プロローグ
二年生になってからほぼ二ヶ月が経過した。
あと一月で戦争が解禁される。
クラスの連中は、少し浮いてるような雰囲気が伝わってくる。
明日から強化合宿があるからだ。
四泊五日の修学旅行みたいなものだ。
何か楽しいことが待っていそうな、そんな気がする。
丁度、そんなことを考えていた時だった。
『最悪じゃあーーーーっっ!!』
こんな声が開け放たれた窓から聞こえてきたのは……
……数分後……
「明久よ、何があったのじゃ?」
「アハハッ、べ、別に何でもないよ?」
あからさまに怪しいが、本人が大丈夫だと言うなら……
「ウソばっかり。さっき変な叫び声が聞こえたし、明らかに何か隠してるでしょ」
……放っとこうよ。本当にヤバい事だったら向こうから相談してくれるだろうし。
「あ、あはははは……」
「それで、何を隠しているのかしら? まさか……」
「やだなぁ。本当に何も隠してなんか」
「まさか、またラブレターを貰ったなんて言わないわよね?」
また? 以前貰ったことがあるのか?
……ああ~、そういえばそんな事があったような……
~某日の回想~
「Zzz……」
『ラブレターを貰うなんてけしからん!! 吉井を殺せぇぇ!!』
『ちょ、ちょっと待ってよ!! そもそもこれがラブレターかどうか……』
『物的証拠だ!! 押収しろ!!』
『え!? ちょっと!! 誰か助け
『問答無用!!』
ドゴッ ガシャン!!
『…………あ』
「……寝てる最中の僕に突っ込んでくるなんて……なかなか良い度胸だな……」
『そ、空凪!! 違うんだ!! これは罠で……』
「我が清浄なる時間を汚す異端者め!! 覚悟しろ!!」
「「「「「「ギヤァァァァァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!」」」」」」
~回想終了~
「島田さん。言葉に気をつけるんだ! ラブレターという単語に反応して皆がカッターを構えてる」
FFF団の連中か。教頭の件で借りがあるから実力行使するのもなぁ……
……え? 僕の
とりあえず、フォローしておくか。
「僕の勝手な予想だが、ラブレターでは無いな。
もしお前らがラブレターを貰ったら……こんなテンションで居られると思うか?
狂喜乱舞して学校中を駆け回って鉄人に捕まるオチが目に見えている」
「剣、それは流石に言い過ぎじゃないかな!?」
割と事実に近いと思うんだけど……
「それで、ラブレターじゃないなら一体なんなの?」
「僕も気になるな。まぁ、無理に話せとは言わないが」
「う、うん、実はきょ
…………」
「「「きょ?」」」
「きょ…………」
何か言いにくそうだな。
言いたいけど、言って良いのか分からない……的な?
う~む……
明久が叫び声を上げるくらいだからまず間違いなく本人に関わるものだろうな。
叫び声は屋上の方から聞こえてきたから……わざわざ屋上に行った事になる。
屋上へ行くような用事なんてそうそう無いが……確かあそこって告白スポットだっけ?
となると、ラブレター……ではない何かを受け取った?
実際にはラブレターではなかったようだが、誤認するようなものであった。
ラブレターっぽいものとなると、下駄箱にでも入ってたのか?
手紙っぽいもので尚且つ叫び声を上げるような代物。
きょ、きょ…………
「脅迫状?」
「……えっ?」
「いや、違ったか。スマン」
「いや、合ってるけど……」
「……マジか?」
「マジ」
ホントに当たるとは思わなかった……
「して、その脅迫状にはなんと書いてあったのじゃ?」
「えっと……『あなたの傍にいる異性にこれ以上近づかないこと』って書いてあるんだ」
「傍と言われてもなぁ……Fクラスの2人は当然として、Aクラスの連中とかも含まれるのか?」
そこは是非とも指定して欲しかったな。犯人が特定しやすいし。
「う~ん、姫路さんと秀吉は当然として、Aクラスの皆かぁ……」
「明久よ、金属バットを取りに行った島田が戻ってくる前に逃げるのじゃ」
そしてこのアホはまだ秀吉の事を女だと思ってるのか……
「ところで、何をネタに脅迫されてるんだ?」
「あ、そういえばそうだね。
えっと……『この忠告を聞き入れない場合、同封されている写真を公開します』って。
こっちの封筒に入ってるやつの事かな?」
「人の弱みが写ってる写真か……僕は見ないでおこう」
「それもそうじゃな」
明久が、恐る恐る写真を確認する。
その写真一枚一枚を捲る度に顔が少しずつ青ざめていき……
「もういやぁぁぁっっ!」
「何じゃ!? 一体何が写っておったのじゃ!?」
「見ないで! こんな汚れた僕の写真を見ないでぇっ!」
「お、落ち着け! 騒ぎを広めるな!!」
脅迫犯がどっから見てるか分からないし!!
「はぁ、はぁ……恐ろしい威力だった……
こ、これは僕を死に追いやる卑劣な作戦と言っても過言ではないね……」
……一体何が写ってたんだろう……?
「それはそうと、この脅迫に従うのか?」
「ふぇ?」
「この脅迫犯に立ち向かうなら、協力くらいはできる。
どうするんだ?」
「い、いいの……?」
「大したことは出来ないかもしれないがな。
まずは
「なるほど!! 助けて康太!」
「…………ちょっと後にしてくれ。先客が居る」
「悪いな」
「あれ、雄二? 何かあったの?」
「……実は今朝、翔子がMP3プレイヤーを持っていた」
「……中身は?」
「……どこかで捏造された俺のプロポーズが録音されていた」
「……念のため訊くが、犯人は霧島ではなく?」
「ああ。あいつにそんな機械をいじる知識は皆無だ」
「なるほど、それは結構な問題かもな」
「え? どういう事?」
「霧島とは別に何者かが雄二の音声を合成した。
つまり、その何者か……犯人は雄二の声を自由に合成できると思って良いだろう」
「うん……確かに」
「そんなのを野放しにしておいたら後で大変な事になるかもしれない。
今はまだ偽造プロポーズだけで済んでるが、今から警戒しておいて損は無い。だろう?」
「ああ。まあそんな所だ」
「……しかし、犯人なんて霧島に直接訊けば良いんじゃないのか?」
「あ~……どうやらメールを使ってやりとりしてたらしくてな。翔子本人も相手の正体を知らないらしい」
なるほど。それならしょうがない。
「で、お前たちはどうしたんだ?」
「そっちの用件と微妙に被るな。明久、説明してやれ」
「うん。えっと……
…………
「そんなわけで、その写真を撮った犯人を突き止めてほしいんだ。
きっとそういうのに上手い誰かに盗撮されたんだと思う」
「確かに被ってるな。俺はまだ実質的な被害は受けてはいないが」
「…………脅迫の被害者同士」
「嫌な繋がりだな」
それぞれの説明が終わった所で、ガラガラと教室の扉が開く音が響いた。
「遅くなって済まないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった。
HRを始めるから席についてくれ」
それじゃあ一旦解散か。
「…………とにかく、調べておく」
「すまんな。報酬は今度適当に持ってくる」
「僕も康太が気に入りそうなものを持ってくるよ」
「…………必ず調べておく」
……この報酬って……ぶっちゃけエロ本の事だよなぁ……?
「そんなもんは無いから報酬は出せないが、手伝える事があったら言ってくれ」
「…………(コクリ)」
とりあえずは、目の前のイベントに集中するか。
「さて、明日から始まる『学力強化合宿』だが、大体の事は今から配布するしおりに書いてあるので確認しておくように。
まぁ、旅行ではないので、勉強道具と着替えさえ用意してあれば特に問題は無いはずだ」
クラス全員に冊子が配布される。
Fクラスとはいえ、流石に冊子までボロボロにはならないようだ。
連絡事項をきちんと伝えないのは学校の怠慢になるからな……
「集合時刻と場所だけはくれぐれも間違えないようにな」
ふむふむ。必須のものは先生の言った通り、勉強道具と着替え。だが、厳密な制限も無い。
流石にゲーム機の類は没収される気がするが、トランプ程度なら大丈夫だろう。
で、問題の集合時刻と場所は……
「…………は?」
いやおかしい。何かの間違いだろう。後で先生に……
「いいか、他のクラスと違って我々Fクラスは……現地集合だからな」
「「「案内すら無いのかよ!!!」」」
……印刷ミスなどではなかったんだな……