桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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辿り着くは極楽浄土! ここは天竺

 天竺に向けて歩き続けて早三日。その道中もまた波乱に満ちた道のりでした。

 立ちはだかる凶暴山菜による壮絶な森林伐採。襲いかかる猿の生首。道すがらに語りかけてくる蛙の軍隊。その戦いを乗り越えてまた一歩、桃太郎は仲間との絆を深めました。

「むっかしーむっかしーうーらしーまはー」

「YEAH!」

「たーすけーたかーめにーつーれらーれてー」

「Foo!」

「りゅーぐーじょーに行ってみ―ればー!」

「そこは地獄の阿鼻叫喚!」

「おのれ乙姫! 許さん!」

「そして我々は竜宮四天王と死闘を繰り広げ、見事勝利!」

「おつかれっしたー!」

『イエエエエエエエ!』

 ハイタッチで盛り上がる桃太郎とジャックの手をうんしょうんしょと昇った親指姫も小さな体でハイタッチします。

「い、いえー!」

「おい桃太郎! あれを見ろ!」

「まさかアレは、この地域一帯に伝わる伝説の生き物!」

「どっからどう見ても化け物だアレー!?」

「背中に四つの羽を生やし、尻尾からは破壊光線を放つ蛇を自在に操り、腹に環境汚染粒子を溜めこむ器官を内蔵した伝説の生もの!」

「かたくなに化け物と認めようとしない!?」

「真っ赤なおべべは虐殺者の証! 鋭い爪先はタンスの角も切り裂くという!」

「そして煮込んで食うと天にも昇る絶品と噂のイヌ!」

「わー、アレがイヌですか。私初めて見ました」

「親指姫……貴方だけはまともだと信じていたのに……!」

 イヌ(?)は桃太郎達を見るなりゆっくりと歩み寄ってきました。天竺の周辺地域一帯の守り神でもあるイヌに手を合わせて拝みます。

「ありがたやー」

「ありがたやー」

「ありがたやー」

『ピーガガガ……ガ、ピー……コンニチワ、旅ノ方』

「喋ったぁぁぁぁぁぁ!」

『ウルサイ、狼。黙ッテロ』

「すまんかった」

「まさか天竺に向かう途中で伝説と名高いニッポンヤマイヌを見ることが出来るとは」

『ガガ、ピー……ウィーン──天竺。テンジク、ナラスグソコデス』

 尻尾で指し示す先には天竺までの距離が書かれた看板が立て掛けられてました。ジャックがそれを見ていると掠れた文字で案内が書かれているではありませんか。

「ん~? なんだこれ」

「ジャック、天竺まで後どれぐらいだ」

「ああ、あと二十光年と書いてある。もうちょっとだな」

「こ、光年!?」

「なんだ、あと二十光年(みつとし)か」

「どういう単位なんですか?」

「大体一光年(みつとし)で十五太郎です。そして一太郎は凡そ三メートルです。なので一光年(みつとし)は四十五メートル、残り九百メートルです」

「なんで一キロじゃないんだ……」

『ロボチガウロボ……ソチラハ近道、危険危ナイ一杯、ダカラ、ソッチ進ム推奨』

 掠れている文字を解読しようとジャックが目を凝らします。

「えーとなになに? ……コ、ノ先……足長、様の……本拠地? 一泊驚きの低価格298……安いな」

「ああ、安いな」

「ではそちらで」

「ちょっと待ってください」

『足長、今イナイ。泊マルナラ、イマノウチデス。ゲヘヘヘ』

「なるほど。じゃあこっちで」

「敢えて危険な方を選ぶ桃太郎さん素敵!」

「狼、索敵だ!」

「頑張れ狼!」

「カチカチ山に帰りたい……」

 ニッポンヤマイヌの進言を心苦しくも丁重に断り、桃太郎達は敢えて近道である二十光年(みつとし)を選びました。

「それにしてもジャック、よく読めたな。あの看板、東西南北中央古代バビロニアンハスキー語源象形文字で書かれていたのに」

「通信教育にはまってた時期があってな、俺に読めない文字は沢山ある」

「私も始めてみようかしら、通信教育で雄豚の育て方」

「もう嫌だこのパーティー……」

 

 ザッ……──和気あいあいと話をしながら遠ざかる一団の姿を観察する姿。バイザーから漏れる赤い光に表示される『失敗』の二文字に、脇から過剰エネルギーを排気しました。その影から現れるのは異様に長い足を持つ化け物です。

『誘導、出来マセンデシタ。引キ続キ、天竺周辺、警戒シマス』

「よろしい。ホップ・ステップ・ヒップホップでヘイヘイホーを忘れるなよニッポンヤマイヌ」

『ワタシニポンゴワァカリマセーン』

「Oh……」

 

「もーもたろうもーもたろう!」

「おっこしーにつーけたきーび団子ー」

「ひっとつー私にくーださいよー」

「欲しければ奪え! 勝ち取れ! 恵まれようとするその軟弱な精神こそが弱肉強食における敗者の発想! 欲しければ奪ってみせろ、俺の命は食物連鎖の頂点に立つかもしれない夢を見たー!」

「きゃっきゃ」

 ボロボロのつり橋を桃太郎とジャックが駆け抜け、狼が連続バク宙で乗り越えます。

「赤巻紙青巻紙黄巻紙!」

「朱巻紙蒼巻紙黄巻紙!」

「ポマード! ポマード! スペースピーポーべっこう飴!」

「禿げ上がるほどのフラストレーション!」

 坂道から転がる大岩の雪崩もコンビネーションで見事に切り抜けました。

「そして到着!」

「天竺!」

「はい!」

「長い道のりだった……」

 まるで要塞のような外壁に囲まれた場所こそが天竺です。まだ作業の途中なのか日本日曜大工連合会の会員であるお父様方が三連装荷電粒子砲の取り付けを行っていました。

 跳ね橋が下ろされ、桃太郎の顔を見た受付が驚きます。

「も、もしや貴方は中南米の密林で外宇宙狩猟民族と地球外生命体の儀式に巻き込まれて生存したとかつてニュースで報道された第十三代目桃太郎様ですか!」

「如何にも、私は桃から生まれた桃太郎。しかしそんなに有名だったとは……」

「ああ、その肩に座っていられる方は私の見間違えでなければ数多の戦場で幾多もの屍の山を築き上げたジェノサイドプリンセス、通称鮮血の親指姫様ではありませんか?」

「あらやだ、私も有名になったものね」

「すいません、うちペット禁止なんですよ」

「大丈夫だ。これは私の非常食だから」

「じゃあ大丈夫です。桃太郎様、どうか天竺をお助けください!」

「話は親指姫から聞いているよ。まずは宿をお借りしたい」

 こうして無事に天竺へと辿りついた桃太郎達は中へ案内されました。そこは外壁とは裏腹に桃源郷と見紛うばかりの平和な土地です。それがあんな外壁を建造しなくてはならなくなってしまったのも三蔵法師が侵略してくるという話を聞いてからです。おのれ許すまじ三蔵法師、と桃太郎が思ったのかどうかは定かではありません。

 案内された宿で桃太郎は天竺を治める長と話しあいの場を設けられました。

「貴方様も噂くらいは聞いておりましょう。三蔵法師、かつては善良な行いによって妖怪を救済してきた者の名を。それが今、悪しき行いによって魑魅魍魎を従えながら此処へ向かっているという由々しき事態なのです」

「そこまでは聞いています、この親指姫から」

「一寸法師を知りませんか? 私との婚約を目前にして打ち出の小づちと共に姿を消した」

「一寸法師ですと!? ……やはり、あの噂は本当でしたか。実はですな、親指姫様。三蔵法師の肩に、今丁度貴方が桃太郎様の肩でそうしているように一寸法師が居た、と」

「嗚呼、なんてこと……このままでは私は一寸を殺してしまわなくてはならなくなる。どうしましょう、物凄く楽しみで私、胸が高鳴ってきました」

「落ち着いてください親指姫。そのせめてもの対策に、あのような外壁を?」

「天竺の景観を損なうのは百も承知です。しかしそれ以上に私たちは此処を守る使命があります」

「それにしてもなぜ三蔵法師は天竺を?」

「実は、三蔵法師のツイッターで「このツイ-トが100RTされたら天竺目指して旅するわ。空気安定マジ余裕」とつぶやいた所、孫悟空、猪八戒、沙五浄の三人から拡散希望のタグ付きで広められ、僅か半日で目標を達成してしまわれたのです」

「三蔵法師……奴もまた悲しみを背負うものだったか……」

 桃太郎は自らと同じ境遇であった三蔵法師に目頭を押さえました。ジャックは必死に涙を堪えています。

「しかし、敵となるならば手加減はしません。我々にお任せください。後から浦島も来るはずです」

「なんと、桃太郎様だけでなく、あの浦島太郎様まで……これは心強い」

 

 

 

 ──その頃、浦島。

 

「……この先足長様の本拠地。一泊298円……安いな、こっちにしよう」

『毎度アリ。アリアリガッテン』

「急がば回れとも言うからな。ありがとう、初代太郎一族のペット、伝説のニッポンヤマイヌ」

『昔ノ、話デス……』


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