バカ達と双子と学園生活   作:天星

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17 信頼

  ……雄二side……

 

「……明久、ここは姫路に任せておけ。召喚獣をしまえ」

「え? でも……」

「巻き込まれない為の措置だ」

「?? まあいいか……」

 ちなみに、敵前逃亡は失格だが、クラスメイトにその場を引き継いでもらえば失格にはならない。

 その微妙なラインをシステムがどう判断してるのか非常に気になるが……今気にしててもしょうがない。

 

「瑞希っ、どうして!?」

「美波ちゃん、このままじゃダメなんですよ。

 自分の失敗に気づいて止まれなきゃダメなんです。

 失った信頼は、行動で示さなきゃ取り返せないんですよ!」

「どういう……事なの?」」

「美波ちゃん、あなたには敵を、人を倒す覚悟はありますか?

 空凪くんは私たちを蔑みながらも、呆れながらも、覚悟を持って接してくれましたよ。

 私も、覚悟を決めてここまで来ました。

 もし、あなたがまだ吉井くんたちを傷付けるつもりなら、私はあなたを倒します」

「う、ウチは……何も間違ってない!

 吉井たちにお仕置きしなきゃならないの!!」

「なら、戦うしかありませんね」

 

 

 [フィールド:数学]

 

Fクラス 島田美波 248点

 

Fクラス 姫路瑞希 336点

 

 

 既にお互いの召喚獣は出ている。

 あとは刃を交えるだけ……か。

 

「一瞬で、終わらせてもらいますよ」

 姫路の召喚獣は真っ直ぐに島田の召喚獣に突進し、そのまま大剣を相手に向かって投げた。

「なっ!?」

 慌てて避ける島田の召喚獣。そしてそれに接近する姫路の召喚獣。

 そしてそのまま……

「セット」

 聞き覚えのある起動ワードと共に……

「終わり、です」

 

キュボッ

 

 島田の召喚獣が塵と化した。

 

 

Fクラス 島田美波 Dead

 

Fクラス 姫路瑞希 226点

 

 

「やっと出たか。戦死者は補習!!」

「そんな……まさかっ!!」

 

 ……ところで、補習担当の教師である鉄人は、学年主任と同じく全科目の承認権限を持っている。

 そして、今召喚獣を召喚しているのは姫路一人。

 という事はだ。

 

「長谷川先生! 数学のフィールドを消して下さい!

 てt……西村先生は化学のフィールドを承認して下さい!!」

「わかりました。解除します」

「む? 補習よりこちらが優先だな。承認する!」

 展開中のフィールドを勝手に消すのは本来なら不可能だが、片方の勢力を全員消せば可能だ。

 ついさっきまでもFクラスしか居なかったんで一応は可能ではあったが、他の教師が居なかったので意味が無い。

「姫路、頼む!」

「任せて下さい。試獣召喚(サモン)!」

 張り直されたフィールドに再び姫路が召喚する。

 

 [フィールド:化学]

Fクラス 姫路瑞希 344点

 

「私はCクラスに勝負を挑みます。

 早く召喚しないと、敵前逃亡ですよ?」

『あっ、くっ、試獣召喚(サモン)!』

 ようやく我に返った女生徒の一人が召喚獣を呼び出す。

 ……が、

 

ズバッ

 

Cクラス   Dead

 

「戦死者は補習だ。後で覚悟しておけ!」

『そ、そんな、一瞬で……?』

『数で押せばどうって事無いわ! 畳み掛けるのよ!!』

 「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 次々に召喚獣が呼び出される。

 だが……

 

「セット」

 召喚獣に腕輪が装着され……

 

キュボボボッ

 

 数多の召喚獣が灰燼と化す。

 

「お前に、お前に、お前に、お前だな。顔は覚えたぞ」

「それより鉄人、科目変更、生物!!」

「うむ」

 相手が追加の召喚獣を呼び出す前に再び科目を変更する。

 

『これじゃキリが無いじゃない!!』

 

 一応上手いタイミングで波状攻撃を仕掛ければ何とかなるとは思うが……

 一瞬で塵と化していく召喚獣を見ていたら平常心など保てないだろう。

 無限機関……には程遠いが、1クラスの耐久力よりは長く保つシステムだろう。

「ところで坂本、お前さっき『鉄人』と言わなかったか?」

「ん? 体力面でぶっ壊れてると思ったら、今度は耳がぶっ壊れたんですか?」

「坂本、後で補習な」

「何故!?」

「雄二……君の事は忘れないよ」ニコッ

「…………骨くらいは拾ってやる」

「お前らの中で俺の扱いはその程度なのか!?」

 

 

  ……雄二side out……

 

 

  ……剣side……

 

 

 ……これは、数十分前の事だ。

 

「……よし、完了っと」

 補充試験をいつものように30分で終える。

 隣ではまだ姫路が試験を受けている。まぁ当然だな。

 ……昨日から大分時間も経ってるし、ちょっと話してみるのも悪くないかもな。

 30分くらいなら待つのも苦ではない。

 

 ……そして数分後……

 

「お前たち、試験は一旦中止だ!」

「? 何かあったんですか?」

「試召戦争が始まった。

 Fクラス対Cクラスだ」

「……マジですか?」

「マジだ」

 私闘を断られて試召戦争って……アホじゃないのか?

「あと、お前の妹から手紙を預かってる」

「失礼します」

 …………姉さんの手紙と言うより雄二からの手紙だな。

 僕の役目は……なるほど、了解。

「戦死者が出たらここは補習室として使うから、それまでに出てくれ」

「はい。ですが、その前に採点お願いします」

「うむ。そうだな。姫路の方は……」

「あ、あと、ちょっとだけ……」

「空凪の採点が終わるまでなら許可しよう」

「はいっ!」

 

 …………

 

「採点終了だ。

 すまんな、こんな中途半端な時間に切ってしまって」

「いえ、大丈夫です」

「そうか。じゃあ二人とも、戦死者が来る前に出てくれ」

「はい。頑張って下さいね」

「失礼しました!」

 

ギィ…… バタン

 

 ……僕達が出た途端、補習室が纏ってる空気が変わった気がするのは、きっと気のせいだろう。

「で、お前はこの後どうするんだ?」

「え?」

「今回の戦争は明らかに私怨によるものだ。

 向こうに加勢しても恨むつもりは無い」

「でも、私が戦う理由はもう……」

「お前にはな。

 だが、僕達に加勢するつもりなら、島田と戦う事になるかもしれないぞ?」

「っ! …………」

「あんたが取れる道は3つ。

 1、Fクラスに加勢

 2、Cクラスに加勢

 3、隅の方で傍観

 どうするべきか、よく考えてから行動するんだな」

「……私は……」

「……よく考えて、悩んで、自分なりの答えを出せば良いさ。

 ……そうだ、これを預けておこう」

「? これは……」

「『白の腕輪』だ。

 起動ワードは『セット』。これを使うと自分の点数に関係なく腕輪が使えるようになる」

「これ、かなり貴重な物なんじゃありませんか?」

「ん? まぁな」

「そんなものを何故私に?」

「深い意味は無いさ。

 僕が持ってても意味が無いってのもあるし。

 後は……強いて言うなら、お前の意志を尊重する為かな」

「どういう意味でしょうか……?」

「誰かと戦うのか、あるいは戦わないのか。それはお前次第だが……

 戦う時に、少しでも自分の意志を押し通す手助けになるんなら、預けておいて損は無いさ」

「……良いんですか? 本当に。

 私はCクラスに味方するかもしれませんよ?」

「そうなったらそうなっただ。

 それに、この合宿中、僕はお前を見てきた。

 お前の決断が正しい事を、信じてるよ」

「………………」

「んじゃ、僕は行く。後は自由にやれ」

 

 

 

 その後、僕は準備を終え、戦場の近くに潜んでいた。

 姫路がなかなか来ないのでちょっとヒヤヒヤしてたが、ちゃんと来たようだ。

 意図的かどうかは微妙だけど、僕がAクラス戦で工藤にやったのと同じ戦法使ってるし……

 あの戦力を前にしたら小山も引かざるを得まい。

 さて、ようやく本来の目的が達成できそうだな。

 小山がセオリー外の行動を連発するからこちらもヒヤヒヤさせられたが、姫路の行動が見られたから結果オーライだな。

 さて、適当な所で暗殺を仕掛けますかね。

 

 

  ……剣side out……

 

 

  ……小山side……

 

 

「はぁ、はぁ……くっ!!」

 アレには敵わない。

 姫路さんが盗撮犯の味方をするなんて、完全に予想外よ!!

 殿軍を何人か置いてきたけど……いつまで保つかは分からない。

 とりあえず、手近な空き部屋に……

 

ガチャッ バタン

 

「ここなら、暫くは……」

 ……保つだろうか?

 近衛部隊は数人居るけど、狭い場所であの熱線を放たれたら全員まとめて戦死する可能性も……

 

ガチャッ

 

「失礼させてもらうわ」

「っ、あなたは!」

 Aクラスの空凪さんと木下さん!?

 何故ここに……?

「まず一つ言わせてもらうけど、貴女、バカなの?」

「なんですって!?」

「ああ、ごめん、訊いた私がバカだった。

 貴女はバカよ。断言できる」

「さっきからバカバカって、何様のつもりよ!?」

「貴女をバカだと断定する理由は3つある。

 1つ、クラス間協定を破った事。

 協定を結んだはずよ? Aクラスの許可無く戦争を起こさない……と」

「っ、それは……」

「あの協定には明確なペナルティは無いけど、Aクラスに睨まれる事は想像に難くない」

「だったら、盗撮犯を見逃せって言うの!?」

「それが2つ目。そもそも、試召戦争が制裁になるの?

 補習を受けさせる事と、観察処分者の二人に肉体的なダメージを与える事だけ。

 しかも代表の坂本くんに至っては補習義務は無し。

 あなた達の裸は随分と安っぽいのね」

「ぐっ」

「しかも、2日目の朝の集会で教師から発表があったはずよ。

 『盗撮犯は見つかりました。適当な制裁をしておいたのでご安心下さい』

 って」

「それがどうしたのよ!?」

「試召戦争で与えられる制裁は学校が生徒に与える物。

 既に制裁を下した相手にそれ以上の物を要求する為の手段としては不適当と言わざるを得ない」

 い、言われてみれば確かに……

「そして3つ目。

 その『召喚獣勝負をしよう!』というアイディアが乗せられたものだとも気付けない事よ」

「な!? どういう意味よ!?」

「そもそも、補習室送りを提案したのは誰?」

「……確か……清水さん?」

「その清水さんが真の盗撮犯なんだけどね」

「え?」

 今、サラッととんでもない事を言われたような……

「で、その清水さんは誰から発想を得たと思う?」

「? さぁ……」

「答えは、Bクラス副代表、御空零」

「なっ、嘘じゃないでしょうね!?」

「信じるか信じないかは勝手よ」

 制裁に不参加を貫いたBクラスの副代表が、何故……?

「そして、その御空さんに頼んだ人物が居る。

 その名は……誰だと思う?」

「知る訳が無いでしょう」

「えっと、ってことはあなたか」

「は?」

「いえ、何でもないわ。

 正解は、Fクラス副代表、空凪剣」

「っ!?!? 何で……どういう事なの!?」

「後で本人に訊いてみなさいな」

 ますます訳が分からない。一体どういう事なの……?

 

「……そして、4つ目」

「まだあるの?」

「4つ目は……

 

 

 

 

 

 

 チェックメイトだよ。秀吉、頼む!!」

「うむ、起動(アウェイクン)!!」

 目の前で、木下さんが、腕を、正確には腕輪を掲げて何かを宣言する。

 そして召喚フィールドが作成され……

「っ!! これは!!」

「Fクラス副代表、空凪剣が、Cクラス代表、小山友香に試験召喚勝負を挑む!!

 試獣召喚(サモン)!!」

 

 [フィールド:数学]

Fクラス 空凪剣 400点

 

「っ、まさか……あんた達っ!!」

「一応言っておくが、僕はAクラスだとは一度も名乗らなかったぞ。

 こっちの秀吉も同様だ」

「合図があるまで一言も喋るなと言われておったからのぅ」

「くっ、親衛隊!!」

「無駄だよ。逃げ道が無い以上、時間稼ぎにしかならんよ。

 それとも、窓からでも逃げられるとでも思ってるのか?

 ここは3階だぞ?」

「くぅぅぅっ!!!」

「もう一度、言わせてもらう。

 チェックメイトだよ」

 

 

 ……そして数分後、試召戦争はFクラスの勝利で終わった……


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