「ふ~、やっと着いたね」
「ええ、そうね」
公共機関を乗り継いで2時間。
そうそう来る事は無いだろうから、今日は目一杯楽しまなきゃね。
「いらっしゃいマセ! 如月ハイランドへようこソ!
本日はプレオープンなのデスが、チケットはお持ちですカ?」
「はい、お願いします」
「拝見しマース。
……ハイ、ダイじょうブデース。それでハ、お楽しミ下サイ」
随分とキツい訛りね……キャラ作りか何かかしら?
……あれ? 何か見覚えのある人影が……
「うっ、もう来たのかお前ら」
「あれ? 剣? どうしてここに?」
「一言で言うとここで一日だけアルバイトをやってる。
しっかしお前ら予想より早いな。
さては2本早いバスに乗ったな?」
「まるで私たちが来ない方が良かった言い方だったわね……」
「いや~、ついさっき肉体労働しててね。単純に休みたかっただけだ。他意は無い。
そんな事より、僕はガイドをしてる。いつでも連絡してくれ」
「ふ~ん、じゃあ、お勧めのアトラクションとかある?」
「ん~、あるぞ。
あっちのカップル用ジェットコースターとか、
そっちのカップル用メリーゴーランドとか、
向こうのカップル用観覧車とか……」
「ちょっと待ちなさい。何で勧めるものが全部カップル用なの!?」
「だって、一人で乗ってみたら普通に良かったんだもん」
「それ、カップル用って付ける意味あるの……?」
「行けば分かる。カップル用と名付けるのに相応しいアトラクションだ」
何その不気味なアトラクション……
まあでも、一人でもちゃんと楽しめるみたいだし……大丈夫よね?
「……それじゃあ行ってみましょうか。吉井君は何が良い?」
「それじゃあ……ジェットコースター?」
「じゃあそうしましょう」
「それでは、お楽しみ下さい」
……そして数分後……
……まず、乗る前に製作者の正気を疑った。
そして実際に乗った(乗せられた)らその疑惑は確信に変わった。
「え、えっと……その……木下さん大丈夫……?」
「………………」
「お客様~、お楽しみ頂けましたでしょうか♪」
「誰よあんな代物作ったの!? 頭のネジが2~3本ぶっ飛んでるんじゃない!?」
コースが複雑だったとか、そういう事ではない。
そこらの遊園地より多少は凄かったかもしれないけど……
問題は、シートにあった。
安全バーが、二人で一つなのだ。
つまり、一緒に乗った人と密着しながらガックガック揺さぶられるわけで……
……っていうか、安全基準とかその辺は大丈夫なのかしら……?
「クックックッ、見てて飽きないなぁ、お前たちは」
コイツ……いつか女子とこのジェットコースターに乗せてやる……
「で、お客様方、まだカップル用アトラクションは残っておりますが、いかがなさいますか?」
「乗るわけ無いでしょうが!! こんな狂った乗り物!!」
「そうだよ剣!! 木下さんが可哀想じゃないか!!」
「……一番可哀想なのはお前の発言だ」
「…………うん」
な、なんだか凄くいたたまれない雰囲気に……
吉井君へのお礼の為に来てるはずなんだけど……
「……吉井君、私が可哀想なんて事はないから、一緒に行きましょう」
「え? でも……」
「それとも、乗りたくないの?」
「え、いや、そういう訳じゃないけど……」
「それなら、行きましょう?」
「……うん、ありがとね!」
……更に数分後……
「よう、おつかれさん二人共。
当施設のアトラクションはお楽しみ頂けたでしょうか?」
「え、ええ……まぁ……ね」
楽しいかどうかはともかく、心臓に非常に悪い事は分かった。
「あ、そうそう、写真も撮っておいたぞ」
「へ? しゃ、写真!?
ちょっと見せなさい!!」
剣から写真の束(100枚以上はある……?)を奪い取る。
「………………」
「どうですかお客様、ご感想は」
コイツは私を悶絶死させる気なの!? 一体どうなの!!
「……剣」
「ん? どうした?」
「……これ、1グロスほど貰える?」
「ちょ、吉井君!? こ、こんな恥ずかしい写真を!?」
っていうか、グロスって……144枚も何に使うの……?
「だって、どの木下さんも可愛いじゃないか!」
「か、可愛いって!! もう!!」
吉井君は無自覚にこういう事を言っているんだろうか?
「OK。タダでくれてやる」
「ほ、本当に!? 本当に貰って良いの!?」
「ああ。ただ、グロスはちょっと待ってくれ。
せいぜいダースだと思ってた。
僕の予測もまだまだだな……」
いや、
「あ、そうそう。もう少ししたら昼食の時間だ。
あっちのレストランでイベントをやるから、行くといい」
「そうなんだ。ありがとう。じゃあ行ってみようか」
「ええ。行ってみましょうか」