バカ達と双子と学園生活   作:天星

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03 推理

 現在の状況である一つの事が推測できる。

 情報をまとめてみようか。

 

1、女子が盗撮犯を懲らしめる目的で乗り込んできた。

2、その女子はC~Fクラスの女子だ。

3、合宿のしおりによれば、ABCクラスが風呂に入った後にDEFクラスが入るらしい。

4、女子が風呂に入る時間と男子が風呂に入る時間は同じ。

 

 そこから推理を広げてみる。

 

5、女子が盗撮カメラを見つけたのは多分風呂に入ろうとした時だろう。

6、構成メンバーから考えて多分DEFクラスの時間に見つかった。

7、となると……

 

「……こんなに時間が経ってたのか。風呂って今から間に合うかな」

「はぁ?」

「まあとりあえず行くか。よっと」

 乗せられている石畳を払いのける。

「なっ!?」

 更に、明久と康太の膝の上の石畳も蹴り落とす。

「諸君、急げ。風呂の時間が迫ってる」

「え? あ、確かに」

「ちょっと、待ちなさい!!」

 今の状況で待つ人物が果たして存在するのだろうか?

 雄二の着替えも適当に取って部屋を出る。

「に、逃さないわよ!!」

 女子の誰だかが進路を塞ごうとするが、構わずに押しのけて進む。

 こんな連中に割く時間は無い。

「なっ、くっ、全員で入り口を固めるのよ!! この人数なら……」

「皆、力技で突っ切るぞ!」

 こんな下らない事で風呂に入れないのは御免だ。

 長いこと電車に揺られて、着いてからも情報の解析を続けて、結構疲れてるからな。

 

 

  …………

 

 

「何とか脱出できたな」

「ふぅ……何とかなったね」

「…………もし俺なら見つかるようなヘマはしないのに」

「康太よ、その発言は色々とアウトな気がするぞい」

 後は……

 

プルルルル、ガチャ

 

「もしもし、雄二、そっちは大丈夫か?」

『ああ。そっちこそ大丈夫だったか?』

「部屋を脱出するのが少々面倒だったが、全員無事だ」

『そうか。ところで、俺の着替えを持ってきてくれてるか?』

「勿論だ。早いとこ合流しよう。

 個室風呂の4番って分かるか?」

『ん? しおりを確認すれば分かると思うが……なんでまた?』

「来れば分かる。じゃあな」

 

ガチャッ

 

「剣よ、個室風呂なんぞに行ってどうするのじゃ?」

「……多分雄二にも説明する事になるから、風呂場の前でな」

 

 

  …………

 

 

「あ、雄二生きてたんだ」

「明久、それは喧嘩売ってんのか?」

「いやだって、霧島さんに連れ去られてたし……」

「いくつか質問しただけで解放してくれたよ」

 拷問の類が目的なら部屋でやれば良いだけの話だからな。

 二人で話せる環境を作る為に拉致ったんだろう。

 ……他の人を見捨てていくのはどうかとは思うが……別に何も無かったからいいか。

「で、こんな所来てどうするんだ?」

「しおりによれば、ここは秀吉の浴場だ」

「な、なんじゃと!?」

 しおりに書かれている時間は前半組(ABCクラス)の入浴時間なので完全に過ぎてるが……そもそも個室風呂なんだ。多分問題ない。

「な、何故ワシだけが……」

「……僕もちょっとヒドくないか? と思った。

 だから鉄人先生に訊いてみた」

「な、なんと?」

「秀吉を大浴場に移動させるのは出来ないが、秀吉が許可を出した男子なら一緒に入れるそうだ」

「えっ? って事は秀吉と混浴!?」

「ワシは男じゃ!!

 丁度いい機会じゃ。ワシが男だということを分からせてやるのじゃ!!」

「い、嫌だ! 秀吉は『秀吉』なんだ!! 男じゃない!!」

「そんな事はどうでも良いが、作戦会議を始めるからとっとと入ってくれ」

「い~や~だ~!!」

 

 ……その後、約二名の男子がこの世の終わりを見たかのような絶望的な表情をしていたが、本筋には関係ない(面倒くさい)ので省略する。

「ちょ、面倒くさいって酷くない!?」

「…………神は死んだ……」

 

 

  …………

 

 

「なるほど、ここなら周りを気にすることなく話し合いができるな」

「そういう事だ。

 さて、部屋で中断した話の続きをしようか」

「確か……どうやって犯人を炙り出すかという話だったな」

「ああ。ただ、もう目星は付いたが」

「……何?」

「例の脅迫犯と女子風呂の盗撮犯はほぼ間違いなく同一人物だ。

 使ってる機材がまったく同じだったからな」

「……ん? 確か脅迫犯は女子じゃなかったか?」

「ああ。おかしいだろ?

 男子の客に売る為とかも考えたが、そもそも男の顧客が少ない」

「となると……」

「一人だけ、気になる人物が居る。

 Fクラスのある女子に熱烈なアタックを掛ける女子が居るとかなんとか。

 名前は……何だっけ?」

「Dクラス、清水美春……確かにあいつなら……」

「断定は禁物だがな……

 ところで康太、おい康太、天を仰いでないでこっちを向け」

「…………かみはしんだ」

「……ていっ!」バキッ

「ぐはっ!」

 流石は家電の万能治療法だ。一瞬で直ったぞ。

「康太、一つ訊きたいんだが、今回の盗撮カメラ、あまりに簡単に見つかりすぎじゃないか?」

「…………俺ならそんなミスはしない」

「そうだ。だが相手は康太相手に尻尾を見せない手練の盗撮魔だ。こんなミスをする訳が無い」

 捜索側の捜索能力が極端に高かった可能性もあるが……とりあえず置いておく。

「つまり、見つかる事すらも計算通りという可能性がある。

 では、見つかった場合のメリットは?」

「…………安心して警戒しなくなる」

「そういう事だ。

 それはつまり、『第一発見者が割と怪しい』という事だな」

「…………(コクリ)」

「で、その第一発見者は……」

 

ピッ プルルルル、ガチャ

 

『もしもし?』

「御空、僕だ。ちょっと訊きたい事があるんだが……」

『え? 新手の僕僕詐欺?』

「僕の記憶が正しければお前の携帯には発信者の名前を表示する機能があったはずだが?」

『まあね~。で、どうしたの?』

「例の盗撮事件だが、盗撮カメラの第一発見者は誰だ?」

『ああ、あれ。Dクラスの清水さんみたいよ』

「……割とダメ元で訊いてみたんだが、他クラスの事情をよく知ってるな」

『だって、私が見逃したかもしれないカメラを見つけた有能な人だよ。

 警戒しておいて損はないからね』

「……なるほど。助かった」

『あ、こっちからも一つ。

 盗撮事件の犯人は空凪君たちじゃないよね?』

「当然、違う」

『OK~。じゃあね』

 

ガチャッ

 

 防水携帯って地味に便利だ。

「ほぼ確定だな」

「今のはBクラスの副代表か?」

「ああ。知り合いの女子に片っ端から電話していこうと思ったんだが1人目で見つかって良かった」

「剣ィィッ!! 女子と電話番号を交換してるなんて、FFF団が黙っちゃいないよ!!」

「やっと復活したのか明久。

 そしてそれを言うなら秀吉と一緒に風呂に入ってる時点で黙ってないと思うぞ」

「ぐぅっ!!」

「ワシのそういう扱いは変わらんのじゃな……」

「で、この後どうするかだ」

「え? 清水さんを問い詰めれば良いんじゃないの?」

「……お前には脅迫されている自覚があるのか?

 言い逃れ出来ない決定的な証拠を一発で突きつけないとゲームオーバーだぞ」

「うぐっ!」

「尻にあるという火傷の痕では証拠にならんかのぅ?」

「それは確かに犯人の特徴の一つだが、犯人以外で尻に火傷した人が居る可能性が否定できないなら決定的ではない」

「むぅ……」

「……とりあえず、まだ仕掛けられているであろう本命のカメラを調査するか。

 教師に通報すれば調べる許可くらいはもらえるだろう」

「そうなるか……」

「……だが、問題がある。

 あの邪魔な女子達をどうにかしないと何も出来ない」

「俺は翔子に連れていかれたから何があったか知らないんだが……」

「一方的な暴論で僕達を拷問に掛けたな」

「ワシは何故か被害者扱いじゃったが……」

「一人一人ブチのめしてもいいんだが、片付けが面倒くさいからな」

「いいんだ……」

「初めに暴力を持ち出したのはあいつらだ。

 人を傷付けるという事は、逆に傷付けられるかもしれないという事だ。

 あいつらも覚悟はしている……はずだ」

 散々警告したからな。

「倒したら勝手に片付けられてくれると良いんだがなぁ……」

 ……ん? 勝手に片付け……

「……良い事思いついた」

 

ピッ、プルルルル……

 

「あ、もしもし?」


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