桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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竜宮城編:奴を討て! その名は乙姫!
目指せ雲の上!


 桃太郎達は再びジャックの家へと向かって走り出しました。大草原を吹き抜ける青い風が心地よく肌を撫でるではありませんか。爽やかに汗を流す姿は青春の一ページとしても相応しいでしょう。

「ウオオオオオオ、桃太郎おおおおお!」

「なあああんだあああジャアアアック!!」

「起床、食事、食後の運動が全力疾走フルマラソンというのはどうかと思うぜ俺!」

「大丈夫だ、狼なんて嬉しそうに走ってる!」

「半狂乱って言うんじゃないのかあれは!」

 一足先に大草原を掛け抜ける姿がありました。他でもありません、狼と浦島です。

「ポギョオオバッギョルベッボオオ!」

「狼、大丈夫か狼! くそ、駄目だ!」

 

 事の起こりは朝食でした。

 

「HEY、桃太郎」

「YEAR、なんだジャック」

「玉ねぎ食いたい」

「よし分かった。任せろ」

 そして桃太郎手製の料理を食べた狼が突如として暴走、大草原へ向かって駆けだしたのです。一体どうしたことでしょうか。

「くそ、さすが四足歩行の獣! 逃げ脚だけは早いな!」

「それに追いつく浦島の動きは人間じゃ捉えきれないんだが! 流石太郎一族の中でも武術に秀でた浦島だ!」

「浦島ぁ! この際仕方ない、半殺しまでなら許可する!」

「腕か脚の一本までならオーケーだ!」

 浦島がさりげなく「血も涙もないな!」と声を張り上げますが、二人は答える暇もありません。

 そして浦島が狼を当て身で気絶させたのはジャックの家に到着してからでした。息を切らした三人は玉のような汗を拭います。狼は白目をむいて痙攣していますが、浦島が秘孔を突く事により一命を取り留めました。

 一時間後、そこには元気に走り回る狼の姿が!

「HAHA、見ろよ桃太郎。狼の奴、泣くほど喜んでるぜ」

「よくやった浦島」

「腑に落ちない気分だがもういいか……」

「はっ、俺は今まで何を……!?」

 正気に戻った狼は、自分がジャックの家の屋根に張り付いていた状況に混乱しましたが何を今さらという心地で降り立ちました。

「すいませんでした」

「まったく、ツナマヨを食った程度であれほど取り乱すとは思いもしなかったぞ。ほら、まだ残りがあるからちゃんと食え」

「結構です! いりません!」

「桃太郎、ジャック。お前らさてはわざとか……?」

「「へ、なにが?」」

 疑問符をあげる二人に浦島はほとほと呆れます。しかし長い付き合い、慣れたもので軽くあしらいました。

「これがあの日植えた豆の木か……信じられないが、登るしかないだろう」

「ほら見ろ浦島。ここにあの日俺達が彫った紋様があるぞ」

「酔った勢いとはいえ、よくここまで精巧な物が作れたものだ」

「うっ、頭が……」

 彫られた紋様を見ていた狼が頭を押さえて座り込みました。

「大丈夫か狼? これは太郎一族伝統の紋様でな。彫った時の人間以外が長時間見つめると頭痛、吐き気、発熱、酷い時は寝込んでしまうんだ」

「何の呪いですかそれ!?」

「それは一族秘伝の技につき明かせない。立ち止まっていても仕方ない、登るとしようか」

「浦島の言う通りだ。以前登った時にロープを繋いでおいたからそれを辿って登ればすぐに到着するぜ!」

「ヒュー! 流石だジャック!」

 用意周到なジャックに賞賛の声を浴びせ、早速ロープを掴みますがボロボロになっているではありませんか。これでは登れません。

「おいジャック……」

「Damn it! やっちまった……この辺りの風雨は酷く酸性なんだ。それで劣化しちまったんだろう」

「結局は地道に登るしかないんですか」

 桃太郎を先頭に、しんがりはジャックが務めて豆の木を登っていきました。

「おーい、ジャック。一つ聞いてもいいか」

「なんだ、桃太郎」

「以前登った時はどれくらい時間が掛かったんだ? 相当長そうだが」

「二日くらいか。だけど安心しな、しっかり雲の上の市役所に交通の便が不便ですと申請しといたぜ!」

「ほんと用意周到だなお前……」

 雲が近づいてきましたが、ふと四人の前に看板が建てられているではありませんか。上を向いている場合ではなかったようです。

 そこには黄色と黒の帯で『この先工事中につき立ち入り禁止』とありました。

「まいったな」

 何気なく左手を見ると、豆の木に上下のボタンがあります。男なら押してみたくなる衝動に駆られるのは必然、桃太郎は迷わずにボタンを押しました。

 ──……ィイーーーン、ポーン。

「なんとハイテクな、エレベータってやつかこれが!」

「食われたりしないでしょうね」

「お前が言うな人食い狼」

 ともあれ四人は乗り込み、桃太郎が最上階までのボタンを押します。

「あれ、扉が閉じないぞ?」

「開閉もボタンのようだな。これか?」

 浦島が閉じるボタンを押しました。

 ガシャーン! 勢いよくエレベータのドアが閉じ、何事もなかったかのように動き始めます。

「おい狼。ビックリしたのは分かったから壁で爪を研ぐな」

「わうわう」

「ええいガリガリとうっさいな!」

「猟銃を取り出すなジャック!?」

 それから到着した雲の上。エレベータから出てくるなり四人は息を切らして倒れますが、すぐに立ち上がりました。

 見渡す限りの快晴、頭上には雲一つありません。足場はふかふかの羊毛のような白い綿雲に桃太郎が感動していました。

「これを使って布団作りたいな」

「そんなこと言ってる場合か、ほら行くぞ」

「あーれー」

 ジャックと浦島に引きずられて桃太郎は目的地である巨人の家を目指します。

 

 

 

「でけーなー」

「これ、家って言うか……館?」

「屋敷って表現すればよかったな。すまんかった」

 そして、そこから半刻ほど歩いた場所に目的の家はありました。その豪勢さには呆然と見上げるばかりです。大きさに比べて桃太郎たちはネズミ同然でした。

 それもそのはず、門も何もかもが巨人サイズなのですから。

「しかしジャック。ここで金銀財宝、武器を整えようにも巨人サイズじゃあ使えないだろう」

「ふふん、その点も俺はぬかりなかった。またいつか潜入した時の為にと武器庫を隅々までチェック、何処に何があるのかをメモしておいた」

「おお、流石ジャック!」

「……で、そのメモは?」

 

 …………。

 

「家に置いてきてしまった……」

「はげろ」

「もげろ」

「死んで詫びろジャック」

「お前らの言葉が辛辣すぎて俺のハートが砕けそうだ……。ようは現地支給、いつも通りだ桃太郎!」

「それもそうか」

「それと狼は後で毛皮剥ぐ」

「なぜに!?」

「しかし昼間から堂々と潜入というのもな……」

 四人は日没を待ちました。本来ならここに到着する頃には日が暮れてすぐにでも潜入任務が開始出来るはずでしたが、文明の機器エレベータによって作戦が破綻してしまいます。しかしそんなことは些細なこと。すぐに立て直した四人はしばらくの間巨人の館を監視します。

「赤レンガに……豪華な門の下はくぐり抜けられそうだな」

「壁にこっそり穴を開けておいた。そこからすぐにでも中に入れるぞ」

「何故武器庫と倉庫から開けなかった……」

「通気性の問題さ。財宝が錆びても困る、武器庫は湿気たら大変だろ。そういうことだ桃太郎」

「そこは抜け目ないんだなジャック。ところで浦島、お前はどんな武器を入手するんだ」

「ふむ……そうだな。これといって必要なのはないが、見てみないと何とも言えん」

 桃太郎は刀剣、ジャックは銃器。あとは持てるだけ金銀財宝を奪っ──おや、巨人の館から誰か出てきました。


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