バカ達と双子と学園生活   作:天星

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10 表裏

  ……合宿3日目 夜……

 

「通らばリー……

 

バタン!

 

「覚悟しなさい盗撮犯っ!!」……チっと」

 もう夏の風物詩か何かに認定して良いんじゃないだろうか?

 明久も全く気にせず続行してるし。

 まぁ、来たからには対応せねば。

「暇そうで羨ましい事だな。

 あ、明久、それカン」

「ええ、アンタを補習室に送るまで何度だって来てやるわよ!!」

「リーチ掛けてるのに!?」

 上が小山の台詞で下が明久……

 二つの会話が同時に流れていくから覚悟しておいてくれ。

「ツモ。嶺上開花(りんしゃんかいほう)ドラ8。

 小山、その言葉は本当か?」

「うえぇぇっ!?」

「当然よ!!」

「そうか……」

 今日はどう乗りきろうか少々迷ってたんだが、朗報だ。

「高橋先生、今の言葉聞きましたよね?

 あと明久、親倍は24000な」

「……なるほど。はい。聞きましたよ」

「ちょっと、これって責任払いなの!?」

「多数決でも取れ。

 それじゃあ、数学でお願いできます?」

「ちょっ、多数決って!」

「では、承認します」

試獣召喚(サモン)

 

 [フィールド:数学]

 

Fクラス 空凪剣 218点。

 

 補充してないので昨日消耗した点数のままだ。

 だが全く問題ないな。

「ふん、あんたに引導を渡してやるわ。試獣召喚(サモン)!!」

 そして両者の召喚獣が対峙する。

 ……え? 相手の点数? 必要ない必要ない。

 だって、これから僕が行うのは相手の点数に関わりなく召喚獣を葬り去る必殺の技だからな。

 

 僕の召喚獣がゆったりとした動作でナイフを逆手に持ち替える。

 そして……

 

ザシュッ

 

 一瞬の内に召喚獣の姿が消し飛ぶ。

 

 

Fクラス 空凪剣 Dead

 

 

「っ!」

「なっ!?」

「戦死者は補習……なんだお前か。

 お前なら脱走はしないな」

「え、ええ……行きましょうか……」

「ちょっと!? 待ちなさい!!」

「……お前たちの用事は……これで終わり……のはずだ」

「はぁっ!?」

「……お前たちの、用事は、僕を補習室へ送る事……だったな。

 これで……終了だろう」

「ふ、ふざけないで!! 私たちはアンタ達全員を裁く為に……」

「……へぇ、そうだったのか。

 ……じゃあ、な」

 悪いが相手にしている余裕は無い。

 補習室に行かせてもらおう。

 

 

  ……補習室……

 

 

「ッッ、ゲホッゲホッ」

「!? 大丈夫か!?」

「え、ええ……」

「どうしたんだ?」

「……高得点の召喚獣の攻撃で戦死するのは初めてだったので……」

「ん? ……そう言えばそうか」

 いつもは腕輪のコストで点数がガリガリ削れた所に比較的弱い攻撃を当てられて戦死するからなぁ……

 100点を越えるダメージのフィードバックを受けたのは初めてだったりする。

 明久はこんな痛みに怯えながら試召戦争をやってたのか……

 まぁ、よっぽどのヘマをしない限り胸の中央にモロに受けるという事は無いとは思うが。

「……補習の前に、少し、休ませて下さい」

「勿論だ。存分に休むといい」

「では……15分後に起こしてください」

「寝るのか!?」

 

 ……15分後……

 

「おい、そらな

「そろそろ15分ですね。じゃ、やりますか」

「寝ていたのに何故正確に時間が分かるんだ!?」

「そんな事より早く補習課題を……ん?」

 周りをよく見ると人が一人増えている。

「……姫路?」

「え? あ、起きたんですね」

「……どうして、っていうかどうやってここに?」

「えっと……あの後部屋に入ろうとしたんですけど、高橋先生に注意されてしまって……」

 そういえば、しおりのどこかに『異性の部屋に入ってはならない』って言葉が書いてあったような無かったような……

「それでも入ろうとした人に対して召喚獣を出してきて……」

 教師の召喚獣も物理干渉が出来る。その方が便利だからな。

「何人かが召喚獣で対抗しようとしたんですが、先生の点数が……」

「……数学か? 500点くらいか?」

「……824点です」

「………………」

 バケモノだな。

「それで、どうなったんだ?」

「あ、はい。その点数を見て全員諦めたんですけど……」

「お前は挑んだのか?」

「はい。何も出来ずに戦死しちゃいましたけど」

「無謀な特攻をするほどお前がバカだとは思えない。

 目的は何だ?」

「空凪君と話す為です。

 昨日言ってましたよね?

 『自分を疑った事はあるか』って」

「ああ。確かに言ったな」

「あれはどういう意味なんですか?」

「どうもこうも、そのままの意味だが」

「私たちが間違っている……と?」

「ぶっちゃけて言うならそうなるな」

「あなた達は盗撮犯では無いと?」

「最初からそう言ってるが」

「じゃあ誰が盗撮犯なんですか!?」

「逆に何故僕が知ってると思うのか訊きたい」

「それは……えっと……」

「一度決断した事を迅速に行動に移せるのは長所でもあるが、その内容が間違ってる可能性をきちんと検証しているか?

 迅速な行動でも間違ってたら意味が無い」

「えっと、すみません……」

「……それで、結局何で僕に訊くんだ?」

「……特に理由は無いですね」

「……そうか。

 まあ一応訊かれたんだから真犯人を教えよう」

「知ってるんですか!?」

「訊いてきたのはお前……まあいいや。

 犯人は……

 ……Bクラスの根本だ」

「そうだったんですか! じゃあ早速皆に知らせて……」

「まあ嘘なんだが」

「えっ!?」

「少しは疑ってくれ。即断すぎてビックリしたぞ」

「からかわないで下さい!!」

「確かに今のは少々意地悪だったが、日常生活で話していて嘘を吐かれる事なんていくらでもある。

 悪意が無くとも、勘違いしたりとかな」

「そうかもしれませんけど……」

「ちなみに本当の真犯人はDクラスの清水美春だ」

「…………本当ですか?」

「おお、ちゃんと疑ってるね」

「さっき騙されたから当然ですよ!」

「そうやってまずは疑うべきだ。

 疑って、疑問を突いて、暴いて。

 そして最後に残ったものが信じる事の出来る真実だ。

 信と疑は表裏一体。疑う事は信じる事だ」

「えっと??」

「疑問があるなら口に出すといいさ」

「それじゃあ……何で清水さんが犯人だと?」

「理由は多数あるが……

 カメラは後半クラスの入浴時に見つかったんだろ?

 前半組の連中が見つけられないってのはかなり考えにくいから、前半組の入浴と後半組の入浴の間の時間に仕掛ける事になる。

 そんな時間に男子が女子風呂に出入りしてたらバレない訳が無いだろう?」

「まぁ……そうですね」

「となると、仕掛けたのは女子である可能性が高い。

 では質問。女子が女子の裸を盗撮する理由って何だと思う?」

「え? えっと……何でしょう……?」

「パッと思いつくのは二つ。

 一つは男子に売る為。

 もう一つは……その女子が女子を愛している場合」

「へ?」

「ほら、聞いた事あるだろ? 島田に熱烈なアタックを仕掛ける女子が居るって」

「そ、そうですね……はい、聞いた事があります」

「そういうわけで、盗撮犯は清水だろう……と当たりをつけた」

「当たり……ですか」

「ああ。一見理路整然としたロジックに見えるが、仮定の類が結構多い。

 だから予想止まりだ」

「それじゃあ結局誰か分からないんですか?」

「いや、当たりを付けて更に調べた。

 そして、清水を現行犯で捕まえる事に成功した」

「ええええっ!? いつの間に!?」

「合宿初日の夜だが」

「ど、どうして教えてくれなかったんですか!?」

「だって、訊かれなかったし」

「たしかに訊きはしませんでしたけど……」

「分からない事や不確定な事を人に訊くってのは大事だよな。

 ……他に何か疑問点はあるか?」

「え? いえ、無いです」

「そうか。

 そうなると盗撮犯は僕達では無い事になるんだが……」

「あっ!! そ、その……」

「よし、課題終了っと。鉄人先生、お願いします」

「鉄人と呼ぶなと何度言えば……まあいい。ご苦労だったな」

「それでは失礼しますね」

「ちょっと、待ってください!!」

「しばらくのんびり考えればいいさ。

 時間だけはたっぷりあるからな。

 じゃ」

 

ギィッ バタン

 

「……さて、どうなることやら」


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