桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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巨人の屋敷で大暴れ

 見上げるほどに大きな巨人が髭を撫でながら大きなクワを持ち、屋敷の裏口へと去っていきます。歩くだけで地面が揺れて桃太郎達の身体が跳ねました。

「桃太郎」

「なんだ浦島」

「万が一、アレと戦うことになったらどうする」

「…………台所の黒い悪魔を召喚しよう」

「考えろ。なにもかもがウルトラなサイズだぞ」

「なぁに、話し合えば分かってくれるさ」

「通じる訳が無いだろう」

 浦島の言葉は尤もでしたが、それにジャックが何かに気が付いたようです。

「俺は気付いた!」

「どうしたジャック!」

「巨人の女がいたら下から──」

 

 ジャックはボコボコにされました。

 

「よし、日没だ。行動を開始しよう浦島」

「そうだな。狼、準備はいいか」

「いつでも」

「ならばよし。ところでジャック、お前はいつまでそこで埋まっているつもりだ?」

「埋めたのは紛れもなくお前らだろう……どっこらきぇあああああ! ふぅ」

 生首状態だったジャックが蛇のように身体をくねらせて這い出てきます。

 四人は壁の小さな穴から屋敷へと潜入を始めます。何も言わずに静かに走り続け、曲がり角で先頭のジャックが手を上げました。それは停止の合図です。

「どうした?」

「……トイレに行きたい」

「もらせ」

「もげろ」

 狼は学びました。下手に口を挟めば自分はまたやられてしまうのだと。なので何も言いませんでした。

「ここが巨人の武器庫だ」

「でかいな。どうやって入るつもりだ?」

「俺に任せろ! 良い考えがある」

 コンコン、と扉の横。色の違う場所を叩くと、中から猫が顔を出しました。その口には葉巻がくわえられています。

「ニャンだね、ちみぃ?」

「俺だ、あの時お世話になったジャックです」

「おお、誰かと思えば貴様か。不用心にサンバを踊りながら廊下を闊歩してご主人の脚に踏みつぶされそうになりながらも半日アニメソングを熱唱していた勇者ジャックか」

 他の三人からの視線が突き刺さります。

「それだけでなく武器庫にたんまりと武器を運び込んで密輸しようと企み、我々ニャングマフィアに多額の借金を背負って先週無事に全額支払い終わったばかりのジャック。ニャにか用かね?」

 浦島が拳を鳴らしました。桃太郎は木刀の鞘を抜き、得物に舌を這わせます。狼は爪を広げていました。ジャックは自らの死をこれほどまでに悟ったことはありません。

「ニャ、ニャングマフィアの協力で俺達をこの武器庫に入らせてください……!」

「にゃぁにぃ? 聞こえんニャ~?」

「マタタビ」

「よし、入れ」

「それと倉庫にも入りたいのですが」

「よろしい。部下達に言っておくニャ」

 最終手段・賄賂の前にはニャングマフィアの窓口もあっさりと引き下がりました。

 カビ臭い武器庫の中に入ると、ニャング達の鋭い眼光に睨まれます。

「みんニャ、よく聞いてくれ。我々の決起の時は来た! 今こそ巨人の屋敷で飼い慣らされていた我々ニャングマフィアが反旗を翻すのニャ! まずはキッチン! 次に家具! 順次目につく金目の物を破壊して一家を破産させるのニャ!」

 ニャーニャーと大勢の猫達が歓声をあげます。

「忘れたわけではあるみゃい! ストリートワングマフィアが受けてきた数々の仕打ち! 我々の半身とも言える戦友、中堅ポチ公の率いた隔離連隊狂犬病部隊MD01が壊滅したあの日! 忘れもしない、次々と保健所に連行されていくストリートワング達のあの遠吠えを……あの決死の特攻が無ければ我々ニャングマフィアはこうして生きていない。苦汁の毎日、屈辱の日々、青汁飲んで健康ライフ。今なら一月30パックでなんと驚きの二万円!

 通販生活で細々と食い繋いできた我々の復讐を見せつけるのニャ! ジィィィィーク・ハァァァァイル・ニャンダフル!」

 ニャアアアアアアア! ──他の猫達が一斉に武器庫から去り、ただただ桃太郎達は呆然としていました。

「ジャック……畜生相手に借金とか……」

「い、いや。あの時は仕方なかったんだ! 大量の武器を運ぶのに」

「で、その武器の出所は? 東方公共降下部隊帝国からか?」

「……脱退する時にな。今じゃ地図にも載ってねぇさ」

「というかマタタビだけでこんな騒ぎ起きていいのか」

「いんじゃね? どうせ俺達の目的はこれだし」

 積み上げられる木箱の山。それを開けると乱雑に詰められた銃器・鈍器・刀剣・凶器・書物・エロ本…………現実逃避……再度確認……エロ本・薄い本が大量に詰め込まれていました。

「ジャックぅ……ジャアックゥ! ジャアアアアアアアック! 何故だ! お前は何故こんな素晴らしい物を持っていると教えてくれなかった! 何処だ、どこで買った! 何処でこんな素晴らしくエロい書物の山々を購入してきた!」

「俺は……てっきりお前が引くかと思って教えなかったんだ」

「アホを言うなジャック! 俺を見くびるな! 桃から生まれたと言うだけで幼少よりケツ好きの変態と言われ続け、それでも俺は女性の価値はオッパイであると主張して職員会議で晒し者にされた挙げ句、呼び出されたおじいさんがマイクが壊れるほどの大声で「女性の価値はぁぁぁぁ、プリップリのケツだぁぁぁ!」と叫び、おばあさんと血みどろの三日三晩死闘を繰り広げていた思い出を持つ俺が──! ってなぜドン引いてる狼」

「俺が今まで食べてきた人間もそうだったのかと思うと恐ろしくなってきた」

 身震いする狼の肩に、浦島が手を乗せます。

「気にするな、狼。人類の男性という種族は総じて変態であり、同時に紳士なのだ。常日頃から女性と如何に接触すべきか、どうしたら喜ぶのか、愛とはなにか。揺れ動く乙女の恋心にどうしたら気付くのか。夜の営みに置いての作法とは何か。何故人類は男と女の二つしかないのか、人間とは、感情とは、真理とは、宇宙に広がる無尽蔵のエネルギーを我々人類が誤った方向に使ってしまわないか。いつの日か自らが生きる星の命を絶やしてしまわないか──男とは、人類とは、人間とはこういう生き物だ。だから気にするな人食い狼。総じて男性は変態だ」

「で、浦島。お前はどこフェチだ」

「後ろから見た時の腰のライン、背中の中央を真っ直ぐ走る背筋だが?」

「お前も大概だな……まー、かくいう俺はやっぱ女性はハートだけどな」

「ジャック、お前が誇らしげにドヤ顔なところ悪いが。なんで大概ハードなのばかりなんだ? しかもか弱い女性が快楽の虜に」

「ヤメロ、ヤメロォオオオオオオオオ!! 俺の性癖を暴露するな! 口頭で説明するな桃太郎ぉ!」

「おー激しい」

 ペラペラと読み耽る桃太郎と、様子を見ようと一冊を手にした浦島。そして偶々発見したケモナー大歓喜の薄い本を手にした狼が次々とジャックを公開処刑していきました。

「ひぎぃ、らめぇ、そんなの無理ぃ。駄目ぇ、私、わたし壊れちゃうー」

「やめろぉぉぉぉ俺を羞恥心で殺す気かぁぁぁ!」

「俺はベッドに倒れた彼女の腰を持ち上げて」

「便乗するな浦島ぁぁぁぁぁ!!!」

「おーはげしい」

「ただし狼、テメーは駄目だ!」

「ギャウン!?」

 その後も一悶着、押し問答、二悶着ありましたが、なんとか話を脱線させることに成功したジャックが耳まで真っ赤にして武器庫を後にします。桃太郎達は武器を調達して武器庫を後にしました。次は倉庫で金銀財宝です。

「なぁジャック。自分が選んだ薄い本を友人に音読されるってのはどんな気分だ?」

「賢者タイムに差し掛かって平静心を取り戻し、冷静に後始末をしようとしたその時。意中の女性が友達を沢山連れて部屋にやってきた気分だ」

「……すまない、すまないジャック! そんな事も分からず俺達はなんてムゴイ事をしたんだ! 死んでも詫びきれない!」

「いいんだ……いいんだ桃太郎。お前に隠し事をしていた俺も悪かったんだ……」

 ジャックの眼が死んでいました。光が失われて乾いた笑いを浮かべながら倉庫に向かって歩きます。その背中から漂う哀愁がまるで秋風を彷彿とさせました。

 屋敷の中はニャングマフィア達の起こす騒動によって火がついたように慌ただしくなっています。その混乱に乗じて桃太郎達は倉庫に忍び込みました。

「ミャ! ボスから話は聞いてます、早く中で用事を済ませるミャ! 脱出の手筈も整ってますミャン」

「ありがとう!」

「ヒャッハァァァァ! 金だ金だ! 金の風呂ダァァ!」

「欲望が爆発してる桃太郎はどうする?」

「殴っとけ浦島」


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