バカ達と双子と学園生活   作:天星

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04 兄と姉が出会っていた頃に

  ……光side(再現)……

 

 それからというもの、私は可能な限り『秀吉くん』をサポートした。

 男装の手伝いなんて面白い経験、そうそうできるもんじゃないからね。

 例えば演劇部にお邪魔して……

 

「木下! これ向こうまで運んでくれ」

「うむ、任せて……」

「ちょっと先輩さん、さすがにこれを((女子に))一人で運べってのはヒドいんじゃないの?」

「な、なんだ君は?」

「そんな事より、私も手伝うわ。いいわよね、秀吉くん?」

「う、うむ……」

(まったく、こんな無茶ぶり断れば良いのに……)

(これでも男らしく見られたくて鍛えておるから一人でも割と余裕なんじゃが……

 しかし力は付いてるのに体格はよくならんとはどういう事なのかのぅ……)

 

 例えば、学校のトイレの前で……

 

「♪~♪~♪~」

「ちょぉぉっと待ったぁぁあああ!!」

「むぅっ!? 何事じゃ?」

「いくらなんでも男子トイレにためらい無く突入するのはどうかと思うよ!?」

「いや、ワシは男子なのじゃが……」

「つべこべ言わない!! あっちに職員用のトイレあるからあっちに行きなさい」

「うむぅ……納得いかぬのじゃ……」

 

 ……とまぁ、いろいろとサポート(?)してた。

 

 

 そんなこんなで数日後……

 

 

「あ~、ヤバい。どうしてこう長引くかなぁ!!」

 学校の授業がなかなか終わらず、かなり遅い下校時刻になった日があった。

 今日はスーパーでタイムセールがあるってのに、どうして今日に限って……

 仕方ない。裏道使うかぁ……

 えっと、ここを曲がって、まっすぐ進めばショートカットが……

 

ドンッ

 

「あ、すいません」

 誰かとぶつかったが、今は急いでいるのだ。とっとと走り出す。

「ちょっと待ちなぁ!!」

 急いでるってのに、その誰かに腕を掴まれた。

 このまま投げ飛ばしてやろうか?

「……何か?」

「オイオイ、テメェのせいで骨が折れたぜ。慰謝料100万だ!!」

 なんと典型的な不良だろうか。

「100万ジンバブエドル? ずいぶん安いですね」

 後で調べてみたら約7.7円らしい。為替レートなんていくらでも変動するからあんまり当てにならないけど。

「なに小難しい事言ってやがる。オレたちをバカにしてんのか?」

 え、『達』?

「おめぇら!! やっちまうぞ!!」

 「「「「おうっ!」」」」

 路地の脇の暗がりから複数の不良が出てくる。

 ああもう、タイムセール行きたいのに。

 ちゃっちゃとぶっ飛ばして片付けますか。

 と、ここまでを0.5秒ほどで考え、実際に行動に移そうとしたその時だった。

 

「その手を離すのじゃ!!」

 

 こんな声が聞こえてきたのは。

 

 ~~~~~~~~~~

 

「ちょっと、中途半端な所で区切らないでよ!! 続きは!?」

「まぁ待て。今回の恋神、最高に泣けるんだ。

 いつものコメディっぽいノリが嘘みたいだ!!」

「読みながら話してたんかい!!」

 器用過ぎない!? っていうか、よく酔わないわね!!

「ところで運転手さん、ターゲットが乗ってるタクシーの様子は?」

「やっぱり撒こうとしてるような気配はありますね。

 この車を撒こうとしてる気がしますよ」

「そうですか」

「……やっぱりバレてるんじゃない?」

「光に勘付かれてたら真っ先に携帯にかけてくる」

「……ちなみに、電源が落ちてるなんて事はないわよね?」

「ああ。ちゃんと電源は入っている」

 そう言って携帯を見せてくる。

 確かに、ちゃんと入ってるわね。

「ってことは、光は気付いてないの?」

「そうなる……あ」

「どうしたの?」

「運転手だけが気付いて勝手に撒こうとしてる……ってのは?」

「どんな運転手よ!!」

「いえ私は会社でこんな噂を聞いたことがあります。

 曰く、『決して尾行を成功させない運転手』の噂を」

「なっ、そんな運転手が居るんですか!?」

「そもそもタクシーが尾行されるという事が殆ど無いので、都市伝説の類だったんですがね。

 まさか実在したとは……」

「……チッ、尾行は中止だ」

「え?」

「完全に気付かれている以上、尾行するのはただの妨害だ。

 大人しく撤退しよう」

「そ、そうね……」

「お客様のご意向が第一ですからね。仕方ありません。

 くっ、可能なら伝説に挑戦したいっ!!」

「本当に申し訳ありません。

 番号は記憶しました? いつか頑張って再挑戦してください」

「そうですね。また次がある!!」

「タクシー代、置いておきますね」

「え、いえいえ。気付かれたのはこちらの落ち度です。

 お代は結構ですよ」

「……では、こうしましょう。

 偶然にも気が合う人に出会えた。その相手への餞別……と」

「そう言われては断れませんね。有難く受け取っておきます」

 なんだか、異次元で会話が繰り広げられている気がする……

「では、お忘れ物なく。またのご利用をお待ちしています」

 そう言って、運転手は去って行った……

 

「んじゃ、続きは歩きながら話そう。

 確か……光が秀吉を見て男装だと思った辺りか?」

「戻ってる戻ってる。

 光が不良に絡まれたあたりよ」

「おお、そうだったそうだった。

 確か僕とお前が初めて会った日でもあったな」

「え? そうだったの?」

「おう。確かあの時、下校中に突然居なくなった秀吉を探してたらお前を見つけて、二人で秀吉を探していたらさっき語った場面の1分後くらいの所で見つけたんだ」

「そ、そうだったんだ……」

「んじゃ、続きを語っていくか」

 

 ~~~~~~~~~~

 

「その手を離すのじゃ!!」

 木下さん……じゃなくて秀吉くんがこんな場面に来るなんて……

 一人で十分対処できるんだけど……

「何だテメェは!」

「ん? お嬢ちゃんなかなか可愛いじゃねぇの。おれ達と遊ばない?」

 ほら、余計面倒な事になってる。

「ワシは男じゃ! それに、早く彼女の手を離すのじゃ!!」

「ンだとゴルァッ!!」

 不良の一人が腕を振りかぶる。

 そしてその不良に対して私は……

「せいッ」ガスッ

「ぐほあっ!!」

 後ろから正拳突きを喰らわせてやった。ちなみに掴まれてた腕は振りほどいた。

「これは正当防衛だからね~。

 地獄を見たい人からかかって来なさい」ニコッ

 突然の事に呆然としている不良に向かって、完璧な笑顔を向けて警告する。

「ふ、フクダがやられた!! に、逃げろ!!」

「うわぁああああ!!!」

 人の笑顔を見て逃げるなんて失礼な。

 ……さて、

「秀吉くん、大じょ……どうしたの?」

 よく見ると、秀吉くんはかすかに震えていた。

「ひ、光よ、だ、大丈夫……じゃったか?」

「いや、それこっちの台詞だから」

 怖かったのだろうか?

 不良たちの前に出て啖呵を切るのが、殴られかけたのが。

「……秀吉くん、無理はしなくて良いんだよ?

 男らしく見られたいとか、そういう気持ちがあるのかもしれないけど……」

「そういうわけでは……ないのじゃが……」

「じゃ、どうしてわざわざ?」

「それは……」

 秀吉くんは少し迷う素振りを見せた後、こう言った。

「知り合いが困っているから、助けたいと思った。それだけなのじゃ」

「それで自分が危険な目に遭ってちゃ世話ないでしょうが」

「むぅ……ワシはお邪魔じゃったのかのぅ?」

「まぁね」

「ムグッ」

「でも、そういう風に思って行動してくれたのは嬉しかったよ。

 ありがとね」

「……うむ!」

 しっかし偶然席が隣になっただけで、その後男装のサポートをしただけの人を、あの状況で助けようとするなんてね。

 兄さんみたいに自信があったからとか、不良にムカついたからとかじゃなくて、自分の身を挺してまで純粋に助けようと行動できる人なんてそうそう居ないだろう。

 もしも秀吉くんが本当に男の子だったら惚れちゃってたかもね。

 ……ま、無いか♪

 

『おーい秀吉~、居るか~?』

 あれ? この声兄さんの……

「む? 剣? ワシはこっちじゃぞ!」

「お、やっと見つけた、どこ行ってたんだ?」

「いや、まぁ、のぅ……」

 あれ、秀吉くんと兄さんって面識あったんだ。

 でも、こんな面白そうな事(男装)に兄さんが首を突っ込まないわけが……

 そんな事を考えていたら更に人影が……って、アレ?

「空凪君、秀吉は見つかったの?」

「ああ。わざわざ手伝ってもらって悪いな」

 ……え、あ、アレレ……?

「全く、勝手に居なくなって人に迷惑かけるなんて、どういう事?」

「あ、姉上……すまぬ」

「あれ、光も居たのか。こんな所で何やってたんだ?」

 お、おかしい。

 『木下さん』と『秀吉くん』が両方居るなんて……

 ついでに兄さんの幻覚……いや、これは幻覚じゃないか。

 この憎々しいくらいの存在感は明らかに存在している。

 幻覚は見ていない。多分。

 となると……

「ん? お~い、どうした? もしも~し?」

 ま、まさか……最初から間違っていた?

 ちゃんと『秀吉くん』は存在していた……?

「あ、あはは、ははは……」

「お~い、だいじょぶか~?」

「さ、先に帰るから!! 後の事はよろしく。じゃっ!!」

「え? お~い?」

 

  …………

 

 ダッシュで家まで帰って自分の部屋に引きこもる。

 

 ま、まさか本当に秀吉くんが居たなんて。

 っていうか、あの外見で男だと言い張るの!? 詐欺でしょ!!

 ああもう、なんか心臓がバクバクしてるよ。

 い、いや、これは恋ではないわ! 単純に全力疾走したから、そして驚いたからよ!!

 う、うん、断じて惚れたとかいう事ではないわ!!

 きっと、そうよ!!

 

 ~~~~~~~~~~

 

「……とまぁ、これがあいつの恋のきっかけだ。

 この時の心臓の鼓動が恋だったのか、単純に驚いただけなのかは不明だが、これをきっかけに意識し始めたのは確実だろう」

「へ~。流石は私の弟ね。やるじゃない」

「不良なんぞに絡まれても毎回余裕でぶっ飛ばしてたからな。

 非力であっても立ち向かおうとする姿勢が新鮮だったんだろうな」

「なるほどね」

「実際問題として、僕や光が秀吉と同じ立場になったら、行動できるか分からない。

 いや、検証できないと言うべきかな」

「それは遠回しに『自分たちは強い』って言ってない?」

「まぁなぁ。少なくともそこらの不良に負けるとは思っちゃいない。

 そして実際に勝てるか勝てないかは関係ない」

 

「しっかしまたベタな話だったわね。

 不良から助けられたのが恋のきっかけだなんて」

「細部が明らかにおかしいがな」

「……そうね」


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