ああ、平和な光景だ。
割と仲良く勉強してる代表コンビ。
光にしごかれ……勉強を教えてもらっている秀吉。
なにやら喧々諤々の議論を繰り広げている康太と工藤。
問題集相手に悪戦苦闘している明久と明久に悪戦苦闘する木下姉。
それをぼんやり眺めている僕。
ちなみに、ボーっとしてる所を明久に咎められたが、
『√10の小数点以下4ケタまでを教科書や電卓を使わずに2分以内に答えられたら考えてやるよ』
と言ったら、
『剣のバカヤロー!!』
と言って引っ込んでいった。
やり方さえ分かれば1分で解けるんだがなぁ……
ちなみに考えるだけだ。サボらないとは言ってない。(出てる課題プリントはとっくに終わらせたし)
話が逸れたが、とても平和な光景だ。
……石畳を抱える殺気立ったある二人の女子が居なければ……だが。
「吉井? 一体何をやってるのかしら?」
「し、島田さん……?」
一言で言うなら……
「さっきは工藤さんに何か言ってたと思ったら、今度は木下さんですか?」
思い込みってのは怖いからなぁ、可能なら自力で修正してほしいんだが……
……とりあえず、本当にヤバい事件が起きないようにのんびり話してみるか。
「お前ら、その抱えている
昨日みたいに拷問するのか?」
「拷問じゃありません、お仕置きです!」
一晩経ったら少しは落ち着くかと思ったが……まるで変わってないな。
昨日の件を謝ってくれるならそれで一件落着だったんだがなぁ……
「懲りないなお前ら……
昨日は盗撮魔呼ばわりで、今日は……なんだろうな。
明久は奇跡……勉強をしてるだけだぞ」
「今さり気なく『僕が勉強してる事は奇跡だ』って言わなかった?」
「…………気のせいだ」
さて、反論は?
「じゃあ、昨日できなかった分よ!!」
「『僕達は盗撮なんかしていない』。
はい、反論は?」
「嘘よ!! あんた達意外に誰が盗撮なんてするってのよ!!」
良いのか? 本当に言って良いのか?
それを言った瞬間にお前たちはベストな結果を逃す事になるんだが?
「え? 盗撮犯は……
「いい加減にしなさい!!」
……僕が遮るつもりだったんだが……やるな。
「き、木下……さん?」
「さっきから黙って聞いていれば、吉井くんは愛子に対して変な事は何も言ってないし、私にもおかしな事は何もしてない!
盗撮についてもはっきりと否定してる!
それなのにあなた達は何なの?
そんなに吉井くんが信じられないの!?」
喜劇が生み出される時、その物語は時に等価の贄を要求する。
勇者が魔王を捧げるように、改心した犯罪者が黒幕を捧げるように。
つまり何が言いたいかと言うと……
ただ、これ以上のんびり見てたら誰も得しない言い争いに発展しそうなのでそろそろ止めておくか。
「お前ら……ちょっとこっち来ようか」
「何でウチらが!」
何か言ってるが、力づくで廊下の方まで引っ張る。
「……お前ら、一体何がしたいんだ?」
「当然、お仕置きですよ!!」
「そうじゃなくて、もっと大局的な事を訊いてるんだ。
お前らは、明久をどうしたいんだ?」
「だからお仕置きを……」
「……これが最後の警告。大出血サービスだ。
お前らが態度を改めないなら……お前たちは敵だ。容赦はしない」
「どういう意味よ!!」
「質問に答える気は無い。自分で考えろ」
「んなっ!!」
「とりあえずその石畳はしまってこい。話し合いくらいは応じてやる。
が、直接的な暴力に対して黙ってるわけにはいかないんでな」
「暴力なんかじゃありません!!」
「貴様等がどう思うかは問題じゃない。
「そんな事は関係ない!! 吉井にはお仕置きが必要なの!!」
はぁ……聞く耳持たずって感じだなぁ……
こいつらにとって明久は何なんだ? 悪い意味で信頼してるような気がするが……
「……とにかく、警告はしたぞ。じゃあな」
………………
「あ、お帰り兄さん。大丈夫?」
「……人って、難しいよなぁ……」
「……大丈夫?」
「僕はな」
あの二人が本当に大丈夫なのかは知らんが。
「剣く~ん」
「どうした?」
「さっき面白いものを録音したんだけど、聞く?」
「どんなだ?」
「えっと……」
カチッ
『いい加減にしなさい!!
さっきから黙って聞いていれば、吉井くんは愛子に対して変な事は何も言ってないし、私にもおかしな事は何もしてない!
盗撮についてもはっきりと否定してる!
それなのにあなた達は何なの?
そんなに吉井くんが信じられないの!?』
カチッ
「工藤、お前って奴は……」
「何カナ?」
「グッジョブ!!」
「うん!!」
明久の台詞が削られてるが、それ以外の余計な切り貼りをしていない所が素晴らしいな。
「って二人供何言ってるの!! 今すぐ消しなさいっ!!」
「木下さん、ここ教えてほしいんだけど……」
「そんな事より吉井くんも手伝って!! 今すぐ消させないと……」
「え? 消しちゃうの? さっきの木下さん格好良かったのに」
「か、格好良いって……それは喜べばいいの? 怒ればいいの?」
「一応褒められたなら素直に喜べば良いんじゃないか?」
「そ、そうね……じゃなくて、消しなさい!!」
「全くもう、優子ったら。仕方ないなぁ……
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「え? うん、あ、ありがとう……」
木下姉、よっぽど動転してたんだな。
……消去されたことをきちんと確認しないなんて……