獲物の捌き方についてデルフィナ先生の指示の下で実践した。
スプラッタな現実を突き付けられた、現代人はパックに入った精肉しか見慣れてないから……結果としてメンタル面で少し強くなったと思う。
但し、女性陣のヤンデレ率が高くなってる気がする。頬っぺたに返り血を付けてニコッと微笑まれると、アレですよ!
「Nice Boat?」
ハーレムになりつつある二股野郎な僕の未来を垣間見た気がした。
◇◇◇◇◇◇
アリクイ擬きから剥ぎ取った皮は売り物として綺麗に洗い干してある。
そのままではゴワゴワして使えないので鞣(なめ)さなければ駄目なのだが、これは専門の連中に任せるそうだ。
簡単に鞣(なめ)すなら自分で皮を噛めば良いのだが、顎が疲れて歯もすり減りそうだからやらない。
数日掛けて相当数の獲物を倒し僕のレベルもかなり上がった。
獲物の解体作業も機械的にできるくらいに慣れた。慣れって怖いよね?
頭の中でステータスと思い浮かべる。
職業 : 魔法剣士
称号 : 異形の主
レベル : 15
HP : 150/150
MP : 47/47
筋力 : 52
体力 : 36
知力 : 39
素早さ : 45
運 : 15
魔法 : ヒール スリープ ライト キュアパラライズ キュアポイズン
装備 : ロングソード 異国の刀 皮鎧 皮の小手 皮のブーツ
うん、かなりステータスアップしたが、運以外がほとんど均等に上がってる。
しかも職業から見習いが取れたよ。でもコレって器用貧乏じゃないかな?
魔法剣士も本来はどっち付かずの中途半端職な感じだし……それに脇差が異国の刀って名前でサブウェポン扱いになってる。
一度も装備せずマジックアイテムの皮袋の中に入れっぱなしなのにだ。
何かしらのフラグには間違いないな……
しかも覚えた魔法が治療系のみって魔法剣士よりロード(君主)じゃないかな、ウィザードリィ的には?
いやモンスターハンター風な世界だから違うのか?ウィザードリィなら侍は攻撃系の魔法を覚えるし。
いや、前提条件が違うのかもしれないし、安易に知ってるゲームの枠に嵌め込むのは危険だ。
思い込みは時に真実を隠すから、与えられた情報で判断するしかない。
因みにアリスのステータスだが……
レベル : 36
HP : 135
MP : 189
筋力 : 37
体力 : 19
知力 : 80
素早さ : 57
運 : 45
出会ったときよりレベルが一つ上がっている。流石はレイスと言うか魔法特化のステータスだな。
因みにデルフィナさんは
レベル : 50
HP : 387
MP : 67
筋力 : 120
体力 : 89
知力 : 46
素早さ : 65
運 : 67
比べるのがおこがましいですね、ハイ。
こちらもさすがはラミア族というステータスなのか、本人の資質なのか?
物理攻撃特化+種族的スキルのブレスを持つ戦士職のデルフィナさん。魔法特化で攻撃と回復の両方を扱えるアリス。
魔法剣士としてドチラも中途半端な僕……
ほとんど魔法を使わず物理攻撃だけで敵を倒してるのに、レベルアップの方向は魔法剣士。
魔法はほぼ自分の回復に使っている。だから治療系の魔法ばかり覚えるのかな?
でも構成メンバー的には悪くはないんだよね。隙が無い分、特化メンバーより爆発力が無い。これにシーフ的なメンバーが入れば理想的?
「お兄ちゃん、何をウンウン唸ってるの?」
「主様、悩み事ですか?刃物を使いながらの考え事は駄目ですよ」
「あっ、ああ……すみませんね、手元がお留守だったかな?」
今は狩った獲物の解体中だった。今回は食用でないモンスターなので、見晴らしの良い場所にて行っている。
外敵の接近が分かりやすく、序に移動が面倒なので倒したその場で解体してます。長閑な草原で牛擬きの腸や腱を抜き取り、角を剥ぎ取る。
腸や腱は弓の弦に使い角は工芸品の材料になる。こんな生きるのに厳しい世界でも美術品や工芸品に需要かあるのね……
「皆に協力してもらってレベルアップ……いや、強くなってるけどさ。何か方向性がね、器用貧乏になってないかな?
僕は剣と魔法を使えるけど、ドチラも中途半端じゃない?」
あれ?デルフィナさんに溜め息をつかれましたよ。アリスはヤレヤレってポーズだよ。何だろう?呆れられているようで傷付きます……
「主様、主様の成長速度は異常です。
初めて会ったときは普通の城勤めの兵士程度でした。それでも平均以上の強さなのですよ。
今の主様は隊長クラスの強さと見習い神官クラスの魔法の使い手なのです。決して器用貧乏ではありません」
「そうだよ、お兄ちゃん。
魔法はね、限られた人しか使えないんだよ。大抵は魔法が使えることが分かれば、それを伸ばすけど極めるまでに膨大な時間が掛かるんだよ。
お兄ちゃん、立て続けに呪文を覚えてるけど普通よりも随分早いんだよ。アリスだって解毒や麻痺解除を覚えるの大変だったのに……」
どうやら僕は、僕の成長速度は異常らしい。
だがレベルという概念の無い世界で他人とステータスを比較できる僕には、自分がチートとは思えない。
肉体のスペックが高くても技能や技術を磨いた連中には簡単に負けるのだから……
「うん、ありがとう。自分では実感無いんだよね。二人には全然勝てないし、盗賊にだって普通に殺されそうになったしさ」
慌てないで時間を掛けて強くなればいいや。この世界は普通の悪人は居ても魔王や邪神は居ないのだから。
◇◇◇◇◇
夕食を終えて寝る前の団欒を楽しむ。
娯楽の少ない世界だから、最近の話題は盗賊から奪った革の紙だ。所謂宝の地図なんだけど、表記が曖昧過ぎる。
「これがデルフィナさんの住処の印が付いた地図かな?」
書かれている文字は「最寄りの街から東南東に徒歩で三日」だけ。
後は地図とも言えない簡単な絵で、最寄りの街と丘の中腹の洞窟、近くには泉と森が簡単なデザインで描かれているだけだ。
この世界には方位磁石は一般にはほとんど無い。普通の人が気軽に携帯できるほど安い物ではなく、軍隊や商船が使うらしい。
では一般人はどうするかと言えば季節の星を見て方向を知るらしい。
長距離を移動する必要が無いから、周りの景色を覚えておけば大抵は大丈夫らしい。
例えば現在地から北には頂きに雪を湛えた険しい山脈が見える。
ソレを見れば自ずと右側が東で左側が西、後ろが南だ。後は太陽は東から昇り西へ沈む。
午前中は太陽を見れば右側が南で左側が北だ。
ある程度街道も整備されているので、迷子にはなり難いだろう。
「そうですね。
この但し書きの『盗賊から奪ったお宝を溜め込んでいる可能性が高い』
これが気に入りませんが、確かに何回か盗賊を退けていますから、彼らが疑うのも分かります。
ですが実際は実入りは良くなかったですわ」
なるほど、これは宝の地図と言うよりは盗賊たちの情報共有と討伐依頼みたいな物だな。
宝の地図よりは余程信用がおけるが、時期も内容も曖昧過ぎる。
「お兄ちゃん!
このアリゲーターの巣なんてどうかな?キングアリゲーターが確認されてるらしいよ。
奴らの卵は滋養強壮として珍重されて高値で買取られてるよ」
「主様の成長を考えるならマウントコングの討伐ですわ。
奴らは道具を使いますから、より対人に近い戦闘経験を積めます。
それに光り物を集める習性がありますから、思わぬお宝を巣に溜め込んでいるかもです」
「僕は不死の王が眠る遺跡が気になるんだけど……」
三者三様に意見が分かれた。もっとも僕の意見は単なる好奇心で、実際に不死の王の眠る遺跡になど行きたくはない。
アリゲーターは鰐、マウントコングはゴリラだよな?ゴリラに光り物を集める習性なんてあったかな?
確か奴らの握力は200㎏以上ある。
掴まれたら握り潰されるような連中と戦えるのか?鰐は食用として肉は淡白で野趣溢れて美味とは聞くが水辺の主だろ?
水棲生物と戦うのは水辺しか無理だけど、水中に引き込まれたら負ける。
ドチラもハードルが高い……
「アリス、キングアリゲーターって水棲生物じゃない?僕らは陸でしか戦えないけど、水中に引き込まれたら負けるよ。
マウントコングは怪力だよね。一発食らっても掴まれても負ける気がする。そもそもドチラも大型じゃないの?」
素直に疑問をぶつけてみた。僕の知識は元の世界基準だから、もしかしたら似ているが違う生物かもしれないし……
「お兄ちゃん、キングアリゲーターは体長2m以下の陸地に穴を掘って卵を産むモンスターだよ。
大体20匹ぐらいの群れを作る習性があるんだ。ただし、攻撃力に反して臆病で危険を察知すると直ぐに逃げる習性があるの。
でも、卵がある場合は凄い攻撃的なんだよ。最後の一匹が死ぬまで戦うの。そろそろ産卵の時期だから狙い目だよ」
なるほど盗賊たちは巣の位置が確認できていて産卵の時期まで待ってたのか……だけど凄く可哀想じゃないか?
卵を守るために最後の一匹が死ぬまで戦うって、メンタル的にキツい。しかも貴重種みたいだし……
「なるほど、よく分かったよ……デルフィナさんのお薦めのマウントコングって、どんな連中なのかな?」
目をキラキラさせているアリスから、そっと視線を逸らす。つまりキングアリゲーターの卵って高値で取引されるんだな。
食に興味が薄い(僕の精気以外)アリスは、金銭的なことには興味が強い。
経済観念がしっかりしていると喜ぶべきか、守銭奴と悲しむべきか微妙だ……
「マウントコングも群れをなすモンスターです。
オス一匹に対して複数のメスと子供たちで構成されます。子供たちはある程度育つと群れを離れるそうです。
主様の言う通り彼らの力は強力ですし連携もします。そして何より武器を使ってきます。
単純な棍棒程度ですが、稀に倒した人間の武器を使う場合もあります。
彼らは光る物を集め、より光る物を多く持つ個体が沢山のメスを囲うのです。
自然界で光る物など少ないですから、必然的に人を襲い金属や宝石や硝子類を奪い集めます。
結構な掘り出し物が見付かりますよ。基本的に10匹前後で行動しています。
私だけでは無理ですが、主様とアリスが一緒なら討伐可能です」
光り物の量でメスを囲う数が増える。人間に例えると金持ちほど愛人を囲える。
実力ある者が多くの子孫を残せるのは、厳しい世界では当たり前だ……と思う。
デルフィナさんも僕のレベルアップと経済観念を併せて考えてるな。
「それに主様は人を殺すのに未だ罪悪感を覚えています。
それは素晴らしいことですが、悪人と敵には罪悪感を抱いては駄目なのです。
ですからまずは人型のモンスターを倒して徐々に慣れなければ駄目ですわ」
ああ、ありがとうデルフィナさん。確かに僕は人殺しに抵抗があります。
最初は正当防衛のために次はデルフィナさんを守る為に……自分を誤魔化す理由を用意していた。
だけど、盗賊討伐なんて直接自分たちに被害が無かった相手を殺すことができるかと言われれば、躊躇しない自信が未だ無いんだ。
◇◇◇◇◇◇
結局、デルフィナさんの案が採用となった。
僕のためにと言われれば、アリスも反対しなかった。相談を終えて何となく一人になりたくて彼女たちから離れた。
デルフィナさん、本当に僕のことを考えてくれている。生き物を殺す禁忌感は簡単には克服できないのは確かだ。
逆に簡単に克服できたら異常だろう。
下半身が蛇で伝説上の架空の生物だと思われていたラミア。
そんな人外の美女に心を許している異常さを僕は普通と受け止めている。
「アリスにデルフィナさんか……いったい僕の何が気に入ってくれたのかな?
やはり精気……いやいや違うよね?僕にだって男としての魅力があるはずだよね?」
視線の先で仲良く料理をする二人に、弱気な僕の呟きが聞こえなかったのは幸いかな?