グーラーのロッテさんと並んで歩く、何故か外套の裾を掴まれているのだがアレか?
美味しい食事(精気)は逃がさない的な思い?コッヘル様や兵士さんたちがチラ見してはニヤニヤしている。
あのね、君たちが思っているような甘々な関係じゃないんだ。
狩人と獲物の関係なんだぞ!
「ロッテさんは何故、あんな場所に居たんだい?」
それとなく情報を得ようと話し掛ける。それと友好的な関係を築きたいです。
「そうね、気付いたらあの場所に居たの?」
疑問形で返されたぞ、寝起きの不死美人ってことは本当に目覚めたばかりか?
無表情で言葉にも抑揚が無いんだよな、クールな感じだ。
「家族とか仲間とか知り合いとかも居ないの?」
「分からない。私たちは本体たる精霊(ジン)が新しい死体に入り込んでグーラーになるから。
この娘の家族や仲間とかも居ないと思う、もう何十年も前の話だから……」
人じゃないってカミングアウトしたぞ!
周りに聞こえてないか思わず首を左右に振って確認するが大丈夫みたいだ。
危険な台詞が聞こえたのなら、からかうような視線は送ってこないだろう。アレ?何で僕は彼女の心配をしてるんだ?
危険な妖魔なら討伐対象……ああ、そうか。
僕は彼女にレイスのアリスやラミアのデルフィナさんを重ねているんだ。人間より妖魔が好きなのかも知れない、ヤバい変態じゃね?
「ゴメン、悪いことを聞いたね。
でも君が妖魔だってことは内緒にしてほしい。周りの連中は不死の王が眠る廃墟を調べに来てるんだ。
当然だけどアンデッドは討伐対象なんだ、ゾンビとかオークゾンビとか……」
吸精妖魔は人に危害を加えたことがバレると討伐対象になるんだよな。
なんとなくだが吸精妖魔たちも他種族(人間)に危害を加えた奴は守らない的な暗黙の了解があるが……
力有る種族が人間を対等に扱ってるとは思えないときもあるのが現実だ。
「僕はあんな下等な連中じゃないよ。一緒にしないでくれるかな?」
珍しく表情が少し責めるようになったぞ。今までは歩きながら前を向いての会話だったが、立ち止まって僕の方を向いた。
ロッテさん、僕っ娘なんだ、僕っ娘クール美少女なんだな。
「ごめんね、そういう意味じゃないよ。
ただ討伐目的の集団だから無用な疑いを掛けられないようにってことだよ。ロッテさん、もしかして廃墟に居たことがあった?」
再び歩きだす……
「廃墟?僕は……僕は眠る前は……分からない、頭の中に靄(もや)が掛かったみたいに……でも永い間眠っていたと思う」
「そうか……思い出したら教えてね。何かしら力になれるかもしれないからさ」
一時避難場所の林に到着した。
撤退のはずだったがオークゾンビはほとんど倒せたしゾンビたちは火を嫌って歩みが鈍い。
だが集落に残って防衛戦をしたら勝てたか疑問だ。
受け身で四方から数に任せて攻められたら、僕らは大丈夫だけど兵士や傭兵の被害は分からない。
「兄ちゃんよ、どうする?この場に留まるか?」
林の中で立ち話のように今後のことをコッヘル様と相談する……あれ?僕って、そんな参謀的な立場だっけ?
周りの兵士さんたちも特に何も言わないし、ロッテさんは平然と隣に居る。
あっ?ムールさんが睨んでるけど何故?
口をパクパクさせてるけど“ウ・ラ・ギ・リ・モ・ノ″って読めるんだけど……
周りを見渡して色々と不要な情報も得てしまったが、枝ぶりや広さから言っても、この林は総勢80人足らずが身を隠すには十分な林だ。
定期的に人手が入ってるのだろう、切り株や獣道より広い道とかもあるし。馬車は切り取った枝とかでカモフラージュしている。
「残りは数体のオークゾンビにゾンビが多数、でも歩みは鈍い。集落の炎は後一時間も保たないでしょうね。
我々の睡眠は六時間くらいですか……
体力はある程度回復しているし、師匠と僕とロッテさんが協力してくれれば戦力は大丈夫ですね。
ですが一旦引いて増援と合流することを提案します。アンデッドたちがアレだけなら強行しますが……」
ロッテさんクラスの敵が現れないとも限らないし。もし廃墟が本来は不死の王が眠るだけじゃなくて彼らアンデッドを封印していたなら?
まだまだ敵は居ると思うんだ。
「そうだな、敵の総数は未知だからな。だが連中を野放しにはできない。ここで見張って不用意に近付いてきたら殲滅だ!」
それが無難かな、当座の敵は集落の周りに居る連中だけだし、前を通れば奇襲もしやすいだろう。
「ロッテさん、ゾンビたちと戦うの手伝ってもらっても平気かな?」
無表情で隣に立たれてると周りの目がね、好奇心いっぱいで辛いのです。オークゾンビたちとの対応を見ても仲間意識は無いと踏んでお願いしてみる。
「ん、別に構わない」
「おお、それは有難いな。頼むぜ、姉ちゃん」
コッヘル様も戦力として期待できるから有難いとは思うが、警戒は解いてないんだろう。
剣の柄に手を置いてるからな、油断はしないか?
僕が一緒なのも警戒のうちなんだろうが、結構辛い。なんたっていつ喰われるか分からないんだよ。
「じゃ、兄ちゃんは姉ちゃんの面倒をよろしくな」
ダンディーな笑みで軽く肩を叩かれた。
「ええ、まぁ……分かりました、師匠の言い付けですから仕方ないですね」
周りにアピールしておく、嫌々だが師匠たるコッヘル様の言い付けだから仕方ないんだと。
取り敢えず体を休める場所を探そうとキョロキョロと周りを見回すと、笑顔のムールさんが手招きをしている。
丁度良い倒木が有り並んで座れそうだ。
「撤退戦で殿(しんがり)を務めた割には余裕ね、可愛い女の子の面倒を見るなんて」
何となく分かる、理不尽に怒ってます的な?ムールさんの隣に座るが、ロッテさんは僕の隣に立ったままだ。
「ロッテさんも座りなよ。彼女はムールさん、この討伐部隊の仲間だよ。
彼女はロッテさん、撤退戦で助けてもらったんだ。単独でオークゾンビを倒せる強者なんだよ」
あのモーニングスターは防御不可だから躱すしかない。
「へっ、へぇ……凄いのね」
ムールさんが固まった、多分だがそんなに強いとは思わなかったんだろうな。
「少し休もう。悪いけど僕は見張りを免除されてるから少し寝かせてもらうね……」
緊張の連続で疲れた、でもロッテさんも取り敢えずは敵じゃないから安心かな?
倒木に寄りかかり外套を毛布替わりにする。民家から借用した斧を外套の下で握り締める。
何故かロッテさんとムールさんが左右に座り寄りかかってきた、周りからの嫉妬でうなされそうだ……
◇◇◇◇◇◇
「やれやれ、ようやく落ち着いたな。兄ちゃんは両手に花か、不思議と女にモテるんだな」
仲良く三人で並んで寝ているが、端目にもうなされるのが分かるぞ。
まぁ女っ気の無い遠征中に美女二人も独り占めすれば、周りからの嫉妬は凄いだろうぜ。
思わず口元が緩むぜ、しっかり見張りと面倒を頼むぞ。ありゃ訳有りだろうからな……
「全く羨ましいですな……彼はコッヘル様の弟子だったんですね。
安心しました、あまり優遇するのは問題だと思いましたが弟子なら大丈夫でしょう。
兵たちからも不満は出ていません……いや、そろそろ嫉妬の不満が出るかもしれませんね」
む、そうか……
急に師匠と呼んだのは、そういうことだったのか。確かに幾ら強いとは言え金で雇った傭兵は捨て駒だ。
優遇し過ぎると正規兵から不満が出ると考えたか……
変な所に気を回す奴だと思ったが、俺が知らないだけで気を遣われたわけだ。
あの怪しい姉ちゃんを押し付けたのは悪かったか?
「まぁな、愛弟子だ。
アイツは強くなるぜ、なんたって俺が手解きをしたんだ。それに遠征中にも強くなっている、型に填まらぬ武器を使うからな。
メイスや斧を効果的に使っているし、斧なんていつの間に用意してたんだ?」
この遠征で感じたが成長は異常なものの、マダマダ甘い所がある。ラミアの姉ちゃんを落とした時点で普通じゃねぇのは分かってたけどよ。
それに常に冷静に対応することもできるし度胸もある。
「それは討伐遠征が楽になりますな。コッヘル様はお休みください、アレに動きがあればお知らせします」
「おぅ、頼む。俺も少し休むぜ……」
大きな岩を背に寄りかかる、下は適度に草が生えているので冷たくはない。
燃える家屋の近くで戦っていたから身体中が煤(すす)臭いぜ。ミーアにただいまのハグをするのは風呂に入ってからだな。
カイン様もアベル様も兄ちゃんの半分でも素質があれば、フェルデン様も安心できるんだが……
根性も忍耐も無ければ武の素質も低い、あの二人は領主の器じゃねぇ……
新しく迎えた側室が生んだ子が成人するまで15年くらいなら、まだ俺らも現役ギリギリで頑張れるだろう。
ベルレの街を支える人材確保が必要だな、だが兄ちゃんは無理か……
「ヤレヤレ、早く我が子を鍛えるしかないか。ベルレの街の次代を担う奴を」
林の中から見上げる月は妙に赤い気がするぜ。
◇◇◇◇◇◇
あの後、ゾンビたちは僕らを追っては来なかった。
見張りの連中も視界の届く範囲では見なかったそうだ。大きく迂回したか引き返していったのかは分からない。
結局建物は燃え尽きたが井戸は無事だった集落で応援を待った。
丸二日の滞在だが周辺の捜索や食料になるモンスターを狩ったりと忙しかった。
ムールさんとロッテさんは反りが合わなかったが何故か僕を挟んで一緒に行動している。
元々は一週間の遠征期間だが延長することになり少し揉めたが報酬も掛かった日数掛ける10Gに決定。
僕は500G+出来高払いだからそのままだ。
遠征の延長は領主軍からミーアちゃんに伝わるから、デルフィナさんとアリスにも話してくれるだろう。音信不通にならなくて良かった。
そして増援部隊との今後の方針を決める話し合いに何故か僕とロッテさんも参加している。
辛うじて焼け残った民家の一室にコッヘル様と先発隊の小隊長五人、増援部隊の小隊長三人とミッチリだ。
因みに増援部隊は三小隊で三十三人に補給部隊が十人、下級神官が一人で傭兵は居ない。
「まずはこの二人を紹介しておく。単独でオークゾンビを倒せる二人だ。
兄ちゃんは俺の愛弟子、姉ちゃんは避難民だが傭兵として参加してくれている。
姉ちゃんはもう良いぜ、紹介だけだったから席を外してくれ。次に状況だが……」
取り敢えず話し合いに参加させられたのは、戦力の要となる僕らの顔見せだったのか?僕は退出できないのは何故だ?
「……と、いうわけだ。
アンデッドモンスターが異常に湧いているのは、不死の王が眠ると言われる遺跡が原因だと思う。
彼の地はここから半日程度だ、行って調べる必要があるだろう」
コッヘル様の説明に黙って頷く小隊長たち、軍隊だから上官の意見には逆らわないと思う。
実際に彼らの表情は真剣そのものでコッヘル様を疑っていない。出てくる意見も方針に沿った提案ばかりで反対意見は無いな。
「兄ちゃん、何か意見はあるか?」
打ち合わせも最後の方になってコッヘル様から意見を聞かれた。黙ってばかりだから気を遣われたのかな?
「いえ、ありません。僕はコッヘル様の弟子とは言え傭兵として参加していますので作戦に従います」
どうやら応援の小隊長達から睨まれているので当たり障りの無い受け答えになってしまった。
応援の彼らとは一緒に戦ったわけでもないし、幾らコッヘル様の弟子とは言え傭兵ごときが軍の作戦会議に居ることすら嫌なのかもしれないな……
ここは下手に出るか一線を引いた距離で接した方が良いだろう。
「そうか?何か気になるなら遠慮なく言えよ。俺は兄ちゃんに期待してるんだからな!」
ダンディーに笑うコッヘル様の横で僕を睨み付ける新しく来た小隊長にため息をつく。
コッヘル様、もう少し周りの空気を読んでください……