「冒険者ギルド?無いよ。てか、お兄ちゃんの説明の意味が分からないよ」
可愛く首を傾げるアリス。
「冒険者ですか……浪漫溢れるお言葉ですが、流石にそのような組織は有り得ないかと思います」
困った表情をするデルフィナさん。
「えっ?全否定されたぞ……」
困惑気味に僕を見つめる美女と美幼女の姿に、僕自身も困惑した。だって冒険者ギルドに所属するって異世界物じゃ鉄板じゃん!
クエストをこなしてレベルを上げてお金を稼ぐ。仲間を募り名声を得てハッピーエンド!
何より身元保証を行ってくれるのが冒険者ギルドしゃないの?
この世界って、どうなのよ?
◇◇◇◇◇◇
事の始まりは、今後どうするかの相談だった。
デルフィナさんが僕等と行動を共にすることになり、全くこの世界の常識を知らない僕と数十年間封印されていた過去の人(レイス)アリスだけでは無理だった最新の情報が手に入る。
なので異世界物の鉄板である冒険者ギルドに登録して生活基盤を作りたいと提案し、冒頭の意見を貰った。
だが全否定だったのだ!
「お兄ちゃんの住んでいた場所にはあったのかもしれないけど、ここじゃ無理だよ。だって王様や領主様に次ぐ権力だよ。
人を集めて管理するって、それだけで凄いことだし。
しかも他の領地とも連携してるなんて、トップの領主様同士でさえ連携できずに反発してるのに無理!」
「そのような組織が仮にあったとしても、直ぐに弾圧されます。どう見ても武力組織です。
権力者にとっては、あってはならない組織ですよ。
モンスター討伐は領主が常時依頼をしてますから、わざわざ管理組織は不要ですし、大きな仕事は騎士団が定期的に募集をします。
発想的には便利な仕組みですが、現実的には有り得ませんわ」
「教会だって権力者と癒着してるから存在するんだよ。でも私兵は囲えないから独自の戦力は低いの。
権力者の脅威になりえず、でも価値ある癒しの魔法が使えるから共存できてるんだよ」
言われてみれば納得できる部分が多い。
確かに国家間を越えて繋がっている組織なんて、権力者から見れば脅威でしかないよな。
モンスターを狩ったりできるってことは戦闘を生業とする集団だ。
ランクによりピンキリだろうけど、逆に選別された戦闘集団を各国に独自に抱えていることになる。
しかも情報も共有してるとかになると、それだけで統率された軍隊と変わらない。
そりゃ冒険者ギルドなんて存在できないよね……こうして僕の冒険者ライフは始まる前に終了した。
◇◇◇◇◇◇
机の上に突っ伏して指でのの字を書く。
憧れていた冒険者にはなれない。ならばアリスを養うにはどうしたら良いんだ?
そもそもだけど、この世界の仕組みってどうなんだろう?
「デルフィナさん、この国の仕組みを教えてください。僕らが街に行ったらどうなるんだろう?納税の義務とかあるのかな?」
何やらアリスと盗賊たちから剥ぎ取った革鎧を弄っているデルフィナさんに聞く。
機嫌が良いのか尻尾の先端をユラユラと揺らしています。
アリスは鼻歌を歌ってるが、こちらは賛美歌に似ていると思う。
ディアマリア?の旋律に近いと思う、流石は元高位神官の愛娘だね。
「そうですね……
この国は王都を中心に八人の領主が各々の領地で取り囲んでいます。
先ず王様や領主様は自分の領地と住んでいる人を外敵から守る義務があります。
城砦都市の中や外部の街には貴族・商人・職人が主に住み、農民が村単位で外部に住んでいます。
納税の義務があるのは決められた地域に住む人々で、それ以外に住む人々には納税の義務はありません」
平民層って、もっと過酷な環境かと思ってた。
「街や村に住まなければ納税の義務が無いの?」
「そうです。
納税者が住む場所には被害が及ばないように、領主は定期的に軍隊を派遣してモンスターを狩ります。
安心して暮らせるから人々は税を納めるのです。因みに税は三割を納めます」
意外とマトモなシステムじゃないかな?ギブ&テイクじゃないけど納得はできる。それに三割って悪い数字じゃない。
昔の日本なんて四公六民でも良い方だったし、安全が守られるなら納得できると思う。
「納税の義務の無い連中って、どんな人たちなの?」
「自己防衛・自給自足のできる連中は自らの集落を作り暮らしてるわ。
人間以外の種族の多くは自分達だけの村を作っているわね。私の種族、ラミア族もそうよ」
「あとは盗賊とか街や村に住めない犯罪者の集団とかもよ。ほとんどが人間だから他の種族の村には攻められない。
地力が違うからだけど、その代わりに同じ人間を襲ったりするの。盗賊は捕まると問答無用で死罪よ」
デルフィナさんとアリスの説明は対極的だ。
つまり人間の軍隊の庇護が不要な強い種族は街や村には住まずに、自分たちのコロニーを作るのね。
そして犯罪者は犯罪者で自分たちの拠点を作る。
デルフィナさんを襲った連中のことか……
だから二人は生き残りを罠に掛けて拠点のお宝を奪おうと計画してるのは、この世界では一般的な考え方なのかもしれない。
確かに生きていては周りに害悪しか撒き散らさない連中だが、現代日本的な思考を持ってる僕からすれば考え方が怖いんだ。
「僕らはどうしたら良いかな?三人だし秘密も抱えてるし生活基盤も弱い。
税金が三割なら何とかなりそうだけど、安定した収入が無いから厳しいよね?」
そもそも年収が不確定なのに、三割とか計算できないじゃん!
デルフィナさんはともかく、僕もアリスも訳有りだ。街や村には住めないよね?
革鎧の調整が終わったのか、今度は革靴の手入れを始めたデルフィナさんに質問する。
単に安全だけを考えるなら、街や村に住んだ方が良い。
だが収入の無い僕等じゃ税金を払えるか分からない。納税を怠ると、どんな罰則があるか分からない。
仮にも国家権力に逆らうわけだから、最悪の場合は死刑?
「ここに住めば良いですわ。モンスターを狩って街の騎士団駐屯地でお金に替えて生活すれば良いと思います」
モンスターを狩って生活できるなら、冒険者ギルドは要らないか。生活用品とかは最寄りの街や村に行けば手に入る。
何と無くだが、この世界で生きていく希望が見えたかな。
要はハンターだ!
ドラ○エかと思ったが実はモン○ンだったんだよ、この世界は。
「ありがとう、何と無くだけど生きていくことに希望が見えたよ。僕はハンターとして生きるよ!」
革靴の手入れを終えてロングソードの手入れを始めた彼女たちに微笑む。
僕の異世界ライフはモ○ハン張りのハンターとして、これから……
「「まずは盗賊の生き残りを捕まえて、拠点を襲うわよ!」」
ハモッたぞ、怖いことを言ったのにハモッたぞ!
「絶対に逃がさないですわよ。主様(あるじさま)は生活力が低そうですから、奴らから取れるだけ搾り取らないと駄目です」
「当然だよ!お兄ちゃんを襲ったホモ野郎の仲間なんて、悉く滅べば良いよね。アリスも頑張って燃やすから大丈夫」
嗚呼、夢現(ゆめうつ)つで聞こえたアレって現実だったのか……それに主様って何だろう、怖くて聞けないや。
凄い良い笑顔で仲良さそうにガールズトークを始めたが、内容は肉食系狩人でしかない。
会話は盛り上がるが、彼女たちは丁寧に刃物の手入れをしているんだ。
キラリと煌めく鋼の刃をウットリした表情でボロ布で拭いているんだよね。
僕は思わず目を逸らした……
確かに盗賊たちには同情はするが、自業自得だろう。
この生きるには厳し過ぎる世界では、普通なんだと思うことにする。
結果的にアリスとデルフィナさんが仲良くなれれば、僕は盗賊が壊滅しようが構わないんだ。
◇◇◇◇◇◇
食事が改善され寝床も簡素ながらベッドを使えるようになった。勿論、彼女たちとは別々だ。
洞窟だから敷居も何も無くて仲良く並んでいるが、一応別々だ。
隣で寝ているデルフィナさんを見ると男の何かが芽吹くのだが、シュルシュルと動く下半身を見ると萎え……いや、平常心に戻るから不思議だ。
因みにアリスだが、寝るときは一緒だ。
理由は湯タンポ代わりだから……美幼女は、とっても温かいんだぜ。
どうやら性欲は湧くのだが、精気を吸われると同時に発散か昇華されるらしい。
だから僕は美女と美幼女と共に生活をしていても暴走せずに済んでいる。さて食事と寝床が充実したら残りはコレです。
「風呂です、風呂!温泉です、露天風呂です、最高です!」
「主様が綺麗好きで嬉しいです。ラミアは蛇ゆえに水浴びが大好きなのです。
そろそろ冬になりますから、温かい水が湧き出るここは大切な場所なんですよ」
デルフィナさんが教えてくれた、取って置きの場所とは温泉だった。
水場が非常に重要なラミア族だけあり、綺麗な泉に温泉の湧き出る岩場が近くにある洞窟を見付けたときは凄く嬉しかったそうだ。
だが、火山や地熱とかの概念は無いらしく、何故お湯が湧くかは分からないそうです。
岩場の窪みにお湯を張って掛け流しにしているので、常に綺麗な温泉だが効能は単純泉だと思います。
特に硫黄の匂いもヌメヌメした感触も無く無色透明なお湯だから……
岩場は狭く六畳ほどの広さで深さは70㎝くらいだが、デルフィナさんと混浴しても十分な広さがある。
因みにアリスはレイスゆえに汚れが気にならない種族なので、温泉に浸かることに興味が薄い。
そして混浴に対して、そんなに忌避感は無いらしく常にデルフィナさんとは一緒に入っている。
「主様、もう少し寄った方が良くないですか?そんな隅に居なくても大丈夫ですよ」
「いえ、大丈夫です。近いと色々と不都合がありますです、ハイ」
ラミアなデルフィナさんはトグロを巻いた状態で湯に浸かってます。
つまり近付くと、その蛇な胴体に腰掛けるみたいになるので遠慮してます。
「そうですか?色々なんですか?」
「ええ、色々です」
温泉に入るのは大抵寝る前なので夜です。
月明かりの中で幻想的に湯に浸かるデルフィナさんを見ると、まるでビーナス誕生みたいに絵になるなぁ……
「あまり見つめられると恥ずかしいですわ。本来なら旦那様にしか肌は見せないのですよ」
微かに頬を赤らめて胸を隠すデルフィナさんを見て思う。混浴に忌避感が無いって言ってませんでしたか?
◇◇◇◇◇◇
「剣はあまり使ったことはありませんが、幾つかの型を体に覚え込ませることが上達へのコツです。まずは基本からです」
レベルの上昇により肉体的なスペックは上がっていくが技術的なものはそのままという素敵仕様を何とかするために、デルフィナさんに教えてもらっている。
彼女は長柄の武器を得意とし、接近戦ではハンドアックスを使う。
剣術は齧った程度と言うが、ズブの素人よりは数倍もマシなので教えてもらっている。
先ずは武器に慣れること!
数日間、ひたすらにロングソードを振るだけだ。
最初の頃は切る・突く・払うの動作を各100回も行えば直ぐに疲れてしまったが、最近は倍程度は平気になった。
デルフィナさん曰く余計な筋肉を使わずに自然に剣が振れ始めているらしい。
「だいぶ慣れてきましたね。最初より鋭さが段違いですよ。では次は私の振るう槍を躱すか払ってください。実地訓練です」
近くで見ていたデルフィナさんが、いきなりそう言いだすと槍を構えた。
「ちょ、いきなり?」
「行きます!」
直線で突いてくるので何とか払えるが、当然の如く押され気味だ。
「相手の動きをよく見てください」
「ちょ、無理……だよ!全然見えないんだけど?」
僅か2分で完敗だった。首筋に槍先を突き付けられ両手を挙げて降参する。バタリと大地に仰向けに倒れこむ。
「はーしんど……全然無理だよ」
「動きは悪くないですよ。私の本気の突きを躱せるなんて、ビックリしました。主様は剣の素質がありますよ!」
この状況では素直に喜べない。訓練あるのみだ!