桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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竜宮城の主、乙姫との決戦!

 浦島は逃げた乙姫を追って竜宮城を右往左往しました。走れど走れど同じ場所をグルグルと回っているような錯覚に囚われてしまいます。

「乙姫、一体どこへ逃げたというのか……」

 しばし悩み、ふと壁を見ると案内板がありました。これこそ天の助けと思い、浦島はその案内板に従って乙姫の部屋へ向かって走ります。道中でエビの妨害がありましたが難なく切り抜けました。

 扉をノックすると、中から乙姫の声。

「失礼」

「化粧直し中じゃ、玉座の間で待ってるが良い」

「分かった」

 

 言われた通りに浦島は玉座の間へ戻り、桃太郎達に事情を話します。

「そっかー女は大変だな」

「まぁそれならしゃあない」

「一休み出来るな」

 あっはっはと談笑する中、狼の顔色が優れません。

「どうした狼。具合でも悪いのか」

「ま、まぁ……」

「変な物食ったんじゃないだろうな」

「食ってない」

 そこに給仕のタツノオトシゴがやってきます。

「もーすぐ乙姫様の化粧が終わるそうですよ~。ですのでスタンバってくださーい」

「任された! 時にタツノオトシゴよ。あそこの生ものを片づけておいてくれないか」

「いえいえ、乙姫様のリアクションを確認してからの方が面白いかと」

「なるほど、一理ある」

 桃太郎はタツノオトシゴのセンスに納得しながら準備体操を始めました。

 乙姫の攻撃手段は想像もつきません。浦島さえ一戦交えることがなかったのです。その上桃太郎達は丸腰でした。実は巨人の館から拝借した武器の数々は港町での激戦で消耗してしまったのです。持ちこもうにもここは深海に建つ竜宮城。その結果、己の肉体のみで戦う事を強いられていました。

「な、なんと……竜宮の精鋭たる四天王を退けるとは……! 太郎一族、それに部外者二名。忌々しい奴!」

 壇上に戻ってくるなり乙姫が激情を露わに声を張り上げます。

「確かに強敵だった。だが倒せないほどじゃあなかったぞ!」

「修学旅行に比べればこの程度余裕だぜ!」

「兎を追っていたかの山に帰りたい」

「雑魚だった」

「実力バラッバラじゃな……だがそんな余裕もここまでじゃ! タツノオトシゴ!」

「はーい。なんでしょうか乙姫さま」

「そこのマグロ達を片づけておいといてくれ」

「わっかりました~。みんなー」

 給仕係が総出で竜宮四天王を玉座の間から片付けていきました。それらが済んだ所で乙姫は煌びやかな着物の袖を振り上げます。羽衣を掴み、桃太郎達と対峙しました。

「ふふん。どこからでも来るが良い!」

「じゃあ俺後ろから攻撃する」

「ならオレは頭上から攻めるか」

「足元からで」

「正々堂々正面から挑もう」

「卑怯臭い奴らじゃなお主ら!?」

「どこからでもいいんだろう!」

「そうじゃな! 参れ!」

「うおりゃあああああああ!」

「ぎゃあああああああああ!!」

 後ろに回り込んだ桃太郎が蹴りで吹き飛ばされ、頭上から襲いかかるジャックは羽衣に捕まり狼に投げつけられます。転がる二人に浦島が巻き添えを食らいました。

「ば、馬鹿な……四人がかりでこうもアッサリとあしらわれるなんて!?」

「年季が違うのじゃお主らとは。初代太郎一族でも連れてくるが良い、若造!」

 羽衣が揺れた次の瞬間、危機を察知した桃太郎達は身を屈めます。すると柱が次々と切断されていくではありませんか。

「なんて切れ味だ。狼、お前自慢の爪でどうにか出来ないか!」

「死ぬほど熱くて痛いんで無理っす」

「そうか、なら仕方ないな」

「そらそらどうした太郎一族と部外者一人と一匹! 初代太郎一族が死闘の果てに鬼ヶ島に封印した鬼一族を倒すのじゃろう? 鬼ヶ島海底支部、竜宮城で手こずる程度では片腹痛いわぁ、はっはっは!」

「グ、グハァ! つええぞ乙姫!?」

「ジャック、上、上ー!」

「きゃうんきゃうん!」

「これでは近づけん……!」

 乙姫が巧みに操る羽衣はまるで自らの意志を持つかの様に桃太郎達に襲いかかりました。薄手の衣は切れ味抜群、その上狼の爪を通さない柔軟性はタツノオトシゴが使っている洗剤に秘密があります。

「特にお主には失望したぞ、浦島!」

「なに…?」

「初代浦島様との戦いに敗れ、惚れ込んだ弱みさえなければ……お主など! そして桃太郎!」

「なんぞ?」

「お主もじゃ! 初代桃太郎様はそのように無様な戦いはしなんだ。それで鬼一族を退治などと……恥を知れ!」

「ブーメランパンツ一丁で女に殴りかかる奴に羞恥心を期待するな!!」

「しまったコイツ生粋のバカじゃ!?」

 しかし乙姫の攻撃は休む間もなく苦しめます。

「何か、何か手はないかジャック!」

「見ろ桃太郎」

「なんだ」

「攻撃の合間に着物の裾から覗く太股がすげぇエロイ」

「どぉらっしゃああああああ!」

 太郎一族必殺の技、稲荷落としでジャックが空中できりもみ回転すると桃太郎はそれを捕まえて床に叩きつけました。ジャックは玉座の間に突き刺さります。

「なにか手はないかジャック!」

「とりあえずごめんなさい。そして手も足も出ねぇよこれじゃ! 浦島!」

「どうしたジャック!」

「オレはもう駄目だ……後は任したぜ」

「秘孔!」

「うッ! ……ガクリ」

 片隅にジャックを転がし、桃太郎達は何事もなかったかのように乙姫の猛攻を退けました。

「ジャックが戦線離脱か、きついな」

「そうだな」

「お主ら……」

 乙姫が何か言いたげにしていますが、桃太郎と浦島は知りません。

「狼。お前の爪でも無理か」

「やってみましたが駄目でしたァー……!」

「狼ぃーーーーー!?」

 羽衣に殴られて狼が遠ざかっていきます。残されたのは桃太郎と浦島だけでした。数が減った分攻撃の手はより激しくなります。

「悔しいじゃろう、手も足も出んか? お主らはその程度よ! 未熟! 青二才! 太郎一族の名が泣くぞ!」

「くっそう、こうなったら……浦島!」

「なんだ!」

「俺が羽衣をどうにかするから一撃で決着をつけるんだ!」

「頼めるか!」

「自信ないけどな」

「ふん、やってみるがいい! そらそらそらぁ!」

「行け、浦島! どゅああああ!」

 桃太郎を片づけ、浦島を相手にしようとした乙姫でしたが、意外にも桃太郎が善戦したことに焦ります。

「うぉあああああああ無理ぃいいいいッ!! ぐあああああ!!」

「も、桃太郎ー! くそぉ、乙姫ぇぇっ!」

「あああああ──なんとかなったぁ!」

「食らえ、浦島秘伝秘孔殺法!」

 浦島の背後に隠れて見えませんが、桃太郎は羽衣にがんじがらめにされていました。その捨て身の行動により先端が結ばれてしまい、乙姫の攻撃の手段が封じられます。その隙に浦島の秘孔術が乙姫に炸裂しました。

「ぐ、ぐふぅ……見事じゃ……初代浦島、二代目、三代目に次ぐ技のキレ……だが詰めを誤ったのう!」

「なんだと!? ぐはぁっ!」

 浦島もまた乙姫に秘孔を突かれ、身動きが封じられます。

「太郎の血族たる浦島と深い由縁のあるこの我が、秘孔に対する対抗術がないと思うたか!」

「──おっと、そいつはどうかな?」

 乙姫の背後に立つブーメランパンツ一丁の部外者こと、ジャック。気配を隠して忍び寄り、羽衣を奪い去ります。

「しまった、いつの間に!」

「大丈夫か桃太郎!」

「むぐむぐむぐふぐ!」

 ミイラ状態の桃太郎を救出する頭上を飛び越えるのは一匹の部外者。狼が浦島の身体に体当たりを仕掛けて金縛りを解きました。

「ハァ、ハァ……廊下長すぎる……」

「狼、無事だったか。ともあれ」

 四人が揃います。今度は羽衣も奪い、乙姫は丸腰でした。

「やっちまえ浦島!」

「負けるなよ!」

「頑張ってください」

「任せろ、必ず」

 

「小癪な。勝てるものか! 参れ!」

「応!」

 乙姫と浦島の壮絶な格闘は竜宮城に甚大な被害をもたらしました。


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