プロローグ
ある休日、午前9時より少し前。
僕は本屋の前に居た。
今日は素晴らしい日だ。人気のコミックが一度に大量に出る!!
ある平凡な少女が好きだけど、6人の女神様に言い寄られるせいで上手く行かない少年の物語、ドタバタラブコメディーの傑作、『恋して!? 女神様!!』
女神(?)と少年少女が手をとりあい、悪しき神へと挑むアニメのコミカライズ、学園コメディーの傑作、『Goddes Beats!!』
第二次世界大戦時の米軍の軍艦や戦車を萌え擬人化し、日本軍やドイツ軍を圧倒的物量で蹴散らすゲームのコミカライズ版、萌えミリタリーの傑作、『米帝これくしょん』
『大富豪』が囲碁や将棋並にメジャーな競技になった世界で、妹と和解する為に仲間とともにインターハイを勝ち上がる、超能りょ……本格大富豪バトルの傑作『照-Teru-』
「フフフ、一度に4冊も発売されるなんて……なんと素晴らしい日だ!
フハハハ、フハハハハハハ!!!」
『ママー、あのひとわらってるよ~。たのしそうだよ~』
『シッ、見ちゃいけません!』
何とでも言うがいいさ。
そんな瑣末な事が気にならないくらい、僕のテンションは上がっている!!
……き、気にしてないんだからねっ!!
時計の、針が、進む。
そして、今日という日が始まってから時計の秒針が540周したその瞬間……
僕は駆け出していた。
そして……
ゴンッ
「いてっ!」
ば、馬鹿な!! 9時開店の店が9時になっても開かないだと!? そんな横暴が許されるのか!?!?
ガラガラ
「はーい、開店しました~
って、お客さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
どうやらここの時計は数秒だけ遅いようだな!!
だがまあ仕方ない。ここの時計を確認しなかった僕が悪いのだ。
とにかく開店したのだ。目当ての物を探す!!
これと、これと、これと……あと一つ……
あった!! 残り一冊しかない!!
そして僕が本に手を伸ばしたその時……
誰かの手と重なった。
「「あっ」」
誰かと……いや、見覚えがあるな。
何か変装(?)してるが、間違いない。
「……木下姉?」
「っ!!!」
「……その手を、離してくれるとすごくありがたいんだが?」
「頼まれた本だからね。私も引くわけにはいかないわ」
「……とりあえず、ここに居たら邪魔になるだろうから一旦会計を済ませないか?」
「それは……確かに」
「とりあえず僕が払う。所有権は後で決めるぞ」
「分かったわ」
…………
とりあえず会計を済ませて店の外のベンチに並んで座る。
「さっき頼まれたって言ってたが、秀吉か?」
「ええ。まあね」
「……なら仕方ない、譲ろう」
「え? 良いの?」
だってさ……
「後で光から何言われるか分かんないからさぁ……」
「そ、そう……」
ああ見えて執念深い所あるから、あいつ。
「でも、つる……空凪くんはどうするの?」
「光が居ないからって別にどっちで呼んでも構わんが……
10時に開く他の店で確保するさ」
「そう……なんか悪いわね」
「まあ気にするな」
「……じゃあ、もう一冊手に入るまで私も付き合うわ」
「別に構わないが……秀吉が待ってるんじゃないのか?」
「なんかどっか出かけちゃってね。夕方まで帰らないってさ」
「そうか。じゃあ付き合ってもらうか」
こうして、僕は木下優子と一緒に行動する事になった。