聖櫻学園記   作:ササキ=サン

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幸せでも不幸でもない、そんな普通のエンディング


NORMAL END 綻 東の在り方

「という夢を見たんだ」

 

聖櫻学園への招待状をヒラヒラさせながら、俺は呟いた。

 

本当にただ少しの、好奇心に駆られた結果の未来予知。あまねく世界線を見渡し、これから分岐する平行世界の可能性まで見通して、その結果俺はため息をついた。

 

将来、俺、ヒロインみたいになってるじゃないですかーやだー。

 

未来の自分が見知らぬ他人にデレてるのを見て、途轍もない寒気に襲われ、鳥肌がスタンディングオベーションした。

 

「ぃゃ、ぅん.....でもまぁ、分からなくもないちゃないんだよな」

 

頬をぽりぽりと掻いて、独り言をブツブツと呟く。はたからみたら中々危ない人だが、そう見られるのも吝かではないので直そうとは思わない。むしろに積極的にやっていきたいね。未来の俺がホモとかロリコンとかのキャラ付けをしたように、俺も何かのキャラ付けをしようか。そうだな、百合を見てるのが好きとかどうでしょう。

 

さて、どうでもいいことはひとまず置いといて、まず、これからのことについて考えなくてはならない。

 

聖櫻学園招待状

 

俺が見た未来の光景が正しいのなら、ここに行けば俺はほぼ確実に死ぬ。一応ハッピーエンドの可能性も見えなくはなかったが、確率は数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの0の末に、1が来る形だ。数学的にはもうこれは0と割り切っていい。

 

トラウマ刺激されて自殺する、か。何万、何億と殺してきた殺戮者が、聞いて呆れる。爆笑。本当に滑稽で滑稽で、仕方がない。まあ俺のことなのだが。

 

未来の自分へのスーパー自虐タイム。お前どこのラノベ主人公だよ、と言わんがばかりのモテっぷりを発揮した未来の自分を笑う。嗤いはしないが、笑う。気分は仲の良い友人がコスプレしているのを見て、大口開けて笑っているような気分だ。友達いないから実際にそうかは知らないけど。

 

さて、俺が今考えるべき議題は、この後聖櫻学園に行くかどうか。つまり、可能性を目指すか、それとも平凡な日々にゆっくり死んでいくか。

 

俺が本当に欲しいものは、きっと聖櫻学園にある。俺自身欲しいものなのか、欲しかったものなのかの正しい判断はついていないのだが、あそこに希望があることだけは正しく理解できる。

 

生きることは辛い。本当に四苦八苦というかもう、本当....ねぇ。疲れるったらありゃしない。未来の俺も基本的にその思想は変わっていなかったし、今の俺だってそうだ。

 

俺が生きているのは、楽しいからとか、何かが欲しいからとか、そんなんじゃない。ただ単に贖罪なんだ。過去の記憶を抜いて、今の感情だけ残したら、俺はマッハで自殺する確信がある。いやむしろライトニングで自殺するね。

 

でもできない。

 

「たくさん殺してきたからな。せめてその分、生きなきゃ」

 

未来の俺はこの耐久レースにギブアップしていたが、俺自身もいつギブアップするかは分からない。でも、俺は最期まで苦しまなければならない。殺戮者に、本来平穏なんてあるはずもないのだから。

 

まあ、死んで全てが終わりとか、都合よすぎるぜ馬鹿野郎ってことだな。

 

「そう考えると、未来の俺も随分考え方が変わったんだな」

 

最後に見た俺自身は、完全に笑っていた。過去にとらわれることなく、その瞳はしっかりと前を向いていたのだ。その顔面に、お前が今までどんなことをしていたのか、拳を叩き込んで、思い知らせてやりたいが、まあ、ここは許そう。自分自身に甘いことには定評がある俺なのだ。邪神は俺のこんな気質を自慰とか卑猥な言葉で言っていたが、どうってことはない。自分しか味方はいないのなら、やはり頼れるのも自身だけだ。

 

「.....俺に救われる価値はあるのか」

 

呟いてみるが、その問いに対する答えはNOだと思った。

 

第一、未来の俺はちゃっかり忘れているようだが、俺は一体何人の善人を殺してきただろうか。いくら愚王の嘘に踊らされていたとはいえ、殺したことは確か。転生したけれども、魂はしっかり引き継いで意識も継承しているから罪は続行。紛れもなくギルティーである。

 

では大問を変えよう。俺は今後出会うはずの櫻井とかに救われたいか?

 

答えはNO。見知らぬ他人に心を暴かれて改心させられるのは、ひどく嫌悪を覚える。

 

正直に言おう、俺は、救われた未来の俺自身がとてつもなく気持ち悪く感じた。

 

未来の俺自身に抱いたイメージは、何というか薄い本の快楽堕ちみたいな感じ。お○んこには負けない→何これ気持ちいい→あへぇぇ→お○んこもっと、もっと。というか感じだ。例えはくそだが、あながち間違ってはいないように思える。

 

未来の俺も変えられたんだ。櫻井と出会って、色々な経験を通して、幸せが欲しいと願ったんだろう。

 

間違ってはいない。人としては間違ってはいないさ、アズマ。

 

でも、俺は変わりたいとは思わない。未来の俺は俺であっても、俺ではない。

 

確かに生きることは苦しい。辛いし、死にたいし、今でも殺してしまった人の顔が思い浮かぶ。寝てる時とかうっかり無意識で自殺しそうになってたりするし、人は好きだけど嫌いとか意味不明な矛盾も抱えている。

 

だけど、だけどそれも含めて俺なんだ。背負うべき罪で、贖うべき罪だ。

 

俺は、幸せになってはいけない。いや、なりたくない。

 

「じゃあ、どうするか」

 

ここで聖櫻学園への招待を断ったって、謎の国の権力とかで入れさせられるのは目に見えている。つまり、生半可な策じゃ未来は変わらない。

 

考える。

 

一秒経過。

 

「あ」

 

思いついた。

 

深呼吸。すぅ、はぁ。

 

「この家にも、けっこう世話になったな」

 

Q.ラノベ主人公みたいな未来を変えるにはどうすればいいですか?

 

「書き置きは、しっかりしとかないとな」

 

A.旅に出ろ

 

思い立ったが何ちゃらら。俺は一秒もかからずに書き置きを残し、必要な荷物をドラえもん的なポケットにしまい、旅支度を終えた。

 

窓を開ける。天気は...曇りだな。少し拳を振るう。よし、晴れだ。良い天気。太陽燦々。

 

「俺たちの戦いはまだまだこれからだ」

 

ジャンプの打ち切りみたいな一言を残し、床を蹴る。空中で一回転して外に出て、スタッとコンクリート上に着地した。

 

「うわぁ!?」

 

唐突に飛び出てきたせいか、通行人Aが驚きの声をあげた。あ、すんません。

 

妙な気恥ずかしさを誤魔化すため、俺はさっさとその場を去ろうと自重せず瞬間移動をしようとした。

 

が、

 

「あの....どこかに行くんですか?」

 

「ん?」

 

通行人Aに声をかけられた。

 

ちょっと予想外。変な汗をかいてると声はそのまま続いた。

 

「あっ、いや、急に家から飛び出てきたから、家出かな....って」

 

言われて、自身の容姿が他人から見たら中学生くらいだったことを思い出す。そうか、いやまあ、そんなヤンチャな年頃に見えるから心配されるんだろうか。

 

って何で窓から一回転して出てきたところがツッコまれないんだよ。

 

「いえ、お構いなく」

 

言って、そのまんま走って立ち去ろうとしたところ、俺は硬直した。

 

理由は、通行人A。

 

俺は初めて通行人Aを見た。

 

 

さくら、い....

 

 

口からポロっと吐きそうになった彼女の名前を、無理矢理飲み込む。

 

嘘だろ。

 

ちょ、嘘だろ?

 

ーーまあ落ち着け俺

 

冷静に思考。本当に一瞬だけ混乱しかかったが、こちらは最強の武道家。刹那の間に我に返る。別に今、櫻井と会ったからなんだってんだ。

 

俺が櫻井を一方的に知っていることはあっても、櫻井が俺を知っていることはあり得ない。大丈夫、怪しいことはせずに無難去ろう。

 

そろりそろりと脚を動かし、櫻井に背を向けてその場を去る。

 

 

 

「戻ってくるよね?」

 

 

 

ーーーえ?

 

「ぁ、いや、あれ?違くて....ぇーと、戻ってきますよね?ん?何で?」

 

言ってる櫻井本人も混乱している。何が彼女の口を動かしたのか、彼女自身さえ分かっていないのかもしれない。

 

でも、

 

でも、どうしてだろう。

 

どうして僕は泣きたくなる?

 

櫻井、お前、おかしいよ。

 

知らないはずだろ?なのに、何で、そんな全て知ってるみたいに....。

 

 

ーーーー。

 

ーーーー。

 

ーーーーなるほどね、こういう奇跡とか、色々なものが積み重なった結果、お前は絆されたんだな。

 

なら、俺が答えるべき言葉は。

 

「多分ね。メイビー、いや、きっと」

 

適当に、やる気なく、俺らしく振る舞う。これが綻クオリティー。

 

.....そんな顔するなよ櫻井。

 

まあ、いいか。オトンとオカンには恩があるんだから、これで一生さよなら、というわけにもいかない。

 

 

 

「必ず戻るよ、櫻井」

 

 

 

今日はやけにサービス精神が旺盛だな、俺。

 

うん!ぇ、名前?あれ?まぁいいか。と呟いてる櫻井は置いといて俺は地を蹴る。ゴゥ、と一気に空を割いて舞い上がり、空を翔ける。

 

さて、どこに行こうか。外国にいってみるのもいいな。むしろもう異世界にいってみるものいいかもしれない。

 

なんだ、思ったより人生楽しいじゃないかちくしょう馬鹿野郎。

 

さて、まあ何はともあれ。

 

 

 

俺の冒険はまだまだこれからだ

 




これにて完全完結!!

みなさんお疲れ様でした!!

最後までお付き合いありがとうございます。そしていかがだったでしょうか、アズマの物語は。

主人公最強という特性を突き抜けたらどうなるか、という妄想と、可愛らしい主人公と、当時のマイブームだったガールフレンドが混ざり合ったカオスな作品でしたが、楽しめたでしょうか。楽しめたら幸いです。

本来東方編などがあったんですけど、東方の物語は別のものでやることにします。

それでは最後の挨拶。みなさん、ここまでご愛読ありがとうございました。

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