バカ達と双子と学園生活   作:天星

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11 新たな物語が始まる時

『それでは、本日のメインイベント、ウェディング体験を始めます!!

 皆様、拍手でお迎え下さい!!』

 あいつは当然のように司会をやるんだな……

『(早く、登って、来い!)』

 おいおい、新郎にハンドサインで登場を促す司会なんて前代未聞だぞ……

 とりあえず指示された通りステージに上がる。

『え~それでは、新郎のプロフィールを……

 省略します』

 手抜きだなオイ!!

 

『ま、紹介なんて要らねぇよな』

『興味ナシ~』

『俺達がこの式場を使えるかが問題だからな』

『だよね~』

『ったく、何であんなガキが。あんなのには役不足だっての』

『ね~』

 

 あのチンピラども、うるさいな。

 そして役不足だと褒めてるぞ。

 

『……何卒、静粛にお願いします』

『ハァ? 何言っちゃってんの?』

『俺達はオキャクサマだぞゴラァ!!』

 

 そのお客様が自分たちだけでないという事に気づいていないのだろうか?

 企業が優先するのは一人のお客様より多数のお客様に決まってるのに。

 

『それでは、新婦の入場です!!』

 

 部屋の電気が落とされ暗闇に包まれる。

 暗闇に目がなれるより早くスポットライトが照らす。

 そこに居たのは……

「しょう……こ……?」

 一瞬、本当に一瞬、誰だか分からなかった。

 純白のドレスを身に纏った彼女はそれほどに美しく、輝いているようだった。

「……雄二」

「翔子……だよな?」

「……うん」

 

 人は服装を変えただけでこれほど変わるのだろうか?

 いや、それだけじゃないな。

 これは……きっと……

 

『……ん? 新婦さん? どうまさいましたか?』

「翔子?」

『……(おい、どうした? 泣いてるぞ!!)』

 それをハンドサインで俺に訊くのか!?

「翔子、どうしたんだ?」

「……嬉しい。ずっと夢だった……

 ……雄二と結婚する……小さいころからの……夢……」

 

 こいつは……そんな事を思って生きてきたのか。

 ああ、本当に凄い。

 小さい頃から、ずっと一つの事だけを想い続ける。

 俺には想像する事しか出来ないけど、それが凄い事だというのは分かる。

 だから……俺は全力で向き合わなきゃならない。

 

「翔子……俺は……」

 

『あーあ、つまんなーい!』

 なん……だと……?

『マジつまんないこのイベントぉ~。人ののろけなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』

『だよなぁ~。お前らの事なんてどうでもいいっての』

 どうでもいいだと?

 翔子の夢が、どうでもいいだと?

「てm

『お客様……

 ……黙れ』

 俺が何かを言う前に、剣が口を開いた。

『ンだとテメェ、俺を誰だと

『知るかよ。このモブが』

『ンだと!?』

 挑発されたチンピラの男がずかずかと司会席まで上がってくる。

『無駄だとは思うが警告しておく。今すぐ、黙って、席に着け』

 ああ、あいつが何をする気なのか大体分かった。

 出来れば止めたいんだが、簡単に止まってくれる奴じゃない。

『いい気になってんじゃねぇぞゴラァ!!』

 

バコッ ガシャァン!!

 

『キャー、リュータカッコいい~!!』

『思い知ったかこのクソジャリが!!』

『………………』

 チンピラのパンチに対して、剣は軽くガードしつつ(自分から)床に倒れた。

 ……そう、『左腕で』ガードしつつ。

 ……こいつを怒らせると、ロクな事にならないな……

 ……さて、

「おいっ、大丈夫か!?」

「ゆう……じ……たの……む……」

「あ、ああ!! おい誰か、救急車を!!」

 

 

 Q、さっきまでピンピンしてた人間が腕を殴られ、検査したら骨折してた。骨を折った犯人は?

 A、腕を殴った人。(真犯人:翔子)

 

 

 という事で、このチンピラは大勢の前で傷害事件を起こした事になる。

 このまま何もしなくても社会的制裁が待っているだろうが……何も手を出さずに耐えられるほど俺は聖人君子じゃない。

「テメェ……覚悟は良いか?」

『なっ!! くそっ!!』

「喰らえやぁっ!!」

 

バゴォン!!

 

『ぐへっ!!』

『リュータ!?』

『ぐっ、お、覚えてろよ!!』

 一目散に逃げ出そうとするが……

「…………逃さない」

 いつのまにかスタンバイしていた康太がスタンガンを片手に襲い掛かる。

 

バヂバヂィッ

 

『ぐげっ』バタリ

『リュータ!! リュータぁぁぁ!!!』

 

 

「……ゆうじ……」

 倒れていた剣が話しかけてくる。

「何だ?」

「スマン、これ……工藤に……今動けるの……あいつだけ……」ガクッ

「お、おい!? 剣っ!!」

 これ……演技じゃなくてマジでヤバいんじゃないか!?

「医療ルームへ運ぶ。誰か手伝ってくれ」

 ついさっきまでキャラを作ってたエセ外国人すら真面目な顔になってる。

「…………俺が行く」

「よし、急ぐぞ!!」

 そうして担架で運ばれていく剣。

 ……大丈夫なんだろうな?

「雄二、剣が!!」

「あいつはこんな所でくたばるような奴じゃない。

 それより、これを工藤に渡すように頼まれたんだが……」

「……この後の……原稿?」

「どうやらそうらしい。自分の事は気にせず続けてくれって事なんだろうが……」

 自分が行動不能になる事まで予測していたのか?

「……愛子を呼ぼう。剣の事は気にしててもしょうがないから……」

「……それもそうだな。

 工藤!! 居るか!!」

 騒然としてる客席の中から見覚えのある人影が向かってくる。

「何? どうしたの?」

「これを渡せと言われた」

「えっと……結婚式の原稿? あんなになっても続けようとするなんて……」

「司会役、頼めるか?」

「本当は剣くんの所に行っとこうと思ってたんだけど……

 本人が頼むなら仕方ないか。任せて!」

 

 

 

『それでは、ウェディング体験を再開いたします』

 あんなになっても中止せずに続けようとしたからには何かしらの意図があるはずだが……

『それでは、誓いの言葉です。

 汝、坂本雄二は霧島翔子を永遠に……え?

 えっと……省略します』

「……何?」

『汝、霧島翔子は坂本雄二のを永遠に愛すると……また省略します』

 台本通り……なのだろうか?

『それでは誓いのキス……も省略します』

 それはもう……結婚式ではないんじゃいか?

 

『彼らの物語はここで終わりではありません。

 この偽りの結婚式こそが始まり。

 真実の誓いと真実のキスは、真実の結婚式にこそ披露されるべきです。

 願わくば彼らの物語が幸福へと繋がり、真実の愛を紡ぐ事を』

 ……なるほど。やってくれるな。

 ここが始まり。そう、ここからだ……

『以上で、如月ハイランドウェディング体験を終了します。ご来場の皆様、有難うございました』




※ タグ『雄二×翔子(?)』を『雄二×翔子』に変更しました。

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