初めてアリス以外のホモサピエンスに遭遇した。アリスは正確にはレイスだが関係無い。
奴らは世紀末救世主伝説に登場するヤラレ役の下っ端みたいだった。
だが奴らの盗賊丸出しな会話を聞いて、僕は腰を抜かしてしまった。
モンスターは何とか倒したが、元は一般人なんだ。人間相手に争いなんて、したことが無い。
だが、奴らはここがアリスが封印されていた教会だと見抜いた。
彼女を殺人鬼呼ばわりすることに怒りを覚えたら、腰が抜けた体に再び力が戻った。
会話の内容から、奴らはアリスに害をなす気がする。
まずは情報を集めなければ……
◇◇◇◇◇◇
「まぁ待て。
確かに煙が立ち上ってたから念のために来てみたが……ここは殺人を繰り返した神官見習いを封じ込めた教会っぽいぜ。
今まで近くを歩いてたのに気が付かなかったのは、結界が壊れたのかもな」
野太くデカい声だ。頭だろうか?しかし、焚き火の煙で奴らを呼び寄せてしまったのか……
迂闊だったな。
「お頭!ここにもお宝があるかもしれないぜ。虱潰しに探そうぜ」
「そうだぜ、お頭!封印されてたんなら、一緒に財宝があるかもしらないぞ」
お宝?財宝?最初に見付けた水晶玉のことかな?確か腰に下げた袋に入れっぱなしだけど……
「馬鹿やろう!
ここには、お宝なんか無いぞ。それより殺人鬼と鉢合わせないうちに移動だ。
奴はレイスらしいが、俺たちは悪霊に効く武器や道具も無いんだ。本命はラミアだ!
奴は何人もの人間の精気を喰らい財宝を集めている。全部横取りする計画に支障が出ちゃならねぇ。
それにかなりの美女らしいから、弱らせれば楽しめるぜ。予定通りラミアを狩りに行くぜ!」
「ギャハハ、そりゃ楽しみですぜ。妖魔は人間の女より具合が良いって言うしな」
下品な会話をして盛り上がる盗賊たち……聞いていて胸がムカムカしてきた。しかし、ラミア?狩る?
ラミアって下半身蛇な美女たっけ?
何人もの人間の精気を喰らうラミア……考え込んでいると、盗賊たちが移動する足音が聞こえる。
結構近いぞ……息を殺し足音が過ぎ去るのを待つ。10秒ほど数えた後に思い出した。
そうだ!
僕は他人のステータスが見れたんだ。慌てて外を窺うと、既に10m以上離れている。
僕は頭の中でステータスと念じて去り行く盗賊達を見る。
職業 : 下っ端盗賊
称号 : 街のチンピラ
レベル : 8
HP : 12
MP : 0
筋力 : 5
体力 : 4
知力 : 2
素早さ : 4
運 : 10
職業 : 古参の盗賊
称号 : お頭の右腕
レベル : 30
HP : 86
MP : 0
筋力 : 45
体力 : 38
知力 : 15
素早さ : 21
運 : 20
職業 : 盗賊
称号 : 男色の猿
レベル : 18
HP : 59
MP : 0
筋力 : 28
体力 : 25
知力 : 5
素早さ : 22
運 : 18
後ろを歩く三人しか情報を得れなかった。
最初の一人は下っ端だけあって能力も低い、低過ぎるだろ。
アレは初期パラメーターがオール1の村人Aが、無理矢理レベルアップした感じだ。
次の古参の盗賊は、お頭の右腕だけあって能力が高い。ほとんど僕の倍は強いが、レベルで比較するとパラメーターの上昇が低い気がする。
同じレベルまで上げれば僕の方が強くなりそうだが、現状は圧倒的に向こうが上だ。お頭は当然だが奴より強いのだろう。
最後の奴……男色の猿って何だ?
ホモなのか、ホモの猿なのか?攻めか受けで危険度が段違いなんだけど!猿って絶倫って意味だろ?
猿にオ○ニーを教えると、衰弱するまでヤリ続けるって聞いたことがあるし……色んな意味で危険過ぎる連中だ。
アリスが戻ってきたら相談しないと駄目だな。
この廃墟に居ることがバレた時点で、いつかは襲ってくるのは確実だ。奴らはアリスがレイスと知っていた。
ならばラミアを狩った後に装備を整えてアリスを狩りに来るかもしれない。それは何としても防がないと。
だけどラミアって本当に居るのかな?
名前がラミアで普通の人間だったらどうするんだ……
◇◇◇◇◇◇
奴らが廃墟を離れるまで、隠れながら様子を見た。
芥子粒みたいに小さくなるまで見届けたから、しばらく戻ってくることはないだろう。
漸く全身の力を抜いて座り込む……背中を嫌な汗が流れる。
肌寒い季節なのに額からも汗が頬を伝う。喉も渇くし緊張し過ぎだろ!
「何とか見付からずに済んだ。しかも少しながら情報も得られた。あの盗賊たちはズダ袋や背嚢しか持ってなかった。
つまり徒歩でも到達可能な場所に街がある可能性は高い。
仮に盗賊のアジトかもしれないが、奴等だって街に用事があるから遠くに拠点はおいてない」
言葉にすると考えが纏まって論理的な感じがする。この教会の廃墟だが、人除けの結界が壊されたのは確かだ。
まぁ、壊したのは僕らしいけど……つまり盗賊の他にも来る連中は必ず居る。
今の僕たちには、他の人間に会うことはデメリットしか無いような気がする。アリスの件をよく考えないと駄目だ。
「考え過ぎても駄目だ。ヨシ、探索を再開しようか」
知らぬ間に座り込んで考えてしまったが、勢い良く立ち上がり尻に付いた埃を払う。
◇◇◇◇◇◇
引き続き午前中いっぱい、廃墟の探索をするが、考えることが多くて中々身が入らない。
だが成果は、それなりにあった。素焼きの壷が三つと小皿が十枚、大皿が四枚に深皿が二枚に椀が二つ。
農工具らしい鍬みたいな物が一本。先端の鉄の部分も錆びてはいるが使えるだろう。
毛布らしき大きな布に大小の袋が数枚。麻っぽい紐が二巻き、長さは10mくらいだ。
よく分からないが長さ2m直径5㎝くらいの棒が10本。木剣みたいな物も一緒にあったから、練習用の武器なんだろうな。
実戦では使えないから置いていったのか?
物の少なそうな世界だから、残置物はそんなに無いのだろう。全ての戦利品を教会に運び込む。
太陽の高さからして昼を少し過ぎた頃だろうか?ようやくアリスが戻ってきた。
◇◇◇◇◇◇
「お兄ちゃん、ただいま!何か見付けられた?
アリスね、綺麗な泉と洞窟を見付けたよ。その周りには林もあるから移住するなら良いかも。
モンスターのレベルもここより一段階高いから、お兄ちゃんのレベルアップにも有効だよ!」
尻尾があれば左右にパタパタ激しく振ってると容易く想像できる。
所謂褒めて褒めて状態のアリスの頭を撫でる。サラサラの金髪が指の間から流れるように梳いていく。
「そうか、丁度良かったよ。
ちょっと前だけど盗賊の一団が廃墟に来たんだ。奴らは焚き火の煙を見付けて様子を見に来たんだ。
近くにラミアが居て、狩りに行く途中らしい。
だがお頭らしき男が、アリスのことを……教会に封じ込められたレイスのことを知っていた。
奴らは対レイス装備じゃないからと去っていったが、用心のために引っ越そう」
彼女の目を見て話す。いくらレベル35のレイスとは言え、女の子なんだ。危険に晒すわけにはいかない。
「有難う、お兄ちゃん。
盗賊連中に知られたなら、そのうち噂は広まるね。
アイツに私が解放されたって伝わる前に、この廃墟からは引っ越さないと駄目かな。
私は人間に害なすモンスターだからね。討伐隊が来るかも……お兄ちゃんも危ないと思ったらアリスを置いて逃げてね」
アリスの悲しそうな顔を見て、胸が苦しくなる。理由はどうあれ、彼女を悲しませてしまった。
「お昼にしよう、お兄ちゃん。未だ慌てなくて大丈夫。でも二三日中には引っ越そうね。朝は魚だったし昼はお肉にしよう」
気丈に振る舞うアリスのことが愛おしく思う。
思わず彼女を抱き締める。
この両手にスッポリ収まるアリスが、小さな女の子のアリスが、討伐されなきゃならないって何だよ!
「大丈夫、大丈夫だ。僕はアリスから離れない。もっともっと強くなってアリスを守ってみせるから、大丈夫だ」
彼女と行動を共にするということは、人間たちに追われる危険性がある。だが、僕は彼女を見捨てることはしない。
アリスが居なければ、僕は遅かれ早かれ死んでいただろう。ならば、この腕の中に収まる女の子と一緒に居て守れば良い。
討伐隊が来るなら逃げれば良いんだ。都市国家群みたいな世界だし、他の都市に逃げ込めば大丈夫かもしれない。
写真も無い時代だし、精々が似顔絵か噂程度だ。何とでもなるさ!
「有難う、お兄ちゃん。アリス……嬉しいよ。
レイスになってから優しくしてくれたのは、お父様だけだったんだ。私、本当にお兄ちゃんと一緒に居て良いの?」
涙を浮かべて見上げる金髪美幼女にクラクラする。もうロリでも良いよね?
「ずっと一緒だよ……」
アリスが感極まって僕を抱き締めてきた。僕のお腹に顔を押し付けて泣き出してしまった。
彼女が泣き止むまで、優しく背中を撫でていた……
◇◇◇◇◇◇
隙間から日差しが差し込む教会の一室。藁に布を掛けただけのハイジのベッドで目覚めた。
お腹の上には美幼女レイスのアリスが乗っている。僕が身動ぎした所為が、眠っていたアリスも目覚めたみたいだ。
綺麗な睫毛がピクピクと動いている。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おっおはよう、アリス」
互いの息を感じるほど近くで見つめ合って、朝の挨拶を交わす。あの後、彼女が泣き止んでからお互い気恥ずかしくなってしまった。
だがアリスを守ると言った以上、遊んではいられない。
午後は今まで以上にモンスターを倒し、夕方ヘトヘトになる頃にようやくレベルが上がった。
◇◇◇◇◇◇
職業 : 見習い魔法剣士
称号 : リア充なロリ
レベル : 7
経験値 315 必要経験値 320
HP : 60/60
MP : 14/14
筋力 : 28
体力 : 20
知力 : 17
素早さ : 22
運 : 7
魔法 : ヒール
装備 : ショートソード 布の服
◇◇◇◇◇◇
数値的には古参の盗賊の奴と殆ど同じくらいになったが、相変わらず運は低い。下っ端盗賊より低いってのが納得できない。
もしかして盗賊って職業補正か何かで運が高いのか?少なくとも、もう1レベルぐらいなら直ぐに上がるはずだ。
そうしたらアリスが見付けた洞窟に引っ越そう。
「お兄ちゃん、何を考えているのかな?」
◇◇◇◇◇◇
昨日もお兄ちゃんと一緒の布団で寝た。
正確にはお兄ちゃんの腹布団の上で現在進行形で寝ている。胸が規則正しく上下するから揺り籠みたいで気持ち良い。
それにお兄ちゃんの体は凄く温かい。こんな禁呪で産み出された化け物の私と、ずっと一緒に居てくれるって言ってくれた。
最初は変態な人だった。
ブーツ以外は何も服を着ない裸族だったし、股間を見せ付けるし。だけど封印を解いてくれたし、お礼をしたら別れるつもりだった。
次は変なお兄ちゃんだった。
常識を知らずなのに変な知識は持ってるし、どこかのボンボンかと思った。
次は異常な人だと思った。
とにかく、成長速度が異常なんだ。街の子供から下級兵士レベルまで一日で成長するなんて聞いたことが無い。
それに、この世の者とは思えない精気の味!もう麻薬みたいに毎日吸いたいと思った。
嗚呼、この男性(餌)から離れない、吸い尽くすまでは離れられないと感じたの。
だからなるべく良好な関係を築こうと努力した。
でも、でも……
打算で接する私に、お兄ちゃんは本気で心配してくれた。精気を吸う妖魔は人間の天敵だ。
一緒に居るだけで討伐されるくらい、人間たちにとっては危険な存在、裏切り者と思われてしまう。
だから高位神官で司祭のお父様でさえ殺された。でも、でもお兄ちゃんは、そんな化け物の私と一緒に居てくれるって。
無防備に化け物の私をお腹に乗せて寝ていることで、お兄ちゃんの本気度が分かる。
お兄ちゃんは、私を信頼してくれている。こんなに嬉しいことはないわ……
あっ、お兄ちゃんが起きそうだ。
少し寝た振りをしよう。お兄ちゃんがモゾモゾし始めたので起きたのだろう。
寝た振りをしているが、何故か可笑しくなって睫毛がピクピクしちゃう。もう駄目、目を開けよう。
「おはよう、お兄ちゃん」
「おっおはよう、アリス」
満面の笑顔で朝の挨拶をする。お兄ちゃん、少しどもって顔も真っ赤だ。
顔が近過ぎて恥ずかしいから伏せるようにお兄ちゃんの胸に頬を付ける。
トクントクンと心臓の鼓動が聞こえる。体から滲み出る精気を少し吸うと、変な気持ちになっちゃう。
お兄ちゃんも私のことを意識してくれて……る?アレ?何か別の事を考えている顔だ。
むぅ?ここにこんなにお兄ちゃんのことを考えている女の子がいるのに、こんなに密着しているのに別のことを考えちゃうんだ?
「お兄ちゃん、何を考えているのかな?」
顔を上げて聞いてみる。可愛い女の子よりも考え事をしてるなんて駄目だぞ。そっとお兄ちゃんにキスをする。
唇が軽く触れるだけの、本当に軽いキスを……
の心算だったけど、啄ばむようなキスを何度もして普通のキスもしちゃった。キスしながら少しずつ精気を吸ったのは秘密。
精神的な幸せと物理的な満腹感が得られるって凄い!
お兄ちゃん、何故か悶えて「俺はロリじゃない」とかブツブツ言ってるけど無視した。
だってディープキスだと、根こそぎお兄ちゃんの精気を吸ってしまいそうだから。愛しいって相手の全てが欲しくなるんだね。
「ごっゴメンね、お兄ちゃん。
だってアリスがこんなに近くに居るのに、他のことを考えているから悪いんだよ。
アリス、放っておかれると寂しくて死んじゃうんだからね?」
思わず精気を吸いすぎてしまい、痙攣しているお兄ちゃんに謝る。密着し過ぎると理性に歯止めが利かなくなっちゃうよ。
これは制御を訓練しないと、お兄ちゃんと子作りができないかも……