いちいち調べるのめんどい。
とある広場に、三人の少女がいた。
「う〜ん、まだ来ないな、綻君」
茶色の髪の美少女、櫻井明音は呟いた。
「やや、明音、まだ待ち合わせ五分前だよ。心配することはないんじゃない?」
共にいた相楽エミというオレンジの髪の美少女は、櫻井に何気なく発言した。
「そうですよ〜明音さん、もしかしたら道に迷ってるのかもしれませんよ。気長に待ちましょう?」
若干茶色っぽい黒髪をした美少女、柊真琴はほわほわとした雰囲気で櫻井に話しかけた。そして、何気に彼女がひどいことを言っているのだが、特にそれに気づく者はいなかった。
「むむむ、でもなー、綻君だからな.......。思いっきりすっぽかしてゲームしてるってこともありそうだし........」
知り合ってまだ十数日という櫻井だが、どうやら彼女は彼の気質をしっかり理解しているようだ。
と、そこで、彼女達に声をかけるものが唐突に現れた。
「やあ、そこの彼女たち、いつまでも来ないやつなんてほっといて、俺と一緒に遊ばないかい?」
現れたのは全身を金で塗ったような色の、謎の男。彼は櫻井達一行を逃がさないというような瞳で見つめた。
現時点でまだ、待ち合わせ三分前である。
(うわ、この人って去年のゴールデンウィークにも現れたあの人だ.......)
櫻井はそう思い、咄嗟に残る二人に目配せをした。毎月の月初めに現れる、不審者への熟練の対処である。
櫻井の意図を正確に読み取った二人は、足に力を込め、いつでも地を蹴ってその場から逃げれるようにする。必要最低限の逃げ足は、聖櫻学園女子の嗜みであり、必須技能なのだ。
「沈黙は肯定ってことか?ようし。なら、俺と一緒にゴールデンウィークを楽しもうぜぇぇえ!!!」
そう言って、不審者こと謎の男は櫻井達に襲いかかる。彼女たちも、もはやタイミングを図るのを止め、一目散に駆け出そうと.......
ぐしゃっっ!!
したところで、不審者は何者かに頭を踏まれて、地面に頭を叩きつけられた。
「いやー、櫻井がこの変なのについてくんなら俺も正当な理由を得て帰ることができそうだったんだが、」
不思議とさほどの声量もないのにその声は良く響いて、櫻井達にその存在感を示した。
「そうならなくて、残念だ」
本気でそう言ってため息をつく男は綻 東。我らが主人公たる男である。
「なるほどなるほど、いや、不審者って学校外にも出没するんだな」
櫻井の話を聞いて、俺は純粋にそう思った。
どうやら月の始まりに聖櫻学園周辺に毎月不審者が発生するらしく、その不審者を撃退するのがどうやら聖櫻学園男子に課せられた使命の一つであるらしい。おい、俺は特にまだ何も聞いてないぞ。ってことはいつか先生の方から説明があるのか?
というかうむ、なんとデンジャラス。毎月発生する不審者ってどういうことよ?女子とかまじお疲れ様だな。俺がついさっき踏んだ不審者とか、めっちゃ全身金色だったぞ。金メッキした不審者とか不審を丸出しすぎるだろ。警察仕事しろ。
というか気づいたら不審者がすぅーと消えていっている。聖櫻学園の女子からすると見慣れた光景らしいが、現代の常識に染まっている俺は顎が外れるほど大口を開いて驚いた。まあ、冗談だが。
「いやはや、今の光景といい、この世は不思議で満ち溢れてるなおい。探せばツチノコとか普通にいるんじゃねえか?」
「いや、流石にそれはないよ綻君。にゃんたとかぱんたとかは前出たけど、ツチノコはさすがに.......ないとは言い切れない.......」
「なにそれこわい」
俺と櫻井はいつもと似たようなやり取りをした。いや、これある意味癖になってるのかもな。櫻井と漫才もどきな会話をすることに。うん、なにそれこわい。冗談であれ。
「あー、とりあえず自己紹介だな」
一通りの状況確認を終え、俺はとりあえず櫻井の友人らしき人物に自分を伝えることにする。
「俺の名前はエターナル・G・帰不(かえらず)御劔(みつるぎ)だ。あまり俺に近寄るな。黒に触れ過ぎれば黒に染まり、元の正道には帰れなくなるぞ?普通の生を謳歌したければ、俺との接し方をよく考えるんだな」
「厨ニかっ!?」
ぱしん!!櫻井から渾身のツッコミを頂く。うむ、ご馳走様でした。
「いいのか?櫻井。俺にこんなに気安く触れて。俺のカラドボルグがお前の血を所望し始めているぞ?」
「えっ、何その禍々しい剣!?どこから出した!?」
「口から。大道芸です(キリッ」
「ええ、大蛇丸!?キモい!?」
よくそれ知ってるな。というか櫻井にキモイとか言われたわ。まじ傷つく、ていうかまじ傷ついた。もういいし、
「帰ってもいい?」
「唐突に!?一体何があったの!?」
えっ、キモイとか言っといてそれはないっすよ櫻井さん。ああ、これはあれか、ちゃっかり無自覚で人を傷つけちゃうってやつですかね?まあ、櫻井の場合はそれくらいやらないと櫻井の周りが釣られたもてない系男子で飽和しそうなんだがな。さて、そろそろ櫻井との会話が暴走気味になり始めたところで、女子二名の方に向き直る。
「趣味はこのように周りにあるもので遊ぶことだ。よろしくな」
にこりっ、と笑おうとしたけど表情筋は怠惰な惰眠を貪っていたので笑顔なんてなかった。まあ、とりあえずよし、決まった。これで他人をいじる良く分からない奴、プラス変人という評価が確定するだろう。ふふん、なんと俺は計算高く素晴らしい天才なんだ。自分の才能に惚れ惚れしてしまうぜ。ってこれフラグ?
「凄いよ綻!さっきの剣を取り出す大道芸どうやったんの!?タネも技術も全然分からなかったんだ!こんな凄いの初めて!!」
「わー、凄い手品ですね〜。どうやるんですか〜?」
ほげぇぇぇぇぇえええ。 orz。少し落ち着こう。俺は何がいけなかった?こんな簡単に変なフラグを立てるなんて愚行、俺は普段犯したか?否、断じて否である。いや、本当に一体何があったんだ俺。
やはり得たいの知れない何かに俺の運命を支配されているのだろうか?おい、黒幕出て来い。原子残らず消し飛ばしてやらあ。
待て、もしかしたら俺は人に、櫻井に知らず知らずに心を絆されてるのか?彼女を楽しませる為に、少しばかり目立つような行為を容認しているのでないか?
.......少し、緩んだものは張り詰め直さないといけないな。
俺は凄い勢いで迫り来る女子一人と、普通の女子一人を相手にしながら、内心でそんなことを考えていた。
ギャクにいつも以上に冴えがない気がする。スランプか?