マウントコングの第二陣を倒した。
剣技だけでは無理だったので魔法を併用し何とか一人で倒せたが……成長の方向性がブレる思いだ。
剣か魔法に特化するか魔法剣士として応用力を高めるか?
残りのマウントコングはリーダーの雄と残り三匹程度の雌だけだろう。
第二陣まで倒したから、三分の一まで減らした。奴らの序列を考えると残りは上位陣、全て何らかの道具を使うだろう。
つまりようやく本来の対人戦に近い戦いができる。
一旦戦場から離れて考えを纏める。
200mほどの距離を移動し、少し草木が茂った場所を背に地面に胡坐をかいて座る。座れば少しは草木で体が隠せるはずだ。
空を見上げれば、太陽はまだ真上を過ぎた辺り……
時刻は昼過ぎ、夜襲を掛けるにしても、このまま突撃するにしても移動を考えると微妙な時間なんだよね。
せっかく襲撃の時間をこちらで選べるのだ。考え無しで突撃とか無駄で危険なことはしたくない。だから信頼している仲間と話し合う。
「デルフィナさん、アリス。どうしようか?」
戦いで汗をかき草原の爽やかな風で冷えた体を暖めるために、彼女たちはお湯を沸かしている。
地面に穴を掘り周りに石を並べて竈(かまど)を作り、その上に水を入れた素焼きの壺を置く。
枯れ枝を燃料に魔法で着火して、お湯を沸かす。冷えた体には白湯でも嬉しい。
できれば紅茶か珈琲が飲みたいが、この世界では未だ出会っていない。
嗜好品としての飲み物は果実水と酒がメインらしい。でも日本刀があるくらいだから、他にも何かしら流れてきた物がありそうだ。
「残りの雌が出てくるまで待ちましょうか?雄はそれなりに手強いですわ。最初に取り巻きの雌を全て倒しましょう」
慎重派のデルフィナさん。
「残りは四匹くらいでしょ?こっちから襲撃しようよ。取り巻き全てを先に倒したら、残された雄は凄い警戒するよ」
積極派のアリス。
両方共に理由があるから悩むな……差し出された椀の白湯をチビチビと飲む。
うーん、熱くて不思議と土の味がするのに美味いな。一夜干しの肉を串に刺し炙り始めると、脂の焦げる良い匂いが漂う。
これは昨日捌いたアルマジロ擬きの肉だ。
「デルフィナさんの言った対人戦の練習なら、このまま戦いを挑む方が良いよね。勿論、馬鹿正直に突撃はしないよ。
夜襲は相手の同士討ちも狙えるかもしれないが、敵を倒すまで留まるなら不利かな。僕らは夜目が利かないからね。
やるなら早朝だ、そのままお宝を回収して立ち去れる。
夜襲だと日が昇るまで待たなければ見落としがあるかもしれないし、血生臭い場所に長く留まるのは危険だよね」
串焼き肉が食べ頃に焼けたみたいだ。アリスからアルマジロ擬きの串焼き肉を貰い頬張る。
息を吹きかけて冷ましたら一口かぶりつく……筋張って固いがモチャモチャと咀嚼して飲み込む。
すっかり調味料無しの食生活に慣れた。所謂、素材の味を楽しむ?
「そうですわね。ですが四対一は危険です。
最初は全員で襲い掛かりボスを主様が一人で戦ってみては如何でしょうか?ピンチになったら私がボスをミンチにします」
「そうだね。
お兄ちゃんの訓練のためにアリスも頑張って協力するよ。危なくなったらボスを火達磨にするから安心して」
デルフィナさんの慈しむような微笑みも嬉しいです!
アリスの輝くような笑顔が凄く眩しいです!
後半の台詞が凄く怖いです!
もしかして彼女たちってヤンデレ化してないかな?それとも、この世界の恋愛って束縛系?
この世界に彼女たち以外の恋愛相談ができる知り合いなんて居ないから分からないけど、標準的な恋愛観は知っておかないと街中でボロを出すかも。
でっ、でもハーレムは否定されてないはずだ。
勿論、男の甲斐性次第らしいけど稼ぎがあれば複数の女性と付き合っても良いんだ。思考が脱線しかけたが頭を振って元に戻す。
ボスと一騎討ちか……
武器を扱い人間より強い力を持つマウントコングと戦えれば、何かが掴めるかもしれない。
今後の成長の切っ掛けを……よく考えたら普通のゲームは、どんなに高レベルなプレイヤーキャラでも必ずダメージを受けていた。
やり込み要素が売りのゲームでも同様。属性無効はあれど完全に被弾0のゲームは無いと思う。
つまり無傷で敵を倒すのはロールプレイングゲームよりアクションゲームの感覚だ。
この世界は僕の知るゲームの世界観に近いが、現実は殴られれば痛いし切られれば血も出る。
バーチャルリアリティーでも説明がつかない。
レベル・経験値・ステータスと突っ込み所は満載だが、ゲーム感覚を捨てないと危険かもしれないな。よし、決めたぞ!
「早朝に奇襲をかけよう!最初に取り巻きの雌を皆で倒す。ボスの雄は、僕一人で戦ってみるよ」
扶養家族のはずが逆に養ってもらってるからな。何とかしないと格好がつかないや……
◇◇◇◇◇◇
日が昇る前に移動し、マウントコングが潜む林の近くに到着した。
僅かに風が吹いているので、大回りして風下から近付いた。僅かな警戒も怠らない、僕は大して強くないから。
暫く待つと東の空が明るくなってきた。
徐々に暗闇から薄暗く周りが見えにくい状態までになったことを確認し林の中に侵入する。
どうしても小枝や砂利を踏み締めるために僅かな音を立ててしまうが、幸いにも獣道があったので真っ直ぐに巣まで近付けるだろう。
大して広くない林だからか、警戒しながら歩いても5分と経たずに目的地へ……
「うほっ、うほうほ……」
「あっ、ああっ、あっ……」
えーと、耳を澄ますと悩ましい声が聞こえるんですけど?ハーレムを作るだけあって、お盛んなのね。
思わず照れて赤面する顔が見たくてデルフィナさんとアリスを見る。だが二人共微妙な表情で僕を見返している。
「あの……今って繁殖期?」
仕方なく何とか真面目な顔を作り質問する、内心残念だ。
「マウントコングは一年中発情期らしいですわ。何回か私が戦ったときは、このようなタイミングは無かったですが……」
「丁度良いから、やっちゃおうよ!今なら注意力も散漫だよ……」
小声で淡々と言葉を返してくれる女性陣。だけど彼女たちからは照れや恥じらいは全く感じられない。
アレかな、僕らが犬猫の交尾に興奮しないのと同じことかな?いや、少し違うか……
「とにかく、突撃しよう。僕が真ん中、左右に分かれて別々に一匹ずつ倒す。
初撃を終えたら後に下がって一旦距離を取ろう。二撃目で致命傷を与えられるならよし、無理なら距離を取る。良いかな?」
静かに頷く二人……
気まずいが視線を先に向ければ後から雌を攻めるボスと左右にだらしなく寝そべる雌が居る。
汚いケツを見せるな、テンションが急降下中です。慎重に距離を詰めるが、あと10mくらいで姿を隠せる障害物が無くなった。
相変わらず雌を攻めるボス……
鞘からロングソードを抜き鞘はその場に置く。持ち歩いたり腰に吊しては行動に邪魔だ。
深呼吸をして息を整えロングソードの握りを確認するが、手汗で滑りそうだ。ズボンで掌の汗を拭き取り握り直す。
「いくよ!」
小声で合図をして体を隠していた藪から飛び出す。七歩目で飛び上がり、ボスの脳天めがけてロングソードを振り下ろす。
左右に仲間が居る状態でロングソード横に振り回すのは同士討ちが心配でできない。だから縦に振り下ろすしかないのだが……
「グギャ?」
無防備状態の後から叩き付けるように切った所為か、頭半分まで刃が食い込んだ。
奴の背中に右足を蹴り付ける様にして体ごとロングソードを後ろに引き抜いた。
ヨシ、脳天をカチ割られて血が噴き出し前のめりに倒れたぞ。
そのまま後に三歩ほど下がって状況を確認!デルフィナさんは僕と同じように敵の頭を潰した。
アリスはファイアの魔法を連射したが致命傷には至ってない。相手は地面を転がりながら火を消そうとしている。
ボスの下敷きになった雌は無傷だ。体を起こして左右に揺れながら僕らを威嚇している。
「二人共、手を出さないでくれ。一人でやってみるよ」
ロングソードを一振りして刃に付いた血を飛ばして構える。相手もいつの間にか手に武器を持っているが……やはり棍棒だ。
長さは1mくらいだが、所々を金属で補強している。棍棒と言うよりはメイスかな?手が長い分、短いメイスでも攻撃範囲は広い。
僕の攻撃範囲では奴の攻撃を躱さないとダメージを与えられないぞ。待っていたら火傷を負った奴も戦いに参加するだろう。
「いくぞ!」
相手の武器に注意を払いながら真っ直ぐ突っ込む。
「うほっ、うほほー!」
奇声を上げて此方を威嚇しメイスを構えているが、僕が近付くとリーチを生かしてメイスを水平に振る。
敵の攻撃をロングソードで受けるが、弾き返せずによろけてしまった。何とか踏み留まり、二撃目をバックステップでかわす。
やはり相手は横にしか振り回さない。しゃがむか後ろに下がるか武器で受けるかしかできない。
何かに気を引かせないと近付くことさえ無理かな?
少し距離を取りロングソードを左手に持ち替え右手を背中に回す。ベルトに差したダガーを掴み奴の顔目がけて投げつける。
当然真っ直ぐには飛ばず、クルクルと回りダガーは奴の顔に当たって地面に落ちた。
思わず両手で顔を覆った今がチャンスだ!
ダガーは当然だが刺さりはしないからダメージはほとんど無いだろう。度胸一発、奴に接近してガラ空きの腹を横に切り裂く。
ロングソードを振りぬいたが、思った以上に軽い手応えだ。骨を切り裂いた感じがしないが手応えはあった。
バックステップで距離を取り傷を確認するが、やはり浅かったかな?腹筋は切り裂けたが、内臓まではダメージが行ってない。
奴は傷をモノともせずにメイスを振り回す。
だが、鈍い金属音と共に今度は攻撃を弾くことができた。何故ならば答えは簡単、腹筋の傷により踏ん張りが利かないから。
痛みに負けて押し負けるんだ。視界の隅に火傷を負った雌が起き上がり、こちらを窺うのが見えた。
「ごめん、二人共……もう一匹までは対処できないから倒して。僕はコイツを何とかする」
そう言って奴の攻撃を弾き返してチクチクと手傷を負わせ、弱ったところで首を切り裂いた。
「ふぅ、何とか倒せた。でもなんとなくだけど僕の攻撃スタイルが思いうかんだ……」
僕に足りないのは防御力とリーチ。だが、コレは両立しない。防御力を付けたいなら盾を装備すれば良い。
だけど両手剣から片手剣になるので、今使っているロングソードより短くて軽くしなければ扱えない。
リーチを得るには長柄の武器を使えば良い。例えばデルフィナさんのポールアックスみたいに……
だが、アレはデルフィナさんの筋力あっての武器だ。僕では上手く扱えないだろう。
槍や短槍では突くしかできず、槍に斧を付けたハルバートは重すぎる。だが僕は知っている。
リーチがあり比較的軽くて突いたり切ったりできる武器を……
「薙刀を手に入れるかな。無理なら作れば良い。
ファルシォンみたいな反りのある片刃剣は売ってたから加工すれば……」
ベルレの街に行ったときに鍛冶屋にでも頼んでみようかな。
◇◇◇◇◇◇
戦いの後のお楽しみはお宝発見だ。
マウントコングは光り物を集める習性があり、元の世界と違い光り物など金属か宝石くらいしか無い世界だ。
期待に胸が高まる。倒した奴らの周辺を念入りに探す……
「主様、ありましたわ!」
「お兄ちゃん、大量だよ!」
そして、それは直ぐに見付かった。奴らは寝床の後にお宝を積み上げていたんだ。
デルフィナさんとアリスが嬉々としてお宝を選別していく。
一番多いのは武器だ……
ロングソードにショートソード、スピアにダガー。業物は無いが武器は消耗品だから助かる。
汚れとかは落とせるけど本格的な手入れは無理だし、製鉄技術が低いのか直ぐに刃こぼれとか折れたりするんだ。だから予備の武器は欠かせない。
他には金属製の盾が二枚。
所謂スモールシールドかな?円形で直径が40cmくらいの金属板とA3程度の長方形の盾。
前者は全金属製で後者は木板に金属を貼り付けている。どちらも腕にベルトで固定するタイプだから、両手で武器を持つこともできる。
後は宝石類か……
デルフィナさんがルビーを太陽に透かして傷を確認しているが、彼女の笑顔を見れば中々の品質なんだろうな。
光り物が好きなだけあり、よく磨かれて手入れもされている。
戦利品は、武具防具がロングソード5本・ショートソード3本・スピア2本。ダガーやナイフが合わせて8本・スモールシールド2枚だ。
宝石と装飾品は、宝石は全部で28個で、そのうちの5個は大玉だ。
珍しいのは銅鏡があり綺麗に磨かれていてよく映る。イメージでは緑青だが、アレは単純に錆々だったんだな。
マウントコングも銅鏡が一番のお気に入りだったのだろう、宝物の中心に安置してあった。
覗き込むと魂まで吸われそうな綺麗な銅鏡……
その他の金属片や壊れた武器・防具は屑鉄として鍛冶屋が引き取ってくれるそうだ。今回も首尾良く儲けることができて良かった。
因みにレベルが上がっていた……
職業 : 魔法剣士
称号 : 異形の主
レベル : 17
HP : 172/172
MP : 53/53
筋力 : 58
体力 : 39
知力 : 43
素早さ : 49
運 : 17
魔法 : ヒール スリープ ライト キュアパラライズ キュアポイズン
装備 : ロングソード 異国の刀 皮鎧 皮の小手 皮のブーツ
相変わらず運は1つずつしか上がらないのか……