バカ達と双子と学園生活   作:天星

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08 信じあうというコト

 ウェディング体験の準備が着々と進む中、俺はまだ迷っていた。

 いい加減に決着をつけなきゃならないってのに。

 別にこのウェディング体験をしたら後に引き返せないとか、そういうわけじゃない。

 でも、こんな中途半端な状態で臨めるのか……?

 

「モウすこシ、したラ、衣装担当ガ、キマすのデ……

 

プルルルル

 

「おっト失礼。

 もしもし、私だ。何だ?」

 もう演技を隠す気は無いんだろうか?

「……何? すぐ換わる

 もしモシ、坂本さン? 剣サんからおデんわデス」

「ん? 一体何の用だ?」

『お前、迷ってるだろ?』

「……お前はサイコメトラーかテレパスなのか?」

『違うってさっき言ったばかりなんだけど……

 まあいいや。10分待つ。引き返すのか、進むのか、二人で考えろ』ブツッ

「ちょっ! ったく、あいつは……」

「ソレでは、ワタしはそとデ、おマちしていマース」

 エセ外国人の係員が部屋を出る。

 これこの場には俺と翔子の二人きり……か。

 

「…………なぁ翔子」

「……何?」

「……お前は、本当に俺の事が好きなのか?」

「!! ……うん。私は、雄二が好き」

 そう。翔子はいつもこう答える。

 これに対して、俺はいつもこう答える。

「それは、違う。

 そんなのはただの勘違いだ。その感情はそんなに素晴らしいものじゃない」

 

 かつて、俺が神童と呼ばれていた頃に起きた事件。

 その事件で、俺は自分は神童ではなく、ただの一人の馬鹿なんだと思い知らされた。

 そして翔子は……ただ巻き込まれた被害者だ。俺の傲慢さ故に巻き込んでしまっただけの少女だ。

 恨まれこそすれ、好意を寄せられる資格なんて……無い。

 

「……どうして、決めつけるの?

 ……あの時、あなたは私を助けてくれた。

 あなたは、自分が思ってるより、ずっと素晴らしい!」

「俺が素晴らしいだって? 冗談も大概にしろ。

 この俺は、日々喧嘩に明け暮れて、悪鬼羅刹とまで恐れられるようになった人間だぞ。

 そんなのが素晴らしいって!?」

「…………確かにそうかもしれない」

「だろ? だったら……」

「だったら、今のあなたを誇りに思って」

「何?」

「私は知ってる。喧嘩も一年くらい前から積極的にはやってない、絡まれた時に対処してるだけ」

「っ!!」

「そしてあなたはあの完全実力主義の文月学園で、Fクラスを率いてAクラスを倒してみせた。

 学力が全てという固定観念を覆してみせた。これでも、あなたは素晴らしく無いと言うの?」

「…………」

 マズいな……反論が出来ない。

 何か……何か無いか?

「……雄二、それでも自分が信用出来ないなら……

 ……私を信じて欲しい。

 雄二を信じ切れなかった私が言える事じゃないのかもしれないけど……お願い」

「くっ……」

 ……無理だ。これを否定するのは……俺には出来ない!

「…………『不可視なものに対して出来るのは、ただ信じる事だけ』か。

 あいつは一体何手先まで読んでるんだ」

 いや、あいつの言葉は曖昧だから色んな解釈が成り立つ。これは俺が都合の良い解釈を選んでるだけ……か。

「ふぅ、降参だよ。お前を信じてみよう。

 お前の好意は、本物だよ」

「……雄二……ありがとう」

「疑ったってキリが無い。まずはお互いを信じて、その上で、進まなきゃならない」

「……うん!」

 

 

「まずはそんなもんだろ。やっと始まりだ」

「「っ!?」」

 気がついたら、そこに剣が立っていた。無茶苦茶ビビったぞ!!

「人の本音を暴くのは揺さぶるのが一番だったりするが……うまく行ったようだな。体を張った甲斐があったというものだ」

「い、いつから居たんだ!?」

「3分くらい前から……

 いや冗談だ。ついさっき入ってきた所だ」

「脅かすなよ!!」

「……あの、剣、さっきは……ごめんなさい」

「気にするな。雄二に同じ事しなければ問題ない」

「自分の身を気にしろよ!! っていうか何て事やらかしてくれてんだ!! むしろ一発殴らせろ!!」

「後でな」

 つまり殴られる自覚はあるんだなオイ!

「そんな事より、だいたい準備が終わったようだ。後は衣装だけだ。

 早く着替えろ」

「お前の中では俺の事情を『そんな事』で済ます事が流行ってるのか!?」

「……雄二、早く着替えよう」

「うっ、そうだな。この体験、精一杯楽しもうか」

「うん!」


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