昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へ氷の精霊シヴァ狩りに行き、経験値と報酬を貰い、時折町で手編みの笠を売りさばいて生計を建てていました。
おばあさんは川で洗濯を。家事一切はおばあさんがやっていました。
そんな老夫婦は仲が良く、そんなある日のことです。
「おじいさんや。そろそろ薪が足りなくなってきたよ。山で精霊シヴァを狩るだけじゃなくて芝を狩ってきてはくれないかね」
「もう少しでレベルが上がるんじゃ。せめて次のレベルになるまで待ってくれんかのう」
「そうは言ってもねぇ、薪が無かったらお米は炊けないし、お風呂も沸かせないよ。だからどうかお願いします」
「なら仕方が無い。明日山へ芝刈りに行ってくるよ」
「はいよ、お願いしますよ」
翌朝、おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川へ洗濯に行きました。
おじいさんが山で芝刈りをしていると獣の気配。山では危険が一杯です。おじいさんは鈴を鳴らして熊の対策をすることを怠っていました。ですが今のおじいさんのレベルであれば熊程度、恐れる事はありません。
しかし現れたのは隻眼の熊でした。これは山を縄張りとする金太郎一家の買う熊、これでは流石のおじいさんも堪りません。
「く、熊じゃー! お助けー!」
おじいさんは逃げ出しました。一目散に走り去ります。その昔、メロスと呼ばれ名高い俊足で親友セリヌンティウスの為に三日で王様を改心させたというおじいさんの足の速さには流石の熊も諦めました。
おばあさんが川で洗濯をしていると一羽のツバメが大きな桃を持ってきました。町で貧しい人々に食糧や宝石を配っていると噂のツバメです。老夫婦のことを知り、親切心で大きな桃を苦労して運んできました。
「おばあさん、おばあさん。私は町で貧しい人々に食糧や宝石を配っているツバメです。貴方にこの桃を授けようと思って持ってきました」
ツバメはその桃を川へ降ろします。すると川の流れに運ばれた桃はどんぶらこ~どんぶらこ~と流れて行きました。
洗濯ものをしていたおばあさんはこれに怒り心頭。
「やいすずめや」
「ツバメです」
「つばめ? なんだいビームでも撃ちそうな名前をして」
「私はそれと無関係です」
「それはそれとして、お前さんのせいで大切な洗濯物が汚れてしまったではないか。どうしてくれる」
「それは大変申し訳ありませんでした」
「いいや、許さん。お前の舌を切ってやろう」
「お、お助けー!」
ツバメは必死に逃げようとしました。そもそも飛んでいるツバメをおばあさんがどう捕まえようと言うのでしょうか。意外! それは髪の毛! その昔この辺り一帯の山を仕切っていた山婆として名前を轟かせていたおばあさんはツバメをあっという間に捕らえて舌を切ってしまいました。ですが折角の贈り物、おばあさんはその桃を家に持って帰ることにします。
家に帰ると、先におじいさんが帰っていました。
「おかえり、ばあさんや。これはまた大きな桃だねぇ」
「おじいさんや、この桃を切ってくださいな」
「よし、任せておきなさい」
おじいさんがその桃を切ると、なんということでしょう。桃の大きな種が入っているはずの場所に小さな赤ん坊がいるではありませんか。匠の粋な計らいに、老夫婦は驚きを隠せません。
「桃から赤ん坊が。おーよしよし」
「おばあさんや、この子をわしらで育てようじゃないか」
「そうですね、おじいさん。桃から生まれたからこの子の名前は桃太郎にしましょう」
「せっかく桃から生まれたからピーチにしようと思ったんじゃがなぁ」
「おじいさん、この子は男の子ですよ。それにその名前はなんだか攫われそうな気がします」
こうして桃から生まれた桃太郎はおじいさんとおばあさんに大切に育てられることになったのです。
──それから月日は流れ。桃太郎はたくましく育ちました。友達だっています。
そんなある日のこと。大きく育った桃太郎はこんなことを言い出しました。
「おじいさん、おばあさん。鬼を退治しに行こうと思うのです」
鬼退治をする、そう言いだして二人は大層驚いたそうな。悪事の限りを働く鬼たちの潜む鬼ヶ島までの道のりは険しく、困難が立ちはだかります。かつておじいさんも挑み、大切な親友セリヌンティウスを失って断念しました。その苦い経験からおじいさんは止めようと考えますが、自分達が手塩に掛けて育てた桃太郎ならきっと──そんな思いを胸に、桃太郎に期待をよせます。
「桃太郎、鬼を退治に行くというんだね」
「はい、おばあさん」
「ギッタギタのメッタメタにかい」
「はい、おばあさん」
「
「はい、おばあさん」
「よろしい、
「はい、おばあさん!」
「それじゃあきび団子を作ってあげるからちょっと待ってなさい」
「はーい、おばあさん」
きび団子が出来上がるまでの間、桃太郎はおじいさんに呼ばれて部屋に招かれました。
「桃太郎、手ぶらでは心細いだろう。なにか武器を持っていくといい」
「はい、おじいさん」
「ひのきの棒なんてどうだい」
「せめて短剣くらいください」
「はっはっは、冗談だよ。私がかつてこの島国に来た時に知り合った友人から渡されたこの刀を渡そう」
「この刀はなんですか、おじいさん」
「これは勢州千右門尉村正」
妖刀として有名な野太刀を渡された桃太郎は息を飲みました。昔おじいさんがやんちゃをしていた頃があったとおばあさんから聞いていましたが予想外です。
「良いか、桃太郎。村正には呪いが掛けられておる」
「はい、おじいさん」
「善悪相殺。敵を斬ったならば味方をも一人斬らねばならぬ恐ろしい呪いが込められておる。心せよ、扱いに用心して村正を使うのだぞ」
「はい、おじいさん」
「それとは別にこのひのきの木刀も渡しておこう。仕込み刀だ」
「はい、おじいさん」
話が終わり、おばあさんが桃太郎にきび団子を渡します。身支度を整えた桃太郎は二人に別れの言葉を告げました。
「おじいさん、おばあさん。鬼を見事に倒し、私は日本一の称号と共に帰ってくる事を誓います。それまでしばしの別れです、それでは行ってきます」
「桃太郎、気をつけるんだよ」
「村正の呪いを忘れるでないぞー」
こうして桃太郎は鬼退治に出発しました。