転生者・暁 遊理の決闘考察   作:T・P・R

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思ったより時間かかりました。
すみません。

今更ですが、遊理のキャラクターはもう1つのナルト二次の主人公と口調とかがいろいろかぶってしまっています。
ですので、なるべく向こうとは対極になるように設定しました。

天才ではなく凡才。
トラブルメイカーではなく巻き込まれ系で。
被虐的ではなくやや加虐気味に。
そして妹ではなく、姉。


VSカミューラ編
11話


「三幻魔のカード?」

 

「そうです。この島に封印されている(いにしえ)より伝わる3枚のカード」

 

デュエルアカデミア校長、マスター鮫島先生は酷く重々しい声色で語りました。

 

噂をすれば~とはこのことでしょうか。

まさかココロちゃんに話を聞いたその次の日に核心に迫ることになるとは。

 

午前中の授業が終わって昼休みに入ったすぐの事。

さあこれからお弁当、というまさにその瞬間いきなり校長室に呼び出されこの話を聞かされたのでした。

無論呼ばれたのは私だけではありません。

 

教師であるクロノス教諭。

帝王(カイザー)こと丸藤亮先輩と女王こと天上院明日香さんの、オベリスクブルーの二大頂点。

ラーイエロー屈指の頭脳派決闘者、三沢大地君。

最近、荒波にもまれて帰還し以前のお坊ちゃまからは一皮も二皮もむけたサンダー改め万城目君。

そして、オシリスレッド屈指の問題児にして麒麟児十代君。

 

そうそうたる顔ぶれ………校長のマスター鮫島先生も含めればデュエルアカデミアのベスト7と言っても過言ではないメンツです。

そんなのに混じって何故かいる私。

場違い感が凄まじいことになってます。

 

「間違い探しなノーネ、1人仲間はずれがおりまスーノ!」とはクロノス教諭のセリフでしたが、全く持ってその通りだと思います。

もちろん仲間外れは私です。

 

約束のため私が付きっ切りで勉強を見るようになった結果、座学も割といけるようになった十代君はもはやドロップアウトボーイとは呼べませんからね。

最近はカードに関する知識も増えて戦略や読みにキレが増してきていますし。

 

このペースなら、アカデミアを卒業するころにはミラクルフュージョンチェンジチャージミラクルフュージョンチェンジでアブゼロとアシッドを使い回しフィールドをズタボロにした挙句、思い出したようにダークロウ召喚して除外とサーチメタ、トドメに超融合喰らわせる悪夢のE・HEROデッキ使いに成長していることでしょう。

 

愉しみです。

 

『それ、もはやヒーローじゃなくて魔王もしくは覇王だよね?』

 

「(覇王十代………ありですね)」

 

『ないわ!』

 

まあ十代君の将来はそれはそれとして置いといてともかく今は三幻魔です。

 

校長曰く、そもそもこのデュエルアカデミアはそのカードが封印されている場所の上に建てられたのだとか。

古くからの伝説によれば、学園の地下深くに眠っている3枚のカードの封印が解け地上に放たれた時、世界は魔に包まれ混沌がすべてを覆い人々に巣くう闇が解放され、やがてこの世は破滅し無へと帰する。

それほどの力を秘めたカード………なのだそうです。

 

………さて、一体どこから突っ込めばいいやら。

 

(いくら神クラスの精霊とはいえ、世界を破滅させるなんてことが可能なのでしょうかココロちゃん)

 

『出来るか出来ないかって聞かれたら、ぶっちゃけた話不可能じゃないわ。本気になったら世界の1つや2つ滅ぼせるくらいの力を持った精霊は確かにいたし』

 

(マジですか………)

 

ヤバいヤバい三幻魔のカード超ヤバいです。

スケールが違いすぎます。

いや本当になんで私呼ばれたんでしょう?

場違い感がパないです。

 

「よくわかんないけど、なんだか凄そうなカードだなぁ」

 

「黙って聞いているノーネ!」

 

十代君は本当に大物になると思います。

 

「そのカードの封印を解こうと挑戦してきた者たちが現れたのです」

 

「いったい誰が?」

 

丸藤亮(カイザー)先輩の質問に鮫島校長先生はあくまで真剣な調子を崩さず応えました。

 

七星王(セブンスターズ)と呼ばれる7人の決闘者(デュエリスト)です」

 

「なんなんですかそのはた迷惑な連中は」

 

いくら常軌を逸したレアカードが跳梁跋扈するこの世界でも、世界そのもの以上に価値のあるカードなんてあるわけないのに。

いや、ひょっとして幻魔の危険性を理解していないという可能性もあるのかな?

 

『どうだろ? まあどちらにせよ、レアカードのためなら強盗や人殺しも辞さない連中も多々いる世の中ですから。カードのために世界を滅ぼす奴がいても不思議じゃないわね』

 

改めて恐ろしい世界です。

しかもそんな悪魔じみた人たちが七星王(セブンスターズ)とか微妙に格好いい二つ名で呼ばれているのが気に入りません。

善良な一般市民であるはずの私が魔女呼ばわりされているというのに何故………いったいどこで差がついたというのですか。

 

『善………良?』

 

 

 

校長の話はまだ続きます。

学園の地下の遺跡に封印されている三幻魔を開放するには、七星門と呼ばれる7つの巨大な石柱にそれぞれ対応している7つの鍵を差し込まなければならないそうで。

 

「これがその7つの鍵です。貴方たちにこの7つの鍵を守っていただきたい」

 

 

 

 

 

 

「そんなわけで、その7人の1人に俺、選ばれたんだ!」

 

「すごいや兄貴!」

 

「ふ~ん、でも俺は三幻魔のカードに興味があるんだな。一度見てみたいんだな」

 

「ああ、どんなすげえカードなんだろうなぁ?」

 

「うーん」

 

「どうした翔?」

 

「いや兄貴や兄さんが選ばれるのは納得ッスけど、あの遊理までってのがちょっと気になって」

 

「そうか? 俺は別に不思議じゃないと思うけどな」

 

「え~? でも彼女すっごい弱いし」

 

「確かにそこは否定できないけどさ。でもなぁ、もし俺がセブンスターズ? の側だったら、あいつだけは敵に回したくないな」

 

「そうなんスか?」

 

「ま、こればっかりは実際に戦ってみないと分からないだろうなぁ………それじゃ俺はもう寝るわ。果報は寝て待てってな。おやすみ~」

 

「………まだ9時半なんだな」

 

「もうすぐ、その遊理が勉強見に来る時間なのに………よっぽど苦手なんスね」

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

私は一端オベリスクブルーの女子寮に帰り、その後オシリスレッドの十代君たちの部屋に向かっていました。

十代君との共同勉強会は未だ継続しているのです。

放っておいたらすぐサボりますからね、今もきっと寝ようとしているに違いありません。

 

「ねえ、校長先生の話、ココロちゃんはどう思います?」

 

道中、私はココロちゃんと改めて校長先生の話を反芻します。

周囲に人がいないのは確認済みです。

これを怠ると誰もいない場所でブツブツと独り言をつぶやく危ない人認定されてしまいますからね。

もうすでに手遅れっぽいのは気にしない。

 

『きな臭い、ってのが正直な感想かな』

 

やっぱり精霊(ココロちゃん)の視点からもそう感じましたか。

私は昼に受け取ったパズルのピースのような形状の鍵をもてあそびながらココロちゃんの感想に同意します。

 

校長先生の話を要約すると。

 

・学園の地下の遺跡に封印されている三幻魔のカードを七星王(セブンスターズ)なる連中が狙っている。

・三幻魔の封印を解くには7つの石柱『七星門』にそれぞれ対応した鍵を差し込まなければならない。

・鍵を手に入れるには決闘(デュエル)に勝たなければならない。

・この鍵を狙って七星王のうち1人が昨夜すでに学園に侵入している。

・そして7つの鍵の守り手として学園屈指の決闘者(デュエリスト)である、十代君、明日香さん、万城目君、三沢君、丸藤先輩、クロノス教諭、そして私が選ばれた。

 

『まず、鍵の守り手の人選が意味不明過ぎるわね。他の6人はともかくとしてなんで遊理なのよ』

 

「ですよね。数合わせでも実力的に考えて他にマシな人がいくらでもいるでしょうに」

 

『その事実を何の気負いもなく認めちゃうあたりはさすが遊理だよね』

 

「いくら弱くっても現実を直視するくらいはできます」

 

そもそも本当に世界の危機なら、何故学園は生徒を矢面に立たせるような真似をするのか。

普通は教師が、何よりも校長先生が出張る場面でしょうに。

にもかかわらず鍵を渡された教師はクロノス教諭ただ1人。

 

鍵を守るのになんでわざわざ決闘(デュエル)しなきゃならないのか金庫にでも放り込めばいいじゃんとか言う突っ込みは今更過ぎるのでスルーです。

そんな決闘者(デュエリスト)にあるまじき手段を用いようものならその瞬間に幻魔の怒りを買って世界が闇に呑まれることになるでしょう。

卑怯者(リアリスト)は人間からも精霊からも幸運からも嫌われる、古くからの言い伝え(ルール)、神々の定めたお約束とはそういうものです。

 

「単純な実力だけじゃない、何か別の選考基準がある? 校長先生や大徳寺先生、その他の教師はそれに合致しなかったから参戦したくてもできなかった?」

 

ひょっとしたら何かしらの圧力がかかったのかもしれません。

しかし学園トップである校長に圧力をかけられる存在なんて………

 

「わざわざ幻魔の封印の真上に学園を創設した理由も気になります。古の創設者たちは何故不発弾のそばに花火工場建てるようなことをしたのか」

 

かつて八百万の神々は天岩戸に閉じこもった天照大神を誘い出すために宴会を開いたといいます。

遺跡に閉じこもった幻魔の真上で決闘をするのは、封印を守るどころか逆に刺激することになってしまわないでしょうか。

場合によっては封印どころか逆に………逆?

 

「………陰謀のにおいがします。校長先生の話ぶりもどことなく伝聞系っぽかったし、実は学園理事長辺りがすべての黒幕だったりして」

 

『さ、さすがに飛躍しすぎじゃないかなぁ? ってか遊理ちょっとワクワクしてる?』

 

「………少しだけ」

 

こういう陰謀論は論じている間が一番楽しいんですよね。

幻魔がどんなカードなのかも見てみたいですし。

 

何より、戦うのは私だけじゃありませんしね。

私が負けても彼らがいるんですよ。

十代君やカイザーさんは最強なんです、誰にも負けるはずがありません。

 

………大いに油断していました。

 

 

 

「あれ、明日香さん? 明日香さんも十代君に何か用が………あれ、十代君の部屋が光って―――」

 

 

 

洗脳、人質、盗み見、誘拐。

七星王(セブンスターズ)が正々堂々とフェアプレイをしてくれる保証なんて何処にもないということを私はすっかり失念していました。

さらに言えば、実際に決闘(デュエル)するのが彼らでも、決闘(デュエル)の被害が彼らだけに留まるとは限らないということも。

 

 

 

「はっ!? ここどこ!?」

 

『アカデミアの火山だね……ってか遊理! 下! マグマ! 落ちてる!』

 

「っ!?」

 

―――次の瞬間、私は何の脈絡もなくいきなり火山上空にワープしてそのまま真っ逆さまに墜落しました。

 

 

 

 

 

 

「まさかあんな方法で殺しに来るとは………正直舐めていました。七星王(セブンスターズ)、恐るべき連中です………!」

 

『いや、さすがに遊理のあれは相手側も意図してなかったと思うんだけど?』

 

七星王(セブンスターズ)第一の刺客、ダークネス改め明日香さんのお兄さんである天上院吹雪先輩と十代君の闇の決闘(デュエル)が終わってしばらく経った、学園の保健室にて。

遊理は明日香さんと一緒に闇のゲームの反動でダウンした十代君と吹雪さんをお見舞いに来ていた。

 

「その………十代や兄さんも心配なんだけど。遊理は平気なの?」

 

明日香さんが心配そうに遊理にたずねる。

 

「大丈夫です。あの程度、実際に決闘(デュエル)した十代君たちに比べたらどうってことありません」

 

「そ、そう………」

 

いや、その理屈はオカシイ。

危うくマグマダイブしかけたのよ? なんでピンピンしてるのよ。

そりゃ確かに闇のゲームは危険だけど心変わり(わたし)からすれば、今回一番デンジャーな目にあってたのは間違いなく遊理だったと思うんだけど!?

 

本命の転移対象(十代君たち)からやや離れた位置で巻き込まれたのがまずかった。

その結果ワープ後の出現位置が微妙にずれて、火山上空に設置された光の足場の上に転移した十代君や明日香さんとは別に、遊理だけ何のとっかかりもない空中に放り出されてそのまま落っこちる羽目になった。

遊理の不運(ハードラック)はいつもの事だけど今度のこれは本気で肝が冷えたわ。

海なら何とかなる、だけど溶岩の海に落ちたら打たれ強さに定評のある遊理と言えどもさすがに死ぬ。

人質にされたとはいえまだ壁に守られていた翔君や隼人君がまだマシに見えるというあたり本当に笑えない。

 

だがそこはそれ、あらゆる修羅場(アンラッキー)を潜り抜けてきた我らが遊理は状況を即座に把握するや否や、脱いだ上着をパラシュートのように広げて落下速度と落下位置をコントロール、マグマにダイブする寸前で岩壁にデュエルディスクを杭みたいに打ち込んでしがみつくことで九死に一生を得ることに成功したのよ。

遊理が前世の記憶を持った転生者なのは知っていたけど、その前世って実は忍者か何かだったりしないかな。

 

「そりゃもうとっくの昔に痛感していることですから。ただカードゲームに強いだけではこの世界は生き残れない! って、今はそんなことよりも例のあの噂ですよ。なんか湖の近くで牙の生えた物凄い美女が現れたんですって! きっとその美女こそ次なる七星王(セブンスターズ)の刺客だと思うんですよ」

 

「そ、そうね。もう次の七星王(セブンスターズ)がこの島に来ているのね………十代も兄さんもまだ回復しきっていないというのに」

 

『………遊理も強くなったなぁ』

 

主に決闘(デュエル)と全く関係ないところが。

 

「本当にいつまでこんな哀しい決闘(デュエル)が続くのかしら」

 

「うん、もう死にかけるのは勘弁です」

 

『いや、遊理は七星王(セブンスターズ)とか闇のゲームとか全く関係なくいつも死ぬような目に合ってるような気が………ん?』

 

ふと、窓のふちに逆さまに止まっている蝙蝠と目が合った。

こんな日も高いうちから蝙蝠?

 

疑問に思っていると、蝙蝠は特に何をするでもなく目を逸らしてどこかに飛んで行った。

 

『なんだったのかしら?』

 

 

 

 

 

 

学園の湖に七星王(セブンスターズ)第2の刺客が現れた。

吸血鬼(ヴァンパイア)カミューラ。

自らを七星王(セブンスターズ)の貴婦人と称する妖艶な美女。

彼女はどうやってか湖の真ん中に堂々と己の居城を打ち建て、敗者はその魂を人形に封印されてしまうという闇の決闘(デュエル)を仕掛けてきた。

受けて立ったのはデュエルアカデミア実技担当最高責任者、クロノス教諭。

決闘(デュエル)とは本来、青少年に希望と光を与えるものであり、恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!』と、ダメージをその身で受けながら最後の最後まで闇のゲームの存在を認めないと豪語し奮闘するクロノス教諭。

 

しかし、それでもカミューラにいっそ不自然といっていいくらいに手の内を読まれ続けた結果、惜しくも敗北、人形に魂を封印されてしまった。

 

そして―――

 

「まさか、クロノス先生に続いて亮まで………」

 

あまりの展開に明日香(わたし)は驚きを隠せない。

カイザーの異名を持つ亮はもとより、クロノス先生も実技最高責任者の肩書は伊達ではなかったはず。

そんなアカデミアの最強格がこうも立て続けに敗れるなんて。

 

カイザーの魂が封印された人形を手に高笑いしながら身体を霧に変えてその場から消えたカミューラは正真正銘本物の吸血鬼(ヴァンパイア)にしか思えなかった。

 

「お兄さん………」

 

絶望して崩れ落ちる翔君。

 

「………んだよ」

 

「兄貴?」

 

「なんなんだよこれって!! 決闘(デュエル)って楽しいはずのもんだろう? なのに何で翔が泣かなきゃいけないんだ! なんでカイザーがあんな目に合わなきゃいけないんだよ!」

 

「十代………」

 

周囲に響く十代の慟哭に私は沈痛な表情を浮かべることしかできない。

 

「俺は、こんな決闘(デュエル)をさせた奴らを許さない! 絶対勝って、奪われた皆の魂を取り戻して見せる! クソォ! 待ってろよカミューラ! 待ってろよ七星王(セブンスターズ)! 今度は俺が相手だ!!」

 

彼がここまで本気で怒っているのは初めて見た。

だけど、勇ましいセリフとは裏腹に顔には苦痛の表情が浮かんでいる。

まだダークネスとの闇の決闘(デュエル)のダメージが回復しきっていない。

 

「バカ言え、次は俺の番だ。怪我人は引っ込んでろ」

 

「いや、論理的に言って次は俺だ」

 

「………遊理?」

 

万城目君や三沢君など、集った面々が口々に義憤の声を上げる最中、遊理だけが終始無言で何かを考えていた。

何故だか凄く嫌な予感がした。

そしてその予感はすぐさま的中することとなる。

 

 

 

 

 

 

ダークネスに身体を乗っ取られ無理やり闇のゲームをさせられていた天上院吹雪(にいさん)がようやく意識を取り戻した。

 

兄さんは言う。

カミューラは闇のアイテムを用いた卑怯で卑劣な闇のゲームを仕掛けてくる。

それを破る方法はただ1つ、こちらも闇のアイテムを使うこと。

 

私はそれを信じるほかなかった。

もちろん、詳しい理屈などわからない。

だけど今、こうして目の前で起こっている現象は紛れもない事実である以上受け入れるしかない―――

 

 

「あ、遅かったですね皆さん」

 

「遊理!? 貴女どうしてそこに!?」

 

 

―――そう考えていたからこそ、湖を渡った先に待っていた目の前の光景が信じられなかった。

 

「あ~うん、言いたいことは分かりますよ。自分自身の役者不足具合は誰よりも私がよ~く理解していますとも」

 

憤る万城目君と三沢君を説得し、未だ本調子ではない十代をボートで運び、意を決してカミューラの居城に乗り込んだ矢先の出来事だった。

私たちが乗り込むよりも早く、遊理は単身城に赴いていたのだった。

 

何のために? なんて聞くまでもない。

遊理の腕に装着されたデュエルディスク、セットされたデッキ。

間違いなく、彼女は闘うつもりだった。

 

「おいおい、あいつ大丈夫かよ」

 

「無茶だ遊理! お前の力ではそいつには!」

 

「聞いて遊理! 実力の問題じゃなくて貴女では無理なの! カミューラの闇のアイテムに対抗するためには………!」

 

「闇のアイテムが必要、故にカミューラに対抗できるのは闇のアイテム所有者である十代君だけ。そうですよね?」

 

「っ!? 遊理なんで知って!?」

 

「いやはや、人生何が幸いするかわかりませんね。高寺君たちとのあのサバトモドキは決して無駄じゃなかった。お陰様で今や立派なオカルティストです」

 

「あ、暁さん………い、一体貴女はどこを目指しているのかニャ?………」

 

オカルトマニア、ですらないあたり本当に本格具合が伺えてなんか怖かった。

学園の錬金術講師、オカルトの第一人者であるはずの大徳寺先生ですら顔が引きつっている。

 

「そうだ。奴は俺じゃないとダメなんだ。だから………」

 

「だからこそですよ十代君。ここは私が闘うべき場面なんです」

 

「………!?」

 

逸る十代を遊理は慈愛に満ちた表情で静止した。

聞き分けのない生徒をいさめる教師のように、あるいは弟を見守る姉のように。

 

「無理しちゃダメですよ。十代君、まだ先の決闘(デュエル)のダメージが残っているでしょう?」

 

「っ!?」

 

遊理の言う通りだった。

確かに十代は未だ万全のコンディションとは言い難い状態にある。

本人は「こんなのもう治った!」って言っているけど、それが強がりでしかないことはずっと看病していた私が一番良く知っている。

 

「十代君が唯一無二の希望であるならば、猶の事今ここで決闘(デュエル)すべきではありません。じっくり休んで、英気を養って、万全の状態で挑むべきです」

 

「………それは、確かにその通りかもしれない。だけど!」

 

「大丈夫ですよ。確かに私は弱いですけど、時間稼ぎだけは得意なんですよ? それに弱いからこそいなくなっても戦力的には少しも痛くないってのもありますし」

 

「ちょっ!? 貴女まさか捨て駒になる気!?」

 

「さすがに無茶なんだな!」

 

「そんなこと許されることではない!」

 

「冗談ではない。俺は十代だから譲ったんだ。お前ごときに戦わせるくらいなら俺が………」

 

自分を犠牲にしようとする遊理に、その場にいた誰もが猛反発し………それを十代が制した。

 

「………十代?」

 

「………策はあるんだな?」

 

「はい」

 

「なら、いいや! ここはお前に譲ってやるぜ。でもな遊理! 時間を稼ぐのはいいけど、別に勝っちまっても構わないんだぜ? お前にはまだ俺の勉強に教えてもらう約束があるからな! 遠慮なくやっちまえ!」

 

「無論です。今日の私は一味違うんです。やってやりますよ!」

 

 

 

「なんで遊理を止めなかったんスか兄貴!?」

 

「………あいつもさ、弟がいるんだってさ」

 

「え?」

 

「前に勉強教えてもらったときに言ってたよ。あれで結構面倒見良かったりするんだぜ?」

 

「………それじゃあ、遊理は」

 

「俺のためってのもあるんだろうけど、それ以上にカミューラが許せなかったんだろうな」

 

己が生徒を守るために奮闘したクロノス先生を嘲笑い、(おとうと)を人質にして(あに)を嵌めたカミューラ。

遊理(あね)はそれを見てどう思っていたのか。

 

「俺も一応は兄貴だからな。弟分を守る兄貴分は強いんだぜ?」

 

 

 

 

 

 

「話はすんだかしら? 全くこんな寒い茶番を見せつけるなんて思わず怖気が走りましてよ?」

 

「いや~それはそれはお待たせしてしまいすみませんでした」

 

会敵して早々に侮蔑の視線を向けてくるカミューラに対して、遊理(わたし)は愛想笑いを浮かべながら謝罪の言葉を返しました。

紳士には紳士な、淑女には淑女な対応をするのが礼儀というものです。

カミューラさんにはこれで十分でしょう。

 

「………気に入らないわね。雑魚の癖に」

 

「奇遇ですね。実は私もなんです」

 

「言うじゃないの。その蛮勇を称えて可愛い人形にしてあげるわ。さあ、闇のゲームを始めるわよ」

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

暁 遊理

LP 4000

 

カミューラ

LP 4000

 

 

『遊理、なんかいつになく本気?』

 

「(今度ばかりは頑張りますよ。いや、いつも頑張ってますけど、いつも以上に頑張るんです)」

 

私はデッキからカードを5枚ドローします。

十代君に言った通り、策は十分に練ってきました。

いつもいつでも引き分けたり負けたり引き分けたり有耶無耶にしたりしている私ですが(いやワザとではないんですよ?)、今回ばかりは負けられません。

 

問題はいかにして切り抜けるかです。

私はそんな風に考えつつも己の手札を見て………手札を見て凍り付いたように固まり、そして絶句。

 

『何凍り付いてるのよ? 手札事故なんていつもの事でしょうに。さてさて、今回の遊理の手札はどんなもんかな~。え~と、魔法(みどり)が2枚に、(むらさき)1枚、そしてモンスター(ちゃいろ)が2枚かぁ~、相変わらずモンスターがこな………いぃいいいいえええ!!???』

 

目玉が飛び出すんじゃないかってくらい驚いているココロちゃん。

しかもそれだけじゃありません。

 

手札2枚ある魔法カード、そのうちの1枚が………ごめんなさい十代君、明日香さん、皆、ココロちゃん。

勇ましく飛び出しておいてこんなこと言うのは非常に遺憾なのですが………

 

 

 

『初手……強欲の………壺………………だと?』

 

 

 

私、死ぬかもしれません。




「別に倒してしまっても構わんのだろう?」

「俺この戦いが終わったら………」

「この私にスリーセブン………嫌な予感がするな」

よし、フラグは立てた。
後は回収するだけです。

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