聖櫻学園記   作:ササキ=サン

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あ、あのさ、今日で僕たちが付き合い初めて4周年だろ?

ちょ、ちょっとプレゼントがあるんだ.....。こ、これっ!

絶対に幸せにする!絶対に幸せにするから.......ぼ、僕と......

僕と結婚してください......お願いします.......


第三十二話後→椎名END あなたとの日々

「心実、おい心実、起きろコラ」

 

ばふんと、椎名 心実が被っていた布団が吹っ飛んでいく。それを東は苦い顔で見つめ、ツマンネ.....と呟く。

 

「はふぅ?あなた、おはようございます.....」

 

ゴシゴシと眠そうな目を擦りながら、椎名はおはようのキスを東にかます。

 

「ん、おはよう」

 

キスをされながらも冷静を取り繕い、内心の動揺を上手く隠す東。

 

結婚して既に6年。五歳児の子供がいるほどの色々なナニかを経験してきたのだ。こういった不意打ちを受けても激しく動揺したりしない程度には、東は慣れを得ていた。

 

「ふふふ、あなた、顔が真っ赤ですよぉ?」

 

少しだけだが。

 

寝惚け眼のとろんとした瞳で椎名は東を見つめる。今だに初々しいこの旦那が、愛しくてたまらないのだ。さらに深く口付けをしようと、ゆっくりと椎名は東に顔を近づけ.......

 

「あー、またママがパパとえっちなことしようとしてるぅー」

 

はっ、と。東はその声で椎名からわずかに距離をとる。あまり過度なスキンシップを子供の前でやるのは、教育に悪いと親バカを彼は発揮しているのだ。

 

母からしっかりと朝の弱さを遺伝した東と椎名の娘、綻 明娘(あこ)。東と心実の頭文字を取って、あこ。命名は割と適当に東が一秒で名付けたものである。が、それは一般人の目線である。実際東は体感時間を何千倍にも伸ばし、ひたすらに考え悩んでいたことは誰も知らない事実だ。

 

「ねぇーパパぁ、あこにもママみたいにチューしてー」

 

母と似たように目をこすりながら、東に抱きついて甘える明娘。その光景を椎名は微笑ましそうに見ながらも、ほんとに少しだけ胸の内にちくりとした感情が彼女の中で湧いていた。

 

生まれた時から、母より父の方が好きだった明娘。泣いていても東が抱っこしてあやせばすぐ泣き止み、最近自我が強くなるにつれて父にベタベタと甘える我が娘を見て、椎名は非常に複雑な思いを抱いていた。

 

定番の、おおきくなったらパパのおよめさんになるーは既に4歳の時に済ましている。

 

父に似て明娘も非常に大きな才能を秘めている。周りの子といる時、娘は同じ歳のものとは思えないほど大人びた態度をとる。それと反対に、東といる時は年相応に父に甘える明娘を見ていると、我が娘ながら非常に強かな面があり、得体の知れない危機感を感じずにはいられない心実である。

 

「はいはい、お前もさっさと起きろ。飯だぞ飯」

 

「うー、あこはママのついでですかぁー?」

 

「ど、どこで覚えてきたそんなこと......」

 

数分後、朝食。

 

「ふぇぇ.....パパのりょうりおいしいよぉ......」

 

「なぜだ、我が娘ながら猛烈なあざとさを感じる」

 

「ふふふ、パパの料理は美味しいですよね?明娘」

 

「うん!ようちえんのごはんね、あんまりおいしくないのー!」

 

「あら、先生の前でそういうのは言っちゃ駄目ですよ?」

 

「パパのまえはー?」

 

「パパは喜ぶから良いんですよ」

 

「パパおりょうりじょうずー」

 

「や、止めろお前ら.......」

 

目を逸らして照れてる東。やはり以前と対して変わっていないように思える。

 

何気に、東は綻家の全食事をまかなっている。時折椎名が手伝ったりしてはいるが、大抵は東がハイスペックを駆使して盛大に主夫っているのだ。洗濯炊事に掃除、その他エトセトラ。だいたい気づけば全て終わった後なのだ。

 

東は幼稚園に明娘を連れて行き、椎名は務めている会社に行く。これが普段の綻家の朝だ。

 

幼稚園に明娘を連れて行っている東が父だとは、職員園児一同気づいてはいない。誰もがボーイッシュな服装を好む奥さんだなーと近所の人まで思っているのだ。そういう人物は椎名という妻を見ると混乱する。見た人は密かにレズカップルと噂しているくらいなのだから。

 

「またねーパパ!はやくおむかえにきてねー!」

 

「おう、早く行くから良い子にしてろよ」

 

「うん、またね!だいすきだよパパ!」

 

チュ、そんな擬音を残して明娘は駆けて行く。

 

「.......転ぶなよ」

 

複雑な顔で頬を触りながら、東は呟く。まぁ、一時的なファザコンだろうとあたりを付け、東はその場から跳躍する。

 

それが後に深刻な悩みになることを、東は今だ知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

娘に、東はパパはどんなおしごとをしているのー?と聞かれたことがある。その時は曖昧に笑って、人の役に立つお仕事かなと東は答えた。

 

だが、実際彼は非常に多忙な仕事をしている。

 

嫁の安定した職のために、会社を作った。

 

娘のために、ちゃっかり私財で幼稚園を立てている。

 

嫁や娘の幸せの為に、一応いくつもの医学や、科学の特許をとるような発明もした。

 

嫁や娘の平和の為に、数年前から出没する世界を救う謎のヒーローとして活躍している。テロ組織を潰したり、麻薬の密売を全て阻止したり、轢かれそうな人を颯爽と助けたりなどなど、何気に真っ白なお面を付けて行う彼の救済行動は、全世界の社会現象にもなっている。

 

故に統合して彼は、人(嫁、娘)の役に立つお仕事と曖昧に笑ったのだ。

 

「心実は、受け入れてくれたからな」

 

空を飛び、今日も元気に救済活動をしながら東は呟く。

 

思い出すのはあの日のこと。

 

櫻井に拒絶され絶望のどん底にしずんでいた彼を、椎名は誰よりも早く駆けつけて救ってくれたということ。

 

その後、みんな自分を拒絶しないということが分かった。椎名があと少し遅ければ、彼はみんなとすれ違ったまま死んでいただろう。

 

あの日の詳細は、思い出すだけで東は真っ赤に赤面する。色々と恥ずかしいのだ。

 

その後、告白は椎名からした。驚きに顔を染めながらも、最後に彼は満面の笑みと共にYESと答えた。

 

プロポーズは、東からすることができた。このままヘタレててはいけないという謎の天啓をもらい、行動したのだ。

 

「今の俺は、幸せだな」

 

呟いて、時計を見る。そろそろ、娘の迎えの時間なのだ。

 

彼は空を蹴り、再度跳躍する。すれ違った飛行機に軽く手を振り、東は家に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。明娘も寝てしまい、二人でリビングで落ち着いた時を過ごす時間。

 

「あなた......」

 

「どうした?」

 

「あなたは私を選んで、本当に良かったんですか?」

 

不安げな椎名の瞳。無理はない。改心後の東は、本当にモテたのだ。数多の美少女から好かれていた彼は本当に自分を選んで良かったのだろうか?時折、椎名はそう思い悩むのだ。

 

「違うよ」

 

ギュッ、と。椎名の手を強く握る東。

 

「良かった良くないじゃない。俺は心実といたかったから心実を選んだんだ。良い悪いじゃない。でも、強いて言うなら、」

 

ここで、東は最高の笑顔を見せる。

 

 

 

 

「俺は心実といられて、最高に幸せだ」

 

 

 

 

「ぁっ、.......はぃ、嬉しいです......んっ......」

 

キス。東は椎名にキスをした。優しく、愛を示すように。

 

「あなた......」

 

潤んだ瞳で、東を見つめる椎名。

 

「二人目......ください......」

 

「心実......」

 

雰囲気は既にR18。

 

 

 

 

「バパぁー、ママとえっちなことするの?」

 

 

 

 

「んにゃぁー!?」

 

「わっ、明娘!?」

 

んにゃぁー!?は、東のセリフである.......。

 

「あ、明娘?起きちゃったの?」

 

「うん、おしっこー」

 

「ああ、間が悪かったですね.......」

 

今だに赤面し、目を回して色々なことを口走っている愛しの旦那を椎名は見る。

 

「まぁ、ゆっくりでいいですよ」

 

「どうしたのママー?」

 

「いえ、何でもないですよ明娘。もう夜も遅いです、パパを連れて一緒に寝ましょうね」

 

「うん、おねんねするー」

 

にっこりと笑う自分の娘を見て、何故か寒気を感じる椎名。まぁ、きっと気のせいだろうと流す。

 

「ほら、あなた。いつまでもあうあう言っていないでもう寝ましょう」

 

「あうあう」

 

 

 

 

 

 

平和な平和な親子の団欒

 

これは分岐する可能性の一つ

 

彼は幸せを得た

 

嫁がいて、子がいる、普通の幸せ

 

今まで異常であり化物だった彼は、初めて普通を得たのだ

 

だから彼は世界で一番幸せだ

 

彼から幸せを奪えるものなど、何もないのだから

 

 

 

 

 

 

椎名END




明娘、こいつは、まさか.....

当ててみてね。

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