 

 羽黒が見た飛行機が妙高の附近を通る頃、妙高は既に上陸して55号基地に向かって茂みの中を進み始めていた。プロペラ音を聞いた妙高は木々の隙間から自分の姿が見つからないように細心の注意を払いながら空を仰ぐ。ある程度余裕を持ってその飛行機の姿を観察し、塗装パターンから所属を確認する事が出来た妙高は自分の読みが外れた事を悟った。

「元一航戦を甘く見ていましたね」

飛行機こと、加賀達が哨戒の為に飛ばした天山の後ろ姿を見ながら妙高は小さく呟いた。羽黒の身を案じつつ妙高は自分の役割に戻る。

「見つかっていなければ良いのですが・・・」

普段、彼女達が活動する海とは違って木が生い茂った空間が目の広がる。加えて作戦が読まれた可能性を考え、妙高はさらに気を引き締めた。目的は離反した基地の司令官と合ってその目的を聞き出し、可能であれば投降するよう説得する事。妙高はふと思った。この離反は本当に無謀なのか、と。

 平時であっても重罪になる離反をよりよって他国との開戦直後に起こしたのだ。下手をすると敵国と内通していると思われてもおかしく無い。しかし内通しているならこんな中継泊地の一角で立て篭もるよりも、突発的に泊地本部を攻撃して指揮系統を乱した方が余程効果的だ。内通でないのなら交渉の余地があるのではないかと、本国の指示を受ける形で無理な離反に踏み切った理由を聞き出すべくこうして直接交渉に向かっているが、もし離反の理由がもっと純粋な何かで勝算あっての離反だとしたらどうだ?そんな目的を持つ司令官が艦載機回収の見込みの無い偵察を指示するだろうか?・・・飛行場!54号基地の飛行場を取ってしまえば夜間着陸用の照明が使える、理論上は艦載機の回収が可能だ。そうなると飛行場が危ない。何とかして富山に知らせなければ・・・。

 

ガサッ

 

 近いところで自分が立てた物とは違う音がして妙高は身を硬くした。周囲の警戒が散漫になっていた事を後悔する間も無くその物音はさらに近付いてくる。妙高は静かに身を低くして対空機銃を構える。陸上では艤装による身体の保護も期待出来ない。妙高は身を屈めて静かに息を飲んだ。

 

 

>>>To be contemew【17話 邂逅“下”】

 




 なんと言うか10話ぐらいで終わると思ってたのもあるけど、荒削りな設定に出てくる不備を誤魔化しながら(しかも間が空くから設定忘れる)話進めるのも大変ですね。現にここ最近大きなミスが続いていますし・・・。どうも、反面教師の胡金音です。後付設定サクサクです。下手すると後付しすぎで1話から読むより途中から読んだほうが分かりやすいんじゃないかと思ったりしています。

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