異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第44話

 増援と合流し兵士約80人、神官3人を主力とする討伐遠征部隊は不死の王が眠る廃墟へと向かっている。

 

 僕とロッテさんはコッヘル様の軍馬の脇を歩いている。

 抜けるような青空を見上げるとトンビモドキが旋回している、長閑(のどか)だ……

 頬を撫でる風も重装備で動いて汗ばむ体には心地よいが、僕は今もの凄く汗臭いんだろうな。

 因みにトンビモドキは死肉を食べるモンスターだ、行軍中に倒したゾンビを食べたりしてるが腐肉だが大丈夫なのか?

 そして奴らは我々と行動を共にすれば餌に困らないと学んだみたいだね。

 知恵あるモンスターが敵だったら僕らの位置が丸見えだぞ。

 

「なぁ兄ちゃん?」

 

「何ですか、師匠?」

 

 もはや僕はコッヘル様との師弟関係を表に出さないと周りの兵士さんたちが納得しない立ち位置に居る。不本意ながらNO.2の主力として、ベルレ領主軍に深く食い込んでしまった。

 

「オークゾンビより上級アンデッドが出たらどうするよ?」

 

 何でもないようにトンでもないことをサラリと言われた。

 

「上級ですか……」

 

 デルフィナ先生のモンスター講座でアンデッドモンスターについては色々と教わった。

 アンデッド最上級はレイスやグーラーだ。レイスとはアリスだが、彼女はレイス化すると物理攻撃がほとんど効かない。

 その分本人も魔法攻撃力特化で物理的な攻撃力は低い。

 一方グーラーは物理攻撃力特化で魔法は補助的なモノしか使えない。

 

 まぁ彼女たちは例外として……

 

「物理攻撃の効く相手なら手はありますが、肉体を持たないモンスターが出てきたら逃げるしかないでしょうね。

神官たちが浄化の呪文が使えれば別ですが、今回従軍してるのは下級神官だけと聞いています」

 

 オークゾンビの上位種は結構たくさん居る。要はゾンビ化する前のオークより強い種がほとんど当て嵌まる。

 オーガー・ワイバーン・キメラ・ドラゴンと存在が確認された種類は多い。

 でもキメラ以上は伝説級らしいから現実的にはオーガーゾンビ辺りかな?

 

「レイスか……そんな伝説級のアンデッドモンスターなら逃げるしかないがよ。オーガーゾンビ辺りならどうだ?」

 

 オークの上位種オーガー、そのゾンビか……

 

「一体に我々三人で当たれば負けないと思います。逆に一人か二人では無理ですね。

所詮は怪力頼りの連中ですから、連携してターゲットを絞らせないように撹乱して戦えば大丈夫だと思います。

ですが一発でも攻撃が当たれば戦闘不能ですよ」

 

 一発当たれば即死だが動きは緩慢なのがアンデッドモンスターたちの特徴だ。

 

「三人掛かりで一体をか……」

 

 考え込むコッヘル様を黙って見つめる、無理な戦闘配置なら異を唱えるつもりだ。

 

「そうだな、確かに戦力差はそれぐらいあるだろうな」

 

 良かった、無理な戦闘はしないで済みそうだ。

 

「後は罠に嵌めるかですね。今回の遠征は遭遇戦ばかりで正面から正々堂々でしたが、本来強力なモンスターは罠に嵌めるのがセオリーです」

 

 正規兵の皆さんは正々堂々を好むと思うが、傭兵の我々は生きるか死ぬかの中で綺麗事は言えない。

 戦力差があるなら如何に埋めるかが問題なわけだ。

 

「罠ねぇ……兄ちゃんは何か思い付くか?」

 

「何かって……そうですね。

まだ廃墟を見てないので何とも言えませんが大型モンスターに対する罠ならば、落とし穴ですね。重たく巨体な連中は足元が弱点な連中が多い。

別に全体が穴に落ちなくてもバランスを崩して急所の頭部を下げるだけでも十分な効果がありますよ」

 

「確かに落とし穴は有効だが、そんな時間は無さそうだぜ。強敵が出た場合は俺達が三人連携で戦うしか無いか……」

 

 途中で意見を遮られたが罠は防衛側が有利なんだよね、攻めを基本的とした討伐軍では難しいか。

 

「それでも騎士は正々堂々と戦うべきです!モンスターごときに罠を張るなど情けないですぞ。我らベルレの領主軍は……」

 

 居たよ、面倒臭い人物が!

 

 彼は見覚えが無いから増援部隊の小隊長かな?いつの間にか馬に乗った全身鎧に身を包んだ壮年の男性が横に並んでいた。

 武器は普通のロングソードだが煌びやかな装飾がなされている。

 貴族とか騎士か身分の高い面倒臭い人物だと勝手に認定することにした。

 もしかしたら騎士道とか信念とか理念とか僕の知らない理由があるのかもしれないが、適用は対人間だけにしてほしいのが本音だけどね。

 

「ベータ、気持ちは分かるがよ、兵を預かる立場としては玉砕は認められん。それは対人戦でやってくれ!もう廃墟が見えたぜ」

 

 300mくらい先にアリスが封印されていたのと同じような石で造られた建物が見えた。

 ぐるりと城壁に囲まれた四階建てぐらいの石の要塞に見えるが、所々崩れていて永い間雨風に晒されていたのが分かる。

 

「不死の王が眠る廃墟ですか……軍事要塞みたいですね、又は砦かな?

外敵からの防御に重きを置いた城壁に弓を射るための小窓がたくさんあるし……」

 

 アレは対攻城戦用の設備だよな、日本の戦国時代の平山城にも同じような物があったし、あの塔は矢倉じゃないのかな?

 

「不死の王はよ、元は砦を任された有能な守将だったらしいぜ。

それがアンデッド化したので部下たちが慌てて砦の最深部に閉じ込めたって噂だ。

それから何人もの傭兵たちが宝探しに向かったが、何かを見付けたとは聞いてねぇな」

 

 ん?アリスと同じように手に負えなかった妖魔を封印したんだよね?それって……

 

「手に負えなかった妖魔を封印したんですよね、あの砦に?

でしたら財宝なんて一緒に入れないと思うのです。偉人の墓には副葬品とかありそうですが……」

 

 疑問を聞いてみた。

 

「俺もそう思うぜ。

だが噂って奴は信じられない伝わり方をするからな。それを信じた奴も多いってことだ。

誰もが俺や兄ちゃんみたいに論理的に考えられるってわけじゃない。欲の皮が突っ張った連中はよ、意外とたくさん居るんだぜ。

さて……そろそろ廃墟も近い、警戒するぞ!」

 

 バシンと肩を叩かれて、この話は中途半端に終わってしまった。それから10分ほどで、僕らは不死の王が眠る廃墟へと到着した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「近くで見ると余計にデカさが分かるな。本当に砦だったのか……

最深部ってことは地下もあるんだろうが、地上部分の建物も調べるのかな?」

 

 思わず独り言を呟いてしまった。高さ5m程度の崩れかけた外壁の内側には、石造りの四階建ての砦があった。

 全体的に傷んでいるがまだ当分大丈夫な感じがする、少なくとも10年くらいじゃ崩壊しないだろう。

 この世界の文明って昔の方が発達してる場合があるよね?

 アリスの封印された元教会とかも今の技術じゃ造れないような……

 地球でも古代巨石文明とかあったし同じか?実は莫大な労働力さえあれば時間を掛ければできるみたいな?

 

「まずは建物の中を調べるか……松明を用意しろ」

 

 ボーッと廃墟を見上げているとコッヘル様が兵士さんたちに指示を出していた。

 

「ねぇ、この廃墟ってアンデッドモンスターの巣窟なんでしょ?」

 

「僕、お腹空いた」

 

 討伐遠征軍の数少ないの女性二人は何故か僕の隣に居るんだぜ、周りの男性陣からの視線が突き刺さる。

 少なくともロッテさんはコッヘル様の命令で面倒を見ているんだけど……

 

「そうだね、噂を元にすればここには不死の王が封印されている……らしい。

信憑性は低いよ、この廃墟は有名だから財宝の盗掘目的で何人も訪ねてるってさ」

 

「財宝?お宝?ねぇ、本当にあるの?」

 

 実家が絶賛没落中のムールさんの目が煌めいた!上手くすれば一発逆転ありの財宝話だからね、気持ちは痛いほど分かるけど……

 

「無い、と思う。

コッヘル様曰く過去にこの砦の守将がアンデッドモンスター化して、部下たちが何とか最深部に封じ込めたらしい。そんな場所に財宝なんて隠すと思う?

僕なら必要な物は根こそぎ運び出すね。偉人の墓だったらさ、副葬品とかあるかもしれないけど……」

 

 僕の話を聞いたムールさんがガックリと肩を落とす、まさか割と本気でお宝があると信じてたのか?

 

「私の聞いた噂だと盗掘に来た連中の装備品や所持品を溜め込んでいるとか、不死の王の復活を恐れて大量の貢ぎ物があるとか……」

 

 噂ってさ、伝える人が全てを正確に言わないよね。そこに憶測や希望的観測が入るんだよね、大体さ。

 この噂を広めた人は自分が探しても何も見付からなかったけどさ、見栄でも張って何かを見付けたとか言ったのかな?

 

「うん、今思い出したけどさ……

前に盗賊を返り討ちにして奪った所持品の中に、ここを示した地図があったんだよ。

結局近くにあったマウントコングの巣を狙ってここには来なかったんだけどさ」

 

 僕は財宝発見に男の浪漫を求めたんだけど、あまりに怪しすぎて却下されたんだよね、女性陣にさ。

 今思えば賢明な措置だった、マウントコングの溜め込んだお宝は結構な金額になったし……

 

「マウントコングですって?一人で?アレって金銀財宝を溜め込むモンスターよね?」

 

 またムールさんの目が煌めいたぞ、彼女にお宝話は厳禁かも……

 

「流石に一人じゃ無理ですよ。三人で挑みましたよ」

 

 お宝山分け三等分……とかブツブツ呟いているムールさんをスルーする。

 視界の隅に農民チームの妹ちゃんが入ったのでチラ見確認したが、眼の下に隈ができているが身嗜みは整っている。

 普通に高校生時代で言えばクラスでも上位五位に入るくらいの可愛い子なんだけどね。

 僕の視線に気付いたのか、こちらを見てニッコリ微笑んでくれた。

 

 だが背筋を伝う汗が止まらないのは何故なんだろう……

 

 ぎこちなく微笑みを返すのがやっとだった、僕は病んでる系には耐性が無いんだな。

 

「僕、お腹空いた」

 

 一難去って又一難?ロッテさんのお腹空いたってアレだよね?僕の精気が欲しいとかだよね?

 

「お腹空いたなら、何故さっき食べなかったのよ?もう廃墟に着いちゃったからしばらく休憩は無いわよ」

 

 ムールさんの指摘は当然なんだけどさ、ロッテさんが食べたいのは多分だけど僕の精気なんだよね。

 だから人間の食事は食べなかったんだろうな、元々荷物なんてモーニングスターしか持ってないし。

 

「もう少しの我慢だよ、探索になれば多少の自由は利くと思うし……」

 

 ロッテさんに視線を送って彼女がグーラーで精気が欲しいことは黙ってるようにお願いする、いや本当にお願いしますよ!

 

「むぅ……僕、我慢する。我慢するから後で頂戴」

 

 意味深な視線を送られたが、ムールさんは何だか分からないといった感じだ。

 本来なら彼女を助ける義務も必要も無いんだけど、妖魔(アリス&デルフィナさん)を彼女にしている僕としては何とかしてあげたい。

 

「ねぇ?何か私に隠してない?」

 

 拗ね気味のムールさんが上着の袖口をツンツンと引っ張る。最初と違い随分と可愛くなったよな……初めの頃は男に対して下郎とか臭いとか言ってたもんな。

 

「別に隠してないよ。彼女はコッヘル様からも頼まれているけど、少しだけ変わった子なんだよ。

さて、僕とロッテさんはコッヘル様と組んで最前線に行かなくちゃ。ムールさんも無理しないでね」

 

「……ええ、分かったわ。貴方も無茶しちゃ駄目よ」

 

 僕とムールさんとの遣り取りを不思議そうに眺めているロッテさん。

 

「さぁ、コッヘル様の所に行くよ」

 

 廃墟の調査は僕ら三人が先頭で進まなければならない。強敵が現れた場合の対処のためにだ!

 近くに人が居ないのを確認して顔を近付けながらロッテさんに小声で話し掛ける。

 

「あまりお腹空いたとか言うと怪しまれるよ。ロッテさんはアレでしょ?精気が食べたいんでしょ?」

 

「そう、僕は君の精気が食べたい」

 

 そう言ってペロリと頬を舐められた!

 

「なっ、なななな、ナニするんですか?」

 

「ん、塩(しょ)っぱいけど不思議と美味しい……もう少しは我慢できるけど限界も近い」

 

 キョどる僕に冷静にトンでもないことを言うロッテさん。マズいことに周りの注目を集めてしまった。

 

 どう誤魔化せば良いんだ?

 


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