桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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天竺編:奴が来る! その名は三蔵法師!
次なる目的地へ


「長く苦しい戦いだった……しかし浦島、やったな」

「ああ。乙姫がまさか浦島一族の秘伝技を使うとは思いもしなかった」

「こうして港町に戻ってきたんだし、一件落着だな」

 ジャックの言葉に頷いた二人が腰を落ち着けました。

「これでようやく港町にも平和が戻るはずだ。夜な夜な半漁人がうろついてはたまらん」

「黙ってどうした狼」

「……見渡す限りの荒野に港町の面影が欠片もないんですがこれは……」

 道には瓦礫、建造物の建っていた場所には木材や家具が散らばっています。

 乙姫との激戦、浦島の死闘を演じた竜宮城はその戦いの余波により崩壊。桃太郎達はタツノオトシゴの案内で乗り込んだクジラに運ばれて地上に戻ってきました。しかし見渡す限りの荒野。

「まぁ大丈夫だ。三日もあれば漁師たちも戻ってくる。桃太郎、私はひとまず先代浦島様に報告をしてこなければならない」

「そうか。なら此処で一旦お別れだな」

「心配するな、すぐに後を追う」

「だが何処で合流する?」

「それならいい場所がある。身体を休めるにはピッタリだ。海沿いの道を駆け抜けていった先の道に、山に囲まれた天竺という素晴らしい場所があるらしい。そこで落ち合おう」

「天竺、なるほど分かった」

 桃太郎は浦島と固い握手を交わし、ひとまずの別れを告げました。

「浦島、お前が旅の一行に再び加わることを楽しみに待ってやらん事もない」

「ふっ、減らず口を。身体に気を付けろよ、ジャック」

「浦島さん、早い帰還を待ってます」

「お手」

「わふん」

 服を着た桃太郎達は天竺を目指して歩き始めました。

 

「いやー、地上の空気は美味いな」

「まったくだ。竜宮城は生臭いというかなんというか、湿っぽい空気で肌にうるおいが」

「カビてろジャック」

「あぁん、なんか言ったか狼。この野郎!」

「きゃふんギャウン!!」

「そうはしゃぐな、狼」

 狼を追いかけるジャックの後を、桃太郎はのんびりと早足で追います。地上の空気のなんと清々しいことか、胸一杯に新鮮な空気を吸い込んだ桃太郎は新緑の香りに混じる異臭に気付きました。

「ん? なんだこの臭いは……鼻に付く甘い香り……花?」

 咲き誇る花を見つけますが、それとはまた違った甘い香り。

「おーい、桃太郎、大変だ」

「どうかしたのか」

「狼の奴が白目むいて痙攣しながらわけのわからない言葉を発してるんだがどうすればいい」

「俺達は犬じゃないからなぁ、流石になに言ってるのかまで分からない」

 桃太郎が白く美しい花を眺めていると、女性の声に呼び止められます。

「ん? どこからだ?」

「もしもしー、其処の方! ここです、私はここなのですー!」

「あ、いた。こんにちわ、小さいお嬢さん」

 花の一つになんと綺麗なドレスをまとった女性がいるではありませんか。その大きさは片手に乗るほど小さなものでした。

「私は親指姫。これからどちらに?」

「天竺に向かおうと思っていました。もしやお嬢さんも?」

「はい。実はお供の雀が何者かに襲われてしまい、私はここで途方に暮れていたのです。どうかお願いします、私も連れていってくれませんか?」

「そういう事ならお任せを」

「まぁ、ありがとうございます。私は動物の言葉が分かります、何かお役に立てるといいのですが」

「では早速。おーい、ジャック!」

「YEAH! なんだ桃太郎。狼引きずるの手伝ってくれ」

「動物虐待! ひどい!」

「あれは人食い狼です」

「そうでしたか、すいません。早とちりを」

「今は旅のお供です」

「どういうことですか!?」

 桃太郎は事情を四百字詰め原稿用紙一枚に簡潔にまとめて親指姫に説明すると、理解を示したようです。そして白目で痙攣する狼の言葉に耳を傾けると、親指姫は桃太郎の肩で唸りました。

「なにか分かりました?」

「なに言ってるかさっぱりわかりませんでした」

「むむむ、親指姫でも無理だったか」

「起きろってんだ、この犬ッコロ!」

「ギャぷん! ハッ、此処は俺、何処は私」

「太郎一族流気つけ!」

「ドッセイ! おはようございます、桃太郎さん、ジャック」

「よし、治った」

「す、凄いです! もしや貴方は太郎一族に縁のある方ですか」

「如何にも。私は桃太郎、鬼退治をする為の旅をしている最中なのです」

 肩で喜ぶ親指姫は落ちそうになりますが、それを桃太郎が支えます。

「しかし、親指姫は何故旅を?」

「それはですね、七人の小人作戦をご存知でしょうか?」

「七人の小人作戦?」

「ああ、アレか。知ってるぜ。赤鬼、青鬼と手長足長の四匹の本土進攻の際に選ばれた七人の精鋭による隠密作戦だろ。結果は成功、しかし生き残りも少なかったという」

「詳しいなジャック」

「HAHAHA、そりゃそうさ。俺の上司がその作戦の司令官だったからな」

「そうです。その作戦で辛くも生き残った一人、一寸法師を探しているのですが……」

「なるほど。それで一人旅を……どういった関係で?」

「こ、ここ恋人です……」

 照れ臭そうに頬に手を当て、身体を振る親指姫の反応はとても愛くるしいものでした。

「こんなかわいらしい恋人を放って何処に消えたってんだ、その一寸法師って奴は」

「分かりません。ただ噂で聞いたのですが……天竺に」

「天竺に居る、と?」

 桃太郎の問いに、親指姫は首を横に振りました。

「いえ、天竺に向かっている、かの有名な一行の中ににその姿があったと」

「その一行とは、一体」

「かつて安倍清明と旧友でもあった三蔵法師です。今は魑魅魍魎の群れを率いて天竺を目指して進軍しています。嗚呼、その中に一寸がいると思うだけで私は……」

「泣かないでください親指姫。もしそこに一寸法師がいたのなら貴方が止めるべきです」

「はい。必ず連れ戻します、ぐすん」

 しかし、桃太郎達は目指している天竺を狙う三蔵法師の脅威に固唾を飲み込みます。

 名前だけならば桃太郎も聞いたことがありました。太郎一族に影ながら力を貸していた妖術師として耳にしていましたが、まさか妖怪を引き連れているとは思いもしません。

「三蔵法師の目的は一体」

「妖怪の天下、そして鬼一族の開放であると私は長靴を履いた猫から聞きましたけれど、果たして本当なのかどうか……」

「三蔵法師と言えば孫悟空、猪八戒、沙五浄の三匹が厄介だな。あいつらの実力は一夜で都を滅ぼすほどと聞く」

「乙姫の次は三蔵法師か……相手にとって不足はない。だが問題は数だな」

 軍勢を率いて天竺に向かっているとなれば桃太郎達も正面から挑む訳にはいきません。浦島が先代の下へ報告に行った為、強力な戦力が不在なのは桃太郎としても痛みます。しかし、天竺に三蔵法師一行が到着する前に合流できる事を信じて桃太郎は天竺に向かいました。


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