03 仮面の優等生の物語
さて、如月ハイランドにおける坂本雄二の物語はこれで終了だ。
それでは、語っていこうか。如月ハイランドにあった、もう一つの物語を。
……木下優子side……
「う~ん……早く来すぎたかなぁ……」
今私はバス停で吉井君を待ってる。
相手を待たせないように早めに家を出たけど、待ち合わせ時刻までまだ30分もある。
……ん? 何かこのフレーズ聞き覚えがあるような……確か愛読してる
『ずいぶん早いなユウイチ。待ち合わせまでまだ30分もあるぞ』
『たまたま近くに用事があったからな。そう言うお前もずいぶん早いな』
『え? だって、30分単位で早く来るのは初デートのお約束だろ?』
『なっ!! ただ単に一緒に出かけるだけだろうが!!』
『え? デートじゃなかったのかい? てっきり僕は君が心を開いてくれたのかと……』
『……シンジ、お前疲れてるんだ。男同士でデートな訳ないだろ』
「そ、そうよ! これは決してデートなんてものではなく……
「あ、木下さん」
「あれ? でも男女だからこの理屈だとデートに……
「あ、あの~、木下さん?」
「いやでも、だからと言って必ずしも……
「木下さん!!」
「ふひゃい!?」
「わっ!! ビックリした~」
「こっちの台詞よ!! いきなり話しかけないでよ!!」
「え? えっと……ごめん」
「わ、分かればいいのよ」
…って、何怒鳴ってんの私ーーーっ!!
こっちが無理に呼んだのに、怒っちゃだめでしょ!!
「あの…大丈夫?」
「な、何でもないわ。じゃ、行きましょ」
「そういえば、訊きたい事があるんだけど」
「何かしら?」
「どうして僕を誘ったの?」
「え? そ、それはその……」
「如月ハイランドみたいな場所って、普通は恋人同士で行くものなんじゃぁ……?」
「こ、ここここ恋人同士って!?」
「うん。僕なんかが一緒に行ったら木下さんの彼氏に悪いんじゃないかなって」
「え? 彼氏? そんなの居ないわよ」
「え、そうなの? 木下さんは綺麗で頭も良いからてっきり居るものだと……」
「き、綺麗って!! か、彼氏なんて居ないわよバカっ!!」
「な、なんで罵倒されたんだろう僕……」
あっと、いけないいけない。落ち着いて、冷静に……
「で、えっと……何で吉井君を誘ったか、だっけ?
一言で言うと試召戦争のお返しよ」
「お、お返し!?
ま、まさか如月ハイランドを餌に僕を処刑場まで連れていって復讐を……」
「君は私を一体何だと思ってるの!!」
「え? 違うの?」
「違うわよ!!」
ここは怒る場面よね? 怒って良いよね!?
「お返しって言い方が悪かった? お礼って言えば分かる?」
「お、お礼って言うと、人に良い事をすると帰ってくるっていうアレ!?」
「それ以外何があるって言うのよ!?」
「…………うぅっ」
「ど、どうしたの? 何で泣いてるの?」
「今まで僕に『お礼』してくれた女の子なんて木下さんが初めてだよ」
「…………」
君は一体どんな人生を送ってきたの……?
単に吉井君がお礼だと気づかなかった可能性もあるけど……
「吉井君、大丈夫だからね。私はちゃんとお礼するからね」
「グスッ、木下さんは優しいね」
これで普通のつもりなんだけど……
「でも、試験召喚戦争で何かしたっけ?
木下さんの召喚獣をボコボコにしたくらいしか思いつかないんだけど……」
「……そう言える時点で、君も十分に『優しい』わ。
分からないなら良いの。私が好きでやってる事だから」
「なんだかよく分からないけど……ありがとう」
ありがとう……か。
それはこっちの台詞よ。
君のおかげでどれほど救われたか……
君が居なかったら、君が私を倒してくれなかったら、どうなっていた事か……