異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第49話

 ようやくベルレの街の近くまで来た、あと少しで留守番しているアリスとデルフィナさんに会える。そう思うと歩くスピードも速くなるな。

 

 思えばこの世界に来てから彼女たちと、こんなに長いこと離れたのは初めてだ。

 当初は一週間の予定だったがハプニングの連続で大幅に遅れての帰還だ。

 

 だが、この討伐遠征で得る物は多かった!

 

 武術の師匠であるコッヘル様との出会い。戦いの中で打撃系武器の有効性と取り扱いを学べた。

 豊富な実戦経験、ロック鳥ゾンビやドラゴンゾンビなど早々戦える相手じゃない。

 

 まぁ、望んで戦いたくもない相手だけど……

 

 新しい出会い、絶賛没落中の貴族令嬢ムールさん改めエレーナさんと、訳有りグーラーのロッテさん。

 農民の病んでる妹ちゃんは微妙だ、正直彼女とは距離を置きたい。彼女のことを考えると何故か歩みが遅くなる。

 一度は救いの手を差し伸べたが、ずっと面倒を見るつもりは無いのだ。

 僕には守りたい相手が別に居るのだから……良いこともあれば悪いこともあるのが人生らしい。

 

 悪いことは……

 

 まず僕とロッテさんは悪目立ち過ぎた。オークゾンビ程度なら構わなかったと思うが、ロック鳥ゾンビやドラゴンゾンビは別格だ。

 幾ら止めを刺すのを他人に任せたとは言え、瀕死まで持っていったのは僕らだから注目はされるだろう。

 同行した兵士たちも僕らに対する評価はマチマチだ。

 

 コッヘル様の弟子として活躍を喜んでくれた連中も居れば、女性陣を独り占めにしている嫌な奴と嫌っている連中も居る。

 特に増援部隊の兵士たちは苦楽を共にした時間が短いからか好意的な連中は少ない。

 彼等からすれば傭兵なんて金で雇う捨て駒でしかなく、活躍されちゃ困るのかもしれない。

 本来ならば武力を示し仕官の道が開けたとなるのだけど、封印されていた妖魔のことを秘密にしているアリスや訳有りグーラーのロッテさんのことを考えると、人間の街で暮らし軍隊で働くのは無理だ。

 いつか妖魔であることがバレて迫害されるかもしれない。

 共存できるなんて甘い考えは無しだ、物凄く努力して運も味方に付ければ、あるいは共存への道が開けるかもしれないがリスクが大き過ぎる。

 じゃ誘いを断れば良いかと思えば、それも簡単には無理。

 封建的な世界で領主や王家からの誘いを断れば、不敬罪で処罰されてしまう。

 

 この世界には人権とか職業選択の自由なんて言葉すら無いんだ。

 なのでコッヘル様の個人的な厚意に甘えて、騒ぎになる前に早々にベルレの街を出ることにした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ベルレの街の正門に到着したのは正午を少し回った時間だった。

 

 先に伝令を走らせていたので出迎えの準備は完了している。準備と言っても門番に話が通っていてスムーズに街に入ることができるだけ。

 僕ら傭兵は武器を預けなければ街の中に入れないので、優先的に手続きをしてもらい順番待ちをしなくても済むくらいだ。

 戦利品や残った物資は速やかに所定の場所に運ばれて、コッヘル様以下の小隊長達は身を清めてから領主のフェルデン様に報告に行く流れだそうだ。

 僕はエレーナさんと妹ちゃんに別れを言ってコッヘル様と共に屋敷に向かう。

 昨夜のうちに別れを済ませていたので問題は少ししか無かった。

 

 エレーナさんは別れ際に軽くハグして頬に触れるくらいのキスをしてくれた。

 彼女のキツ目の甘い体臭を嗅ぐのもこれで最後かと思うと淋しくなってしまった。

 

 妹ちゃんにはその場で泣かれてしまったが、それは何とかスルーすることができた。人間は時に心を鬼にしなければならないのだ?

 

 周りの突き刺すような視線はこの世界に来る前の僕だったら死んでしまうくらいのプレッシャーが含まれていた。

 良く耐えられたと自分を褒めてあげたい。早くアリスとデルフィナさんに会って無事を知らせてなくては。

 

 コッヘル様と共に屋敷に早足で向かう、コッヘル様も早くミーアちゃんに会いたいのだろうほとんど駆け足だ。

 そんな僕の隣には外套の袖を掴むロッテさんがピッタリと寄り添って走ってるので、誤解を与えないように言葉と行動に細心の注意が必要だろう。

 もうコッヘル様の屋敷が見えてしまっている、早く考えを纏めないと駄目なんだが頭の中が真っ白だ。

 

 ロッテさんは命の恩人であり、行く宛ても無い可哀相なグーラーなのだ!

 

 そこを強調して……

 

「お兄ちゃんの浮気者ー!新しい女を連れてきたー!」

 

「主様?浮気ですか?私たちでは満足できないのですか?」

 

 門を潜った瞬間に弾丸のように飛び込んできたアリス!僕は突発的な出来事に対応する能力は低いらしい。

 何とか彼女を両手で抱き留めると追撃でデルフィナさんが右腕に抱き付いて、ロッテさんを弾き飛ばした?

 

 いや、ロッテさんはデルフィナさんの尻尾の一撃を軽く躱して飛び去ったんだな。

 ちょっと女三人で修羅場っぽい展開になってるー?

 

 いや……そんな目で見ないでください、ミーアちゃん。

 

 自分はしっかりコッヘル様の胸に顔を押し付けて抱き締められながら、僕を氷のような眼差しで見ないでください。僕にはご褒美になりません、拷問ですよ!

 

「あー……その、何だ。

兄ちゃんは浮気してないぜ。姉ちゃんは遠征の途中で保護して俺が兄ちゃんに面倒を頼んだんだ。

まぁ色々あったんで説明するから家の中に入ろうぜ。積もる話があるんだ」

 

 コッヘル様が微妙なフォローをしてくれたが、それで納得してないのがアリアリてすよ!

 俺たちは関係無い的に感動の再会を実演中のコッヘル様が恨めしいぞ。

 ミーアちゃんの肩を抱きながら家の中へ入っていくコッヘル様を見て、自分もあんな風に再会を楽しみたかったのだが只の浮気男に成り果ててしまった……

 取り敢えず着替えもせずに客間に全員集まった、勿論お茶も出ない。

 

 コッヘル様はミーアちゃんに人払いまで頼んでくれた……

 

「時間が無いから簡潔に説明するぜ。今回の討伐遠征は予想を上回る困難だった。

ゾンビだけかと思えばオークゾンビも大量発生、原因と思われる不死の王が眠ると言われる廃墟に行けば……

ロック鳥ゾンビとドラゴンゾンビが出やがった。ソイツらを何とか倒せたのは兄ちゃんと姉ちゃんのお陰だ」

 

 オークゾンビ辺り迄は問題無かったが、流石にロック鳥ゾンビとドラゴンゾンビは不味かった。ミーアちゃんですら涙目になっている。

 

「旦那様……良くご無事で……ありがとうございます。貴方が居なければ旦那様は……」

 

「お兄ちゃん、無理しないって約束したのに!」

 

「主様!あれほどモンスターについて教えたのに、何故ドラゴンと戦うなんて無茶苦茶なことを?」

 

 三者三様、感謝されたり怒られたり呆れられたり……

 

「兄ちゃんに無理言うな!

遠征に参加した傭兵たちは軍に雇われているんだぜ。戦いたくないとか勝手なことは許されない。

それに随分と気を使って俺たち領主軍に止めを刺させたんだ。

たが瀕死まで追い込んだのは兄ちゃんだ、普通なら問題無く中隊長クラスで仕官できる功績だぜ。

兄ちゃんは訳有りで軍には入らない。後は言わなくても分かるな?」

 

 一同を見回すコッヘル様……

 

「そんな実績を上げた人を軍は放っておきません。ドラゴンを倒せる人を国が野放しになんて……」

 

 代表でミーアちゃんが現状と今後の展開予想を話してくれる。ドラゴンを倒せる危険人物を放置するほど、国家は甘くない。

 自軍に囲えないなら、敵に回る可能性があるなら、排除くらいは考える奴は居る。

 

「俺はまだフェルデン様に報告してねぇ。急ぐぞ、公式に報告したら俺だって命令にゃ逆らえないんだ。

ミーア、金庫から有り金持ってこい。俺はドラゴンスレイヤーの称号を貰える、その礼は金でしか返せない。

討伐遠征の報酬をノコノコ貰いに行ったら待ってましたと拘束されるぜ」

 

 ミーアちゃんが客間から飛び出していった。急展開だがコッヘル様の話は終わらない。

 

「ラミアの姉ちゃんとお嬢ちゃんは先にベルレの街から出ろ!一緒だと目立ち過ぎる。外で待ち合わせて合流しな」

 

 大きな袋を抱えてミーアちゃんが客間に戻ってきた。

 

「あなた、家にあるだけのお金を持ってきましたわ。通貨で3000G、金の板が五枚よ」

 

 幾ら何でも8000Gは貰い過ぎじゃないのか?

 

「俺の予備の大剣を持ってこい。門番宛てに一筆書けば持ち出せるだろう」

 

 予備の大剣って……コッヘル様クラスが使う武器なら3000Gくらいするんじゃないの?両方合わせて10000G以上って貰い過ぎで怖い。

 

「いえ、貰い過ぎです。元々は80Gの報酬から始まって500Gと出来高払いで……」

 

「兄ちゃんよ、俺はドラゴンスレイヤーの称号を授かったら褒賞としてそれ以上の金が貰えるんだ。

それぐらい、ドラゴンを倒したことは凄いんだぜ。さぁ時間が無い、先ずは姉ちゃんたちが先に街を出ろ。

兄ちゃんはしばらく経ってからだ。俺がフェルデン様に、兄ちゃんは俺ん家で待機してると報告する。

必ず迎えを寄越すだろうが、兄ちゃんはミーアからドラゴンを倒す手伝いをしたら凄いことなんですよと言われ遠慮して街を出たことにする。

フェルデン様も兄ちゃんが居なければ俺が倒したと王家に報告する。んで、俺は晴れてドラゴンスレイヤーだ。

まぁ実際はそんなに簡単にはいかないと思うが、それは兄ちゃんが心配する必要は無い。

精々新しい女の言い訳を考えろよ。そしてほとぼりが冷めたら必ず会いに来い!」

 

 ロッテさんのことをアリスとデルフィナさんに説明する前に別行動となってしまった。

 合流場所だけ慌ただしく決めて女性陣は先に街から出ていった。僕はコッヘル様と風呂に入った後、玄関で別れた。

 

 別れ際、涙が溢れてしまいコッヘル様にバレないようにずっと頭を下げていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「で?貴女はお兄ちゃんとナニしたの?」

 

「ナニ?僕は一回だけ彼の精気を吸わせてもらっただげ」

 

「そう、禁断の林檎を食べてしまったのね……」

 

 女三人がベルレの街を出ること自体は怪しまれなかったわ。アリスやロッテでは手続きが怪しいので私が纏めて行った。

 ベルレの街を出ると暫くは田園風景が続く、だが林や小高い丘も有り周りから見えない場所も結構ある。

 今は大きな岩の陰に移動して主様の新しい女を観察する。

 聞けば既に主様の精気は吸った後、あの麻薬のような精気を味わってしまえば主様の虜になってしまうのは仕方ないわ。

 

 だって私たちがそうだもの……

 

「彼は特殊、他の妖魔に見付かったら大変。私たちで守る必要がある。僕は助けてもらった恩があるから無理矢理には吸わない」

 

「お兄ちゃんは私たちが守るから平気だよ!もう他の妖魔は要らない」

 

 私も心の中ではアリスと同じ気持ちだわ。でも……

 

「貴女がラミア族のデルフィナね。彼が教えてくれた、僕の彼女だって。それで貴女がレイス、名前は教えてもらってないわ。私はグーラーよ」

 

「「グーラーですって!」」

 

 グーラーと言えば吸精妖魔の中でも上位種、流石は主様と褒めれば良いのか呆れれば良いのか……何故ピンポイントで強力な妖魔ばかりを魅入らせるの?

 排除するにしてもグーラーでは私たちでも無事では済まない。

 

「ふぅ……仕方ないわね。

アリス、悔しいけどグーラー相手では戦えば私たちでも無傷ではいられないわ。それに主様も悲しむと思う。まずは主様と合流して話し合いましょう」

 

「むぅ、お兄ちゃんが助けた相手を私たちが害したら……確かにそうだね、お兄ちゃんが悲しむ。このことは後でキッチリ話し合うからね!」

 

 問題の先送りだけど仕方ないわ。

 

 ここで主様を待って合流したら直ぐに我が家に帰りましょう。

 よく考えたら主様は長期の討伐遠征で疲れている、まずは温泉に入って疲れを癒してもらわないと。

 混浴をして体をマッサージしてあげるのも良いかしら?

 

 その後は少しだけ精気を頂いて……

 

「デルフィナ?笑顔が怖いよ?大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫てすわ。久し振りに主様にたくさん可愛がってもらわないとね」

 


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