Betrayal Squadron   作:胡金音

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※オリ主、架空艦娘だけでは飽き足らず架空の地名がザクザク登場します。


十話 キッカケ

 日が沈んで群青に染まるトラック諸島に街灯が灯り始めていた。その灯りの中の一つ、赤レンガ造りの大隊基地司令部の一角で一筋の湯気が頼りなくポットの口から立ち昇っている。

「えっと・・・ご冗談ですよね?」

状況を良く飲み込めていない様子で基地司令秘書艦の赤城がソファーの隣に座る将校に聞いた。

「本当ですよ」

基地司令の金沢はただ事実を答えた。

「いやだって提督の冗談って訳分からないですし」

「直接言われるとちょっと傷つきますね」

金沢は苦笑いで答えつつ立ち上がって、コーヒーを執務机に置くと鍵付きの引出からいつかの封書を取り出した。

「これがその時の書類です。見ますか?」

赤城は頷いてコーヒーを執務机に置いて封筒ごと書類を受け取った

 

 

 「・・・この要請を撤回させようと何度も本部に足を運んでいたんですね。処分の対象になっていた睦月ちゃん達の為に」

赤城はたった今、読み終えた書類から顔を上げた。

「昔ならともかく、今は意見ぐらい出来ますからね。もっとも聞き入れられるかは別ですが」

「そして戦争が始まる事になり、偶然この基地が作戦司令部に選ばれた。ついでに意見も検討され視察される事になったんですね」

「そうです。この攻略戦が終ったら本格的に泊地で演習の視察が行われます。攻略が失敗したら視察の余裕なんて無いでしょうから何としても失敗する訳にはいきません。もう・・戦闘でもないのにこの基地で艦娘を亡くす訳にはいかないんです」

「・・・もうってどう言うことですか?」

赤城が眉を顰めて訝しんだ。

「昼間、赤城さんはここの睦月達が何者かと聞きましたね?その答えもまとめて話します」

 

 

 僕がまだ准将だった頃の話です。第3次軍備増強で大量に艦娘が建造されたものの廃止された大半の鋼鉄船の水兵の多くは陸戦隊に転科し艦娘の指揮官の増員が急がれていた頃ですね。

 当時、僕は将補教育の最終段階、指揮実習でここの司令補をしていました。簡単に言えば現役の将官の下で基地の責任者を経験する、といった物です。たった2、3年だけでしたから経験と言っても将官にしては少なすぎるんですが・・・余程人員不足だったんでしょう。実際、同期に佐官候補生は沢山いましたし士官学校の入学倍率も過去最低で今日までその年を下回った事はありません。でも僕も含めてそういった将校の権限はかなり限定されています。例えばこの基地の陸戦隊関係の指揮権はすべて北間大佐に帰属していますし、この基地を一歩出れば僕の階級なんて飾りもいいところです。すみません、話が逸れました。

 あれは将補教育終了までふた月を切った時の話です。この基地の最高責任者宛に一通の着任連絡が届きました。艦娘が異動する時に予め送付される連絡票です。実習の終了間際という事もあり最高責任者は僕になっていたのですが、その連絡票にはちょうど今この基地に居る睦月型艦娘8名の艦娘の着任する旨が記されていました。何かの間違いかと思いましたよ。何せその時すでにその8人はこの基地に在籍していましたから。そこで僕は当時の基地司令におかしな書類が届いたと報告に向いました。彼はその報告にこう答えました。「知らなかったのか・・・いずれ分かる事だ、君にも知っておいて貰おう」と。

 それから当時の基地司令は話し始めました。まず、艦娘を不老にする艤装にはとても稀少な金属が多く使われており艦娘全員が不老という訳ではなく戦艦、空母、一部の巡洋艦艦娘にしか不老の処置は間に合っていない事。次に、内部艤装からは少しづつ人体に有害な物質が溶け出しており不老の艦娘であれば生存に支障は無いが、そうでない艦娘の場合は数年で死に至る事。最後に指揮への影響を懸念してこれらの事は将官クラスの者と一部の情報部員しか知らず、これらの事が公にならないよう寿命が近付いた艦娘は内密に処分され戦死もしくは事故死扱いされる事。彼が話した事を簡潔に纏めるとこうなりました。

 その話を聞いた後、僕はこの事を当事者の彼女達に話しました、何せ実習とは言え2年間を共に戦った仲間でしたから。・・・勿論、司令に口止めはされていましたよ。上官の指示を無視したのはあの時が始めてです。しかし翌日の出撃命令は彼女達に届いた後で彼女達自信、処分される事には薄々感付いていた様でした。彼女達は“次の子達”なら救う時間があるかも知れないから、どうかその子達を守ってあげて欲しい、と言って次の日の出撃から帰って来る事はありませんでした。

 

 

 「結局その告げ口は誰にも気付かれる事無く実習期間を終えた僕は着任希望先にこの基地を選び、希望は受け入れられました。それから士官学校や海大の同窓生から同志を募ってこの状況を変えようともしましたが・・・その処分要請が届いてしまいました。今となっては学閥争いに拍車を掛けて青葉に迷惑をかけただけになってしまいましたね。最後になりましたが昨日の質問に答えます。今この基地にいる睦月型艦娘は何者か、・・・彼女達は赤城さんが初陣で共に戦った睦月型艦娘から数えて8代目の艦娘です」

「・・・私の知らない所でそんな事が」

 赤城は小さくそう呟くと下唇を噛んで黙り込んで暫くの間小刻みに揺れる書類の角を睨んでいた。

 ポットの中身がすっかりぬるくなった頃、赤城は自らが作った重い沈黙に抗う様に顔を上げた。

「提督。何としてもこの作戦、成功させましょう」

金沢も応じて顔を赤城に向けた。

「赤城さん・・・」

「それと・・・・・・。いえ何でもないです。この要請書に必ず勝ちに行きます!」

赤城の力強い声に金沢は目を細めた。

「・・・ありがとう。期待してますよ」

 

 

 使用した食器をしまい終えて金沢は執務室を後にしようとした赤城に声をかけた。

「では今日は明日に備えてゆっくり休んでください。あ、でも艤装の最終点検だけ整備部に頼んでおいて下さい」

「え・・・。すみません、分かりました」

「・・・やっぱり何かあったんですか?」

一瞬顔を曇らせた赤城に気付いた金沢は訊ねた。

「ははは・・・私、どうもあの整備部長が苦手で・・・。嫌われている気がするというか・・・」

「では今回だけは僕から伝えておきましょう」

「ありがとうございます。・・・では提督、おやすみなさい」

「はい、また明日」

消灯時間が迫る中、赤城は寮に向った。

「さて、今日中にこれだけは目を通しておかないと・・・」

執務室には金沢と明日の作戦資料が取り残されていた。

 

 

 翌朝の朝食前。作戦会議の準備のために早く起きてあまり眠れていない金沢が作戦資料を基地の事務員と一緒になって講堂に運んでいると廊下で栗崎に声を掛けられた。

「基地司令、お早う御座います。お早いですな」

そう言う栗崎自身、朝早くから軍服で身を固めている。

「作戦前ですから仕方ありません」

普段ならどんなに暑くても軍服を着崩したりしない金沢だったが今ばかりは袖を巻くって箱に詰め込んだ作戦資料を運んでいた。

「・・・手伝いましょうか?」

「これで最後ですから大丈夫です。栗崎大佐こそ、こんなに早くからどうしました?」

「自主訓練に行く娘達の見送りです。青葉、加賀と偽装を持って行きました」

「艤装の使用許可なら執務室で書類を書けばすむでしょうに。前にも言いましたが大佐を見ていると本当に古鷹さん達の父親みたいです」

金沢は率直な感想を述べた。

「基地司令がこちらに来られる前から彼女らの提督をやっておりますから。長い事こうしているとそうなってくるのやもしれません」

「なるほど。娘達は訓練へどちらに?」

「・・・前の襲撃戦があった海域です。・・・やはり姉妹艦の戦死はそう簡単に割り切れんのでしょうな」

栗崎は声をやや低くして話した。

 「そうですか・・・せめて遺品だけでも届けば慰めにもなると思うのですが・・・」

「なかなか一筋縄では行きませんな」

「そうですね」

「ところで朝一の連絡便で夏島から司令宛に郵便が届いておりましたよ」

「・・・?こんな時期に郵便ですか。ありがとう御座います、確認してきます」

そう言うと金沢は書類の入った箱を持ち直して講堂に向かった。

 

 

 加賀の目の前では先端に小さな灯台のついた長い防波堤が港と海を切り分けている。

「ふぁ~ぁ・・・ねむ・・・」

「加古、長官の前で欠伸なんてしないようにね」

数時間前、この港を通って自主訓練に出た面々は朝食後に受けた各提督からの指示で、まもなく作戦会議に訪れる司令長官を始めとする将校を乗せた軍用船を港の待機室で待っていた。

 「あの、加賀さん」

加賀が窓枠に頬杖を付いて波を眺めていると青葉に声を掛けられた。

「今朝は自主練に付き合ってもらってありがとう御座いました」

「気にしないで。私が勝手に付いて行っただけだから、それに・・・」

声を掛けられて崩していた頬杖を再度付きながら加賀は顔を逸らして続けた。

「貴女の気が済むまで付き合います」

「・・・あ、えと・・・恐縮ですっ!」

一瞬ぽかんとした表情をした青葉だったが加賀の言葉を理解して頭を下げた。

 

 

 「ねー、古鷹ー。出迎えるったって誰が来るのさ」

「それは、司令長官・・・とか?」

「とか、ってなんですか」

「・・・司令長官と作戦参謀、今回の作戦に参加する艦娘の指揮官に、上陸部隊の関係で陸軍からも将校が何人か来るそうよ」

待機中の3人の会話に加賀が口を挟んだ。

「また、そうそうたる面子ですねぇ」

「・・・あたし帰っても良い?」

「駄目だよっ」

 「こういうの絶対に千歳さんとか三日月の方が向いてるって~・・・て言うか提督じゃ駄目なの?」

「うちの提督の話ですけど、提督陣では華が無いから駄目だそうですよ」

「・・・その話、大端提督に聞かれなくて良かったね」

良い事を思いついたと言わんばかりの表情で自らの意見を提案した加古だったがばっさりと青葉に切られた。その言葉に古鷹が本音をこぼす。

「いえ・・・聞かれていたみたいでその話の後、大端さんに耳引っ張られて連れて行かれてましたよ」

「・・・・・・」

「・・・ちなみに今ここに居ない基地の艦娘は要人警護の為に島の周辺に展開しているわ。赤城さんだけは出撃準備に追われている様だけど・・・。・・・来たようね、行きましょうか」

 やや高めの船の汽笛が海上から聞こえ加賀は話を中断した。

「やれやれ。諦めて加古も行きますよ」

「黙って立ってるだけで良いからね」

「あ、あたしだってやる時はやるよぉ!」

「欠伸は私の後ろに隠れてでお願いします」

「ちょ、加賀さんまで!?・・・あ、もしかして前の模擬戦で魚雷当てちゃった事、やっぱりまだ怒ってます?・・・加賀さん?」

4人が待機室を出た後、加賀が頬杖を着いていた窓からは船首に機銃を取り付けた軍用の高速艇がゆっくりと港に近付いて来るのが見えた。

 

 

 「司令、作戦会議お疲れ様でした。・・・予定通り、今よりフ島攻略作戦終了までの間、出撃する赤城さんに変わって私が秘書艦を勤めさせていただきます」

「しばらくの間よろしくお願いします、加賀さん」

正午前、作戦会議を終えた金沢は各関係基地から呼び寄せられた将校を今朝、加賀達が

出迎えた高速艇まで案内した。現在、その足で高速艇に乗り込み加賀や司令長官らと共に夏島で行われる出発式に向っている。

「金沢さん!」

甲板で名前を呼ばれた金沢が声の方へ顔を向けると巫女服を元に作られた和風の艦娘服を着た伊勢が向って走って来た。

「良かった、出発前に話せて。加賀さんも」

「・・・どうも」

伊勢が加賀にも目をやり、加賀が小さく会釈した。

 「どうしたんですか?そんなに急いで」

「金沢さんが長官方が居る船室に居ないから探したんじゃない。同世代の将校が集まってるとこにも居ないし」

「あんなお偉いさん方が集まっている中にいれたものじゃないですよ。それに同世代と言ったって佐官の中に一人だけ将補上がりが居てはお互い気まずいだけです」

「55号基地の女中佐は長官方と打ち解けてたわよ」

「まあ・・・そうでしょうね」

「あ、今の日向みたい」

「ははは、そうですか?・・・それにしても焦らなくたってまだ出発式までに時間はありますよ」

「何言ってるの。本部に着いて直ぐの昼食は艦娘と指揮官じゃ別だし、食後は出発式の準備で話す時間なんて無いわよ。陸戦の女性部隊に混ざって参加するんだから」

「それもそうでしたね・・・」

 そう言うと金沢はどこか遠い目をして空を仰いだ。

「・・・出発式ですか、正直まだ開戦する実感が湧きませんね」

「・・・司令。この時期にそんな言葉は決して他の人間の前では口になさらないで下さい。士気に関わるわ」

厭戦とも取れる上官の発言を加賀は咎めた。

「分かっています」

「まあ、正確にはまだ始まっていないしそんなものよ。30代の将官なんてまだまだ前代未門だけど、長い間軍に居た将校だって自分の基地を攻撃されるまで実感の無さそうな人もいたからね」

「妙に現実味のある話ですね。さすが先人の話には説得力があります」

「こんな若い女の子に先人なんて言わないでよ。この中じゃ金沢さんが一番年上でおっさんじゃない」

「年を取らない貴女に言われたくないですね・・・では“軍の先輩”という事で。それと・・・」

金沢は真面目な顔で続けた。

「まだ33です。おっさんって呼ばないで下さい」

「あはははっ・・・金沢さんもまだまだ若いわね」

「ふふっ・・・伊勢さん、それではどちらが年上か分からないわ」

波を切って走る高速艇の甲板で、提督1人と艦娘2人の楽しげな声が誰にも聞こえる事なく風に流されて行った。

 

 

 もうすぐ夏島の港に入港しようかという頃、不意に金沢が口を開いた。

「たしか・・・伊勢はフ島攻略後、直ぐに台港の第一戦隊と合流するんでしたね。台港から本土に瑞雲を連絡に飛ばせますか?」

「所属してる横須賀宛なら飛ばせるけど・・・あ、三崎提督に何か連絡?」

「はい・・・これを。軍の検閲を通していたら折角の季節の挨拶も時期遅れになってしまいますから」

金沢は軍服のポケットから1通の郵便封筒を伊勢に手渡した。

「相変わらず金沢さんはそういうのまめね。ここじゃ年中夏みたいなものじゃない」

呆れたと言わんばかりの微笑で伊勢は言った。

「だからこそ、ですよ。季節が感じられないからこそこういった事で季節の移ろいを感じたいんです」

「分かりましたよ。この封筒を提督に届ければいいのね?」

「はい、お願いします」

「やれやれ。茶封筒一通とはいえお願いされたら、うかうかと沈められる訳には行かないわね」

伊勢が少し冗談っぽく言った。

「はい。またいつか会いましょう」

「・・・御武運をお祈りします」

「2人とも・・・。ありがとう」

 やがて高速艇はゆっくりと接弦しタラップが陸上に下ろされた。一行は泊地本部での昼食の後に大題的に行われる出発式に赴く。

 

 

 日が傾き始めた頃、トラック諸島最大規模を誇る夏島市街地の広場から港までの大通りを使って行われた出発式は観艦式かと見紛う程に賑やかなものだった。もっとも“出発する側”の艦娘は陸上戦闘員の数と比べるとごく一部で“船”より“兵”が主役といった内容であったが・・・。

「すごい数・・・こればかりは艦娘の指揮では味わえませんね」

「海軍の艦娘を一箇所に集めてもこの人数の1割にもなりませんからね・・・」

大通り脇に用意されたテント下の将校席で行進する陸軍、海軍陸戦隊、混成の上陸部隊5万名を前にした金沢と大端が話していた。将校席には司令長官はもちろんの事多数の将校が集められている中には通常の軍服を着た艦娘の姿も見え、代理の秘書艦になっている加賀もその1人で金沢の隣に座っている。兵の行進には時折、細かく裁断した薄桃色の布を桜の花弁の様に舞わせて見物に来た一般人の目を楽しませている集団、一足早く慰問に訪れた曲芸集団も混ざっていた。

 「それはそうと基地司令はどこの指揮を執られるんです?」

不意に話題が変わって金沢が大端の方に顔を向けた。

「いえ、今日の作戦会議で司令の名前が挙がらなかったのが気になっただけなので・・・」

「ああ、大丈夫です。・・・僕はまだまだ未熟者ですから。少将なんて言っても僕の場合は飾りみたいなものですからね。こういった重要任務には充てて貰えないんです。経験量的には陽動隊の指揮ぐらいは執らせてもらえると思うのですが・・・将官が佐官の下で指揮を執る、といった事を体面的に軍は嫌いますからね」

金沢は自嘲気味に答えた。

「なんだかすみません。ただ岩瀬中将が本作戦の副長官になったと聞いて良からぬ事を考えているのではないかと・・・」

その名前を聞いて加賀は少し表情を曇らせた。

「・・・いくらなんでも大本営から指揮官が送られてくるそうな作戦に基地間の軋轢や学閥を持ち込むほど愚かではありませんよ。仮にも岩瀬中将は歴戦の水雷隊指揮官ですし、実際に動く吹雪さん達にこの件は直接関わっていません。何より貴女達は作戦に集中してくれると信じています」

金沢は安心させるように軽く微笑んだ。

 やがて行進の最後尾にいた歩兵が通りを過ぎ港で陸戦部隊輸送に乗り込むと、フ島攻略戦の先鋒部隊は大勢の歓声と軍楽隊の演奏に見送られて出撃して行った。赤城、長門達の主力艦娘隊は今夜航空機で後を追う。

 

 

 出発式が一段落し、将校一行が港にある軍の建物で一服している頃、金沢は手持ち無沙汰にその廊下を散策していた。

「どこかお探しですか?金沢少将」

窓からの景色を眺めながら人気の無い廊下を歩いていた金沢は声のした前方に目線を戻した。

「あなたは長官の秘書の・・・」

「はい、手宮です」

長官付きの女性秘書の姿がそこにあった。

「・・・先日は失礼しました」

「それは構いませんが・・・こんなところでどうされました?」

手宮は改めて義務的に尋ねた。

 「いえ、将校同士の集まりはどうも肌に合わなくて・・・こうして時間を潰しているだけです」

金沢は頭を掻きながら答えた。

「なるほど。まあ、少将らしいですね」

「・・・どういう事ですか?」

会って日の浅い人間に得意げに話された金沢はすこしむっとして聞き返す。

「今、少しだけお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「・・・何です?」

「ちょっとこちらへ」

そんな金沢に気付いてか気付かずか。手宮は廊下の曲がり角、突き当りには倉庫しかない方へ手で金沢を招いた。

「いったい何ですか・・・」

金沢が歩を進めて手宮に近付き、その姿が奥から続く廊下の死角に入ると手宮は身を翻して細身ではあるものの体格差のある金沢を容易く壁に押し付けた。

「やれやれ、何年ぶりですかね・・・」

「えっと・・・やっぱりどこかでお会いしていました・・・?」

壁に背中を押し付けられて目を白黒させながら金沢はなんとかそれだけを尋ねた。

「はい。お久しぶりです」

手宮はそれまでの無表情を崩して楽しそうに答えた。

「・・・・・・」

「まだ分からないんですか?“僕”は都辺です。海大ではお世話になりました」

「・・・ああ!道理で見覚えがあると思いました」

納得したといった表情で金沢が言った。

「在学中、情報部に目を付けられてから以来ですね」

そう言いながら手宮改め都辺は金沢を押さえつける手を緩めて通路の倉庫側に移動した。

「あの時の噂は本当だったんですか。しかし、それならそうともっと早く言ってくれれば良かったものを・・・」

「すみません。僕も任務中だったもので」

その言葉を聴いて金沢は気を引き締め直した。

 「それにしてもどうして貴方が身分を隠してまでこんな用心棒の真似事みたいな真似を?」

金沢は“手宮”の事を尋ねた。

「実際ボディーガードも兼ねていますよ。内地では最近物騒な事件も多いですし。まあ実際のところは・・・」

都辺は声を潜めて金沢に耳打ちする。

「補給の間宮大尉が大本営に探りを入れていてこちらの鳳翔大尉と内通している様なんです。もちろん当局は関与していません。攻略戦後の演習視察はその解明が目的で情報部が口添えして決定したんです」

「まさか・・・。彼女には隠すような事はありません。ただの私用では?」

「さあ?僕はそれを調べに来たので・・・。あ、この事は55号基地の将校には話してはいけない事になっているので内密に願います」

「分かっています。それと・・・情報の漏洩、感謝します」

 「もうちょっと言葉を選んでくださいよ。・・・それにしてもこの変装、性別まで変わってるのに昔からの知り合いでも分からないものなんですねぇ。中性的な見た目を買われて引き抜かれましたけど女装も慣れるまでは大変でしたよ」

「良かったじゃないですか。もう小柄な身長に悩まされる事もなくて。女性なら普通に見えますよ」

金沢は学生時代の後輩をからかった。

「ずっとこの格好でいる訳ではないですよ。先輩こそ将補上がりの少将ですか。先輩も偉くなったものですね」

対する都辺も軽口を返した。

「情報部に引き抜かれた後輩程では・・・」

都辺が表情を引き締めて手振りで静かにするように伝えるのを見て金沢は黙った。その理由は直ぐに分かった。

 廊下を歩く音がし始めてやがて金沢の背後で止まった。金沢が振り返ると呆れたような表情で加賀が居た。

「司令、そろそろ基地に戻る予定の時刻ですが・・・。お取り込み中だったようね?」

「ああ、加賀さんですか道を聞かれたので」

「こんな人目に付かない袋小路で?・・・確か長官の秘書の方でしたね?」

「いえっ・・・本当に、本当になんでもないんですっ」

都辺は急に悲鳴にも似た声を出して両手で顔を覆いながら加賀の脇をすり抜けて文字通りに逃げて行った。なお加賀は現時点で手宮の正体は知らない。彼女にとって都辺は長官の女性秘書である手宮だ。手宮を見送った加賀が金沢に向き直る。

「司令はそういった方ではないと思っていたのですが・・・どういう事です?」

加賀は細めた眼で有無を言わさずにいつもの声で尋ねた。

 

 

 こうして始まったフ島上陸作戦は計画通りに、深海棲艦による妨害も無く順調に進んだ。翌日早朝、宣戦文書が届いた旨を各基地に伝える通信を日ノ本皇国軍通信部が傍受、先鋒部隊と合流した主力艦隊は日の出と共に攻略戦を開始した。正午前、連合艦隊はフェリピ群島及びその地の合衆国海軍泊地を占拠。華々しい戦果は瞬く間に国内は勿論の事、各国に知れ渡る。開戦初日の夕刻、赤城を始めトラック泊地に所属する艦娘は帰途に着く。

 

 

 不明瞭な音声通信の後、艦隊司令部はその電文を受信した。

 

 

>>>To be contemew

 




 7話の最後から引きに引き伸ばした前置きの反動で今回の攻略戦は後半で走っている気がしてなりません。なんだこのダイジェスト小説。筆者の胡金音です。いやはや、こちらの本作では暗い話が続いていたり壁ドンがあったりしましたが本家ゲームではイベント真っ盛りですね。イベントは新しい海域が出たり新艦娘が登場して楽しい限りです。筆者はE-2を削り終わったところです。イベント終了までに1度くらいE-3のボスも撃破したいなーと考えています。だから長門さん・・・2回も連続でボス支援間に合わないのは勘弁してください。
 ところで筆者はドロップで被った艦娘はサクッと近代化改修に回せるのですが初ドロップの娘はどうしても手放せません。そういう訳でイベントの度に母港を拡張しています。したがって今回も筆者が勝手にイベント参加代と呼んでいる野口さんをそろそろコンビにで見送らなければならないのですが、よく2次元縛りのカラオケに行く面々が毎月福沢さんズをサクッとコンビニでドナドナしているのを見ていると野口さんをケチる筆者が貧乏症に見えてきます。皆さん、野口さん2人ぐらいは普通ですよね・・・?まあゲーム目的で3人目の野口さんをコンビニで見送る日も近いんですが。
 それはそうと、このBetrayal Squadronですがキリ番の10話です!そして閲覧者数も5000を越える事が出来て有難い限りです。そこで重大発表があります。そんなめでたい時に言うのも何なんですけど実は・・・。って言うか非常に言い辛いのですが、このBetrayal Squadron・・・。




 筆者がなんて読むのか分からないんです(涙)正確に言うと発音の仕方が分からないんですが・・・えっと・・・。べっつらやる、すくぁどぅろん?ですかね。先に日本語で題名考えたら話の流れが簡単に分かってしまうような題名になったんで、とりあえずパッと見分かんない様にGooglさんに翻訳して貰ったんですが。そしたら作者が題名を読めなくなってしまいました。(てへ)

 そんなBetrayal Squadronですがようやく折り返し地点(予定)に着きました。このペースだと20話辺りで完結になるかと思います。所詮自己満足作品ではありますが最後までお付き合いいただけると幸いです。それではまた次回の後書きでお会いしましょう。寒くなって来たので風邪等にはお気をつけて。ノシ

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