バカ達と双子と学園生活   作:天星

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11 真相

 僕が目を覚ました時には戦争は終わっていた。

 雄二が根本に討たれてから数分くらい……らしい。

 両クラスの主要メンバーはFクラスが拠点にしていた空き教室に集まっている。

 

「すまん……ドジ踏んだ……」

「お前があの根本に負けるとはなぁ……何があったんだ?」

「おい、『あの』って何だ。あのって」

 根本が何か言っているが、無視して話を進める。

「そこの副代表が窓から飛び込んできてな。

 教室から出ようとした瞬間に不意打ちされた」

「窓からって……」

 それはもしや、やろうとしてた戦術をそのままやり返されたって事なんじゃないか?

「合宿の時に君たちが窓から逃げるのを参考に考案してみたの。

 専用の器具とかを用意して鉄じ……西村先生に頼んだら引き受けてくれたわ」

 鉄人って名前、FクラスだけじゃなくてBクラスでも使われてるんだな。

 まぁ、そりゃそうか。

「……確か、作戦ではBクラスを教室に閉じ込める手筈だったと思うんだが……

 前線部隊で何か不備があったのか?

 えっと……部隊長は……」

「一応はウチよ。

 瑞希の勢いが凄くて、何の問題もなく押せてたわ。

 もう少しで教室に閉じ込められそう……って時に坂本が戦死したって放送が流れたわね」

 廊下で戦っていて代表格が教室から出たのを見逃すはずは無い。

 つまり、廊下へ出る事は不可能だった。

「……窓から出たのか。ここは3階だったと記憶してるんだが……」

「専用の器具さえあれば、ビルからでも降りられるわ」

 確かにそうかもしれんが……

「そんな感じで、窓からグラウンドに出て、

 その後、旧校舎の屋上に登ったわ」

「ちょっと待て。ロープだけで登ったのか!?」

「ええ。流石に疲れ……冗談よ。真に受けないで」

 驚かすなよ!!

「戦争が始まる前から重り……っていうか人を屋上に配置しておいて、滑車の天秤を使って一気に登ったわ」

「滑車? ああ、アレか」

 例えるなら……エレベーター? 良い例えが思いつかんな。

 まぁ、ここで重要なのは手段ではなく結果だ。ロープだけで登ってきてもなんら問題は無い。

「そんな所に人が居たのか……」

 気付かねぇよ普通。

「後は坂本くんが見た通りだと思うわ。

 私が屋上から急降下して突入。

 代表が急いで階段を駆け下りて坂本くんに止めを。って感じで」

「なるほどねぇ……」

 いくつか腑に落ちない点があるが……ん~…………

「……なぁ御空、僕と勝負をしないか?」

「勝負?」

「ちょっと前にこんな事を言ってたな。

 『私に勝てたら戦争の理由を教えてあげる』と。

 それを逆にしてくれないか?」

「と言うと?」

「戦争の理由。それを今から20分以内に言い当てられたら、僕達の勝利……は流石に無理でもランクダウンは無しにしてくれ」

「ふ~ん……代表、どうする?」

「あくまでランクダウンに関してだけか?」

「ああ」

「……なら良いだろう」

「よし。

 ……というわけで雄二」

「何だ?」

「後は任せた」

「おいっ!?」

「(正直、まだ頭がボーッとしてる。

  それに、途中で意識を失っていた僕より、雄二の方が情報量が多いだろ?)」

「(分かったから提案したんじゃないのか……?)」

「(多分これで合ってると思うんだが……確証は無い。

  雄二も僕と同じ意見に辿り着いたなら、多分大丈夫だろう)」

「……ったく、しゃぁねぇなぁ……」

 

  ……雄二side……

 

 もとより、俺は失敗した身だ。

 挽回のチャンスがあるなら、ありがたく貰っておこう。

「さて、どこから考えていくか……」

「今回の戦争では、普通の戦争と比較して不可解な点がいくつか存在する。

 それらが存在する理由から僕は追ってみたぞ」

「……なるほどな」

 順を追って考えてみるか。

 

 まず……『開戦を1日遅らせた事』か? あれにもちゃんと意味があったはずだ。

 ロープ類の準備の時間? いやいや、その為だけに1日開けるくらいならあらかじめ準備する。

 ……パスだ。次行くぞ。

 

 次、『尾行が付いてきた』。

 情報を得る為? 随分と手が込んでいるな。

 手が込んではいるが……勝利を掴む為の行動だからその点では不可解ではない。

 一応、開戦を遅らせた理由に繋げられない事も無いが……その為だけに開けるか? デメリットの方が多い気がするが。

 

 その3……何かあったかな?

 ああ、そうだ。『根本(代表)が止めを刺した』ってのも不可解ではあるな。

 結果的には成功していたが、もし失敗していたら一気に危うくなっていた。

 そんなリスクを背負うくらいであれば、多少点数が低くても他の人でやった方が良いはずだ。

「そういえば根本、お前いやに点数が高かったな。

 400点越えの科目があるなんて聞いてなかったぞ」

「単科目に絞って特訓したからな……」

「ギリギリ400越えたわね」

 御空が根本を鍛えたんだろうか?

 そういえば、この副代表も謎だよな。数学で600越えて、現国で500点越え。

 理系とか文系とか関係なく高得点を取っていて、余裕でAクラスに入れそうな気がするんだが……他の科目が壊滅的なんだろうか?

 まぁ、今はいいか。

 

 さて、他には……ああ。これがあったな。

 その4『条件付きとはいえ、試召戦争勝利時のメリット(?)を手放した事』

 敵クラスの設備を1ランク下げる事がメリットと呼べるかは議論の余地があるだろうが……少なくともルールで決められているメリットなんてこれくらいしか無い。

 『戦争の理由なんて分かるはずがない!!』ってたかを括ってる可能性もあるが……仮にそうであったとしても設備を下げる事はかなり優先度が低いと見るべきだろう。

 それとも、ランクダウンさせない代わりに何か要求する気だった?

 だが、以前俺たちがやっていた交渉はFクラスの劣悪過ぎる環境があったからこそ成立したものだ。

 あの設備を押し付けられるくらいなら無茶な要求でも通せたが、今更たった1ランク下げられるくらいどうってことはない。この線は薄いか。

 

 ……こんなもんか。

「……見事に謎しか無いな……」

「謎が無い、つまりとっかかりが無いよりずっと良い」

「……それもそうか」

 この中で一番不可解なのは……やはり3番目の『根本が止めを刺した』あたりだろうか?

 根本は猛特訓のおかげかかなりの点数を取っていたようだが……あくまで数値だけならBクラス生徒が2~3人いれば事足りる。

 根本自身でやることに何か意味があったんだろうか?

 個人的な報復だろうか? いやいや、合宿では快く協力してくれたし、その後恨まれるような事をした覚えも無い。

 そもそも観察処分者じゃないんだから、殴られても痛くないし。

 それに、そんな個人的な感情でリスクに晒されるような真似をあの副代表が許すだろうか? いや、代表が副代表に許しを乞うというのもおかしな話だが。

 個人ではないなら……団体? いや、そんなとんちは……

 ……待てよ? クラス単位の報復なら?

 まぁ、CクラスならともかくBクラスに恨まれてるとも思えんが……クラス単位の感情はもしかすると結構重要なんじゃないか?

 では、BクラスがFクラスに抱いている感情とは何だ?

 BクラスとFクラスの関わりと言ったら……試召戦争以外にはあり得んな。

 授業を潰したという意味で迷惑はかけたが、一番被害を被ったのは間違いなく根本だろう。

 その根本ですら現在はFクラスに悪感情は抱いていないようだ。

 となると、BクラスがFクラスに悪い感情を抱いているという事は無さそうだ。少なくとも戦争を起こすレベルのものでは無いだろう。

 Bクラス、戦争、Bクラス、戦争、Bクラ……

 

「…………あ」

「お、閃いたか?」

「……ちょっと待ってくれ?」

 仮にこの仮説が正しいとすると……

 疑問点その1(開戦遅れ)は、完璧に解消される。Fクラスに準備期間を与えるのは必要……とまでは言わずともあって良い

 疑問点その2(尾行)は……若干苦しいが、まぁ問題は無い。

 疑問点その3(根本の特攻)も納得できる。この戦争の理由の一端だ。

 疑問点その4(報酬破棄)も完璧だ。そもそも報酬はもう得ている。

「……OKだ」

「よし、じゃあ、せーのっ」

 

 「「雪辱戦だ!」」

 

  ……剣side……

 

 よかった。一致した。

「どうだ? 正解か?」

「……ファイナルアンサー?」

「ファイナルアンサーだ」

 っていうかそんな事訊くなら4択とかにしてほしかった。

「正解よ。ホントに当てちゃうとはね~」

「開戦を遅れさせた時点でもしかしたら……と思ってたんだが、尾行があったんで考え直した。

 雪辱戦でスパイ行為で勝ちを取ろうってのは何か違う気がしたからな」

「……え?」

「その後、根本が特攻したって話を聞いて再びこの答えに辿り着いたんだが……

 ……ん? どうした?」

「あの、尾行って?」

「…………ちょっと時間をくれ」

 雄二の方に向き直る。

「(おい雄二、どういう事だ!?)」

「(俺に訊くなよ! 俺だって訳分かんねぇよ!!)」

「(アレってBクラスじゃなかったのか!?)」

「(す、少なくとも御空の指示ではなさそうだな)」

「(……よし、とりあえずBクラスの代表格2人に相談してみよう)」

「(……それもそうだな)」

「悪いな。待たせたな」

「いえいえ、で、どうしたの?」

「実は昨日、僕と雄二は何者かに尾行されていたんだが……」

「……なるほど、Bクラスの仕業だとついさっきまで思っていたと。

 でも少なくとも私は指示してないわ。代表も……」

「俺もそんな事はしていない。

 1日開けたのはそんな事をする為じゃないからな」

「となると……」

 この戦争の影に、第三の勢力が居た……?

「……薄気味悪いな」

「……誰なのかしら……」

「チラッと見た限りでは文月学園の制服を着ていた。

 それくらいしか分からん。

 だよな雄二?」

「ああ。くそっ、とっ捕まえときゃよかったな」

「今更後悔しても仕方ないさ」

 しっかし、ホント誰だ……?

「まあ今は良いか。とりあえず今日はこれでお開きかな」

「ええ。そうなるわね。今日はありがとね」

「お礼を言われるのも妙な話だがな」

「かもね」

「じゃ、またな」

 

 

 ……こうして、二度目のBクラス戦は、Fクラスの敗北で終わった。

 ……いや、今回の戦いに負けた者なんて居ないのかもな。

 ただまぁ、試合に負けたのは事実だし、その原因は代表のミス。そして、それを補佐する副代表のミスでもある。

 ん~……今日はあとちょっとだけ働くとしようか。


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