桃太郎伝説~俺は日本一~   作:アメリカ兎

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激突、竜宮四天王!

 

 ──その桃太郎達の奮闘は深海の竜宮城で待ち構える乙姫の耳に入ることとなりました。

「お、乙姫サバぁ!」

「なんだマグロか……」

「港に太郎一行が現れました!」

「聞いておる」

「その戦いの影響で港町が消滅しました!」

「へー……えぇええ!? なんぞ!? なんでじゃ!」

「太郎一族友情合体! 必殺・サンシャイントルネードの使用によって海が大荒れです!」

「そんなダッサイネーミングの技に壊滅的打撃を受けてどうするか! それにここをどこだと心得る、竜宮城ぞ。我が参謀、ウミガメ三四郎の協力も無しにどうやって侵入するという! 兵を募れ! 増援を送り込み奴等を近寄らせるな!」

「そ、それが……先程宅配業者が来訪されまして」

「ええい、まどろっこしい。それがどうした、ハッキリ申してみよ!」

 

「変装していた桃太郎達に侵入されました!」

 

 マグロが言い終わると同時に豪華な扉が爆発し、煙の中から桃太郎達が現れました。

「深海クキワカメ運送業者は海に忍ぶ仮の姿、その真の姿とは──そう。俺は太郎一族が一人、桃太郎!」

「青い海原真っ赤に染める。門外不出の秘孔術、浦島太郎!」

「東西奔走解体業者! 俺はジャック! 部外者です」

「ポイ捨て撲滅運動委員会会員ナンバー下二桁! 人食い狼ですが部外者です」

「なんだこの変態達!? なんでパンツ一丁なのじゃ! 服を着ろ服を!」

「さっき脱ぎ捨てた変装用の服しかない!」

「いいから着ろ! るるいあ裁判所に突きだされたいか!」

「馬鹿野郎、これは下着じゃねぇ! ブーメランパンツという水着だ!」

「癖になる解放感」

「テメエは黙れ狼」

 ジャックに足蹴にされてショットガンを突きつけられる狼は顔を青くして静かになりました。

「さぁ覚悟しろ乙姫! お前が今まで働いてきた悪逆非道の数々! 許すまじ!」

「動物虐待してる貴様がなにを言うか!」

「港町を壊滅させた太郎が何か言ってますよ」

「大義に犠牲は付き物、諦めた。解決! さぁ行くぞ! 覚悟ォー!!」

「こ、この外道がァァァァ!!」

 なんということでしょうか、桃太郎達の前で脚の生えたマグロが変身したではありませんか。筋骨隆々の黒光りする青白い肉体。頭だけはマグロの名残が残っていました。

「我は竜宮一のスタミナを誇る黒き鋼鉄、本マグロ! 深海のスピードグラップラーと恐れられる我が海産格闘術、とくと味わえい!」

「面白い。解体ショーで三枚開きにしてやりたいが出来ると思うかアンケート! 出来ると思う奴はその場でジャンプして空中で四回転、ひねりを加えたブリッジで着地してみせろ!」

「「トォー!」」

「ト、ぐぇばぉ!?」

「ありがとう浦島、ジャック。お前達からの励まし、しかと投げ捨てた! ところで狼、大丈夫か?」

「なんで、なんで出来たんだそこの二人……!」

 狼が悔しそうに床を叩きました。

「来い、竜宮を守る四天王! 乙姫の名において命ずる。侵入者を排除せよ!」

 乙姫の傍に現れた新たな敵の中には浦島が助けたウミガメもいました。

「我こそは深海の番犬。その実草食系、切り裂きシャーク!」

「拙者、乙姫の側近が一匹……流れ弾のトビウオと申す」

「ウミガメ三四郎でございます。趣味はほふく前進、特技はフルマラソン。トライアスロンを過去に三回制覇してきました。よろしく頼みます、ケケケ」

「なんでお前ら裸なんだ。狼ですらパンツ穿いてるのに」

「フハハハハ、我々海産物シリーズに肌着など邪悪! 外道! 恥晒し! すっとこどっこい! おとといきやがれ! そのような物で肌を守らなければならないのは陸に生きるお前たち軟弱な生命だけだ!」

「切り裂きシャーク。お前はこの俺を怒らせたぁー! ポイ捨て撲滅運動委員会会員ナンバー下二桁、この狼が相手してやる!」

「おうおうおう、テメエどこの魚の骨だぁ~おぉん?」

「んだとコラァ、やんのかコラァ! お?」

 睨み合う狼と切り裂きシャーク、激しい肉弾戦の桃太郎とマグロ。浦島とジャックの前に立ち塞がるのは片腕のトビウオと額に切り傷のあるウミガメ三四郎です。

「浦島。ウミガメは俺に任せろ」

「いいのか、ジャック」

「お前が過去の恩義を重んじる古風な男なのはよぉく知っているからな。任せとけ」

「……すまない。任せたぞ」

 

「海産格闘術が壱之技! 鉄砲水!」

「なんの! 太郎流剣術、袈裟極め!」

 マグロの口から勢いよく吐き出される圧縮された水滴を、桃太郎は巧みな剣捌きで斬り払います。しかし水圧に負けて刀を取りこぼしました。

「なにッ!?」

「フゥハァー! 太郎一族、恐るるに足らず! 海産格闘術が弐之技! 水切り!」

「うぉ!?」

 マグロの握りしめた拳を通過した水滴が矢じりのように鋭く変形し、桃太郎を追い詰めます。素手の桃太郎は呼吸を整えました。

「はぁぁぁ……! 太郎流拳闘術、猫撫で」

「な、なんだと!?」

「猫を撫でるが如く受け流すべし! ニャー!」

「ぎゃあああ、ネコ。ネコの幻覚がぁぁ!」

「隙有り! 太郎流拳闘術之極、太極八卦六道掌ッ!」

 マグロの周囲に残像を残しながら桃太郎の拳が打ち込まれていきます。八方からの六連撃、瞬く間に四十八発もの拳を受けてマグロの身体が真上に吹き飛びました。

「太郎流基礎格闘、拳胴抜き!」

 目にも止まらぬ一撃で追撃されたマグロの身体は玉座の間の壁に叩きつけられます。ですが、平然と立ち上がるではありませんか。これはどうしたことでしょう、桃太郎が右腕を押さえます。手の皮が裂けて血が滴っていました。

「フゥホホ、その程度ですか桃太郎」

「グッ、なんて硬さだ……!」

「確かに凄い技。しかし世界各地の海原を走り続けること早云年。私の鱗はあらゆる牙も通さない。黒き鋼鉄の名は伊達ではないのだよ!」

 ポーズを決めるマグロの肉体が隆起します。伊達にその肉体が筋肉で構成されてはいません。

「ふっ、こいつは強敵だ……! 燃えてきたぁ!」

 新たな強敵を前に桃太郎は不敵な笑みを浮かべました。相手にとって不足はありません。

 

 狼と切り裂きシャークの戦いもまた激しい火花が散っていました。

「シャーヒャー! 刻んでやるぜぇ」

「ガルルル……! やってみろ、切り裂いてやる!」

「あぁん、生言ってんじゃねェぞオラァ! どこ中だよ!」

「中退だ、文句あっかオラー!」

「や、やるじゃねえか……!?」

 切り裂きシャークの居合技が閃きますが、そこは狼。優れた動体視力で捉えていました。ヌンチャクを振り回し、攻撃を逸らしていきます。

「ワフン、居合を無闇やたらと振り回すとはナンセンスだ」

「シャヒャヒャ、おめでたい奴め」

「ぎゃふぅ! い、いつの間に……!?」

 狼の肩口が突然裂けて血が吹き出ました。

「面妖な技を……」

「お前のようなケダモノに見切れるか?」

「ヌ、ヌンチャクー!」

 切り裂きシャークの一閃でヌンチャクの鎖を断ちました。これではヌンチャクも使い物になりません、二本のスティックです。

「ク、クソウ! お前のような海産物はカマボコにしても生ぬるい! ぶっ刻んでやる!」

 狼は自前の爪を構えました。しかし切り裂きシャークは途端に攻撃を止めます。

「……どうした、来いよ」

「……シャヒャ、小賢しい!」

 激しい攻防の最中で狼は爪から伝わる手応えに奇妙な違和感を覚えました。怪訝に思うのも束の間、今度は脇腹を掠めます。

「見えた! そこ!」

「ヒャ!?」

 狼が切り裂きシャークの居合を捉まえました。その刀の刀身はなんと二つに別れていたのです。

「お前の居合は一度で二度斬りつけてくる。どうりで防ぎきれないわけだ!」

「だ、だが刀を押さえた所で!」

「俺の爪を甘く見るなよ切り裂きシャーク! ワオォォォ!」

「ば、馬鹿な! 愛刀鮫肌が!」

「物凄く痛いから使いたくはなかった……」

 血涙を流しながら見せる狼の爪は赤熱していました。刀身が溶断された愛刀を見て切り裂きシャークは後ずさりします。

「な、なんだその爪は……」

「こいつはな、俺がかつて金太郎一家の下で働いていた時に教わった技だ……」

「な、何者だお前!」

「狼だ! 食らえ、爪獣ヒートクロー!」

「ぎゃ、ギャアアー! 熱い、肌が焼けるように熱いぃぃぃ!」

「のたうち回れ! 這いつくばれ! 野を駆け地を走る生命に頭を下げろ!」

「シャ、シャヒャヒャ……だ、誰が! 我が牙を舐めるな!」

 手痛い反撃を食らった切り裂きシャークの身体には痛々しい爪跡が刻まれました。


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