桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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深海の決着

 切り裂きシャークの絶叫が響きます。しかし静かな緊張感を漂わせる流れ弾のトビウオと浦島の睨みあいには聞こえませんでした。

「へぇ、へへぇ。お久方ぶりですねぇ、浦島さん」

「退け、死ぬことになるぞ」

「へぇっへへ。そういうわけにもいきませんで、はい。しかしまぁなにゆえに乙姫様に刃を? おっと失敬、拳でしたねぇ」

「……港町を汚染した。その玉手箱を渡した元凶である乙姫を断てば美しい我が故郷が戻ると」

「火のないところに煙はねぇ、とですか。しかしですね、浦島さん。残念ながらそいつぁなりませんでぇ?」

「なに!?」

「それで救えるのは後世。確かに乙姫様を倒せば玉手箱の効果は消えやす、へい。ですがねぇ、その効力が即効とは限りませんぜ」

「……くっ」

「如何しやすかい?」

「それでも俺は此処まで来た。やらせてもらうぞ」

「へ、へぇっへへへへ! 出来やすかねぇ、竜宮一のすばしっこさとウザさと狡猾さと紳士さを持ち合わせたこの流れ弾のトビウオに」

「先手必勝!」

「うぼぇあっぱぁら!? ひ、卑怯ですぜ!? 不意打ちだなんでぇっぷらぁ!」

「不意打ち! 闇討ち! 奇襲隠密暗殺拷問束縛拉致監禁! 貴様には、八大猫地獄すら生ぬるい!」

「な、南無八幡大菩薩猫の加護を得ていると! 浦島、貴方は一体……!?」

「俺がこの指を抜いてから三年後。お前は綺麗な嫁を貰い、幸福な家庭を築いて幸せを噛みしめながら息絶えることだろう」

「な、なんですって……」

「だが此処で死ぬ。経絡秘孔の一つを突いた」

「どこの!?」

「ここを突くことにより本来ならば肩こり・腰痛・リウマチ・ヘルニア・頭痛・吐き気・心臓に毛が生える程度の病気ならば瞬時に完治する。だが此処で死ぬ」

「い、いやだ! やめてくれ!」

「だが此処で死ぬ」

 浦島が流れ弾のトビウオの身体から指を抜いた瞬間の出来事でした。

「ごふぉあ!」

「ぐはぁ!」

「しらたき食いたいっ!」

 本マグロ、ウミガメ三四郎、切り裂きシャークが苦悶の声を挙げます。唖然とした流れ弾のトビウオが後ずさりました。

「し、死にたくな……乙姫サバァ!」

「しまった間違えた」

 浦島の淡々とした呟きが終わると同時に流れ弾のトビウオの身体が膨れ上がります。そしてそのまま倒れ込むとピクリとも動きませんでした。なにか納得がいかないように唸ります。

「……死んでしまった……私が秘孔の説明を間違えたばかりに」

「でも結局倒してるじゃねーか!」

「おお、桃太郎。大丈夫か、こんなところまで吹き飛ばされて。全身青あざだらけだが」

「当然だ。ブーメランパンツ一丁でマグロと殴り合ってるんだからな」

「今なら秘孔を突いて強化してやることも出来るがどうする?」

「でも高いんだろう?」

「それをなんと今回はアイツの命だけで十割キャッシュバック」

「まぁお得!」

「ただし制限時間は十秒だ」

「ならやめとく。とおりゃああああ!」

 桃太郎は再三、本マグロに立ち向かいます。しかし何度打撃を加えても一向にダメージが通りません。その様子を見ていた浦島が不敵に笑いました。

「なるほど。そういうことか桃太郎。相変わらず抜け目のない男だ」

 浦島は壇上へと駆けあがりますが、いつの間にか乙姫の姿が消えています。

「おのれ、逃がすか!」

 玉座の後ろに見える通路に向けて浦島は走り出しました。

 

 そしてジャックとウミガメ三四郎の戦いはこう着状態のまま動きません。

「くっ、さきほどの胸を刺すような痛みは一体……はっ。まさかこれが……変!」

「変身などさせるか!」

「お、おのれ! 何をするのですか! 変身中は攻撃してはならない暗黙のルールを知らないのですか!」

「残念だがそれは違うぜウミガメ三四郎」

「なんですと!?」

「オレタチ、正義の味方。オマエ、敵。ダカラ、駄目。分かる?」

「……何故カタコトで」

 ウミガメ三四郎の背後に回ったジャックはヘッドロックをかけようとしますが、甲羅の中に閉じこもって避けられました。

「この野郎出てこい! オラオラオラァ!」

「ヒィ! 甲羅の中に閉じこもっても執拗に蹴りを入れてくるこの人間何なの!?」

「桃太郎、こいつを使えええええっ!」

「私は武器じゃないぃぃぃぃぃぃ!」

 ウミガメ三四郎を持ち上げ、それを投げたジャックでしたがコントロールが狂って狼の顔面に直撃します。

「俺が……お、俺が何をしたってんだ……ぐふっ……」

「「お、狼ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」」

 狼を抱き起こした桃太郎が頬を軽く叩きました。ジャックも慌てて駆け寄ります。

「大丈夫か狼! しっかりしろ狼! こんなところで死ぬな狼! 一体誰にやられた狼!」

「ジャ……ジャックに……」

「おのれウミガメ三四郎! 俺達の大切な仲間をよくも!」

「てめえらの体など三枚下ろしになんかしてやるものか! 捌いて叩いて醤油とワサビで美味しく丼にしてやる!」

「ジャックが……」

「もういい喋るな狼。お前は其処で休んでいろ! あとで保健所に連れて行ってやるから!」

「寝てる場合じゃねぇなそれ!?」

「「あ、起きた」」

 狼がなんとか一命を取り留めました。血痰を吐き捨て、口元の血を拭います。

「くそ、なんて強敵だ……」

「ある意味アンタらの方が強敵だよ……」

 これには流石の本マグロも苦笑いで返しました。

「くそ、流石は黒き鋼鉄のマグロだ。洒落にならない硬さだ……」

「ウミガメの野郎も中々にしぶといぜ」

「切り裂きシャークめ、奴の牙もまた鋭い……」

 ふと、三人が顔を見合わせます。

「本マグロ! 作戦タイムだ! 少し時間をくれないか!」

「よろしい!」

「ありがとう!」

 ヒソヒソと三人が作戦を立てていると給仕係のタツノオトシゴがお茶を持ってきました。それに感謝しながら三人が円陣を組み、気合いを入れ直します。

「お茶美味しかったよ。ありがとうタツノオトシゴ」

「良く見ればかわいいなこの子」

「僕はぁ男ですよ~?」

「神は、神はこの世にいらっしゃいませんのかくそったれめぇ!」

「さぁ行くぞ! 覚悟はいいか魚介四天王!」

「竜宮四天王です! 貴方達がどんな作戦を立てても無駄なこと!」

「──それはどうかな? ジャック、狼。手筈通りだ、しくじるなよ」

了解(ヤー)、任せとけ」

「イエス、桃太郎さん!」

 三人がそれぞれ同じ相手に向かって挑みます。

 桃太郎は黒き鋼鉄の本マグロ。

 ジャックはウミガメ三四郎。

 狼は切り裂きシャーク。

 やはり戦局は変わりません。すると桃太郎が合図を送りました。それに気付いた二人が動き始めます。

「くらえウミガメ三四郎!」

「甘いですよ!」

「かかったな?」

 ニヤリと、ジャックはそれはもう悪い顔をしていました。甲羅の中に閉じこもったウミガメ三四郎の身体を持ち上げます。

「切り裂きシャーク、お前との戯れもここまでだ。がおー」

「きしゃー。シャヒャヒャ、寝言を!」

「金太郎様直伝! 熊手投げ!」

「シャヒャー!?」

 切り裂きシャークを掴み、きりもみ回転しながら飛んでいく先にはジャックがいました。先程の仕返しでしょうか? いいえ、違います。これも桃太郎の作戦通りでした。

「マグロ。お前は確かに硬い。そして強い。だがそんな貴様にも弱点が存在する!」

「この深海のスピードグラップラーである私に弱点など!」

「あるんだなぁそれが」

 桃太郎がかがむと、マグロの視界一杯にウミガメ三四郎の甲羅と切り裂きシャークが飛んできました。それを受け止めます。

「だ、大丈夫かお前達……ハッ!?」

 空高く飛び上がる桃太郎とジャックの姿に気付いた頃には時既に遅く、竜宮四天王の敗北は決定しています。

「行くぞ、ジャック!」

「アレだな、桃太郎!」

「アレだとも!」

「よぉーっし、やるかぁアレ!」

「ど、どれなんだ一体ぃぃぃぐわぁぁぁ!」

 慌てふためく間にマグロはウミガメ三四郎の甲羅に押し潰され、干乾びたように口をパクパクとさせていました。その顔に大きな口を開けた切り裂きシャークの顔があります。

「太郎一族秘伝蹴倒術・迅雷!」

「東方公共降下部隊帝国格闘術・ムーンサルトダイブ!」

「「これぞ名付けて、必殺のアレ」」

「ぐ、ぐふぅ……乙姫……様……無念」

 甲羅は割られ、牙は折られ、身体は潰された竜宮四天王の最後は凄惨なものでした。しかし桃太郎達も消耗しています。

「はぁ、はぁ……強敵だった。こんなんで俺達は鬼ヶ島に辿りつけるのか、桃太郎」

「大丈夫だ。きっと旅の途中で経験値とか溜まってレベルアップするから」

「しねーよ」

「早く地上に戻って骨食いたい……」

「そういえば浦島は?」

「さぁな」


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