異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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第25話

 不死の王が眠る遺跡……

 

 何ともゲーマーの心をくすぐる言葉だ。レアアイテムや武器などが必ずある、ゲームならね。

 今回のモンスター狩りは、デルフィナさん提案のマウントコングに決めた。

 人殺しに禁忌感のある僕のために人型のモンスターと対峙して慣れろってことだ。ついでに彼らは光り物を集める習性がある。

 自然界に光る物なんて中々無いから、彼らは必然的に人から奪う。

 大抵は武具などの金属類だが、稀に貴金属や宝石なんかも持っているそうだ。

 

 まさに一石二鳥の育成計画?

 

 そしてマウントコングが確認された場所の近くに、不死の王が眠る遺跡もある。

 無謀とは思うが、どんな場所か見てみたい。遺蹟の中に入らなければ大丈夫だと思うんだけど……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕らのスィートホームな洞窟から歩くこと丸一日。地図によるマウントコングの居場所を示した場所にようやく到着した。

 何をするにも移動は日単位なんだよね。

 

 現代なら電車やバスを利用すれば60㎞くらいは1時間程度だが、徒歩なら10時間は掛かる。

 

 レベルアップの恩恵か最近長時間歩いても疲れなくなっているんだ。

 それは良いのだが、持ち運べる荷物の量に限りがあるので精々が往復10日以内だ。

 人間は1日に水を2Lは必要とするから、アリスは別としてデルフィナさんと合わせて4L。

 10日だと40Lだから40㎏も必要だし、他にも食料や夜具とか山盛りだ。

 マジックアイテムの皮袋が無ければ一泊程度の遠出しかできないだろう。

 現代の秘境や険しい山々に挑む冒険家や登山家の凄さが分かるわ。必要な物をリュックサック一つに纏める収納テクニックを教えてほしい。

 

「主様、あの林が彼らの住む林です。

ですが木々の中では木登りが得意な彼らの得意なフィールドです。頭上からの攻撃は脅威ですから……」

 

 時刻は昼前、丁度頭上近くに太陽がある。そして500m先には確かに林が見える。

 前に人の手が入ったものが林で手付かずが森と聞いたけど、林で良いのかな?

 林は人の手で生やす、森は自然に盛り上がる。そんな語呂合わせみたいなことを聞いたような気がするが、確証は無い。

 

 デルフィナさんが林と呼ぶなら林で良いや。

 

 1㎞四方の木々の間隔が疎らな林を見つめて考える。群れをなし連携する奴らのイメージはゴリラ、所謂類人猿?

 木に登られたら、僕の中距離攻撃手段は弓だけ。アリスは攻撃魔法、デルフィナさんはブレスを吐けるが、僕は弓だけだ。

 これじゃ僕の修業にはならない。

 奴ら全員が木の上なら最悪は中距離攻撃でゴリ押しできるが、修業にはならないだろう。

  だが、連携するなら地上にも敵は居て接近戦を挑んでくるだろう。手持ちの武器が弓では地上の連中には対応できない。

 だが剣や槍では頭上がお留守になって危険だ。木の上の連中の攻撃方法は、精々が投石ぐらいだろう。

 弓とか使えるなら勝ち目は無いが、物を使えると言っても棍棒程度だ。

 だが投石だからといって威力が低いわけじゃない。力の強い彼らが拳大の石を投げてくるのだ。

 

 当り所が悪ければ即死だな……

 

「普通はどうやって戦うんだい?」

 

 女性陣に聞いてみる。盗賊連中でも戦える相手ならば、方法があるはずだ。

 

「奴らが林から出るのを待ちます。

基本的に餌は林の中だけでは賄えません。勿論水も飲みますから、大抵は水場で待ち構えます。

群れをなしてますが食料調達は分担制ですし、水を飲みに来るのもバラバラです」

 

 ふーん、結構付け入る隙はあるんだな。やはり自分だけの常識で考えるのは危険なんだよね。

 異世界に現代日本の常識が通用する方が変と考えなきゃ駄目なのに、どうしても自分の経験に基づく常識を信じちゃうんだよな……

 思考を切り替えて、前にも教えてもらった情報も思い出しながら考える。

 奴等は1匹のボスの雄(♂)と10匹前後の雌(♀)の群れで構成され、繁殖期には子供が居るそうだ。

 今は繁殖期じゃないから成体だけのはずだし、狩りの連中が何匹出てくるかだが……大抵は半数くらいらしい。

 

 つまり雌のマウントコングが5匹から6匹を平地で迎え撃てば良い。

 

「デルフィナさん、アリス。

奴らの探知能力ってどれくらいかな?臭いとか音とかで50mくらい手前で気付かれるとかある?」

 

 デルフィナさんとアリスが目を合わせた。何かを考えているみたいだけど……

 

「特に耳や鼻は人間と同じ程度ですが、目は猟師並みに良いそうです。待ち伏せが気付かれた話は聞きませんね」

 

「でも一旦気付かれたら凄い鳴き声で知らせるから油断はできないよ。どうする、お兄ちゃん?」

 

 やはり盗賊連中でも対処できるから危険度は低いな。

 元々は僕のレベルアップのために選んでくれた相手だから、無謀な能力差は無いんだけど……

 

「主様、食料調達部隊が現われましたわ」

 

 彼女の言葉に思考中から呼び戻される。林から出てくる一団を見て僕は度胆を抜かれた。

 ヒョコヒョコと上半身を揺らす独特の歩き方をする連中は、一見すればアメリカンまっちょバトルに登場する連中にワッキー並みの体毛を生やした連中だ。

 

「ゴリラかと思えば原始人か……

まさかイエティやビッグフットみたいな伝説上の連中みたいな奴らだとはね。先入観って凄いや」

 

 想像と全然違いゴリラみたいに全身ビッシリの毛むくじゃらじゃない。精々が毛深い人間程度だ。

 だが、よく観察すれば手が長く掌も大きい。これは確かに掴まれたら握り潰されそうだ。

 髪の毛はボサボサで伸び放題、後ろで纏めて縛りポニーテールみたいにしている。

 雌なのに髭も生えていて大きなオッパイは丸出しで、下半身は毛皮の腰巻き?脚は体全体の長さに比べて短くガニ股、当然素足。

 本当に人間に近い姿形をしている。全員が片手に棍棒を持っているが、中には奪ったナイフを括り付けてピッケルみたいにしているな。

 物を組み合わせる知能があるわけだ。これなら聴覚や嗅覚が人間並みなのも納得できる。

 

 そして……人殺しに慣れるのには最適な相手だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「さて、どうしようかな?狩りに向かった連中は6匹、半数として合計で12匹だ。

僕らは先ず狩りに向かった連中を倒して、戻りが遅いのを怪しまれる前に残りの連中も倒さねばならない。

少なくとも鳴き声が聞こえない距離を離れる必要があるな。大体1㎞くらいかな?」

 

「主様は慎重ですね。

彼らは群れに厳格な順位があり雄が頂点に居ます。なので狩りの連中が帰らなければ、残りの雌が探しに行きます。

雄は最後まで残るので、林から出てくる連中を待ち伏せて二回も倒せば林の中に入っても平気ですよ」

 

 二回ということは、残りの半分ずつが探しに来るのかな?何故最後まで雄は出てこないのか……

 集めた宝物を置いて移動はしないのか、ラスボス気取りなのか?

 ハーレムを維持するなら率先して外敵と対峙するんじゃないのか?

 

「先ずは対人戦に慣れることと武器を扱う連中に慣れることだよね。じゃ、距離を置いて奴らを追おう。

獲物を捕まえれば戻ってくるから、途中で待ち伏せできる場所があると良いな」

 

 流石に6匹は今まで対峙した中で最大数だ。こちらは3人だが戦力的には負けないだろう。

 視線の先でヒョコヒョコ歩くマウントコングを見て思う。

 心配したことが杞憂なくらいに彼らを倒すことに禁忌感が無いんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 丁度良い待ち伏せ場所は無かった。そうそう都合良くはいかないだろう。

 途中で軽自動車並みの大きさの岩と数本の木がある場所を発見。ここで待ち伏せすることにする。

 やり過ごして後ろから攻撃はできない。

 何故ならデルフィナさんの尻尾が長いから、隠れきることは無理だろう。

 だから近付いたところに正面から躍り出るしかないが、弓は初撃だけ射てれば上出来。当たれば儲け物程度に思っておくか。

 待つこと一時間、岩影から盗み見ていたが、ようやく彼らの気配を感じられるまで近付いてきたな。

 ウホッウホッと聞こえるが、あれでコミュニケーションが取れているのだろうか?デルフィナさんとアリスに目で合図をする。

 デルフィナさんの得物は長柄の斧、アリスは魔法専門、僕は最初は弓で次はロングソードを使う。

 

 用意していた弓に矢をつがえタイミングを計って正面に飛び出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「シッ!」

 

 何故か短く声を吐き出しながら、先頭のマウントコングに矢を放つ。ピンポイントに急所は狙わず体の中心を狙い確実に当てることにした。

 タイミングがイマイチで奴らとの距離は10m程度あったが……初撃は予定通り先頭の奴の腹に刺さった。

 相手が呻きながら膝をつくのを確認し、もう一度射てるかなと矢をつがえて狙いもそこそこに射つ。

 今度は膝をついた奴の肩に当たった。これで少しは行動が鈍るだろう。

 

「主様、バラバラに逃げられる前に倒しますよ!」

 

「お兄ちゃんは真ん中の2匹、私たちは左右の2匹をそれぞれ倒すよ!」

 

 デルフィナさんが長柄の斧を構えながら飛び出し、アリスが炎の魔法を唱える。

 彼女の周囲にサッカーボール大の炎の塊が複数浮かび、腕を振り下ろすタイミングに合わせて発射された。

 

「グホッ、ギャギャギャ」

 

 顔を焼かれて転がり暴れる二匹。

 僕の担当の無傷の奴がアリスの引き起こした惨劇に気を取られた隙に、弓を放り投げ腰からロングソードを抜いて走りだす。

 

 そして勢いを付けて大上段の構えから一気に肩口に向かって振り下ろす!

 

 最初の手応えで鎖骨に当たったのが分かったが、そのまま勢いに任せて振りきる。右肩口から肺の辺りまでを切り裂くことができた。

 頬に返り血が付くが、目には入らずにすんだ。

 どうやらレベルアップの恩恵で筋力が上がった影響だろうか?奴らを力任せに叩き切ることはできる。

 仰向けに倒れる奴から矢で怪我をした方に視線を向ければ、棍棒を構えて僕に振り下ろす直前だった。

 

「おっと、危ない」

 

 何とか左側に転がるように避ける。その直後に凄い音と小さな石が飛んできた。

 棍棒が地面を強く叩いたので小石や土が跳ね飛んだのだろう。何とか起き上がり、更に棍棒を振り上げているマウントコングと対峙。

 振り上げていれば振り下ろす動作しかできないと踏んで駆け出す。

 

 棍棒が振り下ろされるのを何とかかわし、バットと同じ要領でロングソードをフルスイング!

 

 マウントコングの顎から上を切り飛ばした。冗談みたいに傷口から血が噴き出す。

 ゆっくりとスローモーションみたいに倒れこむ奴は、本当に人間臭い仕草だった……だが最初に心配していた禁忌感は覚えなかった。

 だがこれで僕の担当の2匹は倒した。デルフィナさんとアリスを援護しようと見れば、既に勝負はついていた。

 

 速攻で倒したつもりでも僕が一番遅かったのか……

 

 頭部が消し炭のように炭化して死んだ2匹はアリスの魔法による物だろう。デルフィナさんは2匹共に首を切り飛ばして倒している。

 全員が一番効率の良い頭部を狙ったわけだ、僕は偶然だったけどね。

 

「主様、ご苦労様です。

大分動きも良くなってますよ。目で見て攻撃が避けられるようになれば一人前です。

それに型はマダマダですが剣速も威力も申し分ないですわ。

切れ味の悪いロングソードで筋肉質の彼らの上半身を切断することは中々できませんよ」

 

 言われてみて改めて彼らを見れば凄いスプラッターな光景だが、それでも禁忌感は覚えない。

 ロングソードを振って付着した何かを飛ばして更にボロ布で拭く。手入れを怠るのは怪我に、最悪は死に直結するから気を付けないとね。

 ムッとする臭いする場所から移動をする。マウントコングは食用にはならないし、したくもない。

 放置すれば血の匂いに誘われたモンスターたちが片付けてくれるだろう。

 

「次は残りの半数、3匹前後が出てくるんだろ?多対一の戦闘も経験したいから一人でやらせてくれないかな?」

 

 少なくともアリスとデルフィナさんを守れるくらいまでは強くならないと駄目だな。まだまだな自分を不甲斐ないと思った……

 


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