桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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旅立ち編:旧友との再会!

 桃太郎と人食い狼は山の頂上から一面に広がる草原を見降ろしていました。

「あそこにでかい木が見えるが?」

「ああ、あれは豆の木だ。あそこの近くに俺の友人が住んでいる」

「それにしたってでかい豆の木だ……雲を突き破ってる」

「まさかあの日、酒に酔ってボール一杯の枝豆を植えたのがあそこまで成長するとは思いもしなかった。行こうか」

「あんた何してんだ……」

 二人は下山して草原を駆け抜けます。それはさながらサラブレットのように。

 

 

 一人の青年が畑を耕して汗を拭っています。彼の名はジャック。桃太郎の旧友です。

「ふぅー、今日もやるだけやったなぁ……ん?」

 遥か遠方から何かが走ってきます。

 木刀を頭上で振り回し、奇声を発する人間と、その隣に狂犬病にでもかかったように狂った二足歩行の狼がこちらに向かってくるではありませんか。さしものジャックもこれには大変驚きました!

「チィ! 世間は世紀末か! これだから俗世間と俺は関わりたくないんだ!」

 ジャックは急いで納屋から弓矢を取り出し、腰に猟銃をぶら下げて狙いを定めます。そして放たれた矢は真っ直ぐ人間へ飛びますが、驚く事にそれを木刀で弾き落としました。

「キエエエエエエエ! ウラアアアアアアアアア! モッゲロッポッピッパアアアア!」

「ヒョーホホホホホホ、ペッポルパァァァァ!」

「桃太郎じゃないか! 久しぶりだな!」

「HEY! ジャック! この野郎元気そうじゃないか!」

「何故あれで分かるのアンタら!?」

 人食い狼の理解の範疇を超えたコミュニケーションに彼は人類の恐怖を垣間見ます。

 二人はがっちりと固い握手を交わし、力コブが盛り上がりました。

「……どうした? CIAのデスクワークで鈍ったか?」

「誰がお前なんかに……!」

「ん?」

「────はっはっは、分かった分かった! 降参だよ! 南米密林で狩猟民族と地球外生命体の儀式から生きて帰った勘は鈍ってないようだな桃太郎! で、そっちの犬はなんだ。差し入れか? 犬は好きだが赤いのが良かったな」

「狼だよ! 人食い狼だよ!」

「獣姦?」

「言ってない!」

「あながち間違ってない。穴なだけに」

「最低な会話だ!」

 桃太郎と人食い狼はジャックの家に招かれて一息入れます。なにせここまで来るだけでも相当な長旅でした。

「それでどうしたよ、お前がわざわざここまで足を運ぶなんて珍しいじゃないか」

「ああ、実はな。鬼ヶ島に向かっているんだ」

「ッとだんな!?」

「逆から言葉を発するな」

 桃太郎冷静なツッコミからジャックに説明します。

「ほ、本気なのか……鬼ヶ島に行くなんて」

「ああ。鬼退治をしようと思っている」

「無理は止せ、桃太郎! 先代、先々代。かつて数多の英傑達が鬼ヶ島に挑んだ! だが誰も……」

(生きて帰ってこなかったのか……)

 人食い狼は山でボランティア活動をしながらみすぼらしく生きてきました。世間様の、特に人間の歴史なんて知る由もありません。

「分かってる! だけどもう満足できないんだよ! 狩猟民族と地球外生命体の儀式から帰って来て、俺は自分より強い奴と戦いたくてワクワクが止まらないトゥギャリたいんだ!」

「お前この間の呟きツールで『この呟きが1000RTされたら鬼退治行くわwwwwそこまでされないだろ回避余裕wwwワロタwww』とか呟いて余裕の一万RTされたからだろ」

「俺をなぜフォローしたぁぁぁぁぁぁ!!!」

「回ってきたんだよぉぉぉぉぉぉ!!!」

 ジャックは別アカウントで三回RTしてました。拡散希望のタグまで付けて。

「まぁそれで鬼退治に行こうと思うんだ」

「面白そうだな、俺も行こう」

(さっきの流れはなんだったんだ!? 人間って怖い!)

「じゃあ今日は泊まっていくといい。明日は港に向かって浦島の奴にも声を掛けないとな」

「浦島……生きていたのか……」

「……ああ。少し痩せたみたいだけどな」

 その日はジャックの家に一泊して、翌朝。朝食を済ませた三人は港に向かって歩き始めます。

「桃太郎。浦島ってどんな奴なんだ?」

「ああ、お前は知らなかったな人食い狼。俺達太郎一族の中でも特に武道に秀でた」

「ちょっと待った」

「太郎一族というのはだな」

「待ってください桃太郎さん! お願いします!」

「はっはっは、俺は鬼ヶ島に行くんだ。止まりはしない」

「言葉が通じない……! なんで鬼ヶ島に行くんですか!」

「話聞いてなかったのか? 俺より強い奴にアイニードユー」

「という名目で実際は調子に乗った結果」

「アイウォンチュー」

 ──太郎一族。代々語り継がれてきた日本に伝わる伝説の勇者たちの子孫。

 桃太郎。金太郎。浦島太郎。そしてウルトラの星に生きるタロウ。彼等は様々な国の人々と出会い、友情を深めて鬼ヶ島を目指しました。しかし、誰一人無事に帰ってきた者はいません。

 鬼はそれほどまでに恐ろしく強大な敵なのです。

「俺の爺さんの爺さんの曾爺さんの親戚の従兄弟の兄弟の弟の嫁の親戚のお隣さんも」

「もう赤の他人でいいよそれ!」

「鬼ヶ島に行って帰ってきた」

「凄いなお隣さん! 誰も生きて帰って来なかったのに!」

「ん? 何を言ってる。鬼ヶ島は観光名所だぞ?」

「どうなってんのこの国!?」

「勘違いしてるようだから説明してやろう。鼻の穴かっぽじってよく聞け犬っころ」

「人食い狼だ!」

「じゃあコロでいいな。おいでーコロ」

「ぶっ殺すぞアンタら!?」

「ああん、ぶっ転がすぞテメエ!」

「キャウンキャウン……」

 日本観光名所・鬼ヶ島──大海原にポツンと浮かぶ陸の孤島。侵入者抹殺自動警備システム小鬼(オーガ)で夜も安心して観光スポットを巡る事が出来ます。

 なんといっても一番の目玉は鬼ヶ島の管理システムである《鬼》に挑戦すること! 管理者と生身の肉弾戦で触れ合おう!

※ 当社は一切の損失・損害・肉体改造・紛失・盗難・恋愛・色恋沙汰・ほとばしるエナジーによる責任を持ちません。彼女募集中。

リア充爆ぜろ。

「と、いうのが日本の名所百景案内に載っている鬼ヶ島だ」

「マジで載ってる!?」

 ジャックに草原を転がされた人食い狼は青い顔でパンフレットを読んで驚愕していました。

「住所と電話番号まで載ってる……あれ?」

「どうしたコロコロ」

「どこの少年向け雑誌だ!」

「いや、カーペットとかに使う……」

「そっち!? いや、桃太郎さん。一つ思ったんですがね」

「どうしたロコロコ」

「パッチョンボーでもねぇよ!? これ、旅するくらいなら飛行機で行った方が」

 二人はやれやれと呆れながら鬼ヶ島のページの隅っこを指さしました。

 

 注意──鬼ヶ島の上空は、なんかこうとにかくマジやばい。超ヤバイ。何がやばいってとにかくアレがやばいんだって、まじあり得ないから飛行機とかで来るとDIEされちゃうのでお勧めしません。

「分かったな」

「分かりたくないけど分かりません」

「あと金が無い」

「そういうことか……!」

 人食い狼は涙を拭えませんでした。


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