桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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決戦に備えて豪遊!

 天竺を案内されてわかったことは、やはりここがすばらしい場所であるということだけでした。

「メシはうまい!」

「はい!」

「空気もうまい!」

「はい!」

「美人も多い!」

「はい!」

「みんな親切!」

「はい!」

「親指姫よ!」

「なんでしょうか!」

「耳元で元気に返事しないでください。私の鼓膜が弾け飛びます」

「ごめんなさーい!」

 親指姫は桃太郎の肩が気に入ったようです。それをやや後ろからジャックと狼が眺めていました。

「なぁ狼よ。今思ったことがあるんだが」

「自分の頭がおかしいことに?」

「それは諦めてる。今も親指姫のスカートが覗けやしないかと血眼になってるところだ」

「充血してると思ったらそんなことに……」

「いやなに、大したことじゃあないんだが。……親指姫はもともとジェノサイドプリンセスなわけだろう?」

「話によれば」

「じゃあ一寸法師はなんなんだろうな」

「……さー? あ、あそこで骨売ってる!」

「そんなのに食いつくのお前くらい」

「マジで! 美味そう!」

「いい骨ですね! ツヤといい保存状態といい、削りだした人は腕がいい解体師なんでしょうか!」

「お前らも食いつくのかいぃ!? あ、フライドチキン美味そうだ」

 四人は骨をかじりながら天竺を歩いて回ります。

「それにしても三蔵法師達が到着するまで三日の猶予があるのか。それまでに浦島は到着できるのか?」

「大丈夫だジャック。お前は知らないだろうが、その昔浦島は先代金太郎様のペットである熊とかけっこして勝ったこともある」

「それはすごいのか?」

「ああ凄いとも。一日三千里走るといわれている熊に勝ったのだから」

「そいつはすごいな」

「まぁ秘孔を突いただけなんだが」

「反則勝ちか……」

「お山のカチカチ大惨事かけっこ大会か、懐かしいなぁ……三冠を果たしたミドリガメさんは凄いですね」

「ああ、あの方は凄いな。なんせ大地からエネルギーをもらって空を飛ぶ」

「走ってくれ、ミドリガメ……」

 しかしそれもおじいさんが桃太郎を拾うまでの話。桃太郎の脳裏には大人げもなく残像を残しながら木々を飛び移り、参加者を翻弄して優勝するおじいさんの姿がありました。それを追うおばあさんの表情は、それこそ鬼気迫るものがあったものです。

「そうだ、今の話で思い出した。きび団子は売ってないだろうか」

「あそこに土産屋がありますよ桃太郎さん」

「よし、行こう。たーのもー、きび団子なんぞ売ってませんかねここのお店!」

「いぇらっしゃい! おばあさん印のきび団子ならそこにあるよ!」

「おばあさんの写真がまるで遺影のようだ! ではこちらを」

「えーと旅人割引でお会計はこちら」

「ひぃ、ふぅ、みぃ、YO」

「ぴったり丁度いただきます。毎度ありー」

 すっかり堪能している桃太郎でしたが、何かを忘れているような気が……? しかし忘れるということは些事であるということ、桃太郎はすぐに歩き始めます。

 その頃、ジャックと狼は偶々見かけた店の前で立ち止まっていました。

「……狼よ」

「なんだジャック」

「この店は、なんだ?」

「土産屋です」

「そうだな。ならば、その名前は?」

「土星屋です」

「紛らわしいわ! たのもー!」

 日が暮れるまで天竺で遊び歩いた四人は宿へと戻って来ます。そして借りている一室で早速作戦会議を開きました。

 ちゃぶ台の上に広げるのは天竺周辺の地図です。そこにジャックの指が乗せられました。指し示されるのは一本の山道です。

「俺の予想では、ここから来ると思っている。三連装荷電粒子砲の建設が急ピッチで進められているが完成までにまだ――」

「あ、完成したっぽいぞ。祝福の儀式で花火打ち上げて喧嘩神輿始まってる」

「わー、汗と血と男達の友情が飛び散ってますねー」

「骨ウメェ……この味は、間違いなく豚……!」

「俺風呂行ってくるわ……」

「ああ、なら俺も行こうジャック」

「じゃあじゃあ私も行きます!」

「じゃあ骨食ってます。あぐあぐ」

 

 

「ウラアアアアアアァァァ、ヤアアアアアアァァァ!」

「キエエエエエエエエェェ、キャアアアアァァァア!」

「セアアアアァァァァ、ウホッホオオオオオオオオ!」

「誰か担架持ってこーい! 三丁目の土産屋の店主の友人の従兄弟の娘の旦那がトリプルアクセルから華麗に着地してギックリ腰だー!」 天竺では完成を祝っての喧嘩神輿で男達の熱い祝福が行われています。その熱気に隠れ潜む妖怪が一匹、天竺に侵入しようとしていました。

「ふひひ、まさかここから侵入されるとは思いもしなんだろう……人間達め」

 三蔵法師の手下が一人、猪八戒です。周囲を見渡せど人っ子一人居ません。それもそのはず。そこは天竺名物『極楽浄土真宗ブッダ温泉』まで通じる道なのですから。均された道に出た猪八戒は足音を潜ませながら天竺へ向かって急ぎます。

「ん、なんだぁこれは? 『極楽第三の湯:混浴』……」

 寄り道してもいい。猪八戒は自分にそう言い聞かせました。思えば天竺に侵入するという危険な任務も沙五浄が適任であるのに、なぜ猪八戒がやらなくてはならないのか。同郷の出身というだけの理由で三蔵法師に無理強いされたからです。

(一目でいいから見ておくか。そうだ、これはあくまでも危険がないかという理由であってだな……)

 物音を立てないよう静かに接近した猪八戒の前にそびえ立つのは覗き防止の為の囲いでした。ですがそれも妖怪である猪八戒には意味がありません。まずは聞き耳を立てます。

『ふんふんふー……』

(ほうほう、人間の女がひと……り……え……?)

『八つ裂きチャーハン食ーべ放題ー。刻んでおろしてかき混ぜてー、焼いて炒めてざっざっざー』

『食らえ、桶による桶の為の桶狭間の合戦を制した鉄壁のぉタオル!』

『なんのこれしき! 食らえ、タオルのタオルによるタオルのために行われたバスガスコールタール!』

『おのれ、水鉄砲とは卑怯な!』

『ふはははは、水辺で俺に勝てると思ったか!』

『ぶったーぶったーぶっつ切りー。煮ても焼いても美味しいのー、サイコロ切ってモッグモグー。チャーシューチャーシューおいしいよー』

(……かかわらないほうがよさそうだ)

 生唾を飲み込み、そっと離れようとしたその時。猪八戒が足を滑らせて尻餅をついてしまいました。

『なんだ、今の音?』

『豚じゃね? 猪か』

『あーいいですね、猪も。最近刻んでませんでした。今度狩りに行きましょうよ』

『いいですとも!』

『俺の猟銃も最近使ってなかったな』

(ナイス、バカ集団! これだから人間相手は楽でいい!)

 猪八戒は安堵して脂肪で張った腹を撫で下ろし、天竺へまんまと侵入することに成功しました。

 どうやら宿の裏のようです。ゴミ箱がおいてあるということは厨房のすぐそばであるということがすぐに分かりました。人影も、気配もありません。

 これは余裕だ、そう思い先を急ぐ猪八戒の背後に迫る影──その手には……


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