「やったな雄二」
「ま、当然の結果だな」
「ゆ~~じ~~」
明久が完璧な笑顔、正に笑顔という概念そのもののような表情を顔に貼り付けて近寄ってくる。
そしてその手には……
ガシッ
「雄二……、どうして……手首を押さえるのかな……?」
「押さえるに……決まってるだろっ!! ふんっ!!」
「ぐあっ!!」
ヒューー サクッ
その手に持っていた包丁が床に深く突き刺さったぞ!?
……明久……その包丁どんだけ研いだんだよ……?
「って、しかもこれ抜けないし!!
どこのエクスカリバーだ!!」
マジで抜けないので、かなり不安ではあるが……放置しておこう。
刃が完全に埋まってるので怪我する事は無い……はず。
……さて、気を取り直して、
「戦後対談と行こうか。Dクラス代表さん」
「くっ、まさか姫路さんがFクラスだったなんて……」
よほどの番狂わせが無い限りは姫路が圧勝するだろう。
かと言って、戦争が始まってすぐに突撃しても……まぁ、警戒されるわなぁ。
流石の姫路でもDクラス全員を単騎で殲滅できるような能力は持ち合わせていない。
そこで、Aクラスを装って(と言うかAクラスだと勘違いさせて)下校時刻に仕掛けるという作戦だ。
「あ、その……すいません……」
思わず謝ってしまうくらいヒドい作戦だが……これも立派な作戦だ。
それに……
「いや、謝る事は無い。Fクラスだと侮っていた俺達が悪いんだ」
そ。事前の情報収集をしなかった事がかなり効いている。
一科目でも途中退席したら全て0点という振り分け試験の無慈悲なルールを考えたら何かの事故で優秀な生徒がFクラス落ちする可能性はあるのだから。
「ルールに則って教室を明け渡そう。
ただ、今日はもう遅いから明日で良いか?」
普通なら頷く所だが……
「もちろん良いよね?」
明久……僕の話は全く伝わって無かったんだね……
人に説明するって、難しいなぁ……
「いや、教室を明け渡す必要は無い」
あ~良かった。雄二までおかしな事を言ったらどうしようかと思ったよ。
「え? 何で??」
「Dクラスを奪う気なんぞ無い。
俺たちの最終目標はAクラスだ」
「でもそれなら何で……」
「ったく、とりあえず黙って見てろ。直ぐ分かるから」
「そうだぞ。そんなんだから近所の中学生に『バカなお兄ちゃん』と言われるんだ」
「何言ってる雄二、小学生だろ?」
「ひ、ヒトチガイデス」
何か一年くらい前に呼ばれてたよな……?
「まぁとにかく、俺たちはDクラスの設備を奪う気は無い」
「それは、願っても無い相談だが……本当に良いのか?」
「もちろん、タダでとは行かない。条件がある」
ここでどんな条件を突きつけるのか……?
Bクラスに特攻? いや、敗戦直後で疲弊したクラスだ。対したダメージにはならんだろう。
となると……何だ?
「まぁ大した事じゃない。
俺が指示を出したらアレを動かなくして欲しいだけだ」
アレ? アレは……
「Bクラスの室外機……どうしてまたそんなものを?」
そうかそうか。エアコンの室外機か。
くっ、Fクラスにはそんな贅沢な代物は無いというのにっ!!
……失礼、忘れてくれ。
「いやなに、次のBクラス戦に必要なんでな。
設備を壊せば教師に睨まれる可能性はあるが……どうだ? やるか?」
「本当にそれだけで良いのか……?」
「ああ。それだけだ」
「いいだろう。飲もう」
「よし。タイミングについては後日話す。今日はもう……」
「ちょっと良いか?」
「どうした剣?」
「あくまで仮定の話ではあるが……
もし計画が狂ったりしたら室外機の破壊は必要なくなるよな?」
「まぁそうだが……」
Dクラスへの要求の内容から次の作戦は大体分かるんだが……
そこから様々な要素を考察していくと必要無くなる可能性があるな……
「……まあいいや。
これは僕からの要求と言うかお願いだが……
これからも同じ学校の同級生として仲良くやって行こう」
「ハハッ、そうだな。お前たちがAクラスに勝てるよう願ってるよ」
「本気で思ってくれては……居ないんだろうなぁ」
「そりゃそうだ。流石に実力差があり過ぎる。ま、社交辞令だな」
こいつ、清々しく言いやがって。
まぁでも後腐れ無く終結出来たのは良かった。
試召戦争はリスクを考慮しなければゲームみたいなもんだからな。お互い楽しめ……
『シュミはベンキョウ! ソンケイするヒトはニノミヤキンジロウ!!』
『お、おい君大丈夫か!?』
……お互い楽しめた……と思う。
「さて諸君、今日はご苦労だった。
明日は補充試験があるから、今日はゆっくり休んでくれ。
それでは、解散!!」
「んじゃ、僕も帰るわ。また明日」
「おう、またな」