……合宿4日目 夜……
「リーチ。
流石に今日は女子は来ないかなぁ……?」
「試召戦争で懲りてくれとると良いのじゃが……」
「もし来ても突っぱねりゃぁ良いだけの話だからな」
「合宿の夜も今日で終わりかぁ……」
「明日は昼頃にここを出るからな。
そして明久、それロン」
「えええっ!?」
「リーチ一発。裏ドラが……おお、2つだ。8000」
「それで普通の運なの!?」
「何も賭けて無かったら12000になってただろうさ」
とまぁ、仲良く麻雀をやってる時だった。
プルルルル
「ん? 僕か」
こんな時間に誰から……って、御空?
とりあえず出るか。
ピッ
『もしもし、今話せる?』
「新手のもしもし詐欺か?」
『新しすぎて多分誰も引っかからない詐欺ね……
って、そうじゃなくて!!』
「何だ? 長い話なら充電しながら聞くが」
『そうね……じゃあ直接話させて』
「直接っつっても、どこで話す気だ?」
『ん~……じゃ、屋上で待ってるから』
「そうか。すぐ行く」
ガチャッ
「急用が出来たから、康太、僕の代わりに入っといて」
「…………(コクリ)」
ん~……とりあえず行ってみるか。
……屋上……
「…………」
御空の姿はまだ無い。
しっかし、夜なのにやや暑いな。
ヒートアイランド現象ってやつかなぁ……? いや、アレって都会の現象だっけ?
これが異常気象って奴かなぁ……?
「ごめん、待った?」
「ん? ああ、大丈夫だ」
地球温暖化について考えてたら御空が来ていた。
ホント何とかならないもんかね。この暑さ。
「で、話って何だ?
呼び出されて告白される程好感度を上げた覚えは無いんだが」
「そんな事じゃ無いわ。もっと別の事よ」
まぁ、でしょうねぇ。
「いくつか、訊きたい事があるの」
「答えられる範囲で答えよう」
「まず、1つ目。
昼の大富豪。
……空凪くんはイカサマしてたよね?」
「どうしてそう思う?」
「流石にあの手札はあり得ない。
一回ならまぁ極低確率であり得るとは思うけど、2回連続は酷すぎる。
そしてあの2回、カードをシャッフルして配ってたのは大貧民の空凪くんだった。
その後もちょくちょくとんでもない手札になってた」
「僕の運が極端な事は昨日証明されたはずだが?」
「他のゲームでは極めて普通な手札だった。
多少の偏りはあったけど、それを含めて普通だった。
ずっと後ろから見てたからね。誤魔化しは通じないよ?」
「………………
認めよう。シャッフルに細工をしてあの手札にした。
まぁ、後半は普通にやってたがな」
「……じゃあ2つ目の質問。
わざわざそんな事をした理由は?
勝つようにイカサマするならともかく、わざわざあんな手札にした理由は?」
「逆に質問だ。お前が今やっている事は質問ではなく答え合わせだ。
違うか?」
「……ええ」
「じゃあお前は確信に近い答えを持っているはずだ。
それを言ってみろ」
「大富豪を盛り上げる為。
あんな風にぶっ壊れた手札が出てきたら、どう足掻いても大富豪は盛り上がる」
「ふむ、正解だ」
「第3の質問、それは何のため?
答えは、姫路さんを溶け込ませる為。違う?」
「それだけでは無いが概ね正解だ。
仲良くするのに、大富豪みたいな『勝敗がかなり不明瞭なゲーム』は極めて都合が良いからな」
普通に自分も楽しんでたし。
「一応、各役職に点数付けて回数を区切れば勝敗は付くけどね」
「そんな面倒な事はしなかったからな」
「じゃ、最後の質問。
どうして試召戦争を起こしたの?」
「ん? 戦争を起こしたのはあくまで小山だぞ?」
「ごめん、訂正。
何故、試召戦争が始まるまで放置してたの?
あそこまで対立が深まる前にいくらでも手は打てたはずだよね?
姫路さんのアフターケアをする手間を惜しまないのであれば、戦争回避の手間も惜しまないはずじゃないの!?」
「……お前、怒ってるのか?」
「…………」
ふむ、確かに御空の言う通りではある。
戦いを収めようと思えば何とかなった……はずだ。
……いや、そこは問題では無いか。
重要なのは、可能か不可能かではなく、『女子の暴走に対して何の行動も取らなかった事』だな。
あくまで加害者は向こうだから、わざわざ動く必要は無いかもしれないけど、アフターフォローに徹するくらいなら、先に動くべきだったんじゃないか? と。
では反論させてもらおうか。
「……これは屁理屈の混ざったたとえ話だが……それでも、一つ質問させてくれ」
一呼吸置いて、問う。
「お前は小説を読んでいて、半分くらい読んだ所でその展開が気に入らなかったらどうするんだ?」
「え? そりゃあ……よっぽど肌に合わない小説じゃなければ最後まで読むと思うけど……」
「そうだろう? 『この展開は気に入らないから自分で書き換えちゃえ♪』なんて事はしないだろ?」
「まぁ、そりゃあね」
「今回の件だって、それと何ら変わらないじゃないか」
「なっ!? そんな屁理屈……」
「屁理屈だって事は分かってるさ。
だが、現実はたとえ話以上に深刻だぞ?
何せ、書き換えてしまったら読み直せないんだからな」
「……書き換えなかったら取り返しの付かないバッドエンドになるかもしれない。
紙の上の話なら問題ないけど、現実だったらそれこそ取り返しが付かない!!」
「何故、バッドエンドになると分かる?
お前には未来予知の能力でもあるのか?」
「断定じゃなくて仮定であっても動くべきじゃないの!?」
「自分の独断で物語を捻じ曲げるのか?
お前の見た展開はハッピーエンドへの伏線かもしれんぞ?」
「それはっ!! ……そうかもしれないけど……」
「確かに、お前の言うことも一理ある。
決定的な衝突を未然に防ぐ事で、人間関係にヒビが入る事も防げるし、余計な手間もかからない」
「だったら、どうして!?」
「結末を見る為。
未然に防がなかったおかげで、あるべき結末を見る事ができた。
僕がたった一言だけ声を掛けただけで、姫路は固定観念を払拭してみせた。
その点では、ハッピーエンドじゃないか」
「そこだけでしょ!? 細かいものも含めれば迷惑を被った人が大勢居る!!」
「確かにそうかもしれないな」
「でしょう?」
「だが……それがどうした」
「っ!?」
「僕はイエス・キリストでも、マザーテレサでもない。
周りの人間の全てを幸福にする義務なんざ存在しない」
「それは…………」
「……僕の意見はこうだ。
『どちらも不正解ではない。だが完全な正解でもない』
そしてどっちを選ぶかは人それぞれ……だ」
「…………………………
空凪君の言いたい事は分かった。
納得したわけじゃないけど、理解はした」
「それは何よりだ」
「……今はまだ、反論できないし、この問題は議論すべきじゃないのかもしれない。
君の言う『結末』は、まだ見えないから」
「かもな」
「だから、また、いつか、こうやって話してくれる?」
「議論なら大歓迎だ。いつでも、受けて立とうじゃないか」
「そう。じゃあ今日はこれでおしまい。
わざわざありがとね」
「構わんさ。なかなか楽しかったぜ。
あと、トランプのイカサマは内緒にしといてくれると助かる」
「流石にそこまで空気が読めてないつもりは無いわ。
それじゃ、またね」
「ああ。またな」
…………
「ただいま」
「おうお帰り、どこ行ってたんだ?」
「ちょっとBクラスの副代表とな」
「こ、こんな時間に女子と二人っきり!?
ま、まさか……!?」
「何を想像してるのかは知らんが、ほぼ間違いなく想像とは違うと言っておくぞ」
「な、何だ良かった。剣に制裁しようとするとかなり大変だからね」
制裁しようとしてたのか……?
「あ、明久、それ捨てると振り込むぞ」
「え?」コトッ
「ロンじゃ。3900っ!」
「そ、そんな!! 秀吉、ヒドいじゃないか!!」
「ワシはただ上がっただけなのじゃが……」
「明久、本当の『ヒドい』が見たいなら、見せてやってもいいぞ。
勿論、賭け無しで」
「スイマセンデシタッ!!」
「よろしい。
じゃ、普通にやるか。キリの良い所で交代してくれ」
……とまぁそんな感じで、合宿最後の夜は過ぎて行った。
そして5日目も何事も無く過ぎ、
僕達の合宿は終わった。