……御空side……
ドタドタを慌しく階段を駆け下りる足音が聞こえる。
流石に位置確認はしたみたいね。
今回の坂本くんの作戦は時間を稼ぐ事と、相手を疲れさせる事が重要らしい。
普通に考えてジリ貧になるだけだと思うけど……まぁ、ゲームを邪魔された恨みを込めて、精一杯おちょくってやろうじゃないの。
「代表、準備は良い?」
「ああ。大丈夫だ」
坂本くん達は部屋の隅に隠れている。
踏み入られたら普通に見つかるけど、大した問題じゃないわね。
「それじゃ、3・2・1、スタート」
バタン!!
「はぁ、はぁ、ここね!? 出てきなさい盗さ……
「もう一個カン! もう一個カン!! ツモっ!!
「なっ!? 今イカサマしたでしょう!!」
「言いがかりは止せ! これが俺の運命力だ!!」
「事実じゃないの! この変態代表!!」
「……え? えっと……」
踏み入られたらマズいなら踏み入れられないようにしてしまえば良い。
だけど、しっかりとした鍵を掛けるのはルール違反。
戦闘員で塞ごうとすると普通に勝負を挑まれて撃破される。
他クラスの生徒に壁を頼んでもそのクラスの生徒による『試召戦争の妨害』となり補習室に送られる。
……が、それは明確な『壁』を作った場合の話だ。
「なっ、変態だと!? この俺のどこが変態だと言うんだ!!」
「変態じゃないの!! 試召戦争の時に木下さ……くんの荷物漁ってニヤニヤしてたんでしょ!?」
「バカも休み休み言え!! この俺が男子(?)の荷物を漁る趣味は無い!!」
でも、こういう『精神的な壁』なら?
部屋部と廊下の境界でやや離れて向かい合って口論する2人。
その中間にはトランプ4デッキを組み合わせて作ったカード麻雀のセット。
スッカスカの壁なのに、踏み入るのは極めて難しいでしょうね。
現にほら、小山さん以外はどうしていいのか分からずにオロオロしてる。
「ちょっと根本くん? ここにFクラスの代表が……
「部外者は黙ってなさい!! 今は私が代表と話してるの!!」
ここで単純に怯んでくれると助かるけど……
「なんですって!? 私たちは盗撮犯を制裁する為にここに来てるのよ!?」
まぁ、このヒトの性格なら怒るよねぇ……この状況におけるベストな判断だと思うけど。
ここで相手の話に合わせるのは愚の骨頂。
相手をより疲れさせるには、自分のペースで話を進めないとね♪
「じゃあ小山さんには分かるっていうの?
「え? 何? 大寿司?」
「大富豪でたとえるなら、そう、13枚階段を二回やった後にAで上がるような、そんな美しい
「え、え?」
この世で最も恐ろしい……とまでは行かなくても結構厄介な存在として『話が通じない人間』が挙げられると思う。
話が通じるなら、相手が理解出来るならまだ対処のしようはあるが、支離滅裂だとどこからも手が付けられない。
今の私は一応ちゃんと意味がある言葉を並べているが、麻雀の用語が含まれる文を早口でまくし立てているため分からない人には訳が分からないだろう。
こういう状況になった場合でも突破する手はいくらかあると思う。
1、力技で突破。
2、誰かに仲裁を頼む。
3、私の喉が枯れるのを待つ。
こんなもんかな? どれも実行に移すのには時間がかかりそうだから、そこそこの時間が稼げる……はず。
…………そして、15分後…………
「はぁ、はぁ……」
結局、3番になったみたいね……
疲れた……
「はぁ、はぁ……とにかく、退きなさい! 私たちは試召戦争をしに来たのよ!!
ここにFクラス代表が居るんでしょ!?」
その質問をされて無視したら流石に妨害行為として扱われるわね。
ま、こんなもんで良いよね?
「呼んだか小山」
「とうとう姿を現したわね!? 先生、Fクラス代表に試召戦争を挑みます!!」
「承認します」
「
これでこのまま逃げたら敵前逃亡で失格……さて、どうする気?
「よし、お前ら準備は良いな?」
「うん!」「ああ」「うむ!」
「んじゃ、
アウェイクン? えっと……もしかして腕輪の起動ワード?
確か坂本くんの腕輪は白銀の腕輪。効果は科目ランダムの召喚フィールドの作成。
この状況で使うと……
ガシャァァン!
「なっ!?」
「っ、干渉!?」
複数の召喚フィールドが重なるとバグが発生して両方のフィールドが一時的に消滅する……とどこかで聞いた事がある。
敵前逃亡の定義はあくまで『召喚フィールドから出たら』だから、こうやって強引にフィールドを消せば逃げられる……と。
「先生! 召喚フィールドを消して下さい」
「え? は、はい!」
先生のフィールドを消す事で坂本くんのフィールドだけが残るはず。と考えたのだろう。
だけど、そんな事をしてる間にもう窓から逃げちゃったみたいね。
「やっぱオモシロイな~、Fクラスは」