コッヘル様と別れて真っ直ぐ城門へと向かう。
ツーハンデッドソードはデルフィナさんが受け取ってくれる段取りだ、極力手間を省いてくれている。
城門に配されている守衛たちに顔見知りは居ないのが幸いした。
コッヘル様から貰った大剣はマジックアイテムの皮袋に入れてある、一筆書いてもらったが手紙を見せると僕らの関係が明るみに出てしまう。
僕はコッヘル様の屋敷で待機中なのに大剣を持って外出を許可とか疑わしい。
平静を装い守衛に割符を渡してツヴァイヘンダーを受け取って背中に背負う。
サブ武器のメイスはドラゴンゾンビに投げつけた後で失くした。
気に入っていたので残念だが仕方ない、また機会があれば打撃系の武器を買おう。
守衛は事務的に流れ作業で手続きをしていたので平静を装っていれば大丈夫と思い頑張ったんだ。
何とか問題無くベルレの街から出ることができた。
城門を潜る際に「また来いよ!」ってリップサービスを言われたときは一瞬焦って硬直したけど、ぎこちない愛想笑いで誤魔化す。
早足にならないようにキョロキョロせずに真っ直ぐ前を向いて歩く……
悪いことはしてないのに逃げるようにベルレの街から離れた。
「少し寂しいな……
できればコッヘル様とミーアちゃんとは討伐遠征の成功を一緒に祝いたかたった。いや、問題を先送りしただけでコレから大変なんだっけ?」
あの廃墟の洞窟と大穴だけど他の場所も崩れる危険性はあるんだよな。コッヘル様は軍を再編成してもう一度行かないとダメみたいだ。
ベルレの街から数日歩けば到着する場所からアンデッドモンスターが湧き出すんだからな、原因を掴まないと駄目だよね。
できれば手伝いたかったが、それは無理だ……今度は必ず軍に編成されてしまうよな。
前回の殊勲者を傭兵扱いにはできず指揮下に置くには入隊させるしかない。ある程度歩いてから振り返りベルレの街を見る。
「コッヘル様、ありがとうございました」
腰を90度に曲げて一礼、しばらくそのままで……
◇◇◇◇◇◇
「ねぇ、お兄ちゃんさ。一皮剥けた感じがしない?」
「そうですわね……しばらく見ていなかったので美化と贔屓を抜いても男らしくなりましたわ」
相変わらず腰が低いし丁寧な言葉遣いだが、二週間前とは雰囲気が別人だわ。男らしく逞しくなったみたいね。
ロック鳥ゾンビやドラゴンゾンビと戦ったことで、人間として男として大きく成長したのは間違いないわ。
「嬉しい誤算だわ。主様が成長されるのは私たちの喜び!」
「悲しい誤算もあるよね。一人増えたよ、デルフィナ!お兄ちゃんが成長しなかったら精気を吸い過ぎて枯渇しちゃうよ?」
「駄目、彼は私が守るの。吸い過ぎは認めない」
街道から逸れた大きな岩の陰に居たために主様から見付からずに盗み見ているが、三人の話し合いが長く掛かったのも事実。
太陽の位置からすれば一時間以上、話し合いをしていた計算になるわね。
「不毛な話し合いは終わりよ。主様が先に行ってしまうわ」
「大変、お兄ちゃんを追い掛けよう」
「同意、彼を追おう」
慌てて岩陰から飛び出す!
「お兄ちゃーん!」
機動力では飛べるアリスには敵わないわね。ビックリした主様の顔を見れたのが嬉しくて私も胸に飛び込んでいく。
少し汗臭いが懐かしい主様の匂いを胸一杯に吸い込む。
「お帰りなさい、主様!」
先ほどは言えなかった言葉をようやく言うことができたわ……
◇◇◇◇◇◇
先に行ってるはずのアリス達が後ろから飛び込んできたことには驚いた。どうやら大岩の陰に隠れて僕を待っていてくれたらしい。
ようやく聞きたかった「お帰りなさい」をデルフィナさんが言ってくれた。勿論、アリスやロッテさんも言ってくれたよ。
美女・美少女・美幼女とジャンル別に揃ってしまったので目立つこと……
途中で擦れ違う連中が必ずガン見するので追跡されたら目撃者が多くてバレるかも。
でも久し振りのアリスやデルフィナさんとの移動のため、話すことはたくさんあって苦にならない。
夕方近くに夜営の場所を探したが、街道脇に小川が流れていて丁度良い空き地が見付かった。
今夜はこの場所に泊まることにした。夕食の準備も女性が三人も居れば華やかだ。
少しずつだがロッテさんも会話に参加し最初よりは和やかに……
「お兄ちゃんは雑穀とお魚が好きなの!」
「野菜も多めに食べないと栄養のバランスが……」
「精気回復のためにはとにかく大量に食べさせないと駄目だと思う」
良くできた嫁であるミーアちゃんが慌しく出発したにもかかわらず食材を多めに持たせてくれた。
特に雑穀粥が美味しいと言ったことを覚えてくれていたらしく、全員が食べても三食分くらい用意してくれたのが嬉しい。
女性陣が仲良く?食事の準備をしている間は何もすることが無い……仕方なくツヴァイヘンダーの手入れをする。
先ずはよく絞ったボロ布で刀身の汚れを拭き取る。
腐った連中を切りまくった所為か酷く汚れていたので何回かボロ布を濯(ゆす)いで拭き取りを繰り返す。
ボロ布に汚れが付かなくなったら乾いた布で水分を拭き取り、最後に油を薄く塗り込む。
これで完璧だ!
焚き火の灯りで刀身を照らすが特に歪みや傷、欠けは無さそうだ。ついでにツーハンデッドソードも同じ手順で手入れを行う。
こちらも納得の行く仕上がりに満足した頃、食事の支度も終わったみたいだ。
良い匂いが辺りに漂っている……
◇◇◇◇◇◇
夕食のメニューは焼いた魚を解して野菜と一緒に煮込んだ雑穀雑炊、それに大量の干肉の串焼き。
三者三様の意見が全て詰まったメニューだ、魚・野菜・肉を万遍無く食べられるからね。
焚き火を囲み夕食を皆で食べ始める。
「はい、お兄ちゃん!たくさん食べて元気になってね」
「うん、ありがとう」
素焼きの椀に山盛りの雑炊を受け取る。素焼きは熱を通し易いから熱いんだけど、アリスは不思議と平気なんだよな。
やはり仮の肉体だからか?山盛りの雑炊をフゥフゥ息を吹き掛けながら食べる。
塩を振って焼いた魚から良い味が出ていて美味いし、野菜も歯応えがある根菜がアクセントになって食べ始めたら止まらない。
いつも思うが僕が食事してると皆さん見てるだけなんだよな……
「あの……皆さんは熱いうちに食べないの?」
全員首を縦に振る。
「お腹空いてないの?」
全員首を横に振る。
「ははは……」
美女・美少女・美幼女から熱い視線を一身に集めて嬉しいけど微妙だ。
「今夜は私とアリスだけですわ。ロッテはお預け、遠征中にたくさん吸ったからです」
「そうそう、私たち心配して待ってたんだからね!」
よく分からないが三人で話し合いは済んでいるらしい、ロッテさんも不満顔だが何も言わないし。
「毎回言うけどさ、程々にしてね?」
黙って頷く二人だが、本当に大丈夫かな?最近自制が外れるときが多いよね?よね?
艶っぽく僕を見つめる二人のために体力を付けようと串焼き肉に噛り付く。ジュワって口の中に広がる脂が食欲を掻き立てるぞ!
とにかく体力と精力を回復させるためにたくさん食べるか……
◇◇◇◇◇◇
その夜は趣向を変えてみた。
いつもは抱き付いてキスされるのだが、今夜は三人で小川で水浴びしながら精気を吸われている。冷たくはない。
腰から下の部分はデルフィナさんの尻尾に包まれている、端から見れば捕食のためにトグロの中心に居るみたいだろう。
でも実際は彼女の体温を直に感じられて温かい。
その状態で向かい合ってるので見事な双房が無防備に丸見えだ!
最近オッサンと腐った連中ばかりの相手をしていたから感動で涙が出てしまった。
正面から抱き付き胸板で、たわわに実った感触を味わうが首筋を甘噛みされて精気を吸われる。
まさにギブ&テイク?意識がポーッとして天にも昇る気持ちだ……
「お兄ちゃん?昇天しちゃダメだよ!デルフィナ、ストップ。久し振りだからって吸い過ぎだよ」
危うく腹上死ならぬ腹中死するところだった。
「えへへ、今度はアリスの番だよ!」
そう言って全裸で背中に抱き付いてきた!子供特有のプニプニ感と高い体温が気持ち良い。
「久し振りにお兄ちゃんの味を確認します!」
ペロペロと小さな舌を使い僕の首筋を舐め始める。擽ったくて気持ち良い不思議な感覚だ。
「嗚呼……二人に挟まれて昇天しそうだ……」
僕は久し振りに意識を手放した。
◇◇◇◇◇◇
イチャラブ珍道中を終えて漸く我が家に帰ってきた。半月ぶりの我が家は何も変わっていなかったが、今ならあの有名な台詞が言える。
「あー我が家が一番だね!」
しみじみ言う感が良いんだ……
「君が言うと不思議だね、本当に自分の家に帰ってきた感じがする。僕には家なんてないのに」
結局ロッテさんと廃墟の関係は分からなかった。本人も記憶が曖昧で何故あの場所に居たのか分からず、気が付いたらオークゾンビを倒していたそうだ。
「全く……本当に仕方ないから貴女を家に招いたのですよ!」
「そうだよ、ここは私たちの愛の巣だったんだよ。ロッテも混ぜるのは仕方なくなんだよ!」
何故女性陣の話が纏まって一緒に暮らすことがOKなのかは分からない。
だが、敢えて突っ込むよりは知らない振りをして放っておいた方が良いだろう。
取り敢えず居間として使っている部屋に集まりテーブルに座る。
四角いテーブルだったので椅子も三つじゃバランス悪いので四つ作ったのが良かった、全員座れた。
「さて、今後だけど……どうする?ベルレの街にはしばらく近寄れないよ」
僕としてはほとんど自給自足も可能だが、不足の品々を手に入れるためにも定期的に集落には行きたい。
「ベルレの街ほどの規模はありませんが幾つか集落はあります。日用品は問題ありませんが武器や防具の品揃えは悪いですね」
武器か、確かにメインの大剣は三本あるけど消耗品だから雑魚には使いたくない。
「うーん、武器は当分必要なくない?大剣は三本有るしロングソードもまだあるよ。デルフィナの斧も予備があるでしょ?」
「私のモーニングスターは簡単には壊れないから平気」
女性陣の武器も当分は問題無いか……
「ヨシ、武器については雑魚には壊れて良いのを使おうよ。まだ余裕あるし今派手に動くのも問題だ。
僕は大剣使いとして知れ渡ると思うからしばらく鈍器を使うよ」
兵士たちには大剣使いの方が知れ渡ってるから違う武器を使えば、ある程度は誤魔化せる。
この世界に写真はないから口伝の噂しかないからな。
「なら偽名を使えば更に良い。君、僕たちの偽名を考えてよ」
偽名?偽名か……
ラミアの戦士デルフィナと噂の大剣使い、それにロッテさんも美少女鈍器使いとして噂になりそうだな。
「偽名か……デルフィナさん、どうかな?」
この非常識の塊のメンバーの中で唯一の常識人であるデルフィナさんに聞く。彼女が効果が薄いと言ったら駄目だろう。
しばらく考え込んでから、少し困った表情をした。
「在り来たりですが効果的ではあります。
ただし、偽名を使った集落にはバレたら二度と行けませんよ。偽名なんて何か良からぬことがあるから使うのですから……」
「ヨシ、決まり!
デルフィナが言うなら大丈夫だよ。ほとぼりの冷めるまで、規模の小さい集落に行くときだけ使おうよ。じゃ、お兄ちゃん考えてね」
僕が?偽名を?
飼い犬や飼い猫にポチやタマとしか名前を付けられない僕が?皆の期待に満ちた目を見れば断れないな、しばし熟考する。
「決めた!アリスはツンデ霊子、デルフィナさんは蛇子様、ロッテさんはゾン子ちゃんだ!」
女性陣の目が明らかに失望している。
「嫌だった?」
「もう良いです、ソレで……しばらくは我慢しますわ」
ヤレヤレ的に言われてしまった。だが、この偽名は僕は結構気に入って彼女たちをしばらくこの名で呼ぶようになる。
僕の新しく楽しい人生は人間以外の女の子と一緒に続くんだ。
これにて一旦完結とさせて頂きます。続編は……テンションやアイデアの関係で今の所考えてはいません。
短い間でしたがお付合い頂きまして有難う御座いました。