聖櫻学園記   作:ササキ=サン

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本日二話目の更新。

おら、頑張った。


第三十二話 俺の結末

ひぐ、ひぐっ、ぐすっ。

 

嗚咽が響く路地裏には、透明な水たまりの中心で泣きじゃくる少年の姿があった。

 

時が経ち、泣き疲れた少年は緩やかな眠りにおちる。

 

『時は満ちた。さあ、始めよう』

 

そして、ことは始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、聖櫻学園は不審者で埋め尽くされた。

 

無尽蔵に湧いてくる、過去に現れた数多の不審者たち。本来であれば、異常に思えどそれらは学園の男子生徒たちによってすぐさま撃退されただろう。だが、結果は違った。

 

ガールズカードによって得られていた不思議な力の加護。それらの一切が消失したのだ。

 

「がはっ.......」

 

腹部を悪サンタに強く殴られた男子生徒は、その場で悶絶する。

 

悪サンタは悶絶して這いつくばっている男子生徒を容赦無く掴み、担いで何処かへと連れて行く。そんな光景が、聖櫻学園のいたるところで見られていた。

 

女子生徒も例外ではない。抵抗するものは強く殴られ、動きが止まったところを乱暴に運ばれた。

 

不審者達は聖櫻学園の生徒、及び職員をとある場所に集めていた。それは聖櫻学園の地下に忽然と現れた、謎の広々とした空間。各学年300人以上いる聖櫻学園の生徒と70人ほどいる職員達を収監してなお、その空間は広々とした大きな間があった。

 

学園中に唐突に出現した地下への階段を持って、不審者たちはそこに聖櫻学園の人々を監禁し、厳重な警戒態勢を置いた。数千近い数多の不審者が生徒たちを監視し、まるで何者かが来るのを待つように不審者たちは地下の大広間に繋がる階段を凝視していた。

 

「明音ちゃん.....」

 

「大丈夫だよ、心実ちゃん。絶対に綻くんが助けてくれるよ」

 

監視されてる人たちはあまりに急かつ異常な状況に、正気を保てないでいる者も多かった。だが、一部の人間はとある希望に縋ったりなどして助けをただじっと待っていた。

 

時折聞こえる、抵抗しようとして殴られる生徒の悲鳴。それは監禁された者たちの心を折ってしまいそうなほど、苦痛が込められた悲鳴だった。逃げ出そうとする者や、歯向かう者にに与えられる拷問。あまりに非現実的な光景に、同じく囚われた櫻井明音や、椎名心実は互いに抱き合い恐怖を誤魔化す。

 

(綻くん、助けてよぉ......!)

 

櫻井明音の心の叫び。届いたかどうかはさておき、

 

 

 

 

地下への入り口であった階段が盛大に爆ぜた。

 

 

 

 

「ふぅ、ヒーローは遅れて登場するっていう謎な法則がよくあるけど、遅れて登場したからってそれがヒーローであるかは謎だよな」

 

大声ではないくせ、不思議と反響し地下にいる全員に届いた声。

 

モクモクと上がる煙の中、ゆっくりと姿を現した綻 東の姿に、監禁された人々はいるはずもない救世主(ヒーロー)の姿を幻視した。

 

「まぁ、俺はヒーローになれはしないな。よくてダークヒーローってとこかな」

 

とりま、と呟き、彼は不敵に唇を吊り上げた。その表情に、彼を知る者は酷く驚く。

 

彼の目は一切笑っておらず、空気が震えるほどの強烈な怒気を彼は放っていたのだから。

 

「殺戮の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は自分の今後の在り方について、迷っていた。選択肢は二択。人に心を許すか、今を続けるか。

 

改心とまではいかなくても、櫻井の放った俺への賛辞は俺自身の在り方を考えさせる程度には俺に衝撃を与えていた。

 

そんなことを考えていた矢先、唐突に起こされたこの監禁事件。本当に何事なんでしょうね。俺の視界のほぼ一面を埋めるほどきもい奴らの集団。なんだこれ?俺に無双でもしろってか?

 

そんな適当なことを考えていたんだが、俺は少し目に入った惨状を理解して、そんな思考も盛大にぶっ飛んだ。

 

暴力の後が見受けられる、ここに連れてこられた人達。その中でも特に櫻井の頬にあった大きなアザが目に入り、自分の中の何かがキレる音がした。

 

ニヤリと笑い、いう。

 

「殺戮の時間だ」

 

倒すではなく、殺す。俺はそう決めた。

 

そして不審者たちを見る。驚いたことに、今のこいつらは前の不審者たちとは違い、ちゃんと血が通っている生きている個体ということが識別できた。

 

.........絵面は非常にグロテスクになるけどまぁいいかな。

 

「試させてもらうぞ、お前らで。人は本当に俺の本気を見ても側にいることができるのか」

 

小声で、呟く。

 

そして俺は、怒りのままに拳を振るった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビシャアアアンッッ!!!

 

綻が何気なく振るった一つの正拳突き。それだけで、彼の振るった拳の射線上にいた何十もの不審者たちは肉塊となって血を巻き散らかして絶命した。

 

異常で、理外な、拳術。物理法則などの全ての仮定をすっとばして結果だけを与える、超越者の拳。

 

雄叫びをあげ、勇敢にも超越者に突撃をかける不審者たち。しかし、勇敢であれどそれは蛮勇である。

 

彼は何気なく自然と拳を、脚を、手刀を繰り出す。ただそれだけで不自然に不審者たちは爆ぜ、時に裂け、全て物言わぬ肉塊となった。

 

彼の周りでは、常に血飛沫の花が絶えることなく咲き続ける。

 

血と肉が飛び爆ぜる光景。まさしくそれは前世で恐れられ、何人たりとも打倒することの叶わなかった最強の修羅の姿だった。

 

曰く会ったら死の確定。曰く見えたら命を乞え。曰く存在したら勝利を諦めろ。

 

究極にして最強、最強にして超越者。それが綻 東という存在。

 

抵抗など、できるはずもなかった。

 

戦いでもなく、蹂躙。呼吸するかのように気軽に、楽に不審者たちは死んでいく。

 

「どうしたどうしたぁっ!!手応えが無さ過ぎるっ、俺は雲でも殴っているのかっ!!」

 

そして、また飛び散る。

 

「久々に本気を出してやっているんだ、少しは楽しませて見せろっ!!」

 

なぎ払うように放たれた水平に振るわれた手刀。一見空振ったようにそれは見えたが、そう思った刹那、彼の目の前にいた何百もの不審者の胴と下半身が二つに裂けた。

 

「ははははははははは「ははははははははは「ははは「ははははははははははははは「ははははははははははははは「はははははははははははははははははははは「ははははは「ははははははははは!!!!」

 

あえて狂ったように彼は笑う。圧倒的な暴力を、見せつける。

 

「さて、こいつで終わりだ」

 

足を頭上の天辺まで振り上げ、振り下ろす。

 

ダンッ!!

 

音ともに、残りの不審者は全て弾け飛んだ。

 

彼の武術に解説を求めてはいけない。言葉で理解できる次元を、彼は遥かに超えているのだから。

 

「終わったか?いや、まだか」

 

突如、彼の前に現れる一体の不審者。

 

超激レア悪鬼ヶ島 LV.9999

 

「ほう、中々強そうだな」

 

しかし彼は動揺など一切しない。彼からすればアリもアカアリも、たいして変わりはしないのだから。

 

刹那、目にも止まらぬ速度で彼の顔面に拳が叩き込まれた。

 

音速を越え、雷速に等しい超高速の一撃。凄まじい衝撃が大気を揺らし、圧倒的な破壊のエネルギーが彼に炸裂したのだが、

 

「どうした?今何かしたか?」

 

彼は微動だにせず、ただ不思議そうな顔で問いかけた。

 

「ぐっ、ぐがあああああっっっっっ!!!!!!」

 

乱打、乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打。秒間1万すら越える拳が彼に叩き込まれる。

 

本来、音速を遥かに超える速度で物質が移動すると、衝撃波(ソニックブーム)という恐ろしいものが発生し、物理的に考えてこの空間にいる人は例外なくその衝撃波だけで挽肉なるはずである。

 

だが、ならない。秒間1万の打突を受けてなお、微動だにしないこの男がそんなことを起こさせない。

 

「つまんねえな、もう飽きた」

 

瞬間、金色のオーラが発生し、超激レア悪鬼ヶ島は紙くずのように吹き飛ばされる。

 

腕組みをした彼を中心に金色のオーラが渦巻き、圧倒的な力強さと神々しさを彼は放っていた。

 

「もう、終わりにしてやるよ」

 

シュキュンッ!!

 

知覚する間もなく放たれた超光速の一撃。気づいた時には、もう全てが終わっていた。

 

「ふぅ」

 

彼はため息をつくと、金色のオーラは既に収まっていた。

 

辺りを見回すと、彼の周りは赤しかなかった。そんな彼自身も、大量の返り血を浴びている。

 

ひとまず、蹂躙は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いが終わった。

 

俺の心臓は、戦いとは別のところでバクバクと高鳴っていた。

 

期待と不安。ただ、それだけだった。

 

シュキュンッ!と、縮地法で櫻井の元に移動する。

 

そして俺は櫻井に手を差し出し、

 

「櫻井、だいじょ」

 

セリフは、途中で止まった。

 

縮地法で近くに移動し、一歩踏み込んで櫻井に手を差し出したところ、

 

 

 

 

櫻井も、俺が踏み込んだ分の一歩を後ずさったのだから。

 

 

 

 

「ぃ、ぃや」

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ーーーーーー

 

ーーーーーー

 

 

 

 

それだけでもう、充分だった。

 

「ははははは」

 

口から、自分でも面白いと思えるほど乾いた笑いが漏れた。

 

差し出した手を見つめてみる。

 

 

 

 

真っ赤で、真っ黒で、血塗れだった。

 

 

 

 

なんだ、この手は血塗れじゃないか。全身にも返り血だらけで、むせ返るような鉄の臭いがプンプンする。

 

そういえば、そうだった。

 

俺は、たくさん殺してきたんだ。

 

たくさん罪を犯して、たくさん悪いことをして、

 

 

たくさん、人を苦しめたんだ。

 

 

それでも幸せが欲しかったって、本当に、笑えるな。

 

こんな汚れきった手、誰も取ってくれるわけないよな。

 

天まで届くほどの屍の上に、俺は、立っていたんだ。

 

今さら救われるわけ、ないよなぁ........。

 

悟ったふりして、全然悟ってなかった。

 

希望とか馬鹿みたいなの持ってたから、また同じ失敗をした。

 

やっぱり俺と人なんて分かり合えるわけもなくて、混じり合うこともなくてずっと平行線で。

 

櫻井の怯え切ったこの目が普通のことで。

 

俺は一人で生きるということが普通で。

 

 

 

そうだもんな。やっぱこんな化物が近くにいちゃ、怖いもんな。

 

 

 

 

 

 

「........そっか」

 

 

 

 

 

 

なら、仕方ない。

 

 

 

俺は今どんな顔をしているか分からない。でも、泣いてないことだけはわかる。

 

涙なんて、もう流す必要なんてないから。

 

あっ、分かったわ。俺が今浮かべている表情。

 

それは無表情。一人で生きる俺に、感情なんていらないから。

 

俺は、監禁されて集められた人混みの中を徒歩で抜ける。誰も俺のことを追ってきはしない。そして多分、これがこれからの俺の生きる道。

 

コツコツコツコツ。人混みから抜けた。はははは、今の俺からしたら人混みじゃなくて人ゴミだな。面白い面白い。

 

俺が破壊してきた階段にちょんと手を当て、一秒も経たずに元の階段に姿を巻き戻す。

 

そのまんま、立ち去る。

 

人から、

 

受け入れてくれなかった人から、

 

絶望しかなかった人から。

 

 

 

 

 

 

それじゃあみなさん、永遠に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、地下を出た。




次回からはマルチエンディング。

最初は何がいい?えー、やっぱバットエンドかー。そうだよねー、そういうと思ってた(笑)

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