異種族ハーレムを作るぞ?   作:Amber bird

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おませなツンデ霊編
第2話


 気が付けば抜けるような青空を見上げていた。

 首の後ろには芝生に寝っ転がったみたいに、チクチクした感触と瑞々しい草の匂い。

 

「アレ? いつの間に外で寝てたんだっけ? 確か夕べは新入社員の歓迎会で横浜で飲んで、終電を逃してタクシーで帰ったはずでは……」

 

 昨夜の自分の行動を思い浮かべる。

 

 19時から会社の新入社員歓迎会で、近くの焼鳥屋に飲みに行った。店を出たのは21時過ぎだ。

 その後、同僚数人で二次会で贔屓のキャバクラに行って女の子たちと1時間ぐらい馬鹿話をしたな。

 目当ての女の子のメアドをゲットできたんで、明日にでも一人で行こうと思ってたんだ。

 キャバクラで盛り上がったんで、三次会にカラオケに行った。

 

 終電が心配だから駅前のシダックスに行って……

 

 結局、延長しちゃって店を出たのが0時を過ぎていた。で、終電が無くてタクシーで帰ったんだ。

 

 よし、ちゃんと覚えてるぞ。

 

 1時半頃自宅に着いて、風呂に入って目覚まし時計を7時にセットして寝た。たしか2時半頃だった……

 記憶が確かなら、この拉致られて此処に放り出されるまで、そんなに時間は経ってないはずだ。

 空腹感も無いし、太陽の位置からしても午前中な感じだし……

 

 僅か6時間程度で、僕をここまで運べるわけが無いじゃん!

 

 とにかく、起き上がって服に付いた汚れを払う。

 右手で叩いた服を見れば、ゴワゴワして肌触りの悪い分厚い生地の長袖・長ズボン?

 

「こんな服、持ってたかな? 田舎で農作業するような格好だけど……何だろう、コレは棍棒?」

 

 左手が重いと感じていたら、何か先端に向けて太くなっている全長1mほどの棒を持っていた。

 他に何か有るかと服を触りまくっていると、腰に括りつけた袋が3つ。

 1つ目の袋には、歪な銀色の硬貨が80枚ほど入っていた。

 

 何だろう、どこの国の硬貨だろう?と考えたら突然、頭の中に『80G』の文字が!

 

「なっ?何だ……いきなり文字が頭の中に?電波か?電波なのか?」

 

 辺りをキョロキョロと見回して、更なる異常に気が付いた。

 

「ココドコ?ワタシはナゼにコンナばしょにイルんダ?」

 

 混乱のあまりセリフにカタカナと平仮名が混ざってしまった。無理も無いと思う。

 

 見渡す限りの平原、相当遠くに険しい山々。

 

 割と近くには小川があり、その先に芥子粒のように見えるのは、石造りの城塞都市? 常識的には有り得ない。

 拉致されて大自然のど真ん中に放置プレイなんて!どうやって家に帰れば良いんだ?そもそも日本か?

 あんな視界の果ての街まで、どうやって移動するの?

 

 自慢じゃないが会社の定期健康診断では毎回運動不足を指摘され、体重は右肩上がり。これが営業成績なら、どれだけ嬉しいか……

 

「取り敢えず落ち着け。深呼吸、深呼吸するんだ!ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」

 

 多少落ち着いたので、残りの袋を確認する。2つ目の袋を開けてみる。

 

「なんだ、この草?ホウレン草みたいだが?コッチの草はルッコラみたいだけど……」

 

 何故か青々とした葉野菜が入っていた。また頭の中に文字が浮かぶ。

 

『薬草×8 毒消し草×8』

 

 薬草?毒消し草?何だろう、某竜のクエストみたいなんだけど?

 

「まっまさか?僕の中の中学2年生が暴走中?すると僕は……ゆっ勇者ダー!」

 

 雄叫びと共に、拳を天に突き上げる!今度は頭の中にパネルが表示された。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

職業 : 見習い戦士

称号 : 薄幸の異邦人

レベル : 1

HP : 20

MP : 2

筋力 : 8

体力 : 5

知力 : 4

素早さ : 6

運 : 1

装備 : 棍棒 布の服

所持品 : 薬草×8 毒消し草×8

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何てコッタイ、僕の中の中学2年生は現在進行形でヤバい方面に大暴走中だ……ヤバイヤバイヤバイ、頭がイカれちまったのか?

 その場で頭を抱えてしゃがみ込む。いい歳をして鼻水を垂らしながら泣いてしまう。

 突然訳分からない場所に放り込まれ、周りに誰も居なければ仕方ないだろ?今後の方針すら決める要素が全く無いんだ!

 

 途方に暮れて、声を殺して泣き続ける……どれくらいだろうか?

 

 涙が枯れて鼻水で顔が酷い状態になり、すっかり疲れ果てた状態で寝てしまっていた……

 周囲を見回せば、すっかり薄暗くなり、昼間の爽やかな雰囲気から一転し不気味な感じがしだした。

 

「ヤバイぞ……運1の僕でも分かる、良くない感じがヒシヒシしてるぜ」

 

 何か変な音が聞こえる……

 

「何だろう?お祭りの屋台で買った水風船で遊んだときのバインバインって音に似ている」

 

 水ヨーヨーのアレな音だ。音のする方を確認すると……アレは何だろう? 直径50cmぐらいの何かが跳ねながら近付いてくる。

 

「何だ、あのバランスボールみたいな物は?」

 

 バインバイン跳ねてくる塊は3つ。馬鹿面下げて近くに来るまで見つめてしまった。

 いや、頭の片隅では分かっていたが認めたくないとフリーズしてしまったんだ。

 目の前に現れたそれは、多分ファンタジーな世界で有名なスライムって奴だ。

 

「僕の中の中学2年生は絶好調じゃねーか! うわっ、地味に痛ぇし」

 

 突然の体当たりに、思わず動揺してしまう。

 

「うわっ、痛い痛いって……」

 

 続け様に残りの2匹の攻撃脇腹と太股に受けた。ドッヂボールを至近距離でぶつけられた痛み。また頭の中に文字が浮かび上がる……

 

『野良スライム×3』

 

「野良って何だよ?飼えるのかよ?」

 

 どうやら攻撃は交代制のようだ……先制攻撃か不意打ちかは知らないが、野良スライムは一度攻撃した後はその場でバインバインと跳ねている。

 手持ちの武器は……棍棒だけか?僕は思い切って振りかぶり、真ん中の奴に棍棒を振り下ろした。

 

「こんちくしょーが!」

 

 ガッて鈍い音と共に、棍棒は大地に深く突き刺さる!

 

『痛恨のミス!』

 

「何じゃそりゃ?」

 

 頭の中に浮かんだ文字に突っ込みを入れてしまった。

 

「痛っ、痛い痛いって……」

 

 また三連続で攻撃を受けた。

 

『ダメージHP-1×3 残りのHP14』

 

 頭の中で浮かび上がる文字に突っ込む。

 

「こんな攻撃でも、あと14回受けたら死ぬんかい?」

 

 確かに痛いが、痛いダケで我慢できる痛みで死んでたまるかー!

 怒りに任せて棍棒を振り下ろす。バチュンという水風船が弾けたような音がして、体液を飛び散らかしてスライムを倒した。

 

 あと2匹だ。

 

 飛びかかってくる野良スライムの動きをよく見たせいか、今度は避けることができた。落ち着いて殺れば勝てる。

 残りの野良スライムを倒すために棍棒を構えなおす。混乱しているが、ここで戦わないと死ぬことは理解できる。

 

「うわぁー!」

 

 雄叫びをあげながら、野良スライムに吶喊(とっかん)した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブヨブヨした不透明の体液がこびり付いた棍棒を放り投げる。周りには粘液が飛び散り、自分自身もベトベトだ。

 最後の野良スライムを倒した直後、頭の中に浮かんだ文字。

 

『経験値+3』

 

 ああ、野良スライムは一匹当たり経験値1か……お金は落とさないんだ。中途半端なリアル設定め!

 どうやら僕はゲームの世界に入り込んでしまったらしい。

 

 理由は分からない。前兆も無かった。定番の神様にも会ってないし、能力も貰ってない。

 

 何故か頭の中に文字が浮かび、ゲームのようなデータが分かるが僕以外の人間もそうなのか?

 それとも僕だけなのかも分からない。

 

 今、言えることは……「体中に付いた野良スライムの体液を洗い流さないと」顔から服からベタベタだ。それに少し生臭いし……

 

 確か近くに小川があったはずだ。体を洗うために移動する。5分も歩けば、川幅2m深さ0.5mぐらいの小川に到着した。

 周りを見回しても人っ子一人居ないのだがら、迷わず全裸になり川に入る。

 汗ばむほどの気温でもなく、日本なら春先くらいの陽気だが水は大変冷たい。

 我慢して顔と髪の毛を洗い、体を洗ってから服をジャブジャブと洗濯する。

 

 匂いと色が気にならないほどに落ちた時点で、体が冷え切ってしまった。

 

「僕、馬鹿だ……着替えも無いのに真っ裸で水浴びなんて……はっハクチュン!」

 

 このままでは肺炎になってしまう。何処か暖が取れる所を探さなければ……

 慌てて見回せば、小川の辺に何本かの高木が生えており、その脇に廃墟みたいな建物が見えた。

 薄暗くなっても明かりが見えないのだから、多分無人なんだろう。

 濡れた服は余計に体温を奪うと聞いたことがあるので、皮のブーツだけを履いた変質者ルックで移動する。

 水を含んだ皮のブーツは、歩く度にギュッポギュッポ五月蝿いな。

 近付いて見れば、小さな学校くらいの大きさのある廃墟だ。

 壁や屋根のある部分が少なかったので、遠目にはただの廃墟に見えたのだろう。

 

 僅かに建物の形状を残している部分に近付く……

 

 ちゃんと石畳になっている敷地内は、隙間なく石が敷き詰められているせいか雑草も生えていない。

 城壁は崩れ去っているので敵が攻めてくれば危険だが、その前に肺炎で死にそうだ。

 両開きの玄関扉を残した建物は、現代感覚で言えば西洋風の教会に似ている。

 

「すみません、お邪魔いたします……」

 

 木製の扉は、今でも原型を保っている。

 しかし建付けは最悪で力一杯取っ手を引っ張ると、ギギギギギっと不快な音をたててユックリ開いた。

 もし教会なら神の住処に全裸で侵入する罰当たり者だが、扉を開けたために差し込んだ僅かな光で確認した室内はガランとしている。

 言い換えれば何も無い状態だ。湿った土と黴のような匂いがするが、我慢できないほどではないな。

 

「雨風が凌げれば上等だろう……」

 

 奥にまだ部屋があるのだろう、扉が見えた。できれば毛布か、無ければ布切れでも良いから何かあればと思い扉を開ける。

 暗くて分からなかったが、扉の四隅には何か紙が貼ってあったみたいだ。扉を開けたときに、ハラリと紙が床に落ちた。

 

「ん?何だろう……お札みたいだけど?」

 

 床に落ちた紙を拾えば、長さが縦25cm巾5cmほどの紙に知らない文字が書かれていた。英語?ラテン語?

 日本語やハングル文字じゃないのは分かるが、何語だろうか?

 

 火が有れば燃やして暖が取れるのだが、あいにくライターは持ってない。取り敢えず落ちた2枚の札を持って奥へ進む。

 

「おっ?痛ぇ……何か蹴っ飛ばしたぞ」

 

 唯一入り口の扉から差し込む光を頼りに足元を見る。

 

「これはなんだろう?綺麗なガラス玉かな?いや水晶?」

 

 無色透明っぽいリンゴ大のガラス玉と、それが乗っていたらしい台座。それに床に何やら魔法陣みたいな線が……

 

「綺麗なガラス玉だな。貰っておこう」

 

 そのガラス玉を何故か持っていた3つの袋の最後のヤツに入れる。

 

「さて……他に使えそうな物はあるかな?」

 

 大分暗闇に慣れてきた目で周囲を見回すと、部屋の隅に藁?が小山になっていた。

 

「藁かな?ハイジのベッドになるかな?」

 

 濡れた服を藁の上に広げて置いてから、藁の中に潜り込む。チクチクとして新しい性癖に目覚めそうな感触だが、文句は言ってられない。

 感触さえ我慢すれば、中は暖かくイグサのベッドだと思えば問題ない快適さだ。

 

「おやすみ……起きたら僕の中の中学2年生が落ち着いて、元の世界に戻っていることを願って……」

 

 不思議と空腹感は無かったので、このまま寝てしまうことにした。


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