バカ達と双子と学園生活   作:天星

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06 自習

  ……翌日 朝……

 

「…………」

 かなり早い時間に目が覚めてしまった。

 生活リズムってのは簡単には変わらないからな。

 ……さて、何しようか。

 まさかこいつらを叩き起こしてトランプするわけにもいかないしな。

 ………………散歩でもするか。

 

 

  …………

 

「ん?」

「あ」

 適当に歩いてたら見覚えのある顔が。

「御空、久しぶりだな」

「ええ。こうやって顔を合わせるのは久しぶりね」

 ……一瞬、2日に1回くらいのペースで顔を合わせてる気がしたが、多分気のせいだろう。

「そんなお前に吉報だ。盗撮犯は捕まえた」

「うわ、速いね~」

「……あまり驚いてないな」

「だって、清水さんでしょ?

 確かにやや速いとは思うけど、驚くほどではないわね」

「お前も気付いてたのか。

 っていうか、清水の事をカメラを見つけた有能な奴って言ってなかったか?」

「だって、話してみたらチョロかったんだもん。

 無能……は言い過ぎにしても、カメラを見つけるような能力を持ってるようには感じられなかったわ」

「いつの間に話し……ああ、アレか」

「ええ。アレ」

「そういえばまだ礼を言ってなかったな。

 ありがとな」

「ん~……一応訊くけど、何に対して?」

「まず、昨日女子が部屋に乗り込んできた時、Bクラスは参加してなかった。

 お前が纏めておいてくれたんだろ?」

「まあね~。

 制裁なんてして無実だった時に目も当てられないからね」

「だが、実際に有罪だった場合には後で叩かれる」

「いや、だってさ、Aクラスの工藤さんがカメラを見逃すってのは有り得ないとまでは行かなくても考えにくいから仕掛けられたのは前半クラスが終わってから後半クラスが入るまで。

 そんな時間帯に男が侵入してたらカメラの有無に関わらず犯罪者だから目立たない訳が無い。

 だから犯人は男子では無い」

「……なるほど。至極尤もな意見だ」

「そういう訳で第一発見者も3割くらいは疑ってたわ。話してみて10割になったけど」

 話してみると疑惑が一気に3倍になる盗撮犯……犯罪者としては無能としか言い様が無いな。

 

「そして感謝の二つ目。

 召喚獣勝負になるように扇動してくれた事も感謝する」

「あれか~。よく思いつくよね~」

「手っ取り早く排除する手段を考えていたら閃いた。

 自分から吹っ掛ける事も考えたが、あの連中が受けるかどうかは微妙だったからな……」

「まあ確かに」

「とにかく……ありがとな」

「いえいえ、後で借りは返してもらうから」

「ま、可能な範囲でな。

 じゃ、また今度」

「またね」

 

 

  ……そして数時間後……

 

 

 本日から合宿本来の目的が始まる。

 すなわち……ひたすら勉強。

 ……いやいや、言い方が悪かったか。

 正確には自習だ。

 具体的にはFクラスとAクラスとの合同自習だ。

 となると……

 

「……雄二、一緒に勉強出来て嬉しい」

「待て翔子、当然のように俺の膝の上に座ろうとするな。

 Fクラスの連中の殺気が痛い」

 

 ……殺気が痛いってどんだけだろう……

 

「でも、何でわざわざ自習なんだろう? 授業じゃなくて」

 強制的に進められる授業と違い、自習だとサボる生徒も出てくるから学校側としては普通ならやりたくない事だろうが……

「授業? んなもんやるわけないだろう」

 と、即答したのは雄二。概ね同意見だ。

「わざわざ電車でこんな所まで来たんだ。授業だけで潰すのはかなりもったいない」

「それもあるだろうが……

 明久、お前はAクラスの授業を受けて理解できんのか?」

「むっ、失礼な。雄二には分からないかもしれないけど、僕にとってはAクラスもFクラスも大差ないよ」

「どっちも理解出来ないからな」

「うぐっ」

 ……え? 僕はどうなんだって?

 いつから僕がまともに授業を聞いていると錯覚していた?

「脱線したな。えっと……何だっけ?」

「……この合宿の趣旨は、モチベーションの向上だから」

「そうそう。それだ」

「????」

「剣も翔子も、それだけじゃ明久には伝わってないぞ。

 要するにだ、FクラスはAクラスの連中を見て『ああなりたい』と思わせ、

 逆にAクラスの連中はFクラスを見て『ああはなりたくない』と思わせる。

 もともとこの学校は過剰なまでの格差社会を見せつける事で勉強へのモチベーションを上げさせるシステムを取ってるからな。

 一緒に勉強させる事が肝心なのであって内容は問題じゃないって事だ」

 

 しかし、いくら頑張っても一年後までクラスが変わる事は無い。(三宮のような特例を除けば……だが)

 試召戦争でクラスを変えようとしても宣戦布告の権利を握っているのはクラス代表だし、自分が強くても他が弱ければ意味が無い。なのでそこまで意味は無い。

 1学期毎くらいのペースで激しく変わるならモチベーションも上がりそうなものだが……流石に面倒か。

 

「あ、代表、こんな所に居たんだ。ボクもここで勉強しようかな」

「ちょっと愛子、迷惑でしょ!」

「ああ、工藤に木下姉か。迷惑なんて事は一切無いからどうぞ居てくれ」

 そもそもまともに勉強なんてしてないし。

「それじゃあお言葉に甘えて」

「じゃあ……私も」

「それより秀吉君はどこ?」

 さりげなく光が入ってきたが特に問題は無い。

「さぁ、水でも飲みに行ってるんじゃないか?

 たぶんすぐに戻ってくる」

 秀吉と康太も含めれば如月ハイランドに行ったメンバーと同じだな。

 ちなみに康太は……多分、気配を消しながらAクラス女子の写真でも撮ってるんだろう。

「よろしく。木下さんに、空()さんに……()藤さん()っけ?」

「そうだよ。キミは吉井君だったよね? 試召戦争以来カナ?」

 その試召戦争の時すらまともに会話してないから、初対面とほぼ変わらないな。

「それじゃあ改めて自己紹介させてもらうね。

 Aクラスの工藤愛子です。

 趣味は水泳と音楽鑑賞で、スリーサイズは上から78・56・79、

 特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ」

「……え!?」

「どうした明久」

「今最後の方に魅惑的な()セリフが混ざった気がしたんだけど!?」

「そうか? シュークリームが好きな女子なんていくらでも居るだろ」

「そ、そう()だよね……ってチガう!!」

「どうした明久。突然大声出して…」

「ちょっと! ねぇ! 僕がおかし()い訳じゃないよね!?」

「…………明久、工藤愛子に騙されてはいけない」

 康太、どこから生えてきたんだ?

「……なるほどな。

 工藤、スパッツを穿いていてパンチラが出来るのであればそれは見てみたいぞ」

「え? どういう事?」

「康太のそういう類の感覚は凄まじい。

 工藤が騙しているというならその通りなんだろう。

 そして騙していると康太が断定できる条件を考えたらこうなっただけだ」

「あはは、バレちゃったか。

 確かにスパッツ穿いててパンチラが出来たら凄いよね」

「そ、そんな!? 工藤さん()()を騙したんだね!? 僕のドキドキ()を返して()よ!!()

 まともな人間ならドキドキの前に唖然としそうな気がするんだが……

「ところで、その手に持ってる録音機は何だ?

 ちょくちょく録音してたみたいだが」

「えっとね、例えばこんな感じ」

 

ピッピッピッ

ピッ

 

『魅惑的な』『工藤さん』『僕』『ドキドキ』『して』『おかし』『く』『な()』『そう』『だ』『よ!!』

 

「ちょ、ちょちょちょちょっと!! 変なもの再生しないでよ!!」

「最後若干苦しかったが……短いやりとりの中でよくこんだけ集まるもんだな」

 素材を集めて使いこなす技術は素直に関心する。

「面白いでしょ?」

「……ええ。最っっ高に面白いわ」

「……本当に、面白い台詞ですね」

 ……島田に姫路、お前らは一体いつから聞いていたんだ?

 ちょっと聞いてれば編集された音声だという事くらいは坊主先輩()でもない限り分かるぞ?

「瑞希。ちょっとアレを取りに行くの手伝ってもらえる?」

「分かりました。アレですね? 喜んでお手伝いします」

 とりあえずは放置しておく。面倒だし。

 ちなみに盗撮犯が捕まったという事くらいは広まってるが、肝心の犯人の名前は伏せられている。

 まぁ、未成年の学生という事を考えると妥当な判断ではあるな。

「あ、お帰り、秀吉君」

「……ん? どうしたんだ?」

「いや、先ほど廊下で島田と姫路に石畳を運ぶのを手伝ってくれと言われたのじゃが……何があったのかと思ってのぅ」

 っていうか、どこから持ってくるんだろう?

「それじゃあ自己紹介の続きだよ。光、どうぞ!」

「え? 私もやるの?」

「当然!」

「……まあいいか。

 Aクラス空凪光。

 ここにいる剣の姉だから、こいつが何か問題を起こしたら遠慮なく通報してね」

「ん? 姉? 確か妹じゃなかったか?」

「ああ、実は、(以下略)という事情があってな」

「そんな事が有り得るのか……?」

「……勉強になる」

「そんな事は勉強しなくて良いからな!?」

 将来双子を産む時に参考に……ならないだろうね。

「それじゃあ最後は優子の番だヨ!」

「え? 私も!?」

 まぁ、流れって奴だな。

「うぅ……分かったわ。

 Aクラス木下優子。

 趣味は読書よ」

 なんか短いな。

「どんな本が好きなんだ?」

「え!? それは……その……」

 ん~……?

「まぁ、答えたくないなら別にいいや」

「う、うん……」

 あの優等生が言いよどむとはな……

 どんな本なんだ……?

「さて、自己紹介も終わった所で……

 木下姉、明久に勉強を教えてやってくれんか?」

「……え? 私?」

「…………僕に?」

「だってお前、すぐサボろうとするだろ?」

「そ、そんな事は無いヨ?」

 あるな。

「えっと……何で私が?」

「一番ヒマそうだから」

「ちょっと?」

「人にものを効率良く教えられるメンバーはAクラスの4人。

 まず霧島は……言うまでも無いよな?

 光は……」

「却下ね」

「……秀吉と勉強できる貴重な時間だ。邪魔する気は無い。

 そして工藤だが……」

「ボクは問題ないけど?」

「果たして勉強になるのか?」

「えっと……アハハ……」

「で、残ったのがお前だ」

 ちなみに、僕が教える事も不可能ではないが、明久の勉強の相手なんてしてたらまず間違いなく集中力が保たない。

 それに……

「……分かった。引き受けるわ」

「え? 良いの?」

「まぁ、借りがあるし。

 それで、どこが分からないの?」

「全部!」

「…………」

 

 こっちの方が、楽しそうじゃないか。




文中の切り貼りの部分は実際に台詞に出てきた部分を切り貼りしています。

切り貼り()

こんな感じで空白のルビを振ってあるので、探してみると面白い、かも。

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