――走る。ひた走る。有酸素運動。燃え上がるほど燃焼系。剛毛の生えた心臓の鼓動がファッキンホット。
「待てぇぇぇいっ! 待て待て待てぇぇぇぇぇい! 白馬のお坊さん待てェェェェイ! ま、待って! お願いだから止まって! ちゅらいからぁ!」
「むしろ馬と付かず離れずの距離を保つお前の方がおっそろしいわ! どういう脚力しているのですか!」
「マッッッッテッッ!!!!」
「迫真過ぎる!」
桃太郎は天竺目掛けて走る三蔵法師の愛馬のケツを凝視しながら追いかけていました。前回の投稿から四年の月日が流れています、今さらどの面下げてこの物語へと帰ってきたのか鬼ヶ島。しかし、彼らはそれでも走り続けます。決して届かない理想の地、天竺へ向けて。
「ここまでのあらすじを冥土の土産に教えてやろう!」
「余裕そうだな桃太郎! 全力疾走しながら!?」
「俺は日本一(予定)の桃太郎! 鬼退治をするために親友のジャック! 浦島太郎! 人食い狼! おやゆび姫と共に旅をしていた! 此処にくるまで紆余曲折、東西奔走! 詳しくは一話から読め!」
「もはやあらすじの体裁すら保つ気がないとか、本当に太郎一族というのは自由奔放だな! ハイヤー!」
「貴様、ここにきて加速だと!? 負けるか!」
手綱を操り、白馬をより一層加速させた三蔵法師に、桃太郎はお爺さん譲りの健脚で迫ります。頑張れ桃太郎! 負けるな桃太郎! 悪の三蔵法師に負けるわけにはいきません。
「うんことどっこいしょぉぉぉーー!!」
「ちがくなぁい!?」
「漏れるッ!」
「お前人としての恥じらいというのは無いのか!」
「人の尊厳を守るために俺がいる!」
「うんこ漏らしそうな桃太郎が決め台詞決めて追ってくるのめっちゃトラウマ!」
それでも白馬は抜けません。桃太郎は考えます。どうしたら追いつけるのでしょう。
「くっそう、段々フリフリ揺れる馬のケツに欲情してきたぞ!」
「貞操の危機! 逃げて、もっと逃げて! 全力で逃げて白馬!」
「ああ、だがしかし! 俺の足で追いつくことは不可能なのか……!」
桃太郎が諦めかけ、白馬との距離が広まっていきます。その時です。
……太郎……桃太郎……聞こえるかい。
「はっ……この声は……!」
あっ、すいません。アカウント間違えました……。
「どうりで聞き覚えが無いと思った! 誰だ貴様! 別垢で語りかけてくるやつにロクなやつはいない! なぜなら本垢が凍結済みだからだ! なにやつ!」
ワシじゃ……桃太郎……。
「お爺さん! お爺さんなのですね! なにかヒントを!?」
呼んだだけー☆
「クソじじぃぃぃぃぃぃぃいッ! この俺の怒りッ! とくと! 味わうがいい三蔵法師ッ!!!!」
「私関係なくなぁいっ!?」
「――例えこの五体、四散と砕け散ろうともッ! この俺の走りを阻むものあらば木端微塵! 太郎一族究極秘伝! これこそは初代桃太郎様より直々に伝えられし一子相伝の足捌き!」
なんということでしょうか。桃太郎と三蔵法師の距離が徐々に詰められていくではありませんか。その足運びたるやまさにメロスのように。そう、お爺さんの代によって完成されたフォームへと昇華を遂げた太郎一族の究極秘伝。
「
「昔から思っていたがお前ら太郎一族の必殺技はことごとくがネーミングセンスが死んでいる! って速すぎるわお前!? 追い抜いてどうする!」
黄金回転率の比率を保った完璧なランニングフォームによって桃太郎は白馬を追い抜き、天竺を背にして三蔵法師の前に立ちはだかりました。ですが、このままではまたもや白馬の跳躍によって出し抜かれてしまいます。
「ここから先には通さんぞ、三蔵法師! おとなしく引き返すのだな!」
「ええ、黙りなさい桃太郎! このままでは「天竺着いた。馬で来たわ」と自撮り付きでネットに投稿できないではないですか!」
「ならばその一文にこう付け加えるのだな! 「太郎一族に妨害されました。マジムカつく。なんなのあの日本一のハンサム」と!」
「謙虚そうに見えてその実欲望ダダ漏れの男! お前三分前に自分がうんこ漏らしそうな発言したの忘れてないか!?」
「過去とは乗り越えるもの!」
「駄目だこの男! 決め台詞のキメどころ破滅的に間違えている!」
「脱糞、じゃなかった、抜剣! 食らえー!」
「は、白馬ーー!!?」
桃太郎の手からすっぽ抜けた木刀は、三蔵法師の跨る白馬の喉元を強烈に叩きました。しかも足に引っ掛かり、これにはたまらず落馬します。受け身だけはしっかりと忘れない三蔵法師と、桃太郎が睨み合いました。
「三蔵法師。貴様の旅路はここまでだ。天竺ではなく地獄に行くことだな!」
「この私を同じ地に立たせるとは愚かな太郎一族め。貴方は既に釈迦の掌の上であることを知りなさい」
「釈迦は、巨女なのか。俺はそういうのも――――――イケる!」
「生粋のバカに効く説法を教えて仏様ッ!!!」
桃太郎が木刀を拾い上げて刀身を抜き放ちます。三蔵法師もまた、徒手空拳を向けて構えました。両者の気力がみなぎり、緊張感が漂います。
「いざ!」
「尋常に!」
『勝負ッ!』
二人の決戦が始まります。その様子は、天竺からもよく見えていました。