Betrayal Squadron   作:胡金音

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~前回までのあらすじ~
 誤字脱字の確認も済ませ後は投稿設定を済ませるだけ―――――本家艦これのイベントに夢中になって気付けば早22日。うっかり毎月更新などと大口叩いてしまったが為に7日間の使える時間をすべて使い書き上げた小説を保存し、風呂に入った胡金音。しかし脱稿による開放感に身を任せた胡金音が長風呂から上がると時計は23時30分を指していた。日付が変わるまでに10話の投稿作業を済ませ一息ついたのも束の間、彼は次話のサブタイトルを考えるのをすっかり忘れて空白のままだった事に気付く。

>>>To be contemew【**話 ********】

思い出(黒歴史)のあるこの1文。しかしこの1文は必要なのか。思い悩む胡金音に時間は無情にも牙をむく。迫る年越し、11話の投稿日が訪れようとしてい――――
AD「本編のあらすじじゃねぇのかよっ!!!」 (゜Д゜((ヾ(ーー )
(※AD君について気になったは補足編の“B.S.放送局”をご閲覧下さい)



十一話 始まりの第一歩

 「そう・・・。ごめんなさい、私はてっきり司令が“彼女”に不埒な事を・・・」

「ともかく“彼”は海大時代の後輩で任務の合間を縫って話しに来てくれただけです。誤解した事はもう良いですから忘れてください」

ここは港の一角に建てられた泊地本部の海軍官舎・・・の人目に付き難い倉庫前の廊下。長官の女性秘書“手宮”、改め海大時代の金沢の後輩で海軍情報部員の男“都辺”が先ほど加賀に残した誤解を55号基地司令の金沢は解いていた。

「しかし学生時代の先輩に挨拶するだけでこんなところに連れ込むなんて・・・。あっ、そういう・・・大丈夫、心配要らないわ。司令と彼の事は誰にも話さないので・・・。それと私は同性同士に偏見は無いので安心してください」

「ちょっと待って下さい」

加賀の誤解は終らない。

 

 

 「では、この攻略戦後に情報部の調査が・・・?」

結局、都辺の正体まで話して誤解を解いた金沢は疲れた顔で頷いた。そんな金沢にはお構いなしに加賀は顎に手を当てて考え込む。

「何を調べに来たのかしら?」

「さあ。いくら旧知の人間とは言え彼も情報部の人間ですから調査対象にそこまでは教えてくれませんよ」

「司令、貴方まだ何か隠してない?」

「何も。彼はただやましい物があるなら今のうちに隠しておけと伝えたかったんだと思いますよ。まあ見られて困るようなものはありませんけどね」

「・・・なら良いのだけど」

「金沢少将ー?もう直ぐ帰りの船が出ますよー」

金沢が白を切ったところに角から大端が現れた。

「あら、加賀さんまで。2人共・・・お取り込み中だったかしら?」

「違います」

面白いものを見つけたと言わんばかりに目を輝かせる大端に加賀は即答した。

 

 

 その日の夜、鳳翔が1日の仕事を終え自室で一服していると戸をノックされた。

「はい、どちら様かしら?」

「ほーしょーさーん。夏島のお土産ですよー。はい、これ」

鳳翔が戸を開くと同時に箱の入った紙袋が目の前に突き出された。

「あら、大端提督。出発式は如何でしたか?・・・これって有名百貨店のお菓子じゃないですか!日本人街に出張店舗でも来ていたんですか?」

「ふふーん、本土から来たお偉いさんの機嫌とってたら貰っちゃった。夕食後の甘味に一緒にどう?」

大端は自慢げに話すと鳳翔をお茶に誘った。

 「ところで今、良い?」

鳳翔がいつもの様にお茶の準備をする後ろで座布団の上でくつろいだ大端が部屋の入り口を指して言った。鳳翔は大端の意図を察して一度、茶葉を入れたきゅうすを置き戸越しに外の様子を伺う。

「ちょっと待って下さい、誰か来たようです」

廊下の木材が軋む音を聞き小声で大端に伝えると、鳳翔はその間にきゅうすに熱湯を注いでお茶の用意を再開した。

 「それで向こうで何かあったんですか?」

足音が遠ざかった後、鳳翔は淹れたばかりのお茶と大端がもってきた羊羹を盛り付けた小皿をお盆に載せて大端の待つ卓袱台向った。

「あ、頂きます。うん、なんか鳳翔さんの言ってた事が現実味を帯びてきたなーって」

大端は用意された楊枝を羊羹に刺しながら言った。

「あら、まだ疑っていらしたのですか?」

「疑っちゃいないけどあんな話、はいそうですかと飲み込めないわよ。海大時代から今まで上から聞いてた話と違いすぎるもの・・・。今日ね、少将が怪しい動きをしてたからその場にいた加賀さんに帰りの船で話を聞いたのよ。少将が本国の人間と密談していたから後ろめたい事がないなら止めるように忠告してたんですって。何か不味い話でもしてたのかしらね」

「なるほど・・・やはり基地司令には話が通っているとみて良さそうですね」

鳳翔は大端の話に相槌を打ちながら応える。

「まあ・・・少将のここ数ヶ月で急に増えた本部への出張と、貴女達艦娘に閲覧許可を出せない基地の過去資料から考えられる次の“処分”日時が重なったりしたら信じざるを得なくもなるわ。極めつけは長官から聞いた今回の作戦後にある演習の話!何でわざわざ本土から来た長官が旧型艤装を使った艦娘の演習を見て帰らなきゃならないのよ。まるで“不慮の事故”でも見に来るみたいじゃない」

「そうならないように大端提督に私の計画を手伝って欲しいのですよ」

鳳翔は両手を湯飲みに添え、改めて大端に協力を促す。

「それは分かったけど・・・いくらなんでも無茶すぎない?あの子達を連れて本土に身を隠すなんて。ここから相当な距離よ?」

大端は諭すように以前鳳翔から聞いた話を確認した。

「そうですね。でも、もう見送るだけは嫌なんです」

一瞬、鳳翔の湯飲みを持つ手に力が込められ、そのまま程好く冷めたお茶を喉に流し込んで話を続けた。

「・・・とにかく一度加賀さんには詳しく話を聞いた方が良さそうですね」

「そう。・・・もし本気で睦月ちゃん達を連れ出す気なら私には一声掛けて頂戴。あの日、始めての部下を奪った海戦が出来合いだったって言うのなら、私だって弔い合戦の1つや2つ厭わないわ」

大端は鳳翔の目を見て言った。

「・・・分かりました。でも提督は・・・一番に千歳さんと千代田さんの事を考えて下さい」

「分かってるわよ。明日、あの子たちには上手く陽動して貰わないとね。はい、この話は一端お仕舞い。羊羹、食べないなら貰うわよ?」

急に砕けた表情になって言った大端が鳳翔の羊羹に伸ばした右手は・・・。

「提督、はしたないですよ」

鳳翔の左手に撃墜された。

 

 

 「提督、出撃準備と艤装、艦載機の最終調整が終了しました」

鳳翔が行儀良く羊羹を頬張るのを大端が名残惜しそうに眺めている頃、新型艦載機と艤装の同期を終えた赤城は金沢の執務室に報告に来ていた。

「お疲れ様です。休みを減らしてしまってすみませんね。出発までまだ少し時間はありますから、せめてそれまでどこかでくつろいでいてもらって構いませんよ」

作戦に直接関わっていない金沢は手持ち無沙汰に目を通していた書類から顔を上げた。

「ではお言葉に甘えて・・・。もし、出発までここに居てもお邪魔になりませんか?」

「・・・どうぞ」

金沢は書類を脇に置きながら答えた。

 「少しお話しても良いですか?」

金沢が手を休めるのを見て赤城はソファーに腰を下ろした。乱れた服の裾を直して訊ねた。

「構いませんよ」

「今回の作戦、長門さん達以外にはどなたが出撃されるのですか?」

「ん?・・・ああ、赤城さんは急な出撃でしたから調整で作戦会議に来ていませんでしたね」

金沢は組んだ指を机の上に置いて話し始める。

「赤城さんはどこまでご存知でしたか?」

「今回の作戦の目標がフ島の攻略戦で、急遽私が翔鶴さんの代理で主力艦隊に呼ばれたと言うとところまでは聞いています」

 頷いた金沢は、部屋の隅に置かれている棚の本が入っている段から1冊の地図を取り出してソファーに座ると赤城にも見えるように膝の上に広げて見せた。世界地図のやや右よりの大部分を占める大洋の北西に“日ノ本”と書かれ紅色に塗られた列島が見られる。大洋から見て列島の奥にある大陸の一部とこの泊地のあるトラック諸島(※要確認。群島?)を含む島々、そして大陸の南から伸びる東西に長い島々の半分程が同じ紅色で塗られていた。そしてその中に紅色に囲まれるようにして緑に塗られた島が周囲の島から浮いていた。

「この緑のフ島が今回の攻略目標です。見ての通り合衆国領フ島は先の大戦で日ノ本のものとなった石油基地と本土の間に位置しており、開戦後の大きな脅威となりえます。今作戦はその地の敵勢力の無力化と該当地の占拠を目的にしたものです。主力には本土から派遣された長門、陸奥の他には富山中将指揮下の妙高姉妹が、飛行艇で伊勢のいる上陸隊に追いつく形で参戦します。赤城さんもそうなりますね。主力艦隊の主な任務は上陸支援と敵艦娘への対応、可能であれば鹵獲です。赤城さんの役割は前者と周囲の哨戒です。他にうちからは千歳と千代田、古鷹、加古、青葉が陽動に南方に向ってもらっています。あと上陸支援中の護衛には岩瀬中将の52号艦隊の水雷隊が当たります」

 「52号艦隊と言うと・・・」

何か思うところがあったのか、呟いた赤城に気付き金沢が補足を入れた。

「はい。衣笠さんが居た艦隊です」

「艦娘が口を挿むような事ではないかもしれませんけど、岩瀬中将との諍いは収められたのですか?」

赤城は遠慮がちに尋ねたが金沢は表情を硬くした。

「・・・いいえ。艦娘の遺品を引き渡さないなんて嫌がらせじみた事をするのも、相次ぐ不祥事で岩瀬中将の母校である呉海大出身者の発言力が弱まって本国から圧力がかかっているのだと思います。早期の解決は難しいでしょう。・・・すみませんね、司令官同士の学閥争いなんかで部下に心配を掛けて。青葉さんに至っては完全に巻き込んでしまいました・・・提督失格です」

「そんな事・・・」

 「せめて僕にも出来る事があれば良いんですが・・・。赤城さんも何かあれば遠慮なく言ってください」

金沢は悲しげに笑いながら言った。

「じゃあ、出撃前に一つだけ。我侭を言っても構いませんか?」

「どうぞ」

「提督の名前、何と仰いましたっけ・・・?」

「えっと・・・金沢、ですが。・・・知りませんでしたか?」

「違います!“氏”じゃなくて“名”の方です!」

「ああ、護人と言います」

「あの・・・一度だけ、提督の事」

 その時、執務机上の通信機からブザーが鳴って赤城は噛み締めて言おうとした言葉を飲み込んだ。金沢は直ぐに反応して受話器をとる。連絡を聞いた彼は赤城に向き直る。

「出撃時刻を1時間早めるそうです。すみません、もう一度言ってもらえますか?」

「あ・・・いえ。・・・やっぱりいいです」

「そうですか?では艤装の装備に向ってください。僕も一応指揮室に居なければいけません」

襟の階級章を指で正しながら金沢は言った。

 「そうだ、赤城さん」

金沢は棚に広げていた地図をしまいながら声を掛けた。

「なんですか?」

「今までに帰還しなかった艦娘が人として民間に保護された事例って、聞いた事はありませんか?」

「・・・どういう事ですか?」

赤城は話の意図を汲めずに聞き返した。

「実は今朝届いた手紙に気になる事が・・・すみません時間でしたね。行きましょうか」

金沢は話を切り上げた。

 

 

 東に頂点の一つを向けた三角形の様な形の春島西海岸には、航空機を中心に編成されたトラック泊地54号大隊の所有する2つの空港がある。そのうちの一つ、第一空港では大型の水陸両用飛行艇が5機、4基のエンジンを呻らせて出発の時を待っていた。少し離れたところでは出撃する艦娘と飛行艇から現地で指揮をとる指揮官が待機している。

「富山中将!大艇の離陸用意が完了いたしましたっ。いつでも出発出来ます」

飛行艇から駆け寄って来た54号大隊の整備員が照明に照らされた滑走路に響く排気音に負けじと声を張り上げて言った。

「御苦労。全員居るな?5分後に出発する、各自割り当てられた機体に搭乗せよ」

現地指揮官のトップ、自ら前線に立つ泊地長の富山は部下にそう声を掛けると飛行艇に近付いて行った。

 「・・・出発ね」

急遽、主力艦隊の空母枠に抜粋された赤城を見送りに来た加賀は声を掛けた。

「ええ。・・・そうだ、加賀さん。私分かっちゃった事があるの」

赤城は不意に加賀に話を振った。

「・・・何ですか?」

「この間、睦月ちゃん達の正装は部屋にあったのに私達のは渡されてもいなかったじゃない?あれはきっと“前の子”達が置いていったのがそのままだったから配る必要がなかったのよ」

「・・・?まあ・・・その可能性は高いでしょうね。私達がここに来る前の事ですから確証は取れませんが」

「そうね。・・・それじゃ、加賀さん。行って来ます」

そう言うと赤城はつま先を飛行艇に向けて足を踏み出した。

「はい。・・・気をつけて」

加賀は飛び立った機体が夜闇に紛れて見えなくなるまで見送り続けていた。

 

 

 

連合艦隊司令長官:大都

 参謀:柳

 副長官:岩瀬

艦隊同行指揮官

 主力艦隊(富山):(旗)長門・陸奥・妙高・那智・足柄・羽黒・赤城

 輸送艦隊(51号基地大佐):(旗)伊勢・深雪・磯風・他輸送艦数隻

 護衛水雷戦隊(52号基地大佐):(旗)天龍・龍田・吹雪・白雪・初雪・叢雲

上陸部隊指揮(輸送艦乗船):陸軍少将、陸軍大佐、北間、陸軍中佐、53号基地大佐、

 陽動艦隊指揮官:栗崎、大端、他数名

 

 

 

 塗装されていない骨格がむき出しのままで無骨な印象を受ける内壁に設けられた窓の遮光幕を少しずらして赤城は外の様子を伺った。風景の変わりに彼女自身の顔が写る。赤城は窓に顔を近づけてみたが時折雲間から差す月明かりが海面で反射するばかりでさほど高い高度で飛んでいる訳ではないという事しか分からなかった。

 「順調ならもう直ぐ伊勢の艦隊が見える頃だな」

声を掛けられて赤城が視線をやると彼女の艦隊の旗艦である長門が顔を向けていた。彼女の座る座席の後ろには大きな袋が括り付けられた長門型の艤装が直ぐに背負える状態で固定されている。主力艦隊は空港で飛行艇に分乗し、54号大隊の烈風に護衛されながら先行艦隊の後を追っていた。

「何か見えたか?」

「いいえ、何も」

赤城は首を横に振った。

「思ったより高い高度ではないわね」

「それはそうだろう。夜明け前に輸送艦隊を見つけて合流しないといけないからな。それにしても・・・」

長門は懐かしそうに目を細めた。

「こうして同じ任務に就くのも久し振りだな」

「ええ。私が横須賀を離れて以来だもの。ずっと深海棲艦相手に前線で戦っていたのでしょう?さすがは長門さんね」

赤城の感心の声に長門は苦笑いを返した。

「艤装の改造で何とかやっているようなものさ。それにさすがと言うなら赤城の方だろう。一航戦の座を後輩に譲ったとは言え、こうして急な代役が務まるのだから。航空機の進化は凄まじいのし大したものだよ。・・・だが今回は棲艦相手じゃないんだ。馴れない新型機で大丈夫か?」

「上陸の援護と周囲の監視には十分よ。上陸の支援には伊勢さんや妙高さん達も就くのでしょう?」

「あとは陸奥もだな」

「長門さんは?」

「那智、足柄と共に向こうの艦娘への対応だ」

事も無げに話す長門に赤城は閉口した。

「必要であるなら私が手を下す。なに、覚悟は出来ているさ。長年の間、連合艦隊旗艦を務めた経歴は伊達ではないよ」

「そう。・・・ではお互いに自分の任務を全うしましょう。この作戦、成功させて次に繋げないと」

 「もちろんだ。大切な初戦だしな」

長門はしっかりと頷いた。

「初戦・・・?ええ、そうね」

「なんだ?他に・・・何かあったか・・・?」

一瞬きょとんとした表情を見せた赤城に長門が首を傾げる。

「いえ、気にしないで」

赤城が手を振って答えた時、機内の壁から張り出たスピーカーから注意を引くブザー音が鳴った。

『各艦娘に告ぐ』

 少し雑音の混じった声は赤城達が乗る飛行艇の少し前を飛行している同型機から送られてくる。現地で指揮を執る富山ら指揮官が搭乗している機体で最新の通信機を装備しており、上空から海面の艦娘へ音声で指示を出したり、司令部から送られる電文や艦娘同士の音声通信を中継する役割を果たしている。

『ただ今、先行の輸送艦隊を視認。随時、落下傘にて海上へ降下。これと合流せよ』

「追いついたか」

長門がスピーカーを見上げて呟いた。

「そのようね」

「よし・・・」

長門は安全ベルトを外して立ち上がると艤装を身体に固定して天井から垂れるロープを引く。艤装と飛行艇を固定していた金具が外れて長門はしっかりと床を踏みしめる。そして艤装から伸びるコードに繋がったマイクを首に巻き、イアホンを耳に掛けた。これでマイクの音は艤装と飛行艇の通信機を通して連合艦隊全員に伝わる。赤城も手早く艤装を身に付けると同じようにマイクとイアホンを準備する。

 赤城達が飛行艇の尾部に向うと飛行艇の乗り組み員が搭乗口を開いて待っていた。

「ご武運を」

2人の姿を確認して乗り組み員が言った。長門はそれに頷くと左手で手すりを掴んで半身を機外へ乗り出し、右手でマイクのスイッチを押した。

「こちら長門だ。連合艦隊抜錨する、全員我に続けっ!」

長門は言い終わると同時に宙に飛び出した。

 

 

 夕方、日の出前に始まった上陸作戦の状況を報告する電文が司令部に届いた。

「敵泊地本部を制圧!現在、内陸の敵守備部隊と交戦中、攻略は時間の問題です!沿岸の飛行場を使用できます!」

いつもより多くの通信設備が持ち込まれた55号大隊基地の指揮室で、いつもより多い通信士の1人が声を上げた。広い指揮室に歓声が零れた。

「台港航空隊に飛行場の占拠を連絡せよ」

雛壇状の指揮室の最上段で長官の大都は指示を出す。

「敵艦娘はどうした?」

「報告によると艤装整備機器や燃料タンクに長距離航行に出航した形跡有りだそうで。我々の襲撃を予測し、予め別基地に移動していた線が有力かと思われます」

長官の横で参謀の柳は答える。さらに後ろでは基地の責任者という事で金沢も呼ばれているが、特に指揮を任されていない彼は口を挟む事無く控えていた。大都は軽く目を伏せていたがやがて口を開いた。

「そうか・・・。友軍航空隊の現地到着次第、連合艦隊の任務を終了とする。予定通りに長門、陸奥は呉へ帰投。伊勢は台港の第一戦隊に合流、赤城はトラック所属の艦娘を率いて帰投せよ。各艦隊の指揮官、通信員を残し解散とする」

今後の指示をすると大都は指揮室を後にした。

 

 

 翌朝、赤城の帰りを待つ加賀は金沢の指揮室を訪れた。すでに仕事を始めていた金沢と朝の挨拶を交わして加賀は丁寧に頭を下げる。

「昨日のフ島攻略作戦、お疲れ様でした」

「・・・僕は後ろで見ていただけですよ」

「まあ・・・形式的なものです」

金沢の苦笑いに彼女はしれっと答えた。

 「さて、これで赤城さんが帰ればこの作戦も一段落と言った所かしら・・・?」

金沢に勧められて加賀はソファーに座った。

「そうですね。北間大佐を始め陸戦隊の方々は向こうの混乱が落ち着くまで戻れませんが、この作戦における艦娘の仕事は一段落です」

「赤城さんは何時ごろこちらに戻る予定?」

「早ければ今夜には」

演習を見に来る指揮官に配る資料を作りながら金沢は答えた。

「そう。後は長官方が本土に帰還されたらこの基地も静かになるわね」

「あー・・・すみません、まだしばらくは落ち着かないと思います。長官には睦月達の演習を視察して頂き彼女達が戦力になる事を確認していただかないといけませんから」

その話を聞いて加賀は不機嫌そうに無表情を金沢に向けた。それに気付いた金沢が手を休めて顔を上げた。

「・・・聞いていません」

「すみません。忙しかったもので」

金沢は目を逸らしながら答える。

 「そういえば・・・ここに来る途中、指揮室が騒がしかったのだけれど。艦隊指揮は昨日のうちに終ったのではなくて?」

「はて?おかしいですね・・・」

資料の作成を再開しようとしていた金沢の手が止まった。

「今は当直の通信士しかいないはずですが・・・見てきましょう」

万年筆を机に置いて立ち上がり部屋の戸に向う。ついて行こうと腰を浮かせた加賀を手で制し、金沢はドアノブに手を伸ばした。が、金沢の手が届く前に戸が開いた。

「基地司令っ!」

「鳳翔さん!?・・・どうしたんですか?」

膝に手をついて鳳翔が戸を開けて立っていた。

「フ島より帰還中の飛行艇との通信が断絶したと・・・。すでに大都長官も指揮室にお越しですっ」

鳳翔は息を切らせながら報告した。

 

 

 金沢が指揮室に駆けつけると、通信機や海図に向っていた指揮官が視線を向けた。勢い良く開けた扉が金沢の後ろで軋みながらゆっくりと止まる。指揮官達が自分の仕事に戻り、金沢が段の最上段に顔を向けると大都はそこにいた。一瞬、最後まで金沢を遠巻きに眺めていた若い通信士が気まずそうに顔を背けて仕事に戻る。大都の隣では参謀の柳が冷たい目で金沢を見下ろしていた。

「・・・少将か、ちょうど君を呼ぼうと思っていた所だ」

大都は眉間に皺を寄せて言った。

 「何があったんですかっ!?」

金沢は壁沿いの階段を上りながら声を張り上げる。大都の表情を窺っていた柳が頷いた大都を見て話し始めた。

「・・・30分程前、不明瞭な通信を最後に帰投中の艦隊との通信が途絶えました」

状況を簡潔に説明する柳の言葉には少し棘があった。柳は続ける。

「通信士の報告から深海棲艦の襲撃を受けたと推測されます。そして先程・・・」

柳が言い淀んだので、大都が手元にあったモールス信号の打電用紙を摘み上げて話を引き継いだ。

「ついさっき赤城の艤装から直接送られた電文がこれだ。これはどういう事かね?」

 打電用紙を受け取り目を通して金沢は息を飲んだ。

「随分仲が良かった様だな?残念だが君は提督の立場を誤解していたようだ」

「・・・っ、これは・・・。何かの間違いです、身に覚えはありません」

「そうかね、君の艦娘への接し方や言動を見ているとその話し方のように大人しい訳では無さそうだが?まあいい、フ島攻略戦は一段落着いたのだしゆっくり話を聞こうじゃないか」

「待って下さい!では演習視察の件はっ?」

金沢は顔を青くして詰め寄る。

「言い出した本人が参加出来ないのでは中止せざるをえんな。衛兵!少将を別室に連れて行け!」

 

 

 「・・・鳳翔さん、どういう事ですか?赤城さんは無事なんですかっ?」

「私も詳しくは・・・」

加賀と鳳翔が遅れて指揮室前に到着し、鳳翔が内部の様子を窺う。加賀も鳳翔の頭の上から指揮室の内部を覗き込んだが金沢の姿は既に無かった。代わりに通信士の一人が叫ぶ声が聞こえる。

「通信、復活しましたっ!司令機より電文。赤城、信号に返答無しっ・・・最終視認点に多数の鱶、及び下級深海凄艦を確認っ!」

「詳しい状況を報告させろ!」

続いて大都の声が響く。

「・・・赤城さん?」

頭上で加賀の声がして鳳翔が振り向くと直ぐ傍で加賀が表情を強張らせていた。

「・・・少し話を聞いてきます」

「・・・加賀さん?」

加賀は鳳翔の静止も聞かずに指揮室に入っていった。

 「この戦時に浮かれおって・・・」

大都は舌打すると電文が打たれた紙を破きながら言った。

「大都長官、赤城さんに何かあったのですか!?」

加賀は大都に詰め寄った。

「なんだ君は!」

「今は関係者以外立ち入り禁止だ!」

大都は破いた紙を手で丸めて机の上に投げ捨てる。皺になった切れ端で紙の正体に気付いた加賀は破れた打電用紙に手を伸ばした。

「君は・・・加賀か。今は出て行きたまえ」

衛兵に取り押さえられる加賀を見下ろして大都は言った。

「待って下さい、それは赤城さんからなの!?」

加賀が肩を掴む衛兵の手を振り解こうともがき、ぶつかった大都をよろめかせる。

「・・・連れ出せ」

大都は襟を正しながら衛兵に命じた。

 「急ぎ無事な者は帰投せよ、護衛に54号隊の戦闘機を追加で向わせるんだ・・・!」

衛兵に連れ出されながら加賀は大都が指揮を執る声を聞いていた。加賀の目には大都がよろめいた拍子に床に落ちた、しわくちゃになった電文が焼きついていた。

 

 

>>>To be contemew【12話 罪か罰か】

 




 前回の引き際といい今回といい、加賀さんのキャラ崩壊が酷いです。感情むき出しで暴走してますね。当クールでカッコいい加賀さんを書きたいという当初の目標はどこへ行ったのやら・・・。まあ無表情なクーデレ娘が感情曝け出してるのは見てて楽しいですから仕方ないですね(ゲス顔)ほら、歌にもあるじゃないですか。♪いつもならー、クールーでー感情、表に出ーないそんな加賀だから、剥きだしのー苛立ーち可愛い(確信)どうも加賀さんをからかいたい作者の胡金音です。いきなりですが問題です。今どこまで歌ってたでしょうか?

 それはそうと本当は今回の最後のシーンが10話の最後に来るぐらいで書きたかったんですけど1話分伸びてるんですよ。書置きしたシーンがどんどん先延ばしになる無計画っぷりです。この調子で伸びて行ったら最終話なんて5個ぐらいに分割されるんじゃないですかね?“上”“中”“下”“下続”“下続々”“下(その3)”みたいにいつまで経っても終らなくなりそう。
AD「なんでだよ」
無計画に出してない設定はコロコロ変えて自分自身設定を把握し切れてないからじゃないカナー?
AD「ああ、それで前話で盛大にやらかしてたのか」
うん、鳳翔さんの部屋がタイムマシンになってたね。伊勢さんが30分ぐらい時間遡行してた。
AD「なあ、胡金音。前書きでも言ってたけどそんなミスまでして毎月更新に拘る必要あるの?そんなとこまで気にするほどこの作品気に掛けてくれる閲覧者が居るとでも思っ」
それ以上はやめて!

 さて。長々と蛇足書くのもどうかと思うので、年末特番見ながら書いていた11話及びその後書きもそろそろ終りましょうか。
AD「ん・・・?ちょっと待て“及び”って事は本編も“ながら作業”だったのかよっ!」
だって・・・万引きGメンのドキュメントが・・・、チーターズが・・・。
AD「世界○見えかっ!?ついさっきじゃねぇか!また更新前に慌てて書いたのか?・・・あっ、逃げたっ!・・・あー、年の瀬にも関わらず締まらない終わり方になりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました。今、筆者が落として行ったカンペに書いてあったのですが次話のサブタイトルは試作品で変更の可能性が在るそうです。インスタント麺のパッケージかっての。それでは皆様、良い新年をお過ごし下さい。さよなら~」

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