異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第32話

「じゃ仕事に行ってくるぜ。ミーア、コイツらの面倒を見ててくれや」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

 玄関に僕とミーアちゃんだけが並んでコッヘル様の見送りをする。

 デルフィナさんたちは客間で寛いでいるが、コッヘル様も彼女たちのことは気にしないと言ってくれた。

 流石は大隊長だけあり、午前中は領主の屋敷に詰めて政務をこなし午後は兵士の鍛練を監督するそうだ。

 僕は午後に一般兵士に混じって訓練を受けるのかと思えば、コッヘル様は領主の息子たちに個人指導をしているらしい。

 そこに参加させてもらうみたいだ。少人数制だからこそ、細かい指導ができるのだろう。

 

 しかし、領主の息子たちということはエリートなんだろうな……

 

「ふふふ、主人があんなに楽しそうなのは久し振りなんです。最近は愚痴ばかりで……

お昼までは部屋で寛いでいてください。後でお茶をお持ちしますわ」

 

 幼くても人妻だけあり、仕草が艶っぽいですね。色々聞かれるかと思ったけど、心配し過ぎだったかな?

 しかしコッヘル様、美少女幼妻なんて貰って配下の兵士から刺されないのかな?

 

 しかも娘みたいな年下の彼女に愚痴ですか!もしかして慰めてもらってるのかな?

 

『ミーア、聞いてくれ。今日なんだけど……あらあら、それは大変でしたね、ヨシヨシ』

 

 自分の想像に可笑しくなってしまうね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 客間は六畳くらいの洋室にテーブルと椅子が用意されていた。そしてテーブルの上には、オレンジっぽい果実。

 流石は大隊長の家だけある、市場でも果物類は高価だったが客間に置いてくれるなんで。

 厚めの皮を剥けば、やはりオレンジと同じ中身だ。一房食べると柑橘系の酸っぱさが口の中に広がる。

 

「酸っぱいけど新鮮で美味しいね。

まさか酔っぱらいのオッサンが領主軍の大隊長とは思わなかったけど、稽古を付けてくれるのは嬉しい。だけど借りを作ったことになるんだよね」

 

 今後の作戦会議をこの場でやろうと質問を投げ掛ける。女性陣は果実には手を出さないのかな?

 

「個人としては悪い人ではないでしょう。でも軍人としては、どうでしょうか?」

 

「そうだよね、立場は人を変えるから心配だよ。鍛えてもらうことには賛成したから今更だけど……」

 

 軍人としての立場か……

 

 オレンジ擬きを食べ終わり皮を丸める、残りは五個だから一人当たり二個だね。

 確かに万が一にでも領主に僕たちを拘束しろって言われたら、僕たちの味方はしないだろう。逃げれば反逆罪?とかで指名手配かな?

 

「余程のことがなければ大丈夫だと思う。訓練してくれるだけなら、騒ぎは起きないよ。

でも街の宿屋って連泊できるのかな?チェックアウト後の昼間はどうする?

ラミア族のデルフィナさんと人間のアリスの二人連れは目立つよね。僕なんかより余程心配だよ」

 

 美女と美幼女だから、ちょっかい掛けてくる奴は居るだろう。僕よりも強い二人だが、アリスは秘密を抱えている。

 デルフィナさんも一緒に行動するってことは一蓮托生で巻き込まれるかもしれないんだ。

 

「確かに人間の街に私達が長期滞在は……ですが数日なら大丈夫ですわ。

宿屋に少しばかりお金を握らせれば、連泊で昼間も滞在させてくれるでしょう」

 

「大丈夫だよ、お兄ちゃん。でも三日間も精気を吸えないのは我慢できるかな?」

 

「流石にそれがバレたら不味いと思うぞ。人間の常識だと、多分精気を吸われるのは良くないことじゃないのか?」

 

 精気を吸われたことで人間たちはアリスを迫害し封印したんだ。つまり吸精行為を見られては駄目です!

 それに午後からは多分だけどハードな訓練を行うことになるから……

 

『デルフィナ、今のうちにお兄ちゃんの精気を吸っとく?駄目ですよ、主様は午後から訓練なのですよ。

でも少しだけ、少しだけなら大丈夫かな?うーん、でも……』

 

 女性陣のヒソヒソ話が怖いです。僕は万全の体調で訓練に挑めないかも……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼食はミーアさんと我々だけだった。

 

 驚くべきことに彼女の腕には赤ん坊が抱かれている。まだ一歳未満と思われる可愛い赤ちゃんだ。

 コッヘル様、ヤルことはヤッてたのね……すると仕込みは13歳くらい?ヤバイな、訓練に俄然やる気が出てきたぞ!

 

 一発殴りたいです、はい。

 

「可愛いお子様ですね、男の子ですか?女の子ですか?」

 

 離乳食をスプーンで掬って息を吹き掛けて冷ましているミーアさんに聞いてみる。

 因みに僕らの昼食は雑穀の雑炊だ。麦や粟が入っていても久し振りの米にテンションが上がる!

 因みに米はベルレの街の東南部の湿地帯にて栽培しているらしい。

 

「男の子ですわ。最初が女の子でして一姫二太郎ですわね」

 

 この美少女幼妻は二児の母だと?

 

「ふーん、そうなんですか……幸せなんですね、羨ましいです。午後の訓練が楽しみだなぁ……」

 

 やはり一発殴りたい、無性に殴りたい。貼り付けた笑顔の下で正義の鉄槌を下すことを誓った。

 

「そうですね、私もアリスさんの年頃のときに嫁ぎましたわ。貴方も色々言われるかもしれませんが、頑張ってくださいね」

 

 そっだった、人のことを言えない立場だった。しかも僕は二股してるんだ。

 人の振り見て我が振り直せ、同類相哀れむ、同じ穴のムジナ……コッヘル様への怒りが急速に萎み親近感が芽生えたぞ。

 

「そうですよね、彼女たちを幸せにするためにも頑張ります」

 

 微妙な顔で見つめていた彼女たちが、僕の最後の言葉を聞いて笑ってくれた。

 きっと先ほどまでは筋違いの嫉妬に燃える男に思われていたかもしれない。

 

 ミーアちゃんの言葉に救われたな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 食後のお茶を楽しんでいる最中に、コッヘル様が帰ってきた。二人の少年を連れて……

 

 やはり前回会った二人だった。

 

 因みに最初から憎しみの籠もった目で見られてるのは何故?

 

「この二人がフェルデン様の御子息、カイン様とアベル様だ。俺は支度してくるから、挨拶しておけよ」

 

 カインとアベル……旧約聖書に出てくるアダムとイブの息子。

 

 父親の情を独り占めするために兄弟で殺しあうんだっけ?いや一方的にどちらかが殺されるんだっけ?

 映画エデンの園をよく見ておけば良かったが、権力者の息子たちに付ける名前じゃないよね。

 

「ふん、平民のくせに生意気な奴だな」

 

「兄さん、コッヘルのお気に入りだから仕方ないよ」

 

 最初の上から目線がカイン様、次の弱気な言葉がアベル様。二人共、未だ二十歳を過ぎてはいないだろう。

 言葉と同じく兄は強気な弟は弱気な顔をしている。

 共にイケメンなのは両親の造形が良いからか?華美な装飾が付いた皮鎧を着ているが、性能は良さそうだ。

 装飾品に高そうな腕輪をしていたりと、見るからに金持ちのご子息様だ。どちらも僕に対しての印象は良くない。

 

「カイン様、アベル様。

三日間と短いですが、コッヘル様との訓練に参加させていただきます。よろしくお願いします」

 

 年下だが礼を尽くさないとコッヘル様の立場が無いだろう。邪魔するなよ的な返事を貰ったが我慢しよう。

 そんなやり取りをしているとコッヘル様が皮鎧を着て来た。手には木剣を四本持っていて、三本を我々に投げてきた。

 慌てて受け取るが、僕のは大剣を覚えるために長く、他は普通の片手剣サイズだ……

 

「先ずは二対一で戦ってみな。力の差って奴が分かるぜ。ただし急所への攻撃は無し、殺すなよ。じゃ、始めろ」

 

 ここでですか?ただの庭ですよ?広さは20畳近くありますが、地面には草が生えて石が転がってます。

 転んだら痛いじゃ済まない怪我を……

 

「やるぞ、アベル!舐めやがって打っ叩いてやる!」

 

「分かったよ、兄さん。仕方ないけど倒してやる!」

 

 ほとんど離れてなかったので木剣を振れば当たる距離だ。

 兄弟共に木剣を振り上げるが「見える、私にも見える」剣筋と言うか振り下ろす軌道が分かる。

 微妙に左右対称に振り下ろされた木剣をバックステップで躱す。

 

「当たらなければ、どうということはない!」

 

 地面に突き刺さり衝撃を両手に受けた二人の動きが一瞬止まる。木剣を横に薙払い二人の木剣を吹き飛ばす。

 本気で振り抜いた所為か庭の隅まで吹き飛んだ。短い悲鳴を上げた二人に木剣を突き付ける。

 

「勝負有りだな。二人掛かりで一分も保たないとは……これが純然たる力の、素質の差だ」

 

 両手を握り締めて悔しそうに睨まれても、僕としてはハンデ有りなことに文句を言いたい。

 だが、コッヘル様にも文句がある。

 

「何故、彼らを貶めることを言うのですか?」

 

「己を知るのが必要だからさ。矮小な自分を理解し、それでも努力すりゃ何とかなるかもしれん。

名も無い旅人に手も足も出ないとなりゃ、変なプライドも粉々だろ。それでも俺に教わりたいか?」

 

 凄く悔しそうな顔で此方を睨んだ後、二人とも逃げ出してしまった。

 

「ちょ、君たち……走って逃げちゃったけど、良かったのですか?彼らは領主の息子たちじゃ……」

 

 何も言わずに、言えずに走り去る兄弟を見送る。あまりにも可哀相な仕打ちだ。

 

「奴らは領主を継げない。跡継ぎは優秀な血縁者でなければなならい。

フェルデン様は後妻と側室を迎え跡継ぎを作ることに励んでいるからな。

早いうちに変なプライドを壊して一から鍛え直すつもりだったが、逃げちまった。もう見込みはないな」

 

 何て厳しい世界だ……力無き者は権力者にはなれないのか?

 

 統治される民衆は優秀な者がなった方が良いのは分かるけど……

 

「上に立つ者は腕っぷしの強さだけじゃ駄目だと思います……」

 

「ああ、俺もそう思うぜ。領主が戦いの最前線に出る必要は無い。じゃ何だと思う?戦いで領主に必要なモノは何だ?

この世は小競り合いも含めて危険なんだぜ。ベルレと言えどもな」

 

 三國志の群雄割拠時代みたいな感じかな?今の軍隊で重要なモノってなんだろう、うーん……

 

「一定練度の兵士と物資の確保と安定供給、補給と治療の手配でしょうか?

最前線で無双する領主も戦いでは兵士の士気を高めたりできますが、多方面作戦とかだと無理ありますし。

兵士って備品と食事、それに治療施設があれば戦うんじゃないかな。士気は食事内容や戦う意義で賄えると思います。

後は恩賞かな……特に何かを守る戦いは、それだけで戦う意味がありますし」

 

 脈絡なく言いたいことを言ってしまったけど、全て分かり切ったことだよね。

 文明レベルが古代ローマくらいとしても、集団戦を主とした時代でも同じことはしていた。

 斬新でも何でもない定石みたいな意見だ、今思い返すと恥ずかしいぞ。

 

「まぁ当たり前のことを偉そうに言いましたが……」

 

「いや、武勇を誇ることが大切って風習の中で補給を考えられる奴は少ない。もう少し聞きたいな」

 

 後から野太い声が掛けられたので振り向けば、前回掲示板の前で会った男が立っていた。

 周りの話を総合すれば、彼がベルレ領主のフェルデン様だ。取り敢えず直立不動から90度腰を曲げてお辞儀する。

 僕は日本人気質だから権力者に弱いです、はい。

 

「そう固くなるなよ。コッヘルから聞いてるぜ。大剣使いの素質を持ちながら神聖魔法も使えるそうだな。

しかも中々頭も回るみたいだ。どうだ?小隊長で俺に雇われないか?」

 

 ああ、酔いを魔法で治したの教えたんだ。うん、満面の笑顔だが猛禽類と変わらないな……

 

「申し訳ないです、連れが居ますので軍隊には入れないです」

 

 同じく直立不動から90度腰を曲げてお辞儀する。

 

「中隊長ならどうだ?家を買える稼ぎがあるからな、この街に住めば良いだろ?」

 

 この手の好意は必ず裏か落し穴があるんだよね。既に領主の息子たちからは恨まれてるし……

 

「申し訳ありませんが、ラミア族の彼女には人間の街は居辛いので無理です。僕は彼女と離れることはできませんから」

 

 本命はアリスの秘密だが、異種族が人間の街で暮らすことだって大変だから説得力はあるだろう。

 頭を上げてフェルデン様を見ると断られたのに晴れ晴れとした顔をしていた……


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