バカ達と双子と学園生活   作:天星

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16 行動

 僕の隣には木下姉の姿。

 そして僕の目線の先には小山友香の姿が。

 

 この戦争における僕の役割は『暗殺』だ。

 小山が一人になった所で、もしくは近衛部隊が減った所で仕掛ける。

 適当に長引かせたり怒らせたりすれば、運が良ければ近衛部隊も引きずり出せるかも……というのが雄二の最初の計画だったわけだが……

 ……代表自身が前線に居るんだもんなぁ……

 討ち取れるチャンスにも見えるが、点数が減ってきたら流石に一度引くだろうからな。

 引かずに特攻してくる可能性は……無きにしも非ずだが、そんな可能性に賭ける気は毛頭無い。

 一撃で撃破すればそんな事は関係無いが、それが可能なのはFクラスでは雄二と僕と姫路。科目を限定すれば康太と島田かな。

 だが現状で動けるのは代表の雄二のみ。失敗したらアウトだ。

 リスク無しで勝利しようなんて甘い! という意見もあるかもしれないが、そもそも僕が戦闘に参加してない事が甚大なリスクだ。

 一応ヤバくなったら独断で動いて良いとは言われているが……

 この寡兵状態で敵を確殺する手段が他にあるのかは微妙だ。

 ……まぁ、もうちょい様子を見るか。

 

 

  ……剣side out……

 

  ……雄二side……

 

 

 ……非常に困った。

 

 [フィールド:数学]

Cクラス      93点

 

Fクラス 吉井明久 44点

 

 

 入り口を強引に狭くする事で1対1にすることはできてはいるが……

 

「ようやく追い詰めたわよ!! 観念しなさい!!」

 ……小山が引く気配は全く無い。

 明久が頑張ってるから1時間くらい保ちそうな気はするが……はっきり言って今必要なのは時間稼ぎじゃない。

 とりあえず、今のうちに何か考えないと……

 

「はぁ、はぁ……ようやく追いついたわよ!!」

 

 っ! ここで……来るのか!?

 

「よくも散々逃げ回ってくれたわね。

 ここで引導を渡してやるわ!!」

 

 島田はやっぱり敵だよなぁ……

 よりによってこんな時に来んでも……

 

「退いて、私にやらせなさい!

 試獣召喚(サモン)!!」

 

 [フィールド:数学]

Fクラス 島田美波 248点

 

Fクラス 吉井明久  44点

 

 これは……ヤバいな。

 普通の一騎打ち、例えばAクラス戦での5回勝負の時みたいな状況ならまだ勝算はある。

 ……が、この状況では話が別だ。

 畳で道幅を狭めるという力技を行ってるので、包囲されない代わりに行動範囲が著しく制限される。

 つまり、全ての攻撃を躱し続けるのは不可能だ。

 さっきまでは当たっても掠り傷で済んでいたが、この点差ではその掠り傷でもヤバいかもしれない。

 

「くっ、島田さん! どうして!?」

「どうして? 決まってるじゃない。

 吉井にお仕置きする為よ!!」

 

 ああ、どうしてこの学園は人の話を聞かない奴が多いんだろうな。

 さてどうしようか、今なら明久を見捨てて窓から逃げる事も可能だが……

 

「雄二、今、妙な事考えなかった?」

「そんな事を気にする余裕があったら目の前に集中しろ」

 

 そんな事をしても一時しのぎにしかならないだろう。戦力が少ない状態での使い捨て人型装甲板作戦は自殺行為だ。

 しかしこのままではジリ貧だ。今からでも剣を呼び戻すべきか?

 多分大声出せば届く場所に居ると思うが……

 いや、こんな所で剣を使ってしまうと小山を倒す手段が無くなる。

 運が良ければ倒せるかもしれないが……運が良くなきゃ倒せないというのは敗北と同じ事だ。

 だがこのままではジリ貧……さっきから思考がループしてるな。

 何か現状を打開する手は無いのか?

 

 

 

「ぜぇ、はぁ、はぁ…………

 よ、良かった、間に合った!」

 

 ……確かに打開する手を願ったさ。

 確かに状況は一変するかもしれないさ。

 でも、そんなジョーカーが来るのはどうなんだ!?

 

『姫路さんが来たわ!!』

『皆、道を開けましょう!!』

 

 一応姫路も()クラスの生徒のはずなんだが……島田も同じ事か。

 これ、最早試召戦争じゃねぇな。

 ……今更か?

 

「瑞希、大丈夫?」

「はぁ、はぁ……

 やっと……追いつきましたよ!」

 

 姫路が敵ならもうお手上げだぞ。いっそのこと一回投降して仕切り直しに……

 ……ん? アレってまさか……

 目をしっかり擦る。

 そして、もう一度姫路を、より正確には姫路が身に着けている物を見る。

 …………なるほど。了解した。

「剣、そういう事は早く言ってほしかったぞ……」

「?? どうしたの雄二?」

「いや、何でもない」

 あいつなりにも、考えがあったんだろう。きっと、多分……

 

 

「坂本くん。

 一つだけ、正直に答えて頂けませんか?」

「何だ?」

「……あなた達は、この合宿で盗撮をしましたか?」

 

 姫路は、真っ直ぐに問いかけてくる。

 何度も答えてる事だ。同じように返答する。

 

「俺たちは盗撮はしていない」

「……そうですか」

 

 そう呟いた姫路の表情はどこか悲しげだったが、俺にその心情を推し量る事はできない。

 ただ、一つだけ分かるのは……

 

「そんな戯言、信じると思ってるの?

 瑞希、やっちゃいましょう!!」

「美波ちゃん、ごめんなさい」

「え? 瑞希……?」

「私は、空凪くんからの信用を託されてここに来ました。

 だから私は戦います。

 Fクラス姫路瑞希、ここに居るCクラス全員に試召戦争を挑みます! 試獣召喚(サモン)!!」

 

 [フィールド:数学]

Fクラス 姫路瑞希 336点

 

 

 あいつが味方になってくれるという事だ。


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